婚約破棄は計画的に
「リリィ・オルタンシア嬢。貴女との婚約は、ここに破棄させていただく!」
第二王子アラン=フォン=グナロク(17)、今、王城謁見の間でめっちゃドヤ顔中。
隣には庶民出身の可憐な少女・エミリアが立っており、こちらは「そんな、殿下……」と申し訳なさそうな顔をしている。
対するリリィ嬢は青いドレスをパリッと着こなし、完璧な笑みで返してきた。
「まあ……それはご英断ですね。どうぞ、お好きなように」
(うん、完璧……!これで俺は、自由の身!婚約破棄イベント、大☆成☆功!)
……だったはずなのに。
「――で?」
「へっ?」
「この後、殿下が国外追放になるルートですか? それとも、野盗に襲われて“どこぞの実験体”にされるパターンですか?」
「ちょっ、待って、なにそのフラグみたいなセリフ!?」
リリィ嬢の目がキラッと光った瞬間、脳に電流走る俺。
(あれ……これ、見たことある……知ってるぞこの展開……っていうかこの謁見の間の柱の装飾、背景の解像度、ヒロインの胸元のバグりがちな影の入り方――)
「あああああああああっっっ!!! これ、俺が昔やってた乙女ゲーム『Love★Ragnarok』の世界だァァァ!!!」
しかも、よりによって俺、攻略対象で唯一バッドエンドしかない第二王子じゃねぇか!!!
いや、婚約破棄まではよかったよ!? むしろイベントとしては王道だったし、庶民ヒロインに優しくしたら好感度上がったっぽいし!
でもこの後、
リリィ嬢の怒涛の政略攻撃ルート突入
↓
アラン(俺)失脚
↓
国外追放
↓
バッドエンド(野盗 or 闇落ち or 伝説剣の実験素材?!)
って、ルート3本あるのに全部ハズレじゃねぇか!!!
「やっべえええ!! 婚約破棄したの俺だけど、今から全力で元婚約者に謝ってこなきゃやべえ!!」
「殿下、さっき“お好きなように”って言いましたけど、これは貴方の“選択”ですからね?」
「ちょっと待って! オートセーブやめて!? セーブポイントからやり直させてッ!!
リリィ嬢! やっぱり婚約破棄はナシでお願いします!」
謁見の間から5秒で戻ってきた俺ことアラン=第二王子。
ドア、まだ開いてる。ていうか、俺、まだ片足しか廊下に出てなかった。
「は?」
リリィ嬢、目を細める。
あ、これ知ってる。乙女ゲーで「信用を失ったキャラが何言っても遅い」時の演出だ。
「……あれだけ『君といると息が詰まる』だの『庶民と真実の愛を見つけた』だの言っておいて?」
「いやぁ〜〜〜、ちょっとあの、魔が差したっていうか?」
「では魔ごと消え去っていただいても?」
「魔は! 退治します!! このアラン=フォン=グナロク、生涯をかけて更生します!!」
(やばいやばいやばい! 記憶が戻った今、リリィを敵に回すとか、自分からラスボス難易度に挑みに行ってるようなもんだ!!)
※このゲーム、ヒロインより婚約者ルートの方がエンディング分岐多いです(全部バッド)
と、そこへヒロイン・エミリアが小声で近づいてきた。
「殿下……どうして急に謝る方向に……?」
「エミリア、君には申し訳ないが、俺は“生き残る”ことを最優先にする」
「……生存本能!? いや、わたしも命は大事だと思いますけど!?」
リリィ嬢がスッと前に出る。
「……わかりました。ではこの件、王太子殿下および父上にも報告いたしましょう」
「ちょっ、それだけはやめて!? 兄貴、こういうの容赦なく処刑とか言い出すから!!」
(やばい、このままじゃ王家の恥として地下牢エンド一直線……!)
ここでアラン、ついに奥の手を出す。
「そうだ、エミリア!」
「へ?」
「俺、記憶が戻ったんだ! 前世の! そしてこの世界がゲームだって思い出した!」
「は!? えっ、ちょっと!? それ言っていいやつなんですか!?」
「もう誰にも伝わらないから言うけど、俺、知ってる。お前がこの世界の“選ばれしプレイヤー”で、リリィが“隠しルートの裏ボス”で――」
バァン!
大理石の床にヒールが響く。
リリィ嬢、無言のまま拳を握っている。
「アラン殿下、ここから一緒に来ていただけますか? 精神鑑定士がお待ちしておりますので」
「わあああああああ!?!」