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月光が照らす君が割ったのはアヤカシ者か俺の心臓か〜ありきたりな現代奇譚〜  作者: 貝月 恵芙


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第十六話 確かめたいたいこと

襖を開くと思ったよりも広い部屋が現れた。

元は畳がある和室だったのだろうが、そこに絨毯を敷いて骨董品を並べるテーブルを置いている。

部屋中にぎっしりと骨董品と呼ばれる品々が詰め込まれている。さすが世界中から集めていただけはある。なんとなく何かで見たことがあるものから全く知らないものまで所狭しと物が置かれている。初めは綺麗に陳列されていたのだろうが、物が増えるにつれて綺麗に並べることができなくなったようだ。床や陳列棚の上に乱雑に置かれているものも多い。

その中央に真っ黒なオーラを放つ遺物が置いてあった。

「あれが?」

「お前にも見えるか?」

オーラのことを言っているのだろう。

「はい。悪い物のオーラ。」

「そうだ。あのオーラだって通常の人間には見えないってことは知ってるか?」

やはりそうなのか…。

「はっきりと聞いたことなかったですけど、何となくそうなんじゃないかとは。」

カタカタカタカタ…

話の途中で硯箱から音がし出した。

信長さんが数珠をキュと握りなす。

「黒はやばい。悪意がマックスだ。」

今にも跳ね飛びそうなほどに揺れる硯箱。

「奏。何か感じるか?」

唐突に信長さんが聞いてくる。

「感じるってオーラ以外にですか?」

「そうだ。」

そういえばいつも異住人に遭遇したときに感じる指先の感触や共鳴する前触れなんかは一切感じない。

「何も…。いつもの感じがありません。」

信長さんはなぜか満足そうな顔で頷いた。

「そうか。やはりな。」

その時、硯箱の揺れる音がぴたりと止んだ。

二人ともはっと硯箱に視線を送る。

黒いオーラが少し増し気がする。

「奏!避けろ!」

そう感じた瞬間。信長さんが叫んだ。

「えっ!」

硯箱の黒いオーラは一瞬きれいに無くなった。

しかし、次の瞬間にオーラが矢のようにこちらに向かってものすごいスピードで飛んできた。

信長さんの声に咄嗟に反応できた奏は紙一重でその攻撃を交わすことができた。

矢のように見えたが、オーラは大きな手になってさっきまで奏がいた場所に覆い被さっていた。

「うわっなんだあれ。」

「付喪神ってのは大人しく物の中に入っている時と、ああやって攻撃してくる時とがあるんだ。

物の中に入っている時は眠っているような状態が多くて、特に持ち主は気が付かない。しかし、一旦目が覚めるともう大人しくしてるやつはいない。誰彼かまわず攻撃してくる。俺たちみたいな人間にはより凶暴にな。」

「それっておれたちがどういう仕事をしているか知ってるからってことですか?」

いつまた攻撃されるかわからないから、硯箱から目が離せないまま会話する。

「あいつらは頭がいい。俺たちなんかよりもずっと長く存在してるからな。そして、その分恨みも多い。」

「そんな。全然身に覚えもないことで攻撃されるなんてたまったもんじゃない。」

思ったままに奏は吐き出す。

「まぁ、それはこっちの言い分だな。」

信長さんは残念だとばかりに首を振る。

「あいつらにそんな常識は通用しない。同じにんだってだけで恨みをはらす対象にするには十分なんだよ。」

「なんてやつらだよ。」

目の前の妖怪硯箱、いや付喪神が腹立たしくてしょうがない。

「でもなぁ。」

信長さんは嬉しそうに声を上げる。

その瞬間にまた硯箱から禍々しい手がこちらに向かって伸びてくる。

ぶったたいてやりたい気持ちでいっぱいだったが

「くそっ!」

何にも持っていないおれには逃げるしかできない。体をくねらせて忌々しく覆い被さろうとする手を回避する。

ガーン!!

大きな音がする。

奏がさっき立っていたところに黒い大手が放たれていたが、その手を信長さんがいつの間に取り出したのか大きな扇子のようなもので思い切りぶん殴っていた。

「こっちだって、ただやられ放題ってわけじゃないんだよなぁ。」

ニンマリと奏を見つめて白い歯を覗かせる。

「こういうのがあればしっかりあいつらのオーラもぶっ叩けるんだ。羨ましいだろ?」

奏の心を見透かしているかのような問いかけにも素直に頷いていた。

「羨ましいです。それ。」

だって、誰彼かまわずの付喪神を殴れるだけじゃなくてその後扇子をパッと開いたと思ったらバットみたいにして大手を弾き飛ばしたんだ。カッコ良すぎる。

「お前。素直だなぁ。」

からかったはずの奏に素直に言われて信長さんが呆気に取られていた。

「いや。ほんとにおれも殴りたいです。」

はははと軽快に笑い声を上げると、信長さんは硯箱の付喪神の方を向いた。

気が付かなかったが硯箱は信長さんの一撃で台から落ちて蓋が開いてしまっていた。

嫌な予感がした。

「さぁ、無駄話もここまでだ。俺は仕事に取り掛かる。」

その一言の後、信長さんを取り巻く空気が変わった。ものすごいオーラが信長さんの体全体から立ち昇る。

「付喪神っていうくらいだ。もとは神レベルの崇高さがあったはずだ。なら、俺の話はわかるよなぁ。」

落ちた硯箱付喪神に向かって話かけ始める。

「大人しく成仏すればこのままこの家で置いてもらえるように俺が話してやるが?」

カタ…。

硯箱付喪神が微かに動いた。

しかし、微かなのも束の間。

ガタガタガタ!!

