第10話 呪いの力と、初めての感謝
翌日の放課後、湊は図書館でひとり本を読んでいた。
窓から差し込む夕日の光が、書棚に並ぶ本を橙色に染めていた。古い革の装丁本から漂う独特の香りと、窓から入る風に運ばれてくる藤の花の香りが混ざり合う。
明鏡学園の図書館「知恵の水鏡」は、創立以来100年の歴史を持ち、その重厚な雰囲気は多くの生徒に愛されていた。
「桐島くん、ちょっといい?」
放課後の図書室で、湊は思いがけない来客に驚いた。学園新聞部の部長・高橋美咲だ。
「何?」
「実は……」美咲は声を落とした。
「生徒会の会計に不正があるみたいなの」
湊は思わず眉を上げた。
「どういうこと?」
「文化祭の予算から約10万円が消えてるの。でも、みんな『知らない』って言ってて……」
美咲の言葉に、湊は興味を持った。
「どうして俺に?」
「だって……」美咲は湊をじっと見た。
「噂で聞いたの。桐島くんは嘘を見抜けるって」
翌日、湊は生徒会室に向かった。ひなたも一緒だった。
「本当にやるの?」ひなたが不安そうに囁いた。
「ああ、……俺もたまには人の役に立つことしないとな」
生徒会役員たちは一様に緊張した面持ちで、湊の質問に答えていく。
湊は各人の反応を観察した。副会長の細かすぎる説明、会計の視線の泳ぎ、書記の過剰な身振り――すべての反応が湊のデータベースと照合される。
最後に湊が導き出した結論は意外なものだった。
「犯人は……誰もいない」
「え?」全員が驚いた顔をした。
「会計システムのエラーだ。意図的な不正ではないな」
湊は会計の記録方法に矛盾を指摘した。二重計上されていた項目がいくつもあったのだ。
「すごい!」美咲は目を輝かせた。
「桐島くん、新聞部でこの能力を活かさない? 探偵コーナーとか……」
「遠慮する」湊は静かに断った。
帰り道、ひなたは興奮して湊の腕を掴んだ。
「桐島くんって凄いね!」
「まあな……」
湊は照れくさそうに答えた。これまで呪いのように感じていた能力が、初めて誰かの役に立った。その感覚は悪くなかった。
「でもやっぱり、朝倉の嘘を見抜くのが一番面白いけどな」
「もう!」ひなたは頬を赤らめて抗議した。




