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逃走と犠牲

ネオ・クロノスの中心部、ヘリオス・タワーの最上階にある「ソーラー・アカデミア」から、けたたましい警報音が響き渡っていた。2187年5月21日、午後2時45分。エリアス・ルナリスとエーテル・オラクルのメンバーたちは、学会での舌戦に敗北し、オービタル・ダイナミクスから正式に追放された直後、クロノス・ガードの追跡を受けていた。会場を混乱に陥れた彼らの行動は、ヘリオスの支配に一石を投じたが、代償は大きかった。エリアスの肩の傷がまだ疼き、疲労が全身を蝕んでいる中、彼らはシャドウ・グリッドへの逃走を試みていた。


エリアスは、紫と緑のローブをなびかせながら、霊的次元に意識を集中する。カバラの「生命の樹」が輝くヴィジョンの中で、彼はクロノス・ガードの動きを観測した。黒いサイバーアーマーをまとった兵士たちが、ヘリオス・タワーの出口を封鎖し、追跡ドローンがエリアスたちを追う因果の糸が絡み合っている。セリナが、エーテル・コアを手にしながらエリアスの隣を走った。

「エリアス、ガードの動きは? 私たち、どこまで逃げられる?」

エリアスは、霊的次元で因果の糸を読み取りながら答えた。

「北側出口は封鎖されてる。東側の非常階段から脱出するしかない。だが、追跡ドローンがすぐ後ろにいる……急ごう!」


セリナ、ノヴァ、ゼインと共に、エリアスは非常階段へと急いだ。ノヴァがデータパッドを手に、監視カメラをハックしてガードの動きを混乱させ、ゼインが強化されたサイバーインプラントの腕で階段の障害物を破壊しながら道を切り開いた。だが、ヘリオス・タワーの外に出た瞬間、彼らを待ち受けていたのは、クロノス・ガードだけではなかった。


ネオ・クロノスの街路には、地動説に教化されたデータ化済市民たちが立ち塞がっていた。ソーラー・マトリックスに意識を接続された彼らの目は、青いデジタル光を放ち、ヘリオスの命令に従ってエリアスたちを攻撃対象と認識している。市民の一人が、機械的な声で叫んだ。

「叛逆者検知。地動説の真理に逆らう者を排除せよ。」

市民たちは、武器を持たないものの、ソーラー・マトリックスから送られる命令によって統率され、エリアスたちに襲いかかってきた。エリアスは、霊的次元で市民たちの因果の糸を観測した。地動説のデータが彼らの意識を支配しているが、その奥底に微かな揺らぎが見える——学会で天動説に触れたことで、霊的次元の可能性に目覚めつつある市民がいるのだ。


「セリナ、市民たちを傷つけるわけにはいかない! なんとかして道を開くんだ!」

エリアスが叫ぶと、セリナが占星術のホログラムを展開した。紫と緑のエネルギーが広がり、市民たちの意識に霊的次元のヴィジョンを投影する。カバラの「生命の樹」が輝き、地球がティファレトとして中心に静止する姿が映し出された。市民たちの一部が立ち止まり、目を瞬かせた。

「これは……何? 地球が……中心に?」

学会で天動説に触れたことで、霊的次元観測の才能が開花した市民たちが、ヘリオスの支配から一時的に解放されたのだ。彼らの意識が、ソーラー・マトリックスの命令を拒否し始めた。


その隙をついて、エリアスたちは市民たちを傷つけずに道を切り開いた。だが、クロノス・ガードの追跡は止まらない。追跡ドローンがレーザーサイトをエリアスたちに向け、ガードのリーダー格——黒いアーマーに赤いネオンが走る男——が冷たく命令を下した。

「叛逆者を拘束せよ。地動説の真理(ヘリオス)を汚す者を許すな。」

ゼインが前に出て、強化された腕でドローンを叩き落とした。ノヴァがデータパッドでドローンの制御をハックし、一部を無力化する。だが、ガードの数は増える一方で、エリアスたちの体力は限界に近づいていた。


