第1話 プロローグ 見抜かれた嘘
「大丈夫だよ、絶対に合格する」
クラスメイトが友達にかけた励ましの言葉を聞いた瞬間、桐島湊の脳内に警報が鳴り響いた。
(嘘だ――)
声が上ずっている。頬の筋肉に不自然な緊張。瞳孔の拡張。
嘘を示す微細な兆候が、湊の視界で赤く輝いて見えた。
まるで嘘の部分だけが特殊な色に染まるように――人の言葉が色彩を伴って見える共感覚のような不思議な能力。
確率論的に99.8パーセントの精度で彼女は本当は不安で仕方ないのだ。
湊には、人の〝嘘〟が見抜ける不思議な力がある。
12歳のとき、「大丈夫だよ」と笑った父の嘘に気づいて以来、彼の世界は変わった。
他人の微表情や仕草で溢れ、「真実」と「偽り」が色分けされて見えるようになったのだ。
時に呪いのようなその能力は彼を冷静な「観察者」にした。
(便利そうでいて意外と厄介な能力だ)
「おはよう!」
朝倉ひなた――学園のアイドルで優等生。誰もが認める完璧な美少女が入ってきた。
湊と視線が合ったその瞬間、彼女の瞳孔がわずかに開き、頬が一瞬だけ紅潮した。
そして――普段は嘘を完璧に紡ぐ彼女の表情に「素」が見えた。
(何だ、これは?)
湊は学園一の嘘つき朝倉ひなたの表情に現れた不思議な反応の謎を解き明かしたいと思い、秘かに観察を始めることにした。
しかし、それが運命の始まりだと彼はまだ知らない。
その日から、湊の密かな「心理観察ゲーム」が始まった。
ルールはいたってシンプル。
――朝倉ひなたに「好き」と告白させるまで俺の勝ち。