スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その7
「庭ができないってんならよ。別に使わなきゃいいんだ。」
「でも、それじゃ纏を使われてしまったときの対応が....................。」
「ったく、ドイツもコイツも理性的に生きようとしやがる。」
ステゴさんは、ここで言葉をおいた。
目の前にある階段を下りるためという意図もあるだろうが、それにしても次を溜めた。
数段しかない階段を下りて、彼が廊下から庭園へと降り立つと、俺を振り返ってくる。
「てめえにゃ、"目"があるだろうが。」
「..........?」
俺は彼の言っていることがイマイチ理解できなかった。
これまで「纏」の動きに対処するために、「庭」を範囲を広げる努力をしてきたのだ。
技術的にすごく難しいことを達成するために頑張っていた。
急に連れ出されて、「できないならハナからやんなきゃいいだろ。」なんて言われちゃ、ちょっとショックだ。
なにせ今日一日を、ペラルさんとの試行錯誤に費やしたんだから。
....................無駄な行為だったかもしれないけどさ。
ところで、"目"がある、か。
「目で見ろってことですか?」
「ああ、そういうことだ。」
目で見るなんてのは、これまでずっとやってきたことなんだけど....................。
散々、特殊な訓練をして、行き着く先が目を使って見ることなんて。
....................すこし悔しいな。
「しかし、目で見るってのは利点が多いが、案外ムズいもんだぜ。
極論だがたぶん、庭を使うほうが簡単なくらいだ。」
「利点?」
「そうだなぁ....................よし。」
ステゴさんは、庭の中央にたどり着いたあたりで、立ち止まった。
俺もそれにつられて、足を止める。
そこで、俺に振り返る。
偶然なのかヒューヒューと強めの風がふいて、俺の髪の毛やステゴさんの着物を揺らす。
なんだかいい感じの雰囲気である。
しかし俺は、即座にその考えを打ち消した。
急に彼の体がさっきを帯び始めたのである。
そりゃもう、俺をこの場で殺すのではないか、ってくらいの大きさに。
なんだこれは。
何をするというのだ。
コツとかなにか、教えて貰えるんじゃないのか?!
「小難しいこと話す前によぉ、いっぺんオイラと喧嘩しようや。」
ゾワッと何かが背中を走った。
そして、そういうことかと状況を飲み込んだ。
血気盛んなこの選択の理由も何もわかっちゃいないが、ステゴさんが俺と戦うことを望んでいることだけは理解できた。
ふと後ろを向くと、ペラルさんが部屋から出てきていた。
「あちゃー」とでも言いたげな顔でこちらを眺めているが、その手には飲みものが入っているであろうカップが握られている。
俺とステゴさんをオカズにして1杯飲もうって魂胆なのだろうか。
「絶対勝てないけど、ガンバッテネー。」
欠片も俺を応援する気概を感じない激励が後ろから飛んできた。
はあ、もういいや。あの人は気にしない、気にしない。
「土塊観音に注意ダヨー。」
ステゴさんに向き直す。
背は低い。
手は構えていない。
ただ、ダランとタレ下げている。
短い手なんだろう、手が見えないから、着物の袖の方が長いことがわかる。
「センセイとの話ぁ済んだか?」
「あんなの優しい先....................。」
俺は反射的に後ろに飛び退いた。
特に何を考えたわけでも、何を感じたわけでも見たわけでもないけれど、その判断は正解だったといえる。
前を見ると、さっきまで俺が立っていた場所の砂が鋭く整形され、上へ向けて突き出していた。
その鋭さは、よく鍛えられた体のようだ。
もしあの場に留まっていたら、俺の体は砂に貫かれていたことだろう。
「何を..........!!」
「ハハッ、ソイツを避けるかぁ、避けるかぁ。
オイラも衰えちまったもんだが、ようやるなぁ。てめえ....................。」
怖い。
全く、何も、感じなかった。
これはいけない。
やっぱり勝てる気がしない。
けど。
「諦めたくはないかなぁ〜..........。」
次は何が来るんだ。
能力は大体わかったし、それをどう使ってくるのかもわかった。
多分、ほとんど確実に「過去の遺物」。
本で"まわりのものを操ることは、現代の技術には早すぎる。あと数百年の時を要するだろう。"と、読んだことがある。
俺が初めて会ったときに、ステゴさんに何をされたのかも、今この瞬間に理解した。
きっとあの砂の刃を小さく作り出し、俺の頬を傷つけて気を散らす。
その後に、俺の「呼魔」を掻い潜ることができる「纏」を用いて本格的に俺を攻撃したんだ。
「まぁ、オイラもてめえを殺したいわけじゃねえからな....................斬撃と刺撃は今ので最後にしてやるぜ。」
つまりそれは、「今からお前が反応できないくらいボコボコに殴り倒します」と言っているのと同義である。
完全に、舐められている。
「はあ..........。」
やってやるよ。
浅い考えだろうけれど、さっきステゴさんが言おうとしたことは大体わかるんだ。
それを目の前で実践してやる。
「『鍵』。」
腕輪を触る。
使うべきものは、一体どれなんだ?