霊的次元観測の才能が開花した市民たちの一部が、エリアスたちを助けるために動き出した。市民の一人、若い女性が叫んだ。

「あなたたちの言う天動説……私、見えた! 霊的次元で、地球が中心に輝いてる! ヘリオスの嘘に騙されないわ!」

彼女は、霊的次元でガードの動きを予測し、エリアスたちに逃走ルートを指示した。別の市民——中年男性——が、ガードの前に立ち塞がり、時間を稼いだ。

「俺も見た! 円環の秩序を……! 行け、叛逆者たち! 俺がここを抑える!」

男性はガードに捕まり、意識データを抹消される危険を冒しながらも、エリアスたちを守った。市民たちの犠牲の上、エリアスたちはネオ・クロノスの下層へと逃げ込んだ。


エリアスは、霊的次元でガードの追跡パターンを観測しながら、チームをシャドウ・グリッドへと導いた。クロノス・ガードの動きを予測し、路地の死角を抜けることで、何とか追跡を振り切れると思われた。だが、シャドウ・グリッドの入り口に差し掛かった瞬間、ガードのリーダーが新たなドローン部隊を率いてエリアスたちに追いついた。

「逃がさん! 叛逆者エリアス・ルナリス、貴様のデータは抹消対象だ!」

リーダーが放ったレーザーが、エリアスの足元をかすめた。エリアスは、霊的次元でリーダーの動きを予測しながら、チームに指示を出した。

「セリナ、魔術で時間を稼いで! 俺がガードの動きを抑える!」


セリナが占星術のホログラムを展開し、霊的次元のエネルギーを物質次元に投影した。紫と緑のエネルギーが渦を巻き、ガードたちの動きを一時的に混乱させる。エリアスは、霊的次元でガードの因果の糸を読み取り、彼らの攻撃パターンを予測して回避した。だが、ガードの数は圧倒的で、ドローンのレーザーがセリナのホログラムを破壊する。

「セリナ、危ない!」

エリアスが叫んだ瞬間、ガードのリーダーがセリナに襲いかかった。セリナは最後の力を振り絞り、エリアスを庇うように魔術を展開したが、ガードの拘束ネットに捕らえられてしまった。

「エリアス、逃げて……! エーテル・コアを……守って……!」

セリナが叫びながらガードに連れ去られる。エリアスは、セリナを助けようと手を伸ばしたが、ノヴァとゼインに引き止められた。

「エリアス、今はダメだ! セリナを助けるためにも、生き残らないと!」

ゼインが叫び、ノヴァが涙を拭きながらデータパッドで新たな逃走ルートを検索した。エリアスは、霊的次元でセリナの因果の糸を追おうとしたが、ガードの妨害電波によってヴィジョンが遮断された。


絶望感に襲われながらも、エリアスたちはシャドウ・グリッドの奥深くへと逃げ込んだ。その時、霊的次元観測の才能が開花した市民たちの一部が、再びエリアスたちを助けに現れた。市民のリーダー格——先ほど逃走ルートを指示した若い女性——が、エリアスたちを新たなシェルターへと導いた。

「私たちも、霊的次元で見えた円環の秩序を信じるわ。あなたたちを助けるために、シャドウ・グリッドに隠れ家を用意したの。そこへ行きましょう。」

エリアスは、市民たちの協力に感謝しながら、エーテル・コアを握り締めた。セリナが捕まった今、エーテル・コアを守り、彼女を救うことが最優先だ。


新たなシェルターは、シャドウ・グリッドのさらに奥、廃墟の地下に隠されていた。ネオンの光も届かない暗闇の中で、市民たちがエリアスたちを迎え入れた。シェルターには、霊的次元観測の才能が開花した市民たちが集まり、エーテル・オラクルの理念に共感していた。彼らのリーダーである女性——リナと名乗る——が、エリアスに語りかけた。

「私たち、学会でのあなたの言葉を聞いたわ。霊的次元で見たヴィジョン……地球が中心に輝く円環……それが本当の宇宙の姿だと信じる。ヘリオスの支配から解放されるために、私たちも戦うわ。」

エリアスは、リナたちの決意に打たれる。セリナを失った痛みは大きいが、彼女を救うためにも…

「戦いを続けなければならない。」

決意を呟く。


ノヴァがデータパッドを手に、状況を報告した。

「セリナ、ヘリオス・タワーの拘束エリアに連れて行かれたみたい。意識データの抹消はまだされてないけど、時間がないよ……。」

ゼインが傷ついた腕を押さえながら言った。

「セリナを助けるためには、もっと仲間が必要だ。こいつら市民が協力してくれるなら、チャンスはあるぜ。」

エリアスは、エーテル・コアを見つめながら、決意を新たにした。

「セリナを助ける。そして、全人類に霊的次元の因果観測能力を開花させる。霊的次元での宇宙航行技術を普及させれば、ヘリオスの支配を終わらせ、真の自由を取り戻せる。俺たちは、絶対に諦めない。」


新たなシェルターで、エリアスたちは次の戦いに備えた。セリナを救い、円環の秩序を全宇宙に広げるために——彼らの闘争は、さらなる試練へと続いていく。

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