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ティファレトの代償

叛逆に目覚めるエリアス。

2187年5月22日、午後11時45分。エリアス・ルナリスは、セリナの意識データが抹消された直後、ヘリオス・タワーの地下5階でクロノス・ガードの追跡を受けていた。セリナの虚ろな瞳がエリアスの心に焼き付き、彼の精神は失意に支配されていた。霊的次元での因果観測能力が鈍り、エリアスは致命的な隙を晒してしまった。その瞬間、ガードのリーダーが放った拘束ネットに捕らえられてしまった。

「叛逆者エリアス・ルナリス、拘束完了。意識データの抹消対象としてヘリオス・タワーに移送する。」

ガードのリーダーの冷たい声が響き、エリアスは抵抗する力を失っていた。


シェルターに残されたノヴァとゼインは、絶望的な状況に追い込まれた。だが、霊起者のカイが立ち上がった。霊的次元と深く同期し、空間移動能力に目覚めた彼は、エリアスを奪還するために行動を起こした。カイは、非常に「自己中心」的な自我を持つ霊起者として、天動説の神秘性と共鳴し、霊的な「世界の中心」を介した空間移動能力を発揮してきた。だが、今、彼の動機は他者優先的——エリアスを救うための利他的な思いだった。


カイが手を振ると、空間が歪み、彼の身体がヘリオス・タワーの移送ルート近くに移動した。クロノス・ガードの部隊がエリアスを移送する中、カイは霊的次元に意識を集中した。ティファレトが輝くヴィジョンの中で、彼はエリアスの因果の糸を追った。だが、利他的な動機が彼の「自己中心」的な自我とズレを生み、霊的次元との同期が不完全になってしまった。

「エリアスを……救う……! 俺は、世界の中心を……!」

カイが空間移動を試みた瞬間、空間が異常な歪みを生じ、彼の身体が不完全な転移を起こした。


カイの意識は、霊的次元でティファレト——世界の中心——に引き寄せられた。円環の真理と完全に同期した彼の精神は、ティファレトに置き去りにされ、物質次元に戻ることができなくなった。カイの身体はシェルターに戻ったが、彼の瞳は虚ろで、世界の中心に文字通り心を奪われたままだった。カイの自我は、霊的次元に取り残され、神秘の深淵に飲み込まれたのだ。霊的次元では、心の在処が移ろうものはその存在を曖昧にしてしまう。カイの利他的な振る舞いは、彼自身の神秘性を零落させ、科学の権威を復権させる結果を招いた。ノヴァがカイの身体を抱きながら叫んだ。

「カイ! しっかりして! カイ!!」

ゼインが拳を握り、歯を食いしばった。

「くそっ……! カイまで……! 神秘は、垣間見るもの……。深く入りすぎると、こうなるのか……。」


ヘリオスは、カイの不完全な転移を「霊的次元の危険性」として市民に喧伝し、地動説の強制プログラムをさらに強化した。クロノス・ガードのリーダーが、ホロスクリーン越しに市民たちに宣言した。

「神秘の力には覚悟と犠牲が伴う。人民に等しく与えられる科学こそ、真理の座に相応しい。人々に神秘を吹聴し惑わせる詐欺師ども、その意識の一片まで抹消し尽くされたく無ければ、教化を受け入れよ。」

市民たちの意識データに、霊的次元への恐怖が植え付けられ、神秘への信仰が失われていく。エリアスたちの闘争は、大きな後退を余儀なくされた。


ヘリオス・タワーの拘束エリアに移送されたエリアスは、意識データの抹消プログラムが実行される直前だった。拘束ネットの中で、彼は科学に仕え、ヘリオスの下で働いていた日々を思い出した。平凡なデータ解析者として、オービタル・ダイナミクスの一員だった頃。毎日同じデータを処理し、ヘリオスの監視下で淡々と生きていたあの頃の自分。何故、こんなにも円環の神秘に熱意を燃やすようになったのか? セリナや仲間たちとの強い絆を感じるのは何故、いつからだろう? そして、円環の真理を垣間見ただけの市民たちの「異様な」信仰はどこから来るのか?


エリアスの記憶が、霊的次元でのヴィジョンと重なる。カバラの「生命の樹」が輝き、地球がティファレトとして中心に静止する姿——天動説の真理を初めて見た瞬間、セリナと共にその神秘を追い求める決意をした日々。彼女の紫と緑のローブ、占星術のホログラムを手に語る姿が脳裏に浮かぶ。ノヴァの明るい笑顔、ゼインの頼もしい背中、リナたちの純粋な信仰——それらが、エリアスをここまで突き動かしてきたのだ。


その時、クロノス・ガードのリーダーがエリアスの前に立ち、冷たく告げた。

「叛逆者エリアス・ルナリス。地動説の真理に逆らい、霊的次元という迷信を広めた罪は重い。貴様の意識データを抹消し、科学の権威を示す。」

エリアスは、霊的次元に意識を集中した。ティファレトが輝くヴィジョンが、かすかに見える。彼は、ガードのリーダーに静かに語りかけた。

「地動説は、物質次元の幻影だ。霊的次元では、地球が宇宙の中心に輝く。円環の真理は、俺たちに自由を与える。ヘリオスの支配は、市民を縛る鎖にすぎない。」

リーダーが冷笑を浮かべ、反論した。

「科学は、視差データと楕円軌道の計算で宇宙を支配する。地動説こそが真理だ。貴様の言う霊的次元は、迷信にすぎん。神秘は人を惑わせ、破滅させる——貴様の仲間、カイがその証だ。」


