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月光が照らす君が割ったのはアヤカシ者か俺の心臓か〜ありきたりな現代奇譚〜  作者: 貝月 恵芙


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第十七話 有意義な時間

「あの。ここって、みんな何て呼んでるんですか?」

信長さんの車を降りて施設を見上げて聞いてみた。ずっと呼び方が定まらなくてもやもやしていたのだ。ふれあいの家、施設、もしくはゴーストハウス?でもどれもぴんとこない。

「呼び名か…。結構みんな好き勝手に呼んでるが。」

かけていたメガネを外してテンプル部分を口に加える。

「俺は事務所って呼んでるけどな。」

「事務所。」

「ああ。俺はいつも事務系のことでここに来ることが多いからな。住人じゃないから。」

そうか、お寺の息子さんだって言ってたもんな。

「奏も好きに呼んだらいい。お前にとってここがどんな場所なのかでな。」

「どんな…場所。」

考えたことがなかった。おれがここに来たのはバイトのためで、でもなんか不思議な力があるとか言われて…。

「ただな。」

思考中の奏に信長さんが話かける。目がさっよりも真剣な気がする。

「相模のことはあんまり信用するな。」

「え?」

そう言っただけで車に戻ろうとする。

「待ってください。それどういう…。」

奏の問いかけには答えず、意味ありげな視線だけを残す。

「あと一つ。」

それ以上は聞けないと判断した。

「ご飯って誰が作ってるのか知ってますか?」

信長さんは無言で一瞬、奏の顔を見つめる。

「お前…。」

「え?」

「いや。あそこは相模の領域だ。誰も中に入ったことはない。出される料理に危険はないが、誰が作ってるのかはみんな知らないと思うぞ。うまいもんが食えるならなんだっていいじゃないか。」

最後の方は少し明るさが戻ったように軽口をたたく。

「そうですか。」

信長さんのさっきの顔が気になったが何も言わずに飲み込んだ。

「あと、すいませんもう一つ。」

「ん?」

「鈴葉は?」

「ああ。」

その言葉だけで信長さんには伝わったみたいだ。

「あいつはなぁ。ちょっと一言では分類できんな。生きてきた境遇が特殊すぎる。」

「それ、はなびさんも言ってたんですけど。どういうことなんですか?」

信長さんはこれまで見せたことのない微妙な顔で頬をかく。

「隠してるわけじゃないと思うんだがな。鈴葉がここにきた理由は他の住人とは違う。それは誰かからの又聞きではだめなんだ。あいつは人付き合いが死ぬほど下手だ。それでも、ここにいる理由を話せるやつは信用してるって証みたいなものらしい。あいつの中での線引きみたいなものだな。」

鈴葉のことに関してはどうやらこの事務所の中でも特殊らしく、出会ったみんなが本人から聞けと言う。なんだか、そう言われれば言われるほどに聞くのをためらってしまう。みんなはそこまでのことでもないと言いたげだけれど。

「色々と難しいやつだけどな。心開けばそんなに悪くもないと思うんだ。仲良くやってやってくれ。お前なら大丈夫だ。」

「その根拠はどこから来るんですか?」

信長さんは片方の口元をちらりとあげて言う。

「俺のカンだ。当たるんだぞ。」

だからなんの根拠があるのよ。

「じゃあそういうことだから、頼んだぞ。」

根拠のない自信を押し付けて、信長さんは踵を返す。

「そうだ。」

しかし、再度立ち止まりこちらを向いた顔は真剣だった。

「鈴葉を相模に近づけてすぎるな。」

「え?」

「相模だ。あいつはだめだ。」

「相模さんが?だめ?」

「ああ。」

「それってどういう…。」

「相模の本性は俺たちに見せてるものじゃない。」

「本性?」

「おれはあいつと付き合いは長くはないが、はっきりとわかる。相模は何かを隠してる。ここにいる全員に。」

信長さんの瞳の鋭さに尋常ではない雰囲気を感じて怖くなる。

「すまん。脅かせすぎたな。」

奏の血の気の引いた顔を見て信長さんがふぉろしてくれる。

「そんなに思い詰めんでもいいんだが、ちょっと警戒心を持っていてほしいと思ってな。来て間もないお前にこんなこと言うのもおかしいが、来たばかりだから話せることでもある。」

「わかりました。」

奏は素直に受け入れた。それはきっと奏の中にも相模に対する何かしらの違和感がずっとあったからかもしれない。

「ありがとう。お前のお母さんにもあんまり相模を信頼しないように伝えてくれ。」

最後にそう言い残し、今度こそ信長さんはイケてるエンジン音を響かせて去っていった。

「かっこよ。稼げるんだなこの仕事って。」

悪くないな。と一瞬下衆な考えが浮かんだ頭を一掃して中へ入る。

おれも今日から事務所と呼ぼう。なんてことを考えながら玄関先で顔を上げると相模がこちらを見ていた。いつものはにやけ顔のはずなのにさっきの信長さんとの話のせいで恐ろしく見えてしまう。

「やぁ。戻りましたか。しんちょうさんのトレーニングはいかがでした?さぞ身につくものがあったでしょうね。」

やばい。全部へんな勘繰りのフィルターがかかってしまう。

「ああ、はい。有意義な時間でした。」

答えになっているのか、いないのかわからない返事をして中に入る。少なくとも今、相模への警戒心を悟られるのはよくない。バイトだって始めたばかりだし、この事務所について知らないことが多すぎる。

そもそも。

本当に信長さんは信用できるのか。それだってわからないのだ。

「それはよかった。あれを見せられるのはしんちょうさんだけですから。しっかりと見て学んでください。」

そう言うと相模は食堂の方へと消えていった。

「信長さんしかできないことを学べって言われてもな…。」

相模の背中に向かって小さく嫌味を言ってみる。

「どんなに自分に関係ないことだとしても、見ておくことは大事なんですよ。」

なんと!

