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ペオグラード王国にて  作者: 卵かけご飯
プロローグ:三人兄弟の話
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スワン・プリシュティナ

ファンタジー 約10万字で終了予定

スワン・プリシュティナ---私の名前だ。大貴族であるプリシュティナ公爵家に次男として生まれた。

『天才』・・・・そう初めて呼ばれたのはいつのことだったか、記憶の限りでは8歳の頃だったと思う。 そう呼ばれるようになった原因はなんであっただろうか? 

たしか中級に分類される魔法を行使したからだ。年齢で言えば確かに早い、一般的な基準からすれば少なくとも4年は短縮している。

もちろん、この一般的というのは、貴族として、高水準の教育を受けた人間という意味での一般的だ。 4年という年月の短縮は人間を『天才』と評させるにはすこしばかり微妙であるといえよう。歴史を紐解けば、自分と同じ程度の才能を持った人間などいくらでもいるだろう。

自分を正しく評するならば優秀という言葉が正しいと心底思う。別に謙遜しているわけではない。本当の天才というものを知っているからこその正統な評価だ。

しかして貴族という面倒なものに生まれてしまったからだろうか、自分の生活にはこの『天才』という言葉が付き纏う。

「スワン君?聞いているかな?」

自身の名前を呼ばれ、授業中であることを思い出す。思っていた以上に長い間考え事をしてしまっていたようだ。

「めずらしいこともあるものだね?スワン君、主席であり、模範生でもある君が授業中に考え事など」

「申し訳ありません教諭 少し弛んでいたようです。」

「いやいや、気にすることはない。私としては授業を聞いてほしいところだが、他の生徒からすれば、主席である君が少しでも油断してくれれば儲けものだろうしね」

教諭の言葉に学友たちは「この程度のことで追いつけるはずないですよ」皆一様にちいさな反論をする。

ロアン教諭はその通りだねと苦笑いを浮かべ、肩をすくめてから授業を再開する。行われているのはある魔法理論の解説、特別難しいものではない。自分にとって聞く価値のあるものではないが、最後まで教諭の話に耳を傾けた。


授業が終わり、周りの生徒が教室を出て行く中、近付いてくる生徒が一人、よく知った顔だ。

「お前が教諭に注意されるなんて、珍しいこともあるもんだな?」

話しかけてきた学友のグランに苦笑いを浮かべながら答える。

「そんなことはないさグラン、僕にだってミスはある。たしかに今回のミスはちょっと僕らしくなかったかもしれないけどさ」

みんな珍しい珍しいというけれど、僕だって皆と同じ人間なんだから、物思いにふけることだってあるさ まぁもっとも、人前では気をつけているけれど

「いったい何を考えていたんだ?」

ニヤニヤといやらしい視線を向けてくるグラン

嫌なやつだ。彼はいつもそうだ。こちらが聞かれたくないことを平気で聞いてくる。

「別にたいしたことじゃないんだ。 ただちょっと昔のことを・・・ね」

あんまりたいしたことじゃないよ?と匂わせる

「昔のこと?」

「ああ、8年ぐらい前のことさ、あの頃はどろんこ遊びしていて楽しかったな~とね」

真実と虚実を混ぜながら適当なことを話す。この友人はこちらの嘘を直感で見抜いてくるので、ごまかすのもいちいち大変だ。

「どろんこ遊びってお前・・・公爵家の子息がそんなことしてたわけないだろ」

「あはは・・・公爵家の人間と言ったて、別に特別な生活をしていたわけではないんだけどね、流石にどろんこは言い過ぎたけど、土系の魔術の訓練をしていた頃のことさ」

これは本当のこと、まぁ訓練とはいっても、今思えばあれは泥遊びのようなものだったなと懐かしくなる。友人をごまかすためにはじめた回想だが、本当に懐かしくなってきた。

「上位ではないが、伯爵位を父にもつ俺ですら、流石にそんな遊びはしたことないからな~ で?本当のところ何を考えていたんだ?」

ごまかせたつもりか?とニヤついた顔を向けてくるグラン いやまぁごまかせるとは思ってなかったけどさ、そこは気を使ってくれるとかしてくれてもいいんじゃないかな・・・ああこの友人にそれは期待するだけ無駄だったな。

「流してはくれないのかい?」

「まぁな! 真面目で優秀、将来有望な友人が、授業を無視してまでしていた考え事だからな!興味が湧かないはずがない」

彼の場合は本当にただの興味本位なんだろうな・・・

「君に言わせれば、たいした事でなくてもたいそうなことになってしまうね」

まったく

「たいしたことがないのなら、さっさと教えてくれてもいいだろう?」

そりゃそうなんだけどね

「まぁいいけどさ、別に面白いことじゃないんだ。考えていたのは本当に8年前の自分のことなんだ。今と同じさ!真面目で、勤勉で、公爵家として恥ずかしくない人間になろうと努力していた。今と同じ、過去のことさ」