相手の能力は、おそらく2つ。
1.周囲の砂を操る。
いま目にしたから、これは確定だ。
範囲は相当、広いだろう。
この庭園全体が範囲だと言われても驚くことはない。
それに、大した音もでなければ、操る砂にすら「纏」や「蔵」が適用される。
量はどのくらいだろうか....................。
まさか俺の手足を縛ったときや、今の攻撃がマックスだなんてことはないだろう。
どんなことがあっても驚かないようにしなければ。
2.砂を生み出す
おそらく、これもあると思われる。
条件はなんだろうか、無から生み出せるのだろうか、なにか媒体が必要なのだろうか。
でも、この能力を持たなければ説明できない場面もある。
とくに俺の手足を縛ったあのとき。
部屋の外から砂を呼び寄せていたとしたら、さすがに気がつくはずだ。
俺には目以外にも、耳だって鼻だってある。
匂いや音で気づけるのだ。
ならあの場で、どうにかして砂を生み出していたほうが説明がつけやすいってやつだ。
リンさんも、突拍子もない過程をすると証明がしやすいと言っていた(リンさんが数学をやっていることが驚きだし、なぜやっているのかもわからないけれど。)。
考察はこの辺にしておこう。
あとは戦いながら考えればいい。
と、俺の脳内の戦闘スイッチはいつのまにかオンになっていた。
「強。」
「過去の遺物『潤いなきもの』。」
"砂"が飛んできた。
いや、これは砂ではなく"石"と定義するべきだろう。
だいたい何十センチくらいの、棘のように作られた石だ。
鋭く整形されて、回転を帯びながら飛んでくる。
2秒とかからずに行われた。
俺の方も、その棘を見て、本能的に対処法を思いついた。
「跳+強。」
俺の目の前には青い幕が作られる。
発射どころか、相手が石を整形し終える前に、反射的に行うことができた。
我ながらいい判断だ。
そして、「衝」をまとわせて、全力で、思いっきり地面を踏んだ。
細かい砂が飛び上がって、俺の視界を封じる。
数メートルの範囲に渡って、張られる自然体な煙幕の中で、「纏」。
感知されるかされないか?
完全に俺の運次第、ステゴさんの気分次第。
割の悪いジャンケンポンだ。
けどそれでいい。
ステゴさんが俺を感知したときには、もう遅いんだ。
もうそのときには、「速+教」で背後の壁を蹴って、ステゴさんの背後に喉元にナイフを突きつけている俺がいるのだ。
そう。
このナイフをちょっと引けば、俺は彼を殺せる。
ステゴさんは、参ったと言うだけだ。
ちょっと呆気なさすぎた気もするけれど、とにかく終わりだ。
三心もほとんど使ってないけれど、いいだろう。
俺は三心ではなく、怪獣との戦闘に関して強くなりたいのだ。
次の段階へ....................。
「年端も行かねぇガキが陽動だぁ?カカッ、い〜ぃ度胸だ。」
戦慄した。
ここまできて余裕綽々のステゴさんに。
カカカと笑いながら俺のことを見下ろすステゴさんに。
俺は右手に何かを感じた。
砂だ。まとわりついている。
警戒した俺は、それを振り払った。
「もう遅ぇよ。」
刹那、右側に衝撃を感じた。
驚いて右を向く暇もなく、瞬きよりも早く、俺は吹き飛ばされた。
「えっ..........えっと..........その..........。」
ああダメだ、脳が揺れている。
右肩から右腰にかけてがめちゃくちゃ痛い。
あれ、折れてる?割れてる?
いや、それ以前に視界が..........。
ぐわん、ぐわん..........ぐわん、ぐわん。
ああ、意識が薄れてゆく。
立ち上がら....................。
........................................ないと。
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「はっ!!!」
俺はバッと起き上がった。
どうやら寝ていたらしいが、場所はさっきまでの庭園ではなかった。
いや、ここは昨日1日引きこもっていた、俺のために用意された部屋ではないか。
寝るための布団に寝かされ、右肩と腰にはシップが貼られていた。
たぶん、もう治っているけれど。
「悪かぁなかったぜ。」
うーん、フォローにしか聞こえない。
というのも、俺は俺の敗因を全く理解できていない。
なぜ右肩を殴られたのかも、どうやって攻撃されたのかも分からない。
あの石であるわけはない。
流石に気がつく。
うーん、そういえばペラルさんが、戦闘開始前に何か言っていたな。
「つちくれ、かんのん....................?」
「おぉ、よくわかったなぁ。」
いや、知りません。
ペラルさんの言葉をリピートしただけです。
けど、この反応は正解のようだ。
「なんなんですか?つちくれかんのんって。」
「初戦は使うつもりじゃ無かったんだけどなぁ....................。
ってかよぉ、土塊観音のことを教えちまったらつまらねぇだろ。てめえが自分で考えて、そんで攻略するんだ。」
なるほど。
認めるっていうのはこういうことだろうか。
俺がステゴさんに勝てるわけがないことくらい、彼は知っているはずなんだ。
合格の条件は、「土塊観音」の攻略....................?
「明日からぁオイラと実践特訓だな。」
「はい。お願いします。」
土塊観音。
しばらくの目標はこれの攻略だ。