この距離なのに奏の言葉に返事をした。

絶対に届かないと思っていたのに。

まさか。

さっきの信長さんとの会話…聞かれてたりしないよな。

家の中だけと家の内と外では距離が同じでも声は届かないはずだ。

「すごいですね。聞こえるなんて。外の声も聞こえるんじゃないですか?」

少し探りを入れてみる。

「私は耳がいいのでね。さすがに外の声までは無理ですが。」

そうだよな。

「でも。」

含みを効かせる間ができる。

「外の音がなんの音かは瞬時に判断できますけどね。さっきの信長さんのエンジン音とかね。」

信長さんの名前が出るとドキリとする。

あんな会話、相模に聞かれてたら…。

「だから君が帰ってきたことがわかったのですよ。」

「そうですか。」

下手なことは言えない。だから、それ以上なにも言えなくなった。

相模はそんな奏の心を知ってか知らずか奥へと

後に残った静けさが怖い。

よく考えたらこの家の中は物音がしない。

施設で暮らす子供たちはどんなことをして過ごしているんだ?こんなにも静かに生活ができるものだろうか。

相模を警戒しろと言われたが、もはやこの家にも怪しさを感じずにはいられない。

ここまで生活音のしないのはいったいどういうことなんだろう。

そこで考えるのをやめた。

怖すぎる。

少なくともここでバイトをしようと決めたのだ。これ以上の余計な詮索は…今じゃない。

「そうだ。」

この二日ほど書類整理の続きを忘れていたことを思い出した。

せっかく自分ルールを作り上げたところまで来たのに。

「また溜まってるのかな。」

相模が向かった食堂のことも気になるけれどそこを通って奥に進む。食堂の前で中の様子をチラ見したが、話し声や物音はしなかった。夕食の時間も近いはずだが静けさが広がっていた。相模の姿もないということは厨房の中にいるのだろうか。

「やめとこ。」

考えたくなかった。人を訳もなく疑うことはあまりしたくない。これまでもそういうことは避けてきたのだ。

揉めるなら、閉じ込めたほうが楽だ。

さらに奥へ進むために足を動かす。

自分のため息が聞こえる中を頭を切り替えて、書類整理の手順を考え始めると心が少し軽くなった。

のに…。

暗闇から突然伸びてきた手に腕を掴まれ、その中に引き摺り込まれた。

「なっ!」

一瞬、何が起きたのかわからなくなる。

すると、次の瞬間目の前に鈴葉の顔が現れた。

「おわっ!」

驚いて後ろに飛び退くと壁に頭を打ちつけてしまう。

「いって…。」

鈴葉はそんな奏を気にする風もなく

「あなた。どういうつもり?」

自分が晒した暴力にふれることもなく、最近繰り返している言葉をわざわざかけてくる。

「どういうつもりってなんだよ!いてーな。」

何がそんなに気にいらない。

「あなたが見えてるもの。本当なの?」

鈴葉に顔を見つめられて問いかけられたのは初めてだ。少し照れる。

「本当…だと思う。」

はっと鈴葉の口から息が鋭く漏れる。

「なんなのよそれ。どうして自分のことなのにわからないのよ。」

「そんなこと言ったって。まだ2日しか経ってないんだ。自分にこんな力があるって知ってから。半信半疑になってもおかしくないだろ。お前と一緒にするな。」

語尾がきつくなる。

鈴葉に対してというか、不思議な力があると強制的に自覚させられたことや周りの期待が高いことに対してだと思う。周りのスピードが速すぎてついていけてない。

鈴葉は無言でこちらを睨みつけている。

「悪い…。」

「なんで謝るの?」

「いや。お前に八つ当たり…した。」

「八つ当たり?」

わからないと言いたげな顔で小首かしげる。

「私、あなたをイライラさせてるつもり。」

「は?」

なんて?

「だから、八つ当たりじゃなくて当然の当たり。」

「そんな言葉ないよ。」

あきれた奏の声を聞くとくるりとむきを変える。

「着いてきて。」

それだけ言って歩き出す。

「なに?」

現状を理解できずにいる奏をおいてすたすたと先は進む。

「おい。待って…。」

初日と同じように、鈴葉の後ろを追いかける。

「どこに?」

「いいから。」

こちらを見もせずに鈴葉は事務所を出る。

「ちょっときて欲しいの。」

いったいどこへ…。

「わかった。」

奏は分からないなりになにかわかる気がして素直にしたがった。

信長さんに言われた言葉が背中を押したのかもしれない。

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