第七話 いろんな人がいるハンターの家
「何屋さんです?」
掛け合わせが意外すぎて聞き返す。
「ドーナツだよ。」
当たり前のようにはなびは答える。
「ここの向かいにお店があるんだよ。」
「ここの向かい?」
向かいと言われても、神社と社務所以外にはなにも。
「反対側か…。」
この建物の反対側を見たことがない。同じ空き地のような広がりがあるのだろうと勝手に思っていたが違うようだ。
「鳥居からしか上がってきたことなかった?」
「えぇ。そうです。そこからじゃなくても上ってこれるんですか。」
土地勘が薄いから一つの道以外を知らなかったことに気がつく。
「こっちの道を使う人のほうが少ないんじゃないかなぁ。うちの通りはお店も並んでるしね。」
「店があるんですか。はなびさんのお店もそこに?」
「そ。うちのは焼きドーナツだからヘルシーで人気なんだ。」
「へぇ。焼きドーナツって食べたことないです。」
はなびは意外そうに目を丸くする。
「そーなの?スイーツ好きそうな顔してるのにね。」
どんな顔だ。
「君、モテるでしょ?」
「は?」
まじで突然、何を言っているんだ?
「いや。全然。」
「うそだー。気がついてないだけじゃないの?」
はなびは決して冗談を言っているわけではなさそうだ。
「ほんとに。彼女だっていたことないですし。」
いったいなんで初対面相手にこんな話、しなくちゃいけないんだよ。
「私、わかるんだよね。そういうの。オーラが出てる。君は知らないだけで人気がある。」
「意味がわからないです。なんでそんなこと今言うんですか?」
だんだんと腹が立ってくる。初めて会った相手にこんなにずけずけと。
「ごめんごめん。怒らせるつもりじゃなかったんだよ。思ったことがすぐに口から出るの。」
気をつけた方がいいぞ。
「でも、悪いことじゃないでしょ。」
「でも、よく知らない人に言われたくはない話題です。」
はなびはケラケラと笑う。
「君だってはっきり口にするじゃない。」
一緒にするんじゃない。
「まぁ、今のは私がわるかったよね。謝るよ。」
あっさりとした性格は嫌いじゃない。かといってなんでも口に出すことに対しての嫌悪は消えない。言葉は人をえぐる最も身近な凶器なのだから。
「相模さんいないなら帰るか。」
はなびはそう言うと出て行こうとする。
「あの。」
奏は呼び止める。
「ん?」
はなびは振り返る。
「あの。はなびさんもゴーストハンターって。」
「そうだってば。」
特にうざそうにはせずに答える。
「どんなふうに、あの、除霊するんですか?」
聞いていいのかわからない。犬人にもまだ聞けていない。鈴葉のはついて行ったから知っているけれど。
「私の方法?」
何でそんなこと聞くんだろうと言う顔。しまった。聞いたらいけないのだろうか…。
「気になる?」
一瞬にして表情が変わる。奏の好奇心を覗かれているみたいに。
「めちゃくちゃ気になります。犬人にも聞けてないし。」
「なるほど。素直だねぇ。いいよ。教えてあげる。私の除霊方法はカード浄化って言うの。」
「カード浄化?」
「そ。聞いたことないよねきっと。珍しい方法なんだ。」
これまで聞いたことのないやり方のようで、さらに興味が湧く。
「どんなやり方なのか聞いてもいいですか?」
はなびは少し考える様子をみせる。
「そうだなぁ。ざっくり言うと、タロットカードってわかる?」
「はい。」
「あれみたいなカードがあるのね。」
様々な絵の描いてあるカードを想像する。
「異住人の種類で使い分けてるの。」
「なんですか?いずと?」
初めて聞くフレーズに違和感を覚える。
「そう。異住人。聞いてない?」
全然。心でそう言って首を振る。
「もう。いつも抜けてるんだから。」
相模に言ってるのだろうか。
「異住人っていうのはね、私たちゴーストハンターの相手。いわゆる霊とか妖怪って言われるモノたちのこと。うちでは異住人って呼んでるのよ。この世の住人ではない人って感じかな。」
「なるほど。」
「奏もアニメとか漫画とかで知識得た人?」
もう奏と呼び捨てに。ここの人たちはみんな距離の取り方が近い。
「そうです。」
はなびはやっぱりと頷く。
「異住人の種類によって私のカードは反応するの。だからその時その時でやり方はかわってくるのよ。」
奏の返事は無視して話は進められていくようだ。
「私自身でカードを選ぶことはできないの。そして、カード達は一度使うと力を消耗してしまう。」
「カード自身が力を持っているってことか。」
「そう。私の中には力の原点はないの。だからカードの霊力を使わせてもらってるって感じかな。」
「はなびさんに霊力はないんですか?」
はなびは少し寂しそうな顔をする。
「ゼロじゃない。もちろん。何にもなかったらカードを使うことすらできないから。でも、ここにいる他の人たちよりは弱いのは確かよ。」
悪いことを聞いたかも知れない。
「すいません。なんか。」
