凍峰に沈む街にて その11
「..............................「衝」!」
いや、重いねマンホール。
マンホールを外すのには専用の道具が必要..............................って言うけど、俺はそんなの持ってない。
穴に指を入れて持ち上げようとしたけど、さすがに無理があった。
さすがにマンホールを持ち上げる程度のことで「アレ」を使うのは..............................うん。
だから剣をマンホールに差し込んで、「衝」を発動。
振動でマンホールを粉々に砕くことにした。
「もっとやりようはあったかなあ?」
無駄な労力だよね多分........................................まあ、遅いよりかは速い方がいいか。
俺はマンホールの下に網目のように広がっている水道管........................................言いたくないけど下水管に足を踏み入れる。
エリの長い服のチャックを上までしめて、マスクの代わりに使うことにする。
...............................いやだって、何がとは言わないけど、ほら、臭うし。
さて、と。
「何をしたら良かったんだっけ........................................あ、そうそう。」
下水管をぶっ壊すんだった。
下水管には生活排水だけじゃなくて、川の水を引き込む場所、雨水を引き込む場所もある。
それら1本をまとめて管理している管があり、そこから浄水場に繋がっているつくりだ。
つまり、そこを破損させれば、実質的にこの街全体のパイプを機能不全にさせることができる。
このパイプを「集合管」という。
ここはテストでやったところだ。だから知ってる。
..............................出題はされなかったけどね。悲しい。
そして幸運なことについさっき、リームリーダーであるディラン君に向けてこのようなアナウンスが流された。
【天候が変更しそうです。天気予報:豪雨】
そのアナウンスと共にマップの端を1周するようににねずみ色の雲が現れた。
さて、この雨と下水管を壊すことになんの関係があるのかを説明しよう。
俺は今から、先程のまとめて管理している下水管..............................の直前の通路を全て塞ぐ。
するとどうなるのか。
豪雨で下水管に入り込む雨水、シェルターで大量消費されている生活排水、川から引き込んだ水..............................それら全てが浄水場までたどり着かず、とある場所でせき止められる。
「こっちかな?」
下水管の道は意外と単純。
アリの巣状に張り巡らされているが、つまりは「細いパイプから太いパイプへ」の繰り返しだ。
そして俺は今マンホールから来た。
マンホールの下のパイプは人間が通れる太さ........................................つまり太いパイプだ。
そして浄水場があるのは南..............................つまり南に数キロ行けば目的の場所までたどり着ける。
「..............................「速」」
一本道だから、どれだけスピードを出しても遮るものは何もない。
「速」の最高速度を維持し続ければ、端にある集合管には数分で到着する..............................はず。
さて、少しだけ状況を振り返ろう。
俺たちはあの後、少しだけ物理攻撃で太刀打ちできないのか、ふたつのことを試してみた。
ひとつめ。
「衝」で甲殻や鱗を砕く。
結果..................................................惨敗。
比較的隙間の大きそうな背中の甲殻で試してみたけど、全力の加速を加えてようやくダメージが入ったのかな..............................?くらい。
相手は仰け反ってくれるし、甲殻に多少のヒビは入ったけど、それがダメージに直結しているかと言われたら別問題だ。
却下。
ふたつめ。
「闘い求む拳」で甲殻や鱗を殴る。
これは結構、効果があるように見えた。
試したのは「肆」段目の攻撃数回だが、回を重ねる事に氷蛇がディラン君のことを警戒している素振りを見せていた。
けど、警戒されたら反撃される可能性もあるし、なによりよく考えてみれば氷蛇に近づことそのものがリスクの大きい危険な行為だ。
これも却下。
他にも戦闘開始してから有効打になった物理攻撃がいくつかある。
俺が最初に眼球に向けて行った全力キック。
これは目に見えて効果があったけど、二度とやりたくない。死ぬかと思った。
あとは、パキケ君がやってくれた口内を標的にした「貫く矢」による狙撃。
パキケ君の狙撃に関しては警戒やカウンターのしようがないし、上手く使えそうだな........................................。
「うわっっ!!!」
考え事をしていながら走っていると、いきなり視界に明るい光が差し込んでくる。
「速」を解除して急停止。
この光は........................................。
「集合管の先端か」
どうやら集合管の先端に到着したみたいだ。
足元の水が流れていって、出口からジョボジョボ出ている。
顔を出してみると、下は浄水場にある大きな貯水池だった。
よし、目的の場所に到着だ。
俺は再び集合管に入り、色んな管がまとまって混在している場所に戻る。
そこはドームのような広場で、四方八方の穴から色々な種類の水が流れ出ていた。
よし。
「仮想空間だから修理代はいらないよね..............................」
マンホールに使った再使用時間はとっくに切れている「衝」を選択。
今回はそれに加えて..............................。
「ちょっと気が引けるけど、ごめんねユリさん!」
俺は瓶に入っていたユリさんの髪の毛を取り出す。
この髪の毛はユリさんの「譲渡性」の性格が反映されていて、飲み込むと1度だけコスモの出力が大幅に上がる。
ディラン君が物凄く嫌な顔をしながら渡してきた代物だ。
瓶の蓋を開け、髪の毛を手に落とす。
周りの場所に落とさないようにね..............................よっし、準備オーケー。
という訳で、その髪の毛を口に含み........................................。
飲み込む。
「よし..............................「衝」!!」
俺は壁に手のひらをあてる。
そして、腕にまとわせた衝撃を発散させるまえに少し細工を施す。
殺し屋時代に学んだ技術のひとつに、「発勁術」というものがある。
現場の雰囲気として銃や刃物や毒が使えない場合に、素手て相手の息の根を止める必要が迫られる。
そんな時に使うものだ。
壁に対し、ワンインチパンチの構えをとる。
そして..............................「衝」の衝撃を発勁とともに発散。
ぴきっ。
ぴきぴきっ。
軽い音とともに、コンクリート製の壁にヒビが入る。
そのヒビはだんだんと縦横に広がっていく。
そして、数秒遅れて、ユリさんの髪の毛で強化された「衝」の効果が現れる。
........................................なんか言い方嫌だなこれ。
既にヒビが入っていたことで、行き場のない衝撃波が壁の中へと侵入していく。
「ベロキ、戻りまーす。」
«気をつけろ、こちらもちょうど雨が降り始めた。»
俺は浄水場に繋がっている集合管の出口から外に飛びだし、ディラン君たちのいる方向へ向かおうと..............................。
ぺちゃっ。
「ん?」
額に雨水が..............................って!
ザァァァァァーッッッ!!!!
予想以上の雨量だ..............................じゃなくて、こんな量現実的にありえないでしょ。
いや、確かにここは仮想空間だけどさ。
これはちょっと。
「多すぎるよっ!」
けど、これでディラン君のアイディアを最大限活かせる。
今からやつを....................氷蛇を、氷漬けにする!




