凍峰に沈む街にて その9
確かにディラン君の蹴りは成立したみたいだ。
けど、俺も1回蹴ってみたからよくわかる。
そいつには表面からのダメージは入らない!
「ディラン君離れて!」
「3段目を当てたのにしぶとい奴だ。」
衝撃を与えるということと、痛みを与えるということは全く別の動作だ。
殴ってみたところ、こいつの外殻は硬い。
あまりにも硬すぎる。
甲冑を殴って中身の剣士にダメージが行かない..............................というのはかなり有名な話だが、それに近い感覚だと思う。
確かにあの硬い外殻を殴り蹴りすれば吹っ飛ばせたり、衝撃そのものを与えることはできる。
けど、それがあの氷蛇に対しての明確なダメージソースになっているかと言われると........................................ちょっとそれは気安く首を縦に振れない。
なにしろ、比較的柔軟な作りをしている瞼でさえあの硬さ(これはどちらかと言うとゴムに近かった)だ。
長年の月日を経て強固に成長した外殻そのものを殴っても効果は..............................ないと思う。
ディラン君が全力で打つ3段目の強さは、この屋上のコンクリート床を蹴破って下階層までたどり着ける強さを持つ。
冷静に考えてかなり強い(俺の「衝」でこの威力は再現できない。)威力だ。
けれど。
言ってしまえば「その程度の」威力だ。
甲殻の隙間..............................さらに言えば蒸気が噴出する部位をピンポイントで攻撃することができれば、その限りではないのかもしれない。
でも、そんなことをしたとて、俺たちの何十倍も大きな巨大生物にとっては針を刺す程度のことと全く大差ないんだと思う。たぶん。
ん、待てよ?
今まで考えていた命題が真だとするならば........................................。
「俺たち何もできなくない?」
またこれだ。
大型の怪獣と戦うとこういう運命になるのかな........................................。
いや、悲観的に考えるのはよろしくない。
少なくともこの試験は突破しないといけない。
そのために何か出来ることは?
頑張って甲殻を割ってみる?
いや、もし仮に可能だとしてもそのリターンは苦労に見合っていない気がする。
それに、時間を使いすぎて核弾頭が落ちてきたらやってきたことが全てパァだ。
甲殻の隙間を攻撃してみる..............................?
アイディアとしてはこれしかないと思う。
けれど、それも俺にとっては現実的じゃない気がしてならない。
自分ごと殴ったり刺しに行ったら100パーセントの確率でアイスにされてお終いだ。
刀を投げたりして試してみてもいいんだけど、それで刀ごと凍らされたら色々と面倒なことになりそうだ。
うーん、でも........................................。
あ。
「口内?」
口内だ口内!
俺たちには手が届かない場所だけど、パキケ君の「貫く矢」なら届く。
貫く矢は追尾機能こそなくて命中させにくいけど、射程が長くて、刺さった後も抉るように突き進んでゆく、とパキケ君が言っていた。
それで、だ。
はたしてコイツは口内まで硬いのかな。
生物の口は、唾液が分泌される消化器官だ。
大事なのは消化器官の構造とかじゃない。
口が消化器官であることも、本質的に大事なことじゃない。
口の中は柔らかくなっている、ということだ。
人間の口だって、指で擦るだけで薄皮が剥けてしまうくらいに脆い構造だ。
で、仮にこいつの口内もそんな感じだとしたら..................................................?
「どうかなこの仮説。」
「悪くないな。早速のところ自由行動しているパキケにやってもらうか。
言ってもらえるか?」
「わかった。」
俺は耳につけている通信機のボタンを押し、パキケ君との通話を繋ぐ。
「ザー、ザー」という数秒間のノイズの後にようやく通夜が繋がる。
せっかