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レガシークエスト  作者: 鯣烏賊
part.1 新たな人生の序曲・後篇
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不倶戴天の不協和音 その21

「ディラン君。今の俺なら出来ると思うんだ。」


「..........突拍子もない策だが、いいだろう。折角、ここまで来たのだから。」


ディラン君はたしかに力を貸してくれる。

だから、俺もやれることをやらねばならない。

ひょっとしたらディラン君を怪我させてしまうかもしれないけれど、そのときはそのときだ。

もう俺の思考に優等生なブレーキはかかってくれない。


「すうーーーーーっ..............................。」


深呼吸。


ただ1回の呼吸に集中して、体温を感じ取る。

暑い。まるでなにかのウイルスから病気を貰ったときみたいだ。


内側にこもった熱が、直に感じられる。

そう、本当にあのときに似ている。

バーチャル内での出来事ではあったが、氷蛇のブレスが俺の体を貫く直前まで追い詰められたあのとき。

あのときの感覚も、こんな感じだったのを鮮明に覚えている。


「はあーっ....................。」


吐き出した息も、熱い。

こんな熱を持った状態でアイスクリームなんて食べてみたら、一瞬にして液体に戻ってしまうことだろう。

でも、惜しい。もうひとこえ。


そしてもう一度呼吸してみる。

すうーーーーーっ、はぁーーーっ、と。

さっきより熱い息が口から漏れ出て..........。

そして。


ボッ、ボッ


一瞬、口の横あたりで橙色の光が見えた。

よし、次は絶対にできる。

火打ち石の使い方は学んだ。


「ディラン君、離れて。」


「あ、ああ。」


よし、いける。


俺は右手を空中に差し出して、それで。

さっきと同じことをやってみる。

大きく息を吸って、そして、今度は吐き出さないで....................。


俺の手に、奇妙な「目」が現れた。

なんだこれは、たまげたな。

けれどこれはきっと俺の味方だ。そうに違いない。

そう信じてみたい気持ちで一杯だ。


数秒、イメージしてみる。

そうするとあら不思議。


ボ、ボ、ボ、ボ..........。


「これは、炎か?」


俺の手に琥珀のような橙色で光る火が現れる。

まるで手がマッチになったように、夜空に向けて小さな、けれど明るい光源となってそこにいる。


「なぜだかわからないが、暑くないな。」


ディラン君が炎を指で弄ってみても、火傷はおろか暑がる様子すら見せてこない。

ただ、カゲロウみたいに存在している。

カゲロウ..........陽炎..........いい響きだ。

そうだね、こう呼んでみよう。


陽炎(カゲロウ)!!」


ぶおっ!と俺の体の周りをその炎が包む。

呼魔で見えるオーラが肥大化したみたいに、ゆらゆらと俺の周りを包み込む。


「すごいな..........不思議だ。人から炎が出るなど有り得ないはずなのに。」


「ほんとにね。」


軽く操作するイメージを持ってみる。

上手くいくかはわからないけれど、自由度はかなり高いみたいだ。

指向性を持って操作できているし、その気になれば圧縮して飛ばすような芸当もできそうだ。

まあ、訓練しないと無理そうだけど。


「で、これな何なのだ?」


「うーん、わからない。でも、使ってみたいんだ。」


俺が「いいかな?」と聞くと、彼は「構わない」と返してくる。

吹っ切れると無鉄砲になるところとかは、案外似ているのかもしれない。俺たち。


さて。


「準備はいい?」


「俺が飛んだらだな?」


「うん。」


俺の体は色んなものに包まれている。

(ラピッド)」と「(ブースト)」の青い光。

陽炎(カゲロウ)」の炎。

そして、遠くを見るために使っている「呼魔(コマ)」の殺気のオーラ。


これからさらに、「呼心(コシン)」をもう1種類、重ねがけすることになる。

まあ、1発きりなら大丈夫だろう。


「いくぞ!」


ディラン君が跳ねた。


「掴まってて!!!」


俺は体をグインと回し、急加速させる。

するとどうなるか?

