乙女ゲームにバグはつきものですが、書き換えは反則です
朝。
第二王子こと俺は、筋肉痛の地獄から目覚めた。
「うぐっ……足が……足が石像みたいに動かない……!」
「殿下、今日は“愛の共同作業イベント”の日ですので、早く起きてください」
「無理だって!! 俺もう戦力外なんだって!!」
「ご安心ください。今日は“採集パート”です。全力で木の実と薬草を拾っていただきます」
「それ一番キツいやつーーー!!」
(ああ……せめて王子らしく、優雅に紅茶でも飲みながら好感度上げるルートに入りたかった……)
エミリアの容赦なさは、まさに物理ヒロイン。
でも、不思議なことに――
「……って言いながら、ちゃんと俺の分も拾ってくれてんじゃん」
「バレましたか」
――なんか、ちょっとずつ距離が近づいている気がする。
好感度表示ゲージがないのが惜しい。今なら絶対、ピコーン!って音鳴るやつだ。
ところ変わって王都・リリィ嬢。
重厚な地下の秘密書庫にて、例の“運命修正プロジェクト”を進行中。
「殿下が“ゲームの世界”だと自覚したなら、こちらも手段を選びません」
彼女が操作しているのは――“運命の調律盤”
乙女ゲーム開発者すら知らなかった、“物語そのもの”に介入する裏システム。
「バグだらけのこの世界……私が手を入れなければ、殿下の破滅は防げない」
隣に立つ眼鏡メイドが問う。
「……しかしリリィ様、それは重大な禁忌。世界そのものが反発する恐れが――」
「……ならば、“反発すら私が制御”します」
(ああ……怖っ!)
※この時点でリリィ嬢のルート名は
**《裏ボス・AI再構築√》**に変化しています。
その夜。
森のキャンプに戻ったアランとミリア。
「エミリア……」
「はい?」
「……お前がここに来る前、俺のこと……嫌いだった?」
「大嫌いでした」
「即答!?!?!?」
「でも、今はちょっとだけ……」
「ちょっとだけ?」
「“正しく殴って育てればマシになるタイプの男”だと思ってます」
「感想が飼育員目線なんよ!!!」
でも、それでも――
俺はこの世界で、たった一人でも味方ができた気がした。
(このまま……なんとかなりそうな気がする……)
──そう思った矢先、画面の端に“ノイズ”のようなモヤが走った。
「……ん? 今、画面が一瞬……」
「殿下?」
エミリアが不思議そうな顔をして見てくる。
「……ああ、いや、気のせいかも……」
いや。
俺は見た。
確かに、今この世界の“コード”が書き換わる瞬間を。
(まさか、リリィ……お前、何かしてるのか?)
深夜。
俺はひとりで森の小川のほとりに座っていた。
(……あの“画面のノイズ”、やっぱ気のせいじゃなかったよな)
この世界がゲームの中――
しかも、俺がかつて遊んでいた乙女ゲームの“未実装ルート”だって気づいたのは、婚約破棄の瞬間だった。
それなのに、今――この世界が何か別のプログラムに乗っ取られようとしている。
(誰だ……こんな強引にコードいじってんの……)
「……リリィか」
間違いない。あいつならやる。何もかも書き換えるぐらい、平然と。
でも、俺にとっては……今のこの世界、エミリアと築き始めた関係、やっと“やり直せる未来”が始まったばかりなんだよ!!
「殿下、またひとりでフラグ立ててます?」
「エミリア!? え、なんで!? いつから!?」
「“やっとやり直せる未来が~”からです。ポエム帳に書きますか?」
「やめて!? 黙って聞いてたの!? 恥ずかしい!!」
「でも、ちゃんと伝わってますよ。殿下が本気で、ここで変わろうとしてるの」
そう言って笑うエミリアの笑顔が、思わず見とれるくらい眩しくて――ジジッ
「――って、あれ? 待って? 笑顔止まってる……?」
彼女の動きが、スッと止まった。
森の音も、風の音も、すべてが一瞬で凍りついたような静寂。
「……イベント、止まった?」
ブゥン……カタ……カタ……
耳慣れない、コンソールの読み込み音。
視界の隅に現れたのは、
【NOTICE】現在イベント進行に異常が発生しています
【原因】プログラム外からの書き換え干渉
【対処】進行中ルートを強制修正します
「やっぱりだ……! リリィ、お前、この世界そのものをいじってる!!」
その瞬間、空間がズズズ……と歪み、
俺とエミリアの周囲に選択肢ウィンドウが現れる。
A:このままリリィを止めに戻る
B:エミリアを抱えて逃げる
C:セーブして現実逃避する
「いやセーブって何!? 初めて出たぞこの選択肢!!」
ガチでCを選びかけたけど、俺はAを選んだ。
動かないエミリアの手に触れる。
「……エミリア。ごめん。俺、ちょっと王都に行ってくる。たぶん、この世界ごとぶっ壊れそうなんだ」
王都・王立魔導研究棟・地下99階。
「進行度100%到達。これで“ゲーム制御核”へ直接干渉可能になります」
リリィは静かにキーボード(物理)を叩く。
「さあ、第二王子アラン。あなたの運命は、私が“修正”してあげましょう――あなたを破滅から守るのは、ヒロインでも神でもなく、元婚約者の私ですから」