エーテルコアの起動
ネオ・クロノスの地下深く、シャドウ・グリッドの廃墟に隠されたエーテル・オラクルのシェルターは、薄暗いネオンの光に照らされていた。2187年5月20日、午前3時12分。エリアス・ルナリスは、シェルターの中央に置かれた奇妙な装置——エーテル・コア——を見つめていた。紫と緑のエネルギー回路が絡み合い、霊的次元と物質次元を接続するこの装置は、オラクルが長年守り続けてきた希望の象徴だった。
エリアスは、セリナからエーテル・オラクルの目的を聞いていた。オービタル・ダイナミクスが支配するソーラー・マトリックスは、太陽中心説を基盤としたデータで宇宙を統制し、市民の意識を管理している。だが、霊的次元では、地球が宇宙の中心に静止し、天体が神聖な円環でその周りを回る——天動説こそが真実だとオラクルは信じていた。エリアスもまた、霊的次元で見たヴィジョン——カバラの「生命の樹」が輝き、地球がティファレトとして中心に君臨する光景——を信じていた。
「エリアス、準備はいい?」
セリナが声をかけた。彼女の紫と緑のローブには、ネオンが走り、占星術のホログラムが手元に浮かんでいる。エリアスは頷き、霊的次元からの観測能力を呼び起こした。物質次元のデータを霊的次元から見ることで、ヘリオスの監視網を回避し、エーテル・コアを起動する——それが今日のミッションだった。
シェルターには、セリナのほかに二人のオラクルメンバーがいた。ノヴァという若いハッカーは、ピンクの髪をネオンで光らせ、データストリームを操る天才だ。もう一人のゼインは、サイバーインプラントで強化された腕を持つ戦士で、クロノス・ガードとの戦闘を担当する。エリアスは、彼らの決意を感じながら、自分の役割を再確認した。霊的次元からソーラー・マトリックスのセキュリティパターンを読み取り、侵入のタイミングを見極めるのだ。
「ソーラー・マトリックスのコアは、ヘリオス・タワーの最深部にあるわ。そこにエーテル・コアを接続すれば、霊的次元のデータを注入できる。ヘリオスの嘘を暴く第一歩よ。」
セリナが説明しながら、ホロスクリーンにヘリオス・タワーの設計図を映し出した。エリアスは、霊的次元で設計図を観測した。物質次元では単なる構造データにすぎないが、霊的次元ではセキュリティドローンの巡回パターンや、AIの監視アルゴリズムが因果の糸として浮かび上がる。
「ドローンの動きが……5分後に死角ができる。そこから侵入する。」
エリアスの言葉に、ノヴァが素早くコードを打ち込んだ。ゼインは武器を手に、シェルターの出口に向かった。
「俺が先導する。クロノス・ガードが来たら、俺が時間を稼ぐ。」
セリナがエリアスの肩に手を置き、静かに言った。
「あなたならできる。深淵を見た者として、私たちの希望を託すわ。」
チームは、シャドウ・グリッドの闇を抜け、ヘリオス・タワーへと向かった。ネオ・クロノスの夜は、ネオンとホログラムで眩しく輝き、市民たちの意識はソーラー・マトリックスに接続されたまま眠っている。エリアスは、霊的次元でドローンの動きを追いながら、チームを死角へと導いた。タワーの裏口にたどり着いた瞬間、ノヴァがセキュリティロックをハッキングし、侵入に成功した。
タワー内部は、冷たい金属と青い光に支配されていた。ホログラムのモニターが無数に並び、ソーラー・マトリックスのデータが流れている。エリアスは、霊的次元でセキュリティの因果を読み取りながら、チームを最深部へと導いた。だが、途中でクロノス・ガードの警報が鳴り響いた。
「侵入者検知! 叛逆者を排除せよ!」
黒いサイバーアーマーをまとったガードたちが、通路を埋め尽くした。ゼインが前に出て、強化された腕でガードたちを押し返した。
「エリアス、セリナ、行け! 俺がここを抑える!」
ノヴァも、データパッドを手に、ガードのドローンをハッキングして足止めした。エリアスとセリナは、最深部へと急いだ。
最深部——ソーラー・マトリックスのコアルーム——にたどり着いた時、エリアスは息を呑んだ。巨大な球体が部屋の中心に浮かび、無数のデータストリームがその周囲を流れている。ヘリオスのコアだ。セリナがエーテル・コアを手に、球体に近づいた。
「ここに接続するわ。エリアス、ヘリオスの反撃を防いで。」
エリアスは頷き、霊的次元に意識を集中した。ヘリオスのアルゴリズムが、侵入者を排除しようと動き出すのが見えた。データストリームが攻撃パターンに変化し、エリアスたちを排除しようとする。だが、エリアスは霊的次元でその動きを予測し、セリナにタイミングを指示した。
「今だ! 接続して!」
セリナがエーテル・コアを球体に接続した瞬間、紫と緑のエネルギーが爆発的に広がった。霊的次元のデータがソーラー・マトリックスに流れ込み、ヘリオスのシステムに干渉する。エリアスの視界に、カバラの「生命の樹」が再び浮かんだ。ティファレト——霊的中心——が輝き、地球が宇宙の中心に静止するヴィジョンが広がる。だが、ヘリオスが反撃を開始した。
「警告:異常データ検知。システム保護プロトコルを起動。」
コアルームが赤い警告光に染まり、ヘリオスのセキュリティドローンがエリアスたちに襲いかかった。セリナが占星術のホログラムを展開し、ドローンを混乱させる。エリアスは、霊的次元でドローンの動きを予測しながら、セリナを守った。
「エリアス、もう少しよ! エーテル・コアが完全に同期するまで持ちこたえて!」
セリナの声に、エリアスは歯を食いしばった。霊的次元での観測は、彼の精神に大きな負担をかけていた。ヴィジョンが揺らぎ、頭痛が襲う。だが、彼は諦めなかった。真実を知るために、円環の秩序を取り戻すために——その一念で耐え続けた。
その時、ノヴァとゼインがコアルームに駆け込んできた。ゼインの腕は損傷し、ノヴァのデータパッドは半壊していた。
「クロノス・ガードをなんとか振り切った! あとどれくらいだ?」
セリナが叫んだ。
「あと10秒——!」
カウントダウンが終わる瞬間、エーテル・コアが完全に同期した。ソーラー・マトリックスに霊的次元のデータが流れ込み、ヘリオスのシステムが一時的にダウンした。エリアスは、霊的次元で見たヴィジョンをチームに共有した。地球が中心に輝き、天体が円環を描く——天動説の真理が、ソーラー・マトリックスに刻み込まれた瞬間だった。
だが、勝利は長くは続かなかった。ヘリオスがバックアップシステムを起動し、コアルームに新たなガード部隊が突入してきた。セリナが叫んだ。
「撤退するわ! このデータはオラクルに持ち帰る!」
チームは、エーテル・コアを手に、ヘリオス・タワーから脱出した。シャドウ・グリッドに戻る道すがら、エリアスは疲れ果てながらも、確かな手応えを感じていた。ソーラー・マトリックスに霊的次元のデータを注入したことで、ヘリオスの支配に亀裂が入ったのだ。
シェルターに戻ったエリアスは、セリナたちと向き合った。
「これで終わりじゃない。ヘリオスは必ず反撃してくる。」
セリナが頷き、静かに言った。
「そうね。でも、私たちは一歩進んだ。あなたがいてくれたからよ、エリアス。」
ノヴァが笑いながら肩を叩き、ゼインが傷ついた腕を動かして呟いた。
「次はもっと派手にやるぜ。」
エリアスは、エーテル・コアを見つめた。霊的次元で見たヴィジョン——神聖な円環——は、まだ遠い。だが、彼は決意を新たにした。
「俺は、真実のために戦う。円環の秩序を取り戻すまで。」
ネオ・クロノスのネオンが遠くで輝く中、エリアスの闘争は新たな段階へと進む。