俺はディラン君を振り回しながらクルクルクルクル回るベーゴマのようになる。


目を回しそうな回転に耐えながら、俺はディラン君を掴んでいる右手の1点に炎を集中させる。

きっとこれをギュって固めて解放すれば、「(ストライク)」みたいな効果が得られる。


そしてその動作を継続しながら、さらに深呼吸。

俺の右手の殺気のオーラの上に、さらに違う種類の何かが重なる。

ゆらゆら流れ出るようなものではなく、そこにガッチリと留まっている。

まるで、蹴られる瞬間を待っているサッカーボールのように


呼妖(コヨウ)。」


呼心(コシン)3種類の中で、唯一攻撃性能を持つ呼吸法。

もともとこれは、刀の「居合抜刀」を強化するためにつくられた。


居合抜刀の、抜刀するときのただ一点に限界を超えた威力をもたらすためだけのもの。

呼妖(コヨウ)」を行うことで、ただ1回だけ、人体の動きを"速くする"。


これにはタネも仕掛けもない。

ただ、オーラが留まっているように催眠で具現化させ、その部位一点への集中を高めているだけのものだ。


しかし達人であれば、これの力を借りるだけで電車の車両を両断してしまったり、大木を切り倒すこともできる。

事実、俺はそういう人たちを見てきた。


また邪道ではあるけれど、これを踏み込みの一点に使うことで、初速を全速力以上に高めるやり方も存在する。

俺はこっちのやり方を好んでいたけど、「(シュリュッセル)」を得てからはほとんど使わなくなってしまった。


なにせ、「(ストライク)」という、足を使った加速以外にも、ただ殴るだけで一撃必殺になる呼妖(コヨウ)の上位互換みたいな性能の機能を得てしまった。


でも、こういう場面はきっと「呼妖(コヨウ)」の方が有用だ。

(ストライク)」は指向性を持たせられないから、きっと変な方向に撃ってしまう。

....................まあ、そのあたりの反省は今度じっくり行うことにしよう。


「いくよー..........!」


全ての準備が整った。

タイミングを揃え....................。


「せーの!」


俺はディラン君を....................。


「飛んでけーっ!」


いつかの試験のときみたいに、投げ飛ばした。


















音は微かなものであった。

家で映画でも見てくつろいでいるときに、近所の工事の作業音が耳に入り込んできた。

そんなふうに受け取ることもできる。


トケラが上空から、100本以上のコスモの槍を降らせようとしていた。

当然、物凄い音がする。

なのでその微細な「音」には、ふたりの内ひとりしか気づかなかった。


事実として、トケラはその音を意識内でなかったことにした。

この戦闘の邪魔である。発生源はおそらくリンの戦場からのものだろうと。

戦闘者として極めて正常な判断だ。


しかしミクロは、その音を完全なる「違和感」ととらえた。

察しているものもいるだろうが、ミクロの「音の舞う舞台(オルケストラ)」を使うためには、音楽的な素養と能力が必要である。


ミクロは子供の頃より、ピアノをたしなむ。

世界的コンクールで弾くような達人ではないが、完全なる趣味として今も時々弾くときもある。

ショパンやリストなどのロマン的音楽も、サティやライヒのような現代的音楽も好きである。

リンが来る前まで事務所内のBGMはエリック・サティの作品で統一していたが、リンから「この曲怖い!」とクレームをうけたことでこの習慣は消滅した。


話がそれたが、とにかくミクロは耳が良い。

生物的能力の話ではなく、音楽的な耳の良さだ。

主にそれは音高の判定や、聴音聴き取りと言ったソルフェージュ能力である。

そんなミクロの耳は、その音を「この場における異音である」とミクロに言った。


ミクロは反射的に後ろを向いた。

そして、ただひとり回答を得た。


「トケラァーッ!!!!!」


それへの反応は、トケラの方が速かった。

ただひとり回答を得ているゆえ、ミクロのみが反応を遅らせてしまった。


しかし場所はミクロの方が近かった。

