コンクリートってゼリーだったっけ?
「酷い暴れようだねー」
一週間くらい経った頃、事務所に新たな電話がかかってきた。
その日もその日で暇だったので、(リンさんが何をしていたのかは知らないが)俺はVRに潜って変更した武器の練習をしていた。
『ゴリラみたいな奴が暴れてるから助けて!』
との電話を受けたリンさんに俺はVRから叩き起され、急いで支度をすることになった。
前回とは別の方向にビル伝いで向かうと、恐らく電話で言っていたらしい今回暴れている怪獣がいた。
「やっぱりバクだね」
「バク?」
「ゴリラにしか見えないけど....骨格的には豚とか猪が近いらしいよ」
「じゃあゴリノシシか」
バク?とやらはゴリラ?....まあ確かにゴリラだけど、ゴリラにしては下半身が発達している。
走り方も恐らくはゴリラより馬が近いと思う。あの形状だと。
しかもトカゲの尻尾くらい存在感のある尻尾も持っている。
周りには何人か人が倒れている。
老人と、男女2人。
家族っぽいから逃げ遅れたのかな?
頭から血を流してるし、多分死んでるねあれ。
周りに人はいないし、多分皆逃げたのかな?
「そう、バク。ゴム質の皮で覆われてて、多分砲撃が効かない。」
「え、砲撃効かないとかそれ大丈夫なの?」
「それも含めて試すから。私も実際に戦うのは初めてだよ。撃つ時は言うから適当に陽動してくれない?」
「オッケー、わかった」
.....ゴム質の皮となると、多分半端な斬撃も弾かれるだろう。
飛び降りて切ったとき、それが効かなかったら多分マジで死ぬと思うから、飛び降り攻撃はやめよう、
俺はスパイダーを使って地面に降り立ち、バクの背後に立つ。
抜き足、差し足、忍び足.....ゆっくりと近づいて行って、音を出さないように柄を取り出してソードを起動。
起動音でバクはこちらに気がついたみたいだが、当然俺の方が速い!
先制攻撃だよ!
俺はバクの片後ろ足の付け根あたりに刃を突き立てる。
「おお....硬い」
効かなかった訳じゃないけど、すこぶる手応えが悪い。
木の幹を切りつけて外皮だけ剥がれても内部にダメージが通るわけないだろ!
流石にここまで時間が経つと、バクが振り向いてくる。
バクは拳を握って振りかぶり、力を込める。
あ、これ殴ってくる動きだ。
「右っっっぎ腕!」
思いっきり右手を突っ込ませてきたので、俺は左側に避けて左手からの追撃が来てもいいよう準備しようとする。
そのとき。
バコーン!
「......え?」
一瞬リンさんが撃ったのかと思ったが、違う。連絡が来てないから。
ふと後ろを見ると、電柱がポッキリ折れている。
え、マジ?何この威力冗談じゃない!
はっとバクの方を見ると、今度は左手を大きく振りかぶっている。
「っぶな!」
後ろに避けても追いつかれるので、右に避けたあとにバックジャンプ。バクから距離をとる。
距離をとって構えを直すとバクが接近してきて溜め無しで拳をふりかぶる。
ガン!
またしてもゴムを殴っただけなので大したダメージは入っていないだろうが、起動をずらすことに成功。
そしてそのまま....脇腹を刺す。
結局刺し攻撃が一番効いたみたいで、俺が剣を抜いて下がっても少し痛がっている。
さて、結構大きい隙を作ったけど....
«撃つよ!バックジャンプ!»
「はい来たオーケー!」
さっきみたいなコンクリが割れる音じゃなくて、単純に物が爆散しただけの音がする。
さて....
«ごめん!やっぱり効いてない»
「ですよねー」
バクが突進してきたので、横に避けてそのまま塀の向こうに隠れる。
さて、これの変形には時間がかかるんだ。
多分だけど変形すれば俺の攻撃でダメージを通せる。
少し俺のための時間稼ぎくらい....
ぼごっ!ガラガラン!
「へ?」
さっきの2種類の音とは違った、割れるでもなく爆散するでもない、コンクリが砕けた様な音がする。
そちらを見ると、コンクリ製の塀をゼリーみたいに食い破って突破したバクの姿があった。
ベロキくん、めっちゃ対人慣れしてる