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始まらないシリーズ第一弾。

転生ものです。

 えー、何から説明したものでしょうか。

 じゃあとりあえず、現状をば。

 高校生活2年目の春。廊下を走ってはいけません、なんて教師の言葉を無視して死ぬ気で鬼から逃げてます!




 鬼――――もとい、鬼の形相をした長身の男子生徒<九条公人くじょうきみひと>は、本来であれば容姿端麗、文武両道、温厚篤実の美男子だ。歴史ある華族の出自であり、現在では曾祖父の代から続く会社の次期跡継ぎと言われている。いいところのボンボン(ちょっと古い?)にしては謙虚で、人の上に立つよりもどちらかといえば窓辺で静かに読書している姿が似合うような、ちょっと女々し…げふん。優しい印象の少年だ。

 艶やかな黒髪は癖もなく、少し長めの前髪が涼やかな目元に影を落とす様など絵画のよう、などとは、うっとりと頬を薔薇色に染めた道行くお嬢さんの言葉だ。

 そんな彼が何故、知人が見ても判別できないような表情で私を追っているかといえば、彼を避け続けていた結果、キレて本気出して追いかけてきた、ってところだ。

 そもそも何故そこまで親しくもない私を追いかけまわすのか謎すぎる。

 お前はストーカーかっ!


「追って来ないで!」

 後ろを振り返らずに中庭を走りすぎ、反対側の校舎に飛び込む。

「キミが止まってくれたら……っ」

 最初よりも声を近くに聞きながら、無茶な注文に半ば叫び声を返した。

「無理―!」


 く、苦しい…

 ゼェハァとみっともなく息が切れる。

 そもそも、はじめからインドア派な私に勝てる要素などないのかもしれないが、じゃあ大人しくその場で捕まるかと言われれば、そんな事恐ろしすぎてできるはずもない。捕まったが最後、何があるかわかったもんじゃないのだから。(ガクブル)

 容姿端麗で人気者の男子生徒が、目立たないように過ごす一般生徒にいったい何の用があるというのか。変な勧誘か、おかしな脅迫か、宗教関係だったらどうしよう!絶対に逃げなきゃ!!

 人気の少ない特別校舎の廊下の角を曲がったところで、裏口のドアを開け放してサッと階段の裏に隠れる。

 心臓は壊れんばかりに早鐘を打ち、肩で息をしたいのを必死になって我慢した。廊下から足音が聞こえ、彼は息をひそめる私に気付かないまま、迷うことなく裏口から出て行った。

 どっどっどっど

 心臓の音が鳴りやまない中、ずるずるとその場に座り込む。


 し、死ぬかと思った…!!!


 いや、実際に死にかけた!主にストレスと肺への過負担で!

「はぁぁぁぁ」

 思わず大きなため息が出る。

 何故こうなった、と自問せずにはいられない。




 私の名前は<花月さくら>。高校2年生で、O型。両親と3歳年下の弟、愛犬(柴犬)のムーちゃんと住んでます。

 趣味は読書と昼寝で、好きな食べ物は―――ってそんなことはどうでもいいって?そーだよね、ごめんごめん。

 私の何が特殊かといえば、私の中にもう一つの人格…というか記憶があること。

 詳細は思い出せないけれど、なんとなく前は両親と私の三人家族だった、とか、そこまで有名じゃないけどそこそこ名の知れた大学に通って卒業し、無事就職して事務仕事してた、だとか、何でも話せる優しい彼がいて、大きな夢はないけど満ち足りた人生を送っていた、とか。・・・すべて過去形なのは、今の“私”はこうやって高校2年生だって自覚しているからだと思う。

 なにも最初から記憶があったわけじゃなくて、ふとした瞬間・・・例えば弟が生まれて4人で出かけたときに「何か違うな?」って感じたり、中学の授業中になんとなく勉強は全て終えていたような気がして、事実そこまで根を詰めて勉強しなくても割とすらすらと問題が解けたり、そんな事が今までに何度もあって。

 あぁ、ここは私がいたところと違うところなんだなぁって妙に納得してしまった。


 最初はそれこそ、妄想壁ができたか、私。

 いや、何らかの記憶障害?…はっ!黒の組織に薬を嗅がされて…!!