そう、この音はなにかが猛烈な速度で迫り来る音なのである。

一体この音は何なんだとミクロは背後へ目を凝らした。


それが"人"だと気がついたとき、ミクロはその人を受け止めるために立ち塞がろうとした。

しかし、その人が拳を構えて飛んでくるディランであることに気がついた瞬間、ミクロはその場を離れた。


「ッたく..........あのクソガキどもが!」


ミクロはディランたちの思惑を全て理解し、持ち場を離れるとともに障害となりうる触手を全て切り落とした。

無論、巨大になった花でさえこれは再生されてしまうが、再生よりもディランの到着のほうが圧倒的に速かった。


しかしこれでは受け止めるものがいなくなる。

ミクロはディランの進む方へ方向転換し、「音の舞う舞台(オルケストラ)」を使って、できるだけ"速度"に関係する音楽用語を並べ立てる努力をしようとした。


さらにそのミクロよりも、ディランよりも速く、何かが通り過ぎた。

姿こそ見えないが、間違いなく「呼魔(コマ)」での殺気が通り過ぎたのである。

顔を見ていなかったがその人影が信用できる人物であることを確信したミクロは、大声で怒鳴った。


「トケラァーッ!なにもしねえで離れろ!」


「寝言は寝て言え!」


「いいからどっか行けボケ!!!」


ミクロの鬼気迫る声色から何かがあったと理解したトケラは、とくに深く考えずに10メートル程度後ろに下がった。

そして、トケラが後退しきったその瞬間に。


「漆。」


そのバラの花の根元....................胚珠にあたる部分が弾け飛んだ。

風船が割れるように、いとも容易くそれは行われた。


拳を当てたことで減速したディランは、正真正銘すべてを出し切り、その場で気絶した。

トケラは助けなければ、と思った。


「てめぇは花だけ見てろ!!」


ふたたびミクロに制止された。

たしかに無茶な弟子に気をとられすぎたな、あとで叱っておこうと思考を完結させ、トケラは花に向かい直した。


そして横目でそれを見た。


いきなりその場にベロキが現れ、落下してくるディラン抱えて着地する場面を。

それも、おそらく花の攻撃範囲外で、完璧に行った。


ベロキはその場にうずくまり、「おぇぇ〜〜〜」と下品な声を出しながら嘔吐した。

そして自らの胸をポンポンと叩き、なんとか落ち着いたような表情を見せると、まるでスピーカーに通したかのような大声で叫んだ。


「胚珠ーーーっ!!胚珠を見てーーっ!!!」


ミクロとトケラは反射的に胚珠を見た。


そこには、眠っているシロがいた。


今度はトケラの反応が遅れた。

奇妙な状況を整理し、現状を整理する思考が戸惑ってしまったのである。

ほんの数秒停止しているだけで、再生されてしまうことは承知のことであった。

そして再生をされるのを見て、また次同じことを自分がやればいいと区切りをつけた。


そうしてトケラが全く別の次の行動に移ろうとしたとき、ミクロは動いていた。

彼は既に割り切っていた。

否、心の中でこうなることを薄々勘づいていたとも言える。


機能名(プロトコル):先行閃光(プレサーカー)。」


ミクロの手に、パチパチと音を立てて、青い閃光が現れる。

その閃光は線香花火のように肥大化してゆき、とある1点で収束してゆく。


線香花火の丸い光だけが残ったときのように、電気エネルギーの塊とも言えるそれがミクロの手の先に来る。


手を指鉄砲の形にして、人差し指を使って狙いを定める。

そのとき、ふたたび電気エネルギーがバチバチと暴れ始め、暴力的な殺意を体現したようにさらに肥大化する。


以上の全ては、槍たちが着弾する前までの数秒間で行われた。


機能名(プロトコル):蒼流星(ガンマ線バースト)。」


それは撃たれた。


まっすぐ、直線的に、速く。

先程はややずれていたディランの起動を、今度は完璧なものにして。


まるで落雷のような凄まじい電撃が、胚珠の中に眠っているシロの体へ直撃した。

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