「真面目で勤勉か、自分で言うか普通?」

グランはクククっといやらしい笑みを浮かべながら皮肉混じりに言う。僕だって自分のことをこんなふうに表現するのは好きじゃない

「仕方ないだろうグラン、今も昔も、自分はそういう評価を受けてきたのだから」

「まぁな」

再びクククといやらしく笑う友人 自分に対し、表情を隠そうともしない友人のこういうところが好きでもあり、嫌いでもある・・・いややっぱり嫌いということにしておこう。あまり彼を好意的に捉えておくと、この先いらぬ不幸を抱えるような気がする。

「だがスワン、なんでいまさらそんな昔のことを?お前がバカ真面目なのは昔からのことだろう?いまさら振り返って確認することか?」

「・・・・・・・・・・」

友人は?マークを頭に浮かべながらこちらの表情を伺ってくる。だが、僕がこれ以上何も語らないとわかると「まぁいいか」と言い話を切り上げる。

「そういえば・・・話は変わるんだがスワン」

グランがふと思い出したように再び話しかけてきた。

彼としてはむしろこちらが本題なのだろう

「なんだい?」

あまりいい予感はしないが聞く。彼の話がぼくのためになったことがあまり無いので話を聞くのは少し怖い。致命的な不幸を招くでもなく、ただ苦労する話を持ってくるというのが悩みの種だ。

「第二王女様の誕生パーティーがもうすぐあるが、プレゼントはきちんと用意しているのか?」

「ああ、そのことかい」

もちろん用意しているさ、王族の誕生会に招待されているのだ、手ぶらで向かうわけがない。

「俺が言ってるのは公爵家としてのプレゼントではなく、お前個人、つまりはスワン・プリシュティナとしての話だぜ?」

「個人として・・・かい?毎年カーティナ様の誕生会に出席はしているけど、個人的に贈り物をしたことはないよ? 君だって知っているはずだろう?一緒に誕生会に行っているのだから」

「ああ、知っているさ?だからこそ今言ったんだよ、今回は用意してるよな?ってな」

「今回は・・・って、なぜ君は今回に限ってそんなことを言うんだい?まさかだとは思うけど、成人として認められる16歳の誕生会だからかい?」

「そのまさかだよ、せっかく王女様が成人するんだ。公爵家子息として、大人のレディーになった王女様に、個人的な贈り物を渡すのが、マナーだとは思わねえか?」

まったくグランも好き勝手言ってくれる。僕に王女様を口説けって言うのか・・・たしかに16歳を超えた成人は結婚することが出来るし、カーティナ様の見合い話は聞いたことが無いけれど、だからといって成人したばかりの王女様を口説こうとする馬鹿は普通はいないだろうに、ぼくにそんな度胸があると思っているんだろうか

「そんなマナーは聞いたことが無いよ」

そんな度胸も無い

「お前ってやつは女心がわかってないというかなんというか・・・仮にも王女様の幼少期に、遊び相手を勤めた男とは思えねえぞ?相手だって、お前からのプレゼント待ちわびてるって!」

グランはすこし興奮した面持ちで話す。まるで本人から聞いてきたかのように自信満々に語る友人をみて(一応僕のためを思って言ってくれてるんだろうな)と思いつつため息を吐く。

「たしかに僕は4歳の頃から、カーティナ様の遊び相手を務めたけど、それは他の兄弟にも当てはまることだよ?」事実、プリシュティナ公爵家の子息は、皆王女殿下の遊び相手を務めたことがある。長男のレオナルドはアーティナ第一王女、三男バーツはサーティナ第三王女の遊び相手を務めた。

「僕たち兄弟は偶然にも国王陛下のご息女達と年も近く、また家柄的にも適任だったからその役目を仰せつかったのであって、特別なことじゃないよ?」

「そんなことないと思うがな~」

「僕にその論理が適用されるなら、レオナルド兄さんだって同じはずさ、けど兄さんはアーティナ様の誕生会に欠席したことはないけど、個人的なプレゼントは贈ってないと思うよ?」

「お前の兄貴はよくわかんないからなぁ行動が・・・・って他の人間の話してもしゃーねー、お前だよ!お・ま・え! とりあえず、つべこべ言わずになんか用意しとけ!な?」

「まぁ、別にそれほど負担になるわけでもないから別にいいけどさ」

「だろ?細かいこと気にせず、こういうのは渡しとけば王女様の覚えめでたくもなるってもんさ」

「そんな単純なものじゃないと思うけどね」

プレゼント一つで王女様に気に入ってもらえるなら、多くの貴族たちが第一王女であるアーティナ様に競って贈り物をしたりはしない。あまり効果が無いからこそ少しでも気を引くために皆競っているのだ。

