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本の虫〜10月の図書館〜

作者: *姫林檎*

立ち込める砂埃


バットとボールの当たる音


その中で私は一生懸命応援していた。


10月 野球部は練習試合におわれていた。


土日は必ず試合があるし、平日の部活もみんな真剣。


夏の甲子園をかけた試合で惨敗したみんなは先輩もいなくなり、かなりやる気になっていた。


「次!!近藤行けよ!」


顧問の先生の声が聞こえた。


私は思わず顔をあげて近藤君のほうを見た。


近藤君は私と目が合うとにっこりと笑った。


緊張なんて全然なさそうな笑顔。


でも、緊張してないわけがない。


「こ、近藤君・・・」


近藤君が私の横で立ち止まった時、私は近藤君を見上げた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」


「で、でも・・・」


「夏の時は別として、今の俺等が負けるわけないじゃん」


「なんでそんなこと・・・」


「だって、秋から勝利の女神が入部してくれたからね。」


近藤君はそう言ってまた笑うと私の頭に手を置いて、応援席を飛び出した。


私はぎゅっと右手を左手で強く握り締めた。


近藤君がバットをかまえる。


「打て!!!」


大きな声で怒鳴ると、隣にいた同級生が驚いて座ってしまった。




カキンッ!




気持ちのいい音が響いて、ボールは空へ向かって綺麗に飛び上がった。



その試合は快勝。


近藤君はものすごい、ご機嫌な笑顔だった。


「勝利の女神の応援のおかげだね」


なんて私に言った。



次の試合も近藤君が打って、もしも試合に今日みたいに勝ったら。


もしも試合に勝ったら



告白しよう




近藤君に好きですって 言おう!!



そう決めていて、日曜日の試合は昨日よりも緊張した。


その日も近藤君は試合に出た。


だけど 勝てなかった。


勢いよく飛び上がったボールは急降下し、すっぽりとグローブの中におさまってしまったのだった。


「よーし・・・打ち上げだ!!」


2年生の先輩の中でもムードメイカーの先輩がちょっと涙声で言った。


野球部では毎年恒例らしく、秋の練習試合で負けた後は『打ち上げ会』とか言って部室で騒ぐらしい。


部室でみんながそれぞれ持参してきたジュースやらお菓子やらを広げてわいわい騒ぐ。


私はそんな中隅っこでちまちまジュースを飲んでいた。


告白できなかった、と安心した気持ちと残念な気持ちとが混ざり合っていた。


「勝利の女神がそんなところで何やってんの?」


ジュースを片手に、近藤君が私のそばに来た。


「・・・勝利の女神なんかじゃないじゃん。負けちゃったじゃん。」


「あははっ俺がへましたからね!」


近藤君はそういうと私の横に座った。


「ま、次は俺等の代だからさ。来年甲子園に連れてってあげるよ。」


「ぅっわ・・・そういうこと言っていいの?」


「うん 言うだけはタダ。」


近藤君はそう言ってにっこりと笑った。


私もくすくすと笑ってジュースを飲んだ。



開始から1時間後、なぜかリタイヤの人が続出していた。


「なんでみんな倒れてるの・・・?」


部室の床にみんなが倒れていた。


残っていたのは私と近藤君だけだった。


「あ、お酒」


先輩の1人が持っていた空き缶を近藤君が拾い上げる。


それはテレビのCMでも見る缶チューハイだった。


私と近藤君は大きくため息をついて、毛布やジャージをかぶせてまわった。


全員にかけ終わると、なんだかおかしくて2人して笑ってしまった。


「これ、先生にバレたらどうなるんですか?」


「えー?部活できなくなっちゃうね!きっと!!」


けらけら笑った後、なんとなく沈黙した。


みんな寝てるんだから静かになるのは当たり前なんだけど。


「・・・帰ろっか」


近藤君はそういうと自分の荷物と私の荷物を持って部室を出た。


「送るよ。家ってどの辺?」


「あ、えっと・・・○町薬局って知ってます?そこの前なんですけど・・・」


「あぁ、あの辺りね」


近藤君は私に荷物を渡すと歩き出す。


外は真っ暗で、人通りは全然なかった。


告白!なんて考えてたからなんだか恥ずかしくて、私は近藤君の少し後ろを歩いてた。


話題が見つけられず、黙っていた。


近藤君も喋らない。



だけど、不意に近藤君が口を開いた。


「俺さ、正直・・・今回の試合勝てるって思ってたんだ」


「え?」


「去年、先輩達が快勝してる学校で・・・今年もたいしたことないって評判でさ。でも・・・負けた」


私はなんていえばいいのかわからず、うつむいた。


近藤君は苦笑して私の方を振り向いた。


「ま、公式戦では絶対に勝つよ。」


「・・・うん」


心臓がドクン、と鳴った。


急に心臓が重たくなった。


今、気がついた。


2人きり 夜道 誰もいない


これは、絶好の告白の・・・・・・!?




そんなことを考えると心臓がドクンドクンとうるさくて、なんだか自分の息が荒い気がした。


ふと、近藤君が振り向いた。


「俺さ、賭けてたんだ。」


「え?」


「今回の試合に勝ったら・・・何々しようって思ってたんだ。」


私と同じだ!


近藤君はなんて・・・賭けてたんだろう


「な、何しようと思ってたの?」


「んー・・・内緒」


「え!?」


「だって言うの恥ずかしいし」


近藤君はそう言って笑った。


恥ずかしい 賭け事・・・


私の場合は告白だ。


でも 近藤君が告白だとしたら・・・誰に?




私!?なんて一瞬期待してしまった後、近藤君の本の女の子が浮かんだ。


『だけど、今でも俺にとっては大事な人だよ。』


近藤君はその人を『大事な人』と言った。


好き、ってこと?




急に、あの言葉を聞いた時のどろどろとした感情を思い出した。


同時に、胸が凄く苦しくなった。


泣くな


泣くな


暗いとはいえ、近藤君に 気づかれる


今 笑って嘘を言える自信はない




私は、薄暗い中で見える近藤君のぼやけた後姿を見た。


近藤君のことが大好き。


でも、今は黙っておこう。




神様


どうか どうか近藤君の恋が砕け散ってしまいますように


その後で私を見てくれるとは限らないけど


だけど


どうか 神様


こんなことを願ってはいけないとはわかっているけど


「・・・ッ」


ごしごしと目をこすった。



空を見上げると、月と星が私達を見下ろしていた。



少しだけ肌寒い 冷たい風に吹かれてゆれる桜が凍えて震えてるように見える10月の夜のことでした。



すいません、野球部のことはあんまりよくわからないので『リアリティねぇ!』とか思う人がいたかもしれませんね。そういった方は本当にすみませんでした。


これからもシリーズとして続けていくつもりなので長い目で見てやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ますます目が離せなくなって、あらあらまあまあ……(笑 野球の描写は、この程度でいいと思いますよ。野球小説ではないことですし。
[一言] 試合、負けちゃいましたね。自分は野球の描写より近藤君と春ちゃんの恋模様のほうが気になりますから、今のままで全然いいと思いますよ。話は変わりますが、*姫林檎*先生は、高校生ではないのですね?も…
[一言] 試合、負けちゃいましたね。自分は野球の描写より近藤君と春ちゃんの恋模様のほうが気になりますから、今のままで全然いいと思いますよ。話は変わりますが、*姫林檎*先生は、高校生ではないのですね?も…
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