 なんて、今思うと混乱していたとしか思えない事を真剣に考えていたわけだ。

 ただ、どちらかと言えば“今の私”の記憶の方が強くて。

 「すごい!良い点とれたわねぇ」なんて嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた母や、いつもは生意気な弟が迷子になって、私を見つけた瞬間に泣きながら走って抱き着いてきた姿とか、必死に高校受験の勉強をして今の学校に入った時の喜びがあって、今の私が“私”なんだと思ったから。だから意外とすんなりと受け入れられたのかもしれない。

前世の記憶か何かはわからないけど、とりあえず記憶が蘇ってすごく困ることもないし、ま、いっか?なんて。


 ・・・そんな風に考えていました。

 高校2年に進級する前までは…!


 忘れもしない、新入生入学式のあの日!

 私は人手が足りないからとクラス委員に頼まれて、新入生にリボンを渡す役割を担っていた。

 綺麗な桜が舞う中、それはそれは綺麗な男の子がやってきた。光に透せば金に輝く薄い茶髪に、青に近い新緑色の瞳。真新しいブレザーを身に着けて、少年はわくわくとした表情で私の目の前に立った。


『入学おめでとうございます。どうぞ、胸ポケットにつけてね』

『アリガトーゴザイマス!………ねぇ、もしかして、さくら?』

『え?どうして私の名前…っ!?』


 その時、一陣の風が私たちの間を通り過ぎた。

 私の髪が風に煽られ視界を塞ぐ。桜の花びらが舞う中、片手で髪を抑えると、ちゅっ、と可愛らしい音と共に感じる左頬の熱。

『ただいま!帰ってきたよ、さくら♪』

 そこには、天使と見紛う愛らしい笑顔を浮かべた遠い日の幼馴染がいた。

 キスされた頬を抑えて呆然としている間に、彼は「また後で!」と言って会場内に入っていった。


 脳裏によみがえる様々な記憶。

 子供の頃に弟と一緒になって遊んだ近所のイギリス人ハーフの男の子<ユーグ・シノモリ>。

 当時は外見が違うからと仲間外れにされがちだった彼を見かねて、私から声をかけたのがきっかけだった気がする。

 最初は警戒していた彼も、だんだんと打ち解けて毎日のように弟を含めた3人で遊ぶようになった。それが、数年ほどして父親の仕事の都合で母国にいかなければならなくなったと言われ、泣いてお別れしたのだ。帰ってこれるかわからないとのことで、手紙を書くことを約束して手を振ったものだが、その手紙も、面倒くさがりな私のせいで長続きしなくなった。

 ・・・いや、どうもすんません。


 まぁでも・・・そこまでなら良かった。

 思い出したのがそれだけなら、あぁ、女の子のように可愛かったゆーちゃん(当時はそう呼んでいた)が、ナンパ男になって帰ってきた・・・なんて、遠い目をしていられたのに。それとは別に、例のデジャヴのような物も一緒に見てしまったのだ。




 テレビ画面に向かう私。

 手にはゲームのコントローラーを持って、何故か笑い転げていた。

 その視線の先には、今のユーグと私を傍から見たらこうかな?と思うような映像。

 茶色に近いストレートな黒髪が風に舞うのを手で抑え、片目を瞑る可愛らしい少女(明らかに美化されてる私!)と、柔らかい金髪に桜の花びらを纏いながら少女の頬にキスをする美少年ユーグ。背景は桜が舞い散り、すごくピンクピンクしていた。


 あぁ、ないわ。

 うん、ないわ!(大事なことなので2回言いました。)


 だって気づいてしまったのだ。

 私は、この景色を画面越しに見たことがある。女性を対象とした恋愛ゲームを通して。

 詳細は覚えていないが、ヒロインが高校生活を通して青春を謳歌し、個性あるイケメンズと恋に落ちてラブラブになる、って話だったと思う。


 ・・・だがしかし!

