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学会での闘争

ネオ・クロノスの中心部、ヘリオス・タワーの最上階に位置する「ソーラー・アカデミア」は、オービタル・ダイナミクスの科学者たちが集う神聖な場所だった。2187年5月21日、午後2時00分。巨大なホログラムドームの下で、科学者たちは地動説——太陽中心説——を基盤とした宇宙航行技術の優位性を説き、市民の意識をデータ化する「ソーラー・マトリックス」の完全施行を宣言する学会が開催されていた。ネオンの光がドームを彩り、データストリームが空を流れる中、市民たちはホロスクリーン越しにその様子を見守っていた。


前夜のヘリオス・タワーでの戦闘——ヘリオスの逆襲——からわずか10時間ほどしか経っていない。エリアス・ルナリスとエーテル・オラクルのメンバーたちは、シャドウ・グリッドのシェルターで傷を癒す間もなく、次の行動に出ていた。ヘリオスの反撃を退けたものの、彼らの行動はオービタルの怒りをさらに煽っていた。ソーラー・マトリックスに霊的次元のデータを注入したことで、市民の意識データに微細な揺らぎが生じ、ヘリオスの支配に亀裂が入り始めていた。だが、オービタルはその揺らぎを抑え込むために、学会を通じて地動説の強制をさらに加速させようとしていた。


エリアスは、紫と緑のローブをまとい、フードを深く被って学会の会場に潜入していた。肩の傷はまだ痛むが、彼の目は決意に燃えている。隣には、エーテル・オラクルのリーダー、セリナがいた。彼女の手に浮かぶ占星術のホログラムが、天動説の円軌道を映し出している。ノヴァとゼインは、会場外で待機し、クロノス・ガードの動きを監視していた。エリアスたちは、学会に乱入し、科学者たちと直接対決することで、市民の意識データへの地動説強制を阻止しようとしていた。


オービタル・ダイナミクスは、ネオ・クロノス全土を支配していた。ソーラー・マトリックスを通じて市民の意識をデータ化し、完全な管理下に置く政策は、すでに強制的に施行されていた。意識のデータ化を拒否する者は「異端」として抹消され、市民は自由を奪われたままネオンの街で生きていた。ヘリオスに従う科学者たちは、地動説を絶対的な真理とし、それを基盤とした宇宙航行技術を独占。オービタルの宇宙船は、太陽中心説のデータで星々を渡り、資源を独占していた。地動説に疑問を呈する者は、学会から追放され、意識データを抹消された。


学会の壇上では、ヘリオスの主任科学者、アーサー・ヴォルト博士が演説を始めた。白髪を後ろに撫でつけた彼の目は、冷たく鋭い。

「我々オービタル・ダイナミクスは、地動説の真理を基盤に、宇宙航行技術を完成させた。視差データ、楕円軌道の計算——これらは科学の勝利であり、ソーラー・マトリックスの基盤だ。市民の意識をデータ化することで、我々は完全な秩序を実現する。昨夜の叛逆者による妨害は、我々のシステムに一時的な混乱をもたらしたが、地動説の真理は揺るがない。異端的な思想は、抹消されるべきだ。」

会場に集まった科学者たちが拍手を送る中、ホロスクリーンに地動説のデータが映し出された。太陽を中心に惑星が回るモデルが、完璧な計算式と共に表示される。市民たちの意識データに、地動説がさらに深く刻み込まれていく。


エリアスは、霊的次元に意識を集中した。カバラの「生命の樹」が輝くヴィジョンの中で、彼はソーラー・マトリックスのデータストリームを見た。物質次元では完璧に見える地動説のデータも、霊的次元では「影」にすぎない。地球がティファレトとして宇宙の中心に静止し、天体が神聖な円環でその周りを回る——天動説の真理がそこにあった。エリアスは、セリナに囁いた。

「今だ。乱入する。」

セリナが頷き、占星術のホログラムを展開した。紫と緑のエネルギーが会場に広がり、ホロスクリーンに天動説の円軌道が映し出された。会場がざわつき、科学者たちの顔に驚愕が広がる。エリアスは壇上に上がり、フードを脱ぎ捨てた。

「私はエリアス・ルナリス。エーテル・オラクルの一員だ。地動説は、物質次元の幻影にすぎない。霊的次元では、地球が宇宙の中心——神聖な円環のコアだ。」


アーサー博士が冷笑を浮かべ、エリアスを睨みつけた。

「愚かな異端者め。地動説は科学の真理だ。視差データ、楕円軌道の計算——これらを否定する根拠が貴様にあるのか? 貴様はオービタルのデータ解析者だったはずだ。叛逆者として抹消される前に、最後の戯言を聞かせてもらおう。」

エリアスは、霊的次元で科学者たちの因果の糸を観測した。アーサー博士の言葉には、自信と同時に、ソーラー・マトリックスの支配を守るための焦りが隠されている。エリアスは、冷静に反論した。

「視差データも楕円軌道も、物質次元の現象にすぎない。カバラの多次元理論によれば、物質は霊的次元の影だ。霊的次元では、地球が中心に静止し、天体が円環を描く。これが真の宇宙の秩序だ。オービタルの宇宙航行技術は、地動説のデータに縛られているから、星々を渡る自由を市民から奪っている。」

セリナがホログラムを操作し、カバラの「生命の樹」を映し出した。ティファレトが輝き、地球が中心に輝くヴィジョンが会場に広がる。科学者たちがざわつき、一部は嘲笑を浮かべた。


科学者の一人、マーガレット・リード博士が立ち上がり、エリアスを非難した。

「霊的次元など、迷信にすぎん! 我々の宇宙航行技術は、地動説のデータで星々を渡っている。貴様の言う天動説では、宇宙船は動かせない。市民の意識をデータ化し、地動説を埋め込むことで、我々は秩序を保っているのだ。貴様のような叛逆者が、秩序を乱しているだけだ!」

