果たしてこれを猪と呼んでもいいものだろうか
猪。うん、猪。
言いたいことはわかる。
ゴリラみたいな体つきをしていても後ろ足の発達の仕方は猪そのものだし、走る時や突進するときの動きも「あ、パンチよりこっちが得意なんだな」と思える動きだ。
よくよく見れば目の形も人間に近いとはお世辞にも言えない。
身体的特徴はよく見れば猪そのものだ。
けど....けど....けどさ?
「コンクリを噛み砕くのは違うでしょお?」
コンクリートの壁をゼリーみたいに噛み砕きながら突破してきたバクは俺を見つけるとぐりんと首を動かして一瞬こっちを睨みつけてくる。
そのまま俺のいる方に方向転換して体ごとこちらに向けてきた。突進しながら。
「まあ確かにこれは猪だねえ!!」
わざと建物のある方向に誘導し、そのまま逆側に飛び上がる。
逆側にある建物の屋上にはリンさんが待機しているのがさっき見えたので、合流できる。
バクの方を見ると、建物に牙や体が突き刺さっていて動きが止まっていた。
フガフガと声を上げながら悶絶している様は傍からみれば滑稽だが、戦っているがわとしてはそんなことを楽しむ余裕はない。
と、いうか脱出する前にあのクソ硬いゴム皮の攻略を話し合わないと何も始まらない。
「どう?効いてた?」
どうやらリンさんの銃はフルパワーで撃つと再使用時間を挟まないと銃口が壊れるらしく、今は大きな銃より一回り小さい銃を担いでいた。
「衝撃自体はあるんだけど、内部までは届いてないね」
「だよねー」
ゴム皮...意外と厄介だ。
実質的な切り札である砲撃は殆ど無効に近い耐性だし、単純に衝撃に強い。
切りつけ自体も効果はあれどかすり傷程度のダメージしか与えられていない。
あの弾き具合だと刺せるとも思えないし、やっぱり体内に直接衝撃を与えないと。
....ん、体内?
そういえばこいつ、さっきコンクリートを噛み砕いた時、口を開けたはずだよね?まあ実際見えてはいないけど。
流石に口内までゴム皮な訳ないよね?
だとしたら口内に砲撃撃ち込んだらダメージ入れられるのでは?
「ねえリンさん、うまく口開かせたらそこに撃ち込めたりしない?」
「開かせるってどうやって?」
...たしかに、噛み砕き攻撃を誘発させたとしても、それは壁越しになってしまう。
狙撃で狙うのは困難か。
「さてどうしたも....」
《コオオオオオオオオオオ....!》
何このやばい音?
「ベロキ避けて!」
んえ?
バクの方に振り向いてみると、バクが大きく息を吸い込んで、口を思いっきり開けて、明らかに力を溜めていて。
足を地面にめり込ませて後ろに吹っ飛ばないようにしていて。
いやいやいや...まさか、ね?
肺活量だけで攻撃なんてね?
《ドバシュウウウウウウウ!!!》
バクの口からとてつもない高圧、高密度の空気が放出され、周りの瓦礫や石を吹き飛ばしながら俺たちのいたビルに直撃する。
吹き飛ぶ、とまでは行かなくても俺たちがあそこにいたら即死だった...あれ、リンさんは?
「リンさん?!」
「っぶないわね...パワーシールドがあってよかった...!」
そこには殆ど傷を受けていないリンさんが立っていた。
恐らくパワーシールドで攻撃を受け流したんだろう....あれ。
「リンさん、パワーシールドでそのブレス受けて口内に撃ち込めない?」
「...多分できる」
恐らくは「良し」の意だろう。リンさんは再び銃を構えて返事を寄越した。
方針は立った。
アカムトルムのソニックブラスト的なアレ