第7話
セーファス視点です
俺は森に入り、気の向くままに歩いていた。視界に小さめの小屋が入ったとき、自然と足が向かっていた。
ちょうど泊まれる場所を探していたから訪ねようとしたその時、綺麗な薄い水色に輝く髪に淡い紫の瞳の少女がでてきた。その髪は女にしては短く、肩につくかつかないかといった長さだった。あまりの美しさに、俺は見とれた。
だが、何より驚いたのはその後だった。
俺は声をかけようと少女に歩み寄った。少女はこちらに気付き、目を見開いた。俺も同じような顔をしていただろう。なんと、目があった瞬間から、少女の瞳が深く吸い込まれるような青に変わったのだ。
髪の色を見たときにまさかとは思ったが、これで確信がもてた。今俺の髪と瞳は赤になっているだろう。
まさか、こんなところで竜王の力を持つ者に会うなんて…
信じられなかった。
気がつけば俺は少女に話しかけ、家に泊めてほしいと言っていた。何を言っているんだと思ったが、少女は頷いてくれた。
前に座る少女――ルティというらしい――に、少し違和感を感じていた。俺の髪と瞳の変化には驚いていたのに、自分の変化には驚いていないのだ。
「ルティ、鏡はあるかな?」
「鏡?あるけど…」
ルティは不思議そうに俺を見ながらも鏡を取り出した。
そして、そこに映った自分の姿を見て、固まった。
「なに…これ…?」
どうやらほんとうに気付いていなかったようだ。
ん?待てよ。何故自分がこうなったのか、分かっていないのか?
「ルティ、自分の姿の変化の理由…分からないのか?」
ルティは心底分からないといった様子で首を傾げながら俺を見返した。
信じられない、竜王の力を持ちながら竜緋の力を持つものと出会うとどうなるのか知らなかったというのか!?
しかし、考えてみれば竜王の力を持っているということは王族のはずだ。王族が何故こんなところにいる?身なりも庶民のものだ。あきらかにおかしい。
「あの、これはどういうことなのでしょうか?」
「ほんとうに分からないのか…」
「どういうことなのか、教えてください!」
「それより先に確認しておきたいことがある。君は竜王の力を持っているな?ということは王族のはずだ。何故王族がここにいる?」
俺の質問に、ルティは怯えたように一瞬肩を震わせた。
何に怯えているのだろう?
何だかよくわからなかったが、俺はルティの答えを待った。
しばらくすると、少し落ち着いたのかルティはポツリポツリと話し出した。
自分は確かに竜王の力を持っていること、だが王族ではないこと。
それを聞いた俺は驚いた。だが、ルティが嘘を言っているようには見えなかった。何より、俺自身が彼女を信じたいと思った。そんな自分の気持ちに驚きながらも、俺は容姿の変化について説明した。
竜王の力を持つ者と、竜緋の力を持つ者が出会うとお互いの容姿に変化が訪れることを。また、それは一時的なもので、明日には元に戻っているだろうということも。
「元に戻るけど、どちらかがお互いの姿が見える距離で力を使えばまた変化する。」
「分かりました。説明してくれて、ありがとうございます。」
「いやいや。しばらくやっかいになるからね。あぁ、あと、その敬語はなしにしよう。見たところ年齢は変わらないようだしね。」
「は…うん、分かった。」
その後、俺たちはお互いの簡単な自己紹介とれからのこことについて話し合った。
ルティは思った通り同い年の16才になったばかりで、最近まで孤児院にいたそうだ。その前の暮らしについては話してくれなかったけれど、これから先、話してくれればいいなと思った。
大体のことを決めていたら昼になってしまった。その後は穏やかに何事もなく一日を過ごすことができた。
この平和な日々がいつまでも続いてほしい、心からそう思った。