「お前は優秀だけど、まだまだ周りが見えていないなスワン? 世の中、お前が思ってるよりよっぽど単純だぜ?」

それだけ言うと友人はもう仕事は終わったとばかりに足早に去っていく。まったく自由な男だと思いつつ、自分も帰り支度をする。話し込んだせいでだいぶ時間が経ってしまったようだ。

少しだけ暗くなった空を見上げながら、学園の門を通る。

(帰りに露天商でも見ていくか・・・)

学院から屋敷への帰り道、大通りを歩き、露天商のいる通りを目指す。歩きなれた道を足早に進む。時間的にまだ日が落ちるには早いが、早めに帰宅しないと一部の心配性な使用人が捜索隊を出してしまう。この話を人にすると皆冗談と思うようだが本当の話だ。だからこそ困りものだ。両親からの信用もあって自由な行動をある程度保証されているものの、心配はかけないに越したことはない。普通に散歩をしていただけなのに、血相を変えて自分を探す使用人を見たときは思わず天を仰いだものだ。

露天商のいる通りに着き、早速品物を見物する。最初に目に付いたのは何に使うか良くわからない道具を置いている露天商だった。「店主、これは何に使うものなんだい?」

「おや、これはおぼっちゃま!良くぞ聞いてくれました!これは・・・・」と早速説明を始める店主、いくつかの商品の説明を聞いたが、正直まったくほしいとは思わなかった。

「これはこう使うんですよ!」とあまりにも熱心に説明してくるので話を途中で切るのも申し訳なくなってしまう。

全ての商品の説明を受けた感想としては、なんの役にも立たない道具というわけでもないが、特に要らないものだった。ピコピコハンマーなる道具など、いったいどういった層に需要があるのか、唯一全自動芋剥き機なるものに興味は引かれたが、芋を剥く機会が人生でほとんどなかったことを思いだし購入を思いとどまった。店主の「今度仕入れに行くんでまた見に来てくだせえ!」という声を背に受けながら別の店に移動する。

いまさらだが、仕入れに行くということはあれらの商品は売れているのだろうか?だとしたら市井にも変わり者はいるんだな

次に眼に入ったのはアクセサリー類を扱う露天だった。特別煌びやかなものではないが、珍しい意匠を施されたものを扱っている。

「店主、これは店主が作ったものなのかい?」

「おいおいおれっちにそんな器用な真似が出来ると思うのかい?詳しくはいえないが、これはとある村から仕入れてきた物さ! なかなかに面白い模様をしているだろう?」

「そうですね、あまりこの辺では見かけない意匠だったので見入ってしまいましたよ」

「そうかい?それじゃあ一つどうだい?せっかくだから買ってってくれよ!」

「そうですね、それじゃぁせっかくですので、そのイヤリングを頂きましょうか」

イヤリング自体は特別変わった形はしていないが、模様が気に入ったので購入する。

それにしても、このウサギのような生き物はなんなのだろう?・・・・ウサギなのだろうか?じつに不思議な愛嬌がある。

「まいどあり~」

代金を店主に払って品物を受けとる。今日は特になにも買うつもりはなかったのだが、まぁ高いものではないのだからいいだろう。

その後もいくつか露天商を物色したが、結局イヤリング以外はなにも買わず、帰宅の徒についた。屋敷への道の途中、ふと住民の会話が耳に入る。

「なぁ聞いたか?陛下についての話」

「ん?なんの話だ?」

市井の者が王城の話をするのは別段珍しいことではない。やれ税金が安くなりそうだとか、やれ○○が税をちょろまかしている等、話題には事欠かない。これもその一つだろう。

「なんでも、陛下は近々退位なさるって噂だ」

「おいぃぃ!!!!やめてくれよ! あの陛下が退位なさるなんて冗談でも言っちゃいけないぜ?この国の平和は陛下とおもにあるっつっても過言じゃねえんだからな?」

「んなこたぁ俺だってわかってるけどよ?もっぱらの噂だぜ?なんでも体調が思わしくないんだとか、だからまだ動けるうちに後継を決めるってのが今回の話らしい」

「あの豪胆な陛下の体調が思わしくないって言われても、想像がつきにくいけどよぉ?でもまぁ、激務なんだろうし?年も若くはねえからな~ おかしな話じゃねえか」

「つってもじゃぁ後継が誰になるかって話よ?陛下には子供はいるにはいるが、全員王女様だからな~ 長女のアーティナ様を女王とするのか、どこからか婿を取るのか、どうなるんだろうな~」 心配だ・・・と話す男たち

話を聞くに、普段、市井の者がしている噂とは少々毛色が違うように思える。だんだんと話が飛躍してきているが興味深い、市井に広がる噂話というのはなかなかバカにできないものだ。

「すみませんがそこのお二人、今の話に関して、もう少し聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」






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