エリアスは、カイの犠牲を思い出し、胸が締め付けられた。霊的次元では、心の在処が移ろうものはその存在を曖昧にしてしまう。カイの利他的な動機は、自己中心的な神秘とのズレを生み、彼をティファレトに置き去りにした。だが、エリアスはそれでも円環の真理を信じていた。セリナが最後に残した言葉、カイが命を賭して示した信念——それらが、エリアスの心を支えた。


「科学が市民を支配するなら、俺は神秘に殉じる。円環の真理を、全人類に広げる。霊的次元の因果観測能力を開花させ、霊的次元での宇宙航行技術を普及させる。それが、真の自由への道だ。」

エリアスの言葉に、リーダーが冷たく笑った。

「愚かな叛逆者め。貴様の意識データは、今ここで抹消される。」


だが、その瞬間、カイの不完全な転移がガードの部隊に混乱を引き起こし、霊的次元観測の才能が開花した市民たちの一部がエリアスを救うために動いた。リナが市民たちを率い、霊的次元でガードの動きを予測しながらエリアスを奪還する作戦を立てた。


リナたち市民の中には、霊起者として新たな能力に目覚めた者たちがいた。一人の女性——ミラ——は、霊的次元でエネルギーを凝縮し、物質次元に投影する能力を持っていた。彼女が手を振ると、紫と青のエネルギーがガードのドローンを包み込み、一時的に無力化した。エネルギーの波動がドローンを包み込むと、ドローンの動作が停止し、金属の残骸となって地面に落ちた。もう一人の霊起者——タロス——は、霊的次元で時間の流れを観測し、物質次元での動きを加速させる能力を発揮した。彼が動くと、ガードの動きがスローモーションのように見え、タロスは一瞬でガードの背後に回り込んだ。タロスがガードの背後からナイフで攻撃すると、ガードたちは反応する間もなく倒れていった。


エリアスは、拘束ネットの中で意識を取り戻し、霊的次元に意識を集中した。カイの犠牲を通じて、彼は神秘への理解を深めていた。霊的次元では、心の在処が移ろうものはその存在を曖昧にしてしまう。カイの利他的な動機は、自己中心的な神秘とのズレを生み、彼をティファレトに置き去りにした。エリアスは、自身の心を見つめ直し、霊的次元との同期を再構築した。ティファレトが輝くヴィジョンの中で、彼はガードの因果の糸をより深く読み取った。


エリアスは、因果の操作能力をさらに強化し、ガードの動きを次々と変えた。ガードの一人が放ったレーザーが別のガードに命中し、部隊が混乱に陥る。エリアスはさらに、霊的次元でガードの攻撃パターンを予測し、彼らの動きを封じる因果の介入を行った。ガードのリーダーが次の攻撃を仕掛ける瞬間、エリアスはその因果の糸を操作し、リーダーの武器が誤作動を起こすように仕向けた。リーダーのレーザー銃が爆発し、彼自身が負傷して倒れる。


ミラがエネルギーを凝縮し、ガードのドローンをさらに無力化し、タロスが加速能力でガードの攻撃を回避した。リナが霊的次元でガードの動きを予測し、市民たちに指示を出す。

「エリアス、今よ! 脱出ルートはこっち!」

エリアスは、霊的次元で脱出ルートの因果の糸を読み取り、市民たちと共にヘリオス・タワーを脱出した。シャドウ・グリッドの新たなシェルターに戻ったエリアスは、セリナとカイを失った痛みに打ちのめされていた。


ノヴァがデータパッドを手に、状況を報告した。

「ヘリオス、霊的次元への恐怖を市民に植え付けてる。地動説の強制プログラムがさらに強化されて、市民の意識データ、ほとんど上書きされちゃった……。」

ゼインが傷ついた腕を押さえながら言った。

「カイの犠牲まで無駄になったってことか……。このままじゃ、ヘリオスの支配が続くだけだ。」

リナが市民たちを代表して、エリアスに語りかけた。

「エリアス、セリナとカイが信じた円環の秩序……私たちも信じてる。霊的次元の真理を、全人類に広げるために、私たちが協力するわ。」


エリアスは、霊的次元に意識を集中した。ティファレトが輝くヴィジョンが、今も彼の心に残っている。セリナとカイの犠牲は、霊的次元では心の在処が重要だと教えてくれた。エリアスは、自身の心を見つめ直し、霊的次元との同期を再構築する決意を固めた。科学の権威が復権し、神秘が零落する中、彼はそれでも円環の真理に殉じることを選んだ。

「セリナ、カイ……俺は、絶対に諦めない。霊的次元の因果観測能力を全人類に開花させ、霊的次元での宇宙航行技術を普及させる。ヘリオスの支配を終わらせ、真の自由を取り戻す。」


ネオ・クロノスのネオンが遠く輝く中、エリアスたちの新たな戦いが始まる。円環の秩序を全宇宙に広げるために——彼らの闘争は、さらなる試練へと続いていく。

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