 それが何故私なのか!

 そもそも私は、前世の記憶(と呼ぶことにする)がある以上、内面は通算して40近くいっていると思う。

 いつ死んだかもわからないし、蘇っていない記憶の方が多いからもしかしたら100歳を超えて大往生していたかもしれないけれど、まぁ、とにかく!そんなおばさんが高校生ヒロインて!

 思わず「ぷっ☆」と、吹き出してしまったじゃないか。


 そして、何故このタイミングで思い出した私!

 思い出すにしろ、卒業してから思い出せば「え、まじで?乙女ゲー?そういえばそんな感じの人いたね!ウケるー!」とかなんとか、若者風に言って大爆笑できたものを。いや、下手に恋愛でもしていたら素でゲーム内容を繰り返していたことに恥ずかしさの余り絶望するかもしれない。


 よく考えてみれば、来年卒業の生徒会長と副会長だってそれぞれ攻略対象だった。

 うん、確かにイケメンだ。

 スポーツをやっていて筋肉質な体に、人好きのする明るい笑顔の好青年、生徒会長の<京堂きょうどうなんちゃら>(覚えていない)は、赤茶色の髪に、光が反射すると金色にも見える琥珀の瞳を持つ。自然と人が集まる彼こそ、カリスマなのだろう。

 副会長は<如月きさらぎなんちゃら>(覚えていない2)。紫紺の髪をウルフカットにし、髪と同じ色の瞳には眼鏡をかけている。知的な印象を受ける切れ長の瞳は、どこか意地悪そうで一部の女子に絶大な人気を誇った、らしい。


 あぁ、そうそう。そういえば用務員さんも攻略対象だった。

 庭の手入れやら、備品の管理、修繕など頼めばどんな事もやってくれる縁の下の力持ち。<佐々木道之ささきみちゆき>さん。

 背が高く、黒く短い髪にはよくタオルを巻いていて、ツナギに軍手のまさに用務員さんスタイル。無愛想で目つきが悪く、一見するとヤの付く職業の人かと思ってしまう年齢不詳の人物だ。ただし、見た目に反して優しいのでたまにお世話になっている。(お世話になってる人の名前は憶えてるよ、ちゃんと!)

 強面のおじさん(?)が雀に餌をやっていた姿を見たときはすごく癒された・・・!


 そういえばクラスメイトの<九条公人>も対象だった。

 他には?

 他には誰かいただろうか、それっぽい人は。

・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・ダメだ、思い出せない。


 そこまで考えて、当時の私は思った。

 これはもう、 全 力 回 避 に努めるしかないと…!


 いや、多分自分から動かなければいきなり恋愛に発展するなんて事はないだろうけれども。

 ゲーム通りに、現実でもイケメン達とドキドキなラブラブ生活を楽しみたいお嬢様ならそれもよいだろう。

 だが私は違う!

 そりゃ最初は、記憶があったところで今の私は高校2年生で青春真っ盛り、素敵な彼がいたら楽しいかも!なんて思いましたよ、えぇ!

 でも、もう無理だわ。

 ゲームの世界だと自覚したらやたらイケメンの周りがキラキラして見える。自覚って怖い。

 あんなキラキラしい男性と甘い雰囲気になると考えただけで鳥肌が!

 現実な私は平々凡々な一般人なわけですよ。

 恋をするにしてももっと落ち着いた雰囲気の(オーラのない)普通の人がいいんです。あえてゲーム用語でいうならモブとか。(つまり、攻略対象以外のクラスメイトとか、攻略対象の友人とか輝いてない人のことね)

 それに個人的な意見としては包容力のある年上の男性が好みだ。

 古文を担当している霧島先生なんていいとこいっていると思う。ちょっとだらっとした感じで無精ひげが生えてるけど、なんとなく傍にいると落ち着く雰囲気の人だ。

 ・・・は、つい余計な事まで話してしまった。


 ようするに私は、ひたすら攻略対象、および攻略対象と思われるイケメンには極力近づかない、関わらない、話さないを徹底して行っているのだ。

 1年の時は良かった。その時はまだ自覚がなかったし、幸いにもイケメンズの中での知り合いは先ほどの鬼、九条と用務員の佐々木さんだけだったから。(生徒会長と副会長は見たことはあるけど、直に話したことはないのでノーカウントとする。)