エリアスは、霊的次元でマーガレットの因果の糸を読み取った。彼女の言葉には、科学への信念と同時に、オービタルの支配に従うことで得た地位への執着が絡んでいる。エリアスは、さらに反論した。

「地動説のデータで動く宇宙船は、物質次元の限界に縛られている。霊的次元で宇宙航行技術を再構築すれば、全人類が星々を自由に渡れる。意識のデータ化強制は、自由を奪うための道具だ。真の秩序は、霊的次元がもたらす。市民が霊的次元からの因果観測能力を得れば、ヘリオスの支配は終わる。」


会場が騒然とする中、アーサー博士が冷たく笑った。

「戯言だ。霊的次元など、我々の科学では観測できない。貴様の主張は、データにも理論にも基づかない空想にすぎん。ヘリオス、データ解析の結果を映せ。」

ホロスクリーンに、ヘリオスが解析したデータが映し出された。地動説のデータが、視差や楕円軌道の計算と共に、完璧な精度で表示される。一方、エリアスの主張する天動説は、「科学的根拠なし」と赤い警告で表示された。科学者たちが一斉にエリアスを嘲笑し、会場が冷たい空気に包まれる。


エリアスは、霊的次元でのヴィジョンを言葉で説明しようとしたが、科学者たちの冷笑は止まらない。物質次元のデータに依存する彼らには、霊的次元の真理は理解できないのだ。エリアスは、霊的次元で科学者たちの因果の糸をさらに深く読み取った。アーサー博士の心には、霊的次元への恐怖が隠されている。地動説が崩れれば、オービタルの宇宙航行技術の独占が終わり、彼らの地位が失われる——その恐れが、彼らを頑なにさせていた。


「貴様の主張は、科学の場に値しない。エリアス・ルナリス、貴様はオービタル・ダイナミクスの叛逆者として、正式に追放する。」

アーサー博士がヘリオスに命令を下すと、ホロスクリーンにエリアスのデータが映し出された。

「エリアス・ルナリス、データ解析者ID:AL-392。叛逆者として登録。オービタル・ダイナミクスからの追放を執行。意識データの抹消を保留し、追跡対象に指定。」

エリアスの顔がホロスクリーンに映し出され、会場に集まった科学者たちが冷たい視線を向ける。市民たちも、ホロスクリーン越しにその様子を見ていた。エリアスは、正式に会社から追放され、ネオ・クロノス全土で追われる身となった。


セリナがエリアスの手を握り、囁いた。

「エリアス、負けたわけじゃない。私たちの戦いはこれからよ。」

エリアスは、セリナの手の温もりを感じながら、霊的次元でのヴィジョンを思い出した。地球が中心に輝く神聖な円環——天動説の真理は、まだ遠い。だが、彼は決意を新たにした。

「そうだ。学会では負けたかもしれない。だが、俺たちは全人類に霊的次元の因果観測能力を開花させる。それが、ヘリオスの支配を終わらせ、真の自由をもたらす道だ。」


会場が騒然とする中、アーサー博士がヘリオスに命令を出した。

「クロノス・ガード、叛逆者を拘束せよ。学会を混乱させる者を排除する。」

黒いサイバーアーマーをまとった兵士たちが会場に突入し、エリアスとセリナを囲んだ。ホロスクリーンに赤い警告が点滅し、市民の意識データに地動説の強制プログラムが実行され始めた。エリアスは、霊的次元でヘリオスの動きを観測した。データストリームが、市民の意識を上書きしようと動き出す。


「セリナ、撤退する! エーテル・コアを使って、次に備えるんだ。」

セリナがエーテル・コアを手に、会場外に待機していたノヴァとゼインと合流した。ノヴァが監視カメラをハックし、ゼインがクロノス・ガードを足止めする。エリアスは、霊的次元でガードの動きを予測しながら、チームを安全に脱出させた。シャドウ・グリッドに戻ったチームは、シェルターで状況を整理した。


ノヴァがデータパッドを手に、状況を報告した。

「ヘリオス、地動説の強制プログラムを加速させてる。市民の意識データ、ほとんど上書きされちゃった……。」

ゼインが傷ついたサイバーインプラントの腕を押さえながら呟いた。

「学会での舌戦、負けたってことか。だが、俺たちの戦いは終わってねえ。」

セリナがエーテル・コアを見つめながら言った。

「そうよ。エリアスが言った通り、私たちの目標は全人類に霊的次元の因果観測能力を開花させること。霊的次元で宇宙航行技術を再構築すれば、全人類が星々を自由に渡れるわ。ヘリオスの支配を終わらせるためには、次の一手が必要よ。」


エリアスは、霊的次元で見たヴィジョンを思い出した。地球が中心に輝く円環の中で、星々が新たな軌道を描く姿——霊的次元での宇宙航行技術は、全人類に自由をもたらすだろう。彼は、チームに向かって新たな目標を宣言した。

「俺たちは、霊的次元の証明を通じて、全人類の因果観測能力を開花させる。そして、霊的次元での宇宙航行技術を普及させる。それが、真の自由への道だ。学会では負けたが、次は必ず勝つ。」

セリナが微笑み、ノヴァが明るく笑い、ゼインが頷いた。

「一緒にやろう、エリアス。」

「うん、次の作戦、考えよう!」

「次はもっと派手にやるぜ。」


ネオ・クロノスのネオンが遠く輝く中、エリアスたちの新たな闘争が始まる。全人類の自由を手に、星々へと続く円環の道を、彼らは歩み始めた。

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