奏が気まずそうに謝ると
「大丈夫よ。慣れてるもん。それでも私は自分がこの仕事に選ばれたって思ってやってるんだからいいの。」
自信が舞い戻った笑顔を見せる。
「さっきも言ったけど、カードは一度使うと力を消耗しちゃうの。その力をカードに戻してくれるのを相模さんがやってくれてるのよ。」
だから相模を探していたのか。
「全てのカードに力が戻ってないと私は活動ができないの。どれが反応するか私にはわからないから。もしも、力の戻っていないカードしか使えないなんてことになれば…。」
はなびは険しい顔で奏を見つめる。
「私は死ぬことになるんだもの。」
ひんやりとした空気が流れた気がする。
はなびの声はそれくらい冷たいものだった。
しかし、それも一瞬で
「だからー。相模さん早く見つけなきゃ。」
明るさを引き戻す。上がり下がりの激しい人。
「てことは今、異住人を除霊してきたってことですか?」
カードに力がないから相模をさがしているとなるとそういうことのはずだ。
「そうよ。」
やっぱり。
「どんなやつを相手にしてきたんですか?」
はなびはにやりと笑う。
「気になる?」
好奇心を隠したつもりだったが、ダダ漏れのようだ。
「ありますよそりゃ。」
マウントを取られることに慣れるんだ。自分がここでの立ち位置を見つけるまで。
「今日はね、この世界に未練があって上に行けない異住人だった。」
「未練…。そういう時はどうするんです?」
「一番って言っていいほど扱いやすい異世住人だったからね。未練をオートで断ち切るカードが発動したんだ。ほんとの浄化ってやつ。」
「それって珍しいんですか?」
奏の質問にはなびは少し口ごもる。
「…そうだね。残念な話だけど、最近はあんまりないかもしれないね。」
はなびは悲しそうな顔になって続ける。
「圧倒的に多いのは、人やこの世界に恨みをもってとどまっている異住人だよ。危険度も高い。」
「それって…。」
「うん。今の世の中を移す鏡みたいなものなんだよ。異住人は。数年前の感染症の年から急激に増えた。怒りの矛先がわからないまま死んでしまう人の数が増えすぎたの。うちだけじゃない。他のゴーストハンターの集まりも同じように考えてる。」
「確かにそれは…。でも、しょうがないことだとも思います。全部除霊したしまえばいいのでは?」
多分当たり前の回答だったと思う。しかし、はなびの反応は奏の考えを改めてさせるものだった。
「簡単に言わないでよ!」
怒りを露わにして大きな声を出したのだ。
「さっき言った感情を持った異住人はものすごく凶暴化するの。普通のレベルじゃ倒せないくらいに。その意味がわかる?レベルが上がれば対処できるハンターの数も減る。一人に対する除霊頻度が増えるの。そのせいでしなくてもいい活動も強制されて、無理して、怪我じゃすまないことだってあるの。」
最後の方は怒りを超えて小声になってしまう。
「すいません…。そんなことになってるなんて知らなくて…。」
そもそも昨日初めてここに来て、知識もほとんどない自分にそんなこと分からないし責められる理由も謝る理由もないはず。でも、はなびの感情からただ事で済まないことが起こっていたのだと悟った。それに対して、奏は突っかかる気にもなれないと思った。あまりにまはなびが悔しそうにしているから。
「ううん。ごめん私のほうが悪いよね。奏は何も知らないんだから。」
「そうですけど、不謹慎でした。」
「ほんとごめん。たくさん知りたいことあるよね。少しずつでいいと思うから知っていってほしいな。」
はなびの顔を見ていると今日はこれ以上聞く気分にはなれなかった。それに、
「やあ。はなび。」
ちょうどいいタイミングで、見計らっていたようなタイミングで相模が姿を現した。
「相模さん!探してたんだよ。カードお願いー!」
はなびは相模の顔を見ると初めてここに顔を出した時と同じ無邪気な笑顔に戻った。
相模がいるとその場の空気が変わる。鈴葉の時もそうだ。彼は、この家のなくてはならない存在なのだろう。
「何か浄化してきたのか。」
はなびの差し出すカードを見てどんな方法を使ったのか相模は当たり前に分かるのだろう。
「そう。今日のはスムーズだったからマリアでいけたの。」
「そうか。お疲れ様。」
そう言ってはなびの頭を撫でる。されるがままのはなびはとても満足そうだ。
マリアがなんなのか聞ける雰囲気ではないな。
「奏くん。仕事ははかどっているかな?」
今気がついたというふうに声をかけてくる。
「ええ。なんとかやってます。」
「結構。助かるよ。」
そういうと事務所を後にする。はなびもその後に続いていく。
「そうだ。仕事帰りにうちの店おいでよ。」
そう言ってはなびは去って行った。
また新たなゴーストハンターに出会えたことと、異住人という名前で霊や妖怪たちが呼ばれていることが今日の収穫だな。と奏は考えながら残りの仕事を片付けていった。