 ただ、例のゆーちゃんが入学してきた事によって、私の生活は一変した。正確には彼のせいではなく、彼が入学して蘇った記憶のせい、なのだが。


 九条とはクラスで毎日顔を合わせるため、完璧に避けることはできないが意識して関わらないようにした。

 クラスの仕事が被った時も必要最低限の会話のみに抑え、おかしくは見えない程度に目線を合わせないようにした。

 それまでは自分からお願いがあったり、癒しを求めたりして何度か訪れていた用務員室にもいかないようにした。(佐々木さんは存在が癒しだ。強面だけど。)

 一番厄介なのはゆーちゃんだった。彼は私と再会したことが嬉しかったのか、学年の違う私のクラスまで突然訪れては私の周りを引っ掻き回して去っていく。注意したところであまり聞く耳を持たず、さらには落ち込んだ表情で謝られるとついつい許してしまうのだ。子犬のようにじゃれてくるように見える(らしい)ユーグの姿に、周りもすっかり絆されてしまっている。最近では、追い払おうとする私の方が悪役のような扱いだ。ひどすぎる。

 せめてもの救いは生徒会長と副会長との接点がないことだ、った。

 そう、過去形になってしまった。


 イケメン達を避け始めてしばらく、何故か九条から視線を感じる事が多くなり、ゆーちゃんはそれまで以上にスキンシップが激しくなって、佐々木さんですら、話しかけてはこないものの遠目から私を見つけると優しく目じりを細めるのだ。


・・・なんだ、いったい何があったんだ。


 自覚したのがいけなかったのか、下手に距離を置こうとしたのがいけないのか、それにしたってあからさまな変わりようにうんうん唸って教室に留まっていたのがいけなかった。気づけば下校時刻間近、空の色も暗くなりかけていた。


『おい!そろそろ下校しろよー。』

『遅くまで残って勉強ですか。感心ですね』


 ・・・うん、なんかどっかで聞いたことある声!

 いつもはマイクかスピーカー越しに聞くその声が、直接耳に届いて硬直してしまった。思うように動かない体を必死に動かしてロボットのように首だけそちらに向ければ、案の定、生徒会の2人がそこにいた。

 いやいやいや、何故ここにいる!?

『書類を片づけていたら遅くなってしまいまして。』

「はぁ…」

 思いっきり顔に出ていたらしい。副会長に小さく笑われてしまった。・・・嘲笑だった気がするんだが。

 そんなことより、さっさと支度してさっさと帰ってしまおう。今日はたまたま遭遇してしまったが、今までだって会うことはなかったし、今後もこんな偶然は滅多にないだろう。よし、帰ろう。


『おー、早くしろよ。待っててやっから』

「・・・は?ぁ、いえ。どうぞお気になさらず!すぐに帰りますので!」

『いえ、ここで会ったのも何かの縁です。校門まで、いえ、方向が同じなら途中までお送りしますよ』


 なにが どうして こうなった ! !


 ひたすら困惑しながら、後光の差すオーラ人間2人を目の前にただ俯いて小さく頷くしかない私だった。

 そして結局、家が近所だという2人と(絶対うそ!)途中まで下校し、しっかりとお互いに自己紹介までしてしまった。なんという不覚!


 それからというもの、ゲームのヒロイン補正なのかなんなのか、廊下ですれ違うたびににこやかに挨拶を交わし合う仲になり、ファンクラブはないものの、生徒会トップ2に憧れるお嬢様方からの報復を恐れたりもしていたのだけれど、特に恐れていた事が起こることもなく、少しだけ安心していた。

 ただし、できるだけ輝かしい人に近づかないようにしようとする私の努力は報われていない。


 ああ無情……!




長くなってしまったので前後に分けました。

お時間がありましたら、続きもお読みください。

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