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勇者になれなくても世界を救う  作者: 久瑠美 雷華
第二章 魔王と勇者
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第十八話 初めての学び

挿絵(By みてみん)

 朝露がまだ葉の先に残るころ。


 森の小さな開けた場所で、三人と一人は新しい一日を迎えていた。


「……よし」


 ラグナが腕を組んで、目の前をじっと見つめる。


 そこに立っているのは――ルミナス。


 すでに見た目は三人と同じくらいの年頃になっていた。

 つい数日前まで赤子だったとは思えない。


 ただし。


「……なんでそんな立ち方なんだよ」


 ラグナが思わず突っ込む。


 ルミナスは、なぜか両腕をピンと横に伸ばし、棒のように直立していた。


「……立つとは、この形ではないのですか?」


 真顔で言う。


 エルが吹き出す。


「あはは!なにそれ、木みたい!」


 リオンも口元を押さえている。


 ラグナは額に手を当てた。


「違う違う、もっと力抜けって」


「力を……抜く……」


 ルミナスは言われた通りにしようとして――


 ぐにゃりとその場に崩れた。


「極端すぎる!」


 三人の声が揃う。


 そんな風にして、ルミナスの“学び”は始まった。


 ――まずは、エル。


「はい、これ着てみて」


 差し出されたのは、シンプルだが動きやすそうな服だった。


 ルミナスはそれを受け取り、しげしげと見つめる。


「……これは?」


「服だよ!」


「ふく……」


 しばらく考えた後、ルミナスは服を頭に乗せた。


「違う違う違う!」


 エルが慌てて止める。


「それは被るんじゃなくて着るの!」


「着る……?」


 エルは実演して見せる。


 袖に腕を通し、整える。


「こうやってね」


 ルミナスは真似をする。


 だが――


 なぜか両足を袖に突っ込んだ。


「それズボンの履き方でもないよ!?」


 エルは大笑いしながら、何度も教える。


 やっとのことで、なんとか服を着ることに成功した。


「……これで、合っていますか」


 少し誇らしげな顔。


 エルは親指を立てる。


「完璧!」


 ルミナスは小さく頷いた。


 その様子を見て、エルはふっと優しく笑う。


「かわいいなぁ……」


「かわいい……?」


「うん、いいことだよ!」


 ルミナスは少し考えてから、こくりと頷いた。


 ――次は、食べ物。


「これは絶対覚えてほしい!」


 エルが取り出したのは、パンだった。


 その中に詰まった、赤いジャム。


「イチゴジャムパン!」


 誇らしげに掲げる。


 ルミナスはじっと見つめる。


「……赤い」


「イチゴだよ!甘くておいしいの!」


「甘い……」


 興味を示したルミナスに、エルはパンを手渡す。


「食べてみて!」


 ルミナスは恐る恐る一口。


 ――止まった。


「……どう?」


 エルが身を乗り出す。


 ルミナスはゆっくりと咀嚼し――


「……おいしい」


 小さく呟いた。


 その瞬間。


 エルの顔がぱっと輝く。


「でしょでしょ!?」


 ルミナスはもう一口。


 さらにもう一口。


 気づけば、無言で食べ続けていた。


 ラグナが呟く。


「めっちゃ食うな……」


 リオンも苦笑する。


「気に入ったみたいだね」


 食べ終えたルミナスは、少しだけ考えてから言う。


「……これは、毎日必要ですか」


 エルは即答した。


「必要!」


 ラグナが横から言う。


「いや必要ではないだろ」


 エルが睨む。


「必要なの!」


 ルミナスはそのやり取りを見て、こくりと頷いた。


「……分かりました。必要です」


 ラグナはため息をついた。


 ――次は、リオン。


「じゃあ次は、生活のことを」


 静かに微笑む。


「まずは食材集めからだね」


 森の中へと案内する。


「この葉っぱは食べられるけど、これはダメ」


「見分ける基準は?」


「匂いとか、色とか……あと、経験かな」


 ルミナスは真剣に観察する。


「……覚えます」


「うん、ゆっくりでいいよ」


 やがて、焚き火の前へ。


「火の起こし方も大事だよ」


 リオンは丁寧に説明する。


 枝の組み方、火のつけ方、空気の通し方。


 ルミナスはじっと見つめる。


「……やってみます」


 慎重に枝を組む。


 火をつける。


 だが――


 ぼっ、と一瞬で燃え上がった。


「うわっ!?」


 リオンが驚く。


 ルミナスは無表情で言う。


「……強すぎました」


「う、うん……ちょっとだけね」


 ラグナが笑いをこらえている。


 エルはもう我慢できずに笑っていた。


 それでもリオンは優しく言う。


「大丈夫。失敗してもいいから」


 ルミナスは小さく頷いた。


「……はい」


 その声は、少しだけ柔らかくなっていた。


 ――そして、ラグナ。


「よし、最後はこれだ」


 剣を抜く。


 ルミナスはそれを見つめる。


「……戦うための技術」


「そうだ。でもな」


 ラグナは少し考えてから言う。


「振り回すだけじゃダメだ」


 木の枝を拾い、ルミナスに渡す。


「まずは構えから」


 ルミナスは真似をする。


 だが――


 なぜか逆手持ち。


「それだと自分刺すぞ!」


 すぐに修正。


 今度はちゃんと構えた。


「いい感じだ」


 ラグナは少し笑う。


「じゃあ、来い」


 軽く構える。


 ルミナスは一歩踏み込む。


 ――速い。


「っ!」


 ラグナが目を見開く。


 だが、ぎりぎりで受け止める。


「……今の、どうだった?」


 ルミナスが聞く。


 ラグナは苦笑する。


「才能ありすぎだろ……」


 エルが横から言う。


「ねえ、それ強くなりすぎない?」


 リオンも心配そうに言う。


「大丈夫かな……」


 ラグナは剣を下ろし、ルミナスを見る。


「いいか」


 真剣な声。


「強くなるのはいい。でもな」


 少しだけ優しくなる。


「何のために使うか、忘れるな」


 ルミナスはその言葉をじっと受け止める。


「……はい」


 その返事は、これまでで一番まっすぐだった。


 ――夕方。


 再び焚き火を囲む。


 エルはパンを焼き、リオンはスープを作る。


 ラグナは薪をくべる。


 ルミナスはその様子を静かに見ていた。


「……これが、生活」


 ぽつりと呟く。


 エルが笑う。


「そうだよ」


 リオンも頷く。


「みんなで生きるってこと」


 ラグナは火を見つめながら言う。


「その中で、何を守るか決めてくんだ」


 ルミナスは三人を順に見た。


 そして、小さく言う。


「……分かりたい」


 その言葉に、三人は顔を見合わせる。


 そして。


 ラグナが笑った。


「じゃあ、ゆっくり覚えてけ」


 エルが頷く。


「いっぱい教えてあげる!」


 リオンも微笑む。


「大丈夫、一人じゃないから」


 焚き火が、ぱちりと音を立てる。


 その光の中で。


 ルミナスは初めて、ほんの少しだけ――


 安心したように、微笑んだ。

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