硯箱付喪神の空っぽの中から黒い大手が何本も飛び出してきた。

「あそう。」

信長さんはそれだけ言うとひらりと飛び上がった。助走もないのにそのまま硯箱付喪神の攻撃を交わしながらすぐそばに降り立つくらいのジャンプを見せた。

「やばっ。」

カッコ良すぎる。

「そういう態度なら、やることは一つだ。」

数珠を手に大手の後ろに回るとじゃらっと大手を一まとめにするように数珠を投げた。切れ目もないのに大手の周りを数珠が一筋で取り囲む。

「交渉決裂。残念だ。」

そして、両手を合わせて柏手を打つ。

ぱんっとこ気味のいい音が鳴ったと思ったら、大手が根元から引きちぎれるようにバラバラになって消えていった。

さらに、間髪を入れずに数珠を鞭のように硯箱に打ちつけた。

大きな音と火花をあげて硯箱は真っ二つに割れてしまった。

その刹那、なにかの呻き声が聞こえたような気がしたが気のせいだったのだろうか。

「どうだ!奏!見てたか?」

なぜかとても満足そうな顔で奏を見る。

「あ、はい。」

「なんだ。そのつまらん返は。」

「すいません。なんか凄すぎて言葉が…。」

それを聞くとまた笑顔に戻る。

「なんだ。そうかそうか。」

信長さんのほうへ近づいていく。硯箱は見事に真ん中で裂けてしまった。もうあの黒いオーラも感じない。

「これって成仏したってことなんですか?」

硯箱を見下ろしながら信長さんは言う。

「いや。これはもう除霊だ。あいつは俺の問いかけに答えなかったからな。」

なんとなく、言っていることがわかる。

おれも経験値が上がったというとこだろうか。

「反発したから除霊した。もしも、信長さんの問いかけに同意していたら成仏できるように導いてあげられるってことですか?」

「まぁ、そういうことだ。色々、時と場合によって方法は違ってくるがおおまかな答えだとそうなるな。」

「終わったのかしら。」

その時、廊下の方から賀川婦人の声がした。すっかり忘れていた。ここは賀川邸の中だった。

「終わりましたよ。残念ながら今回は形を壊すことになってしまいましたが。」

信長さんは申し訳なさそうに言いながら部屋の出口へと進み襖を流した。

「そう。でも、これで安心して眠れるわ。」

襖の前に少し残念そうではあるがホッとしたような笑顔の賀川婦人がいた。

「ええ。またいちでもご連絡ください。」

信長さんも力強く頷く。

そのあとは、賀川婦人が用意してくれたお茶をいただき軽いおしゃべりをして帰ってきた。

「あの。」

帰りの車の中で気になっていたことを聞いてみる。

「信長さんの言ってた、確かめたいことってなんだったんですか?」

信長さんは前を見ながら面白がった視線だけをこちらに向けて言う。

「奏の能力さ。」

「おれの?」

「ああ。奏のその異住人の心の中を読み取る能力。それが、付喪神にも有効なのかを試してみたかったんだよ。」

それで、部屋に入って硯箱を見た時に何も感じないのかと聞いていたのか。

「でも、おれなにも感じられませんでした。」

喜んではもらえないのだろう。相模やはなびのように期待していたのかもしれない。

「いや。合格だ。」

「え?」

思ってもみない答えだった。

「合格?何も見えなかったのに?」

「付喪神がこの世の中にどれくらいいると思う?」

「さぁ。」

「この近い範囲のなかでも100近くいる。」

「ひゃ?」

そんなに?

「物につく妖怪だからな。物が溢れている現代ではその辺の妖怪よりも数が多い。」

なんてことだ。

「そんなもんの声を拾えるようになってみろ。うるさくて生きていけんぞ。」

「そんな…。」

考えただけでも鳥肌が立つ。

「心配だったんだよ。だから確認してみた。付喪神の声は聞こえないとわかって安心したよ。」

優しい瞳で微笑みかけてくれる。

この人…なんなんだ。

「あとは、俺の仕事を奪うのなら今のうちに…と思ってな。」

「えっ!」

ニヤリと悪ガキのような顔になる。

「ちょっとそれ!本気だったんですか?」

ははははと笑いながらスピードを上げる。

本気なのか冗談なのかわからないその速度に奏はため息をつく。

でも、このバイトを始めてから信長さんが一番信頼できる人のような気がしていた。

根拠は何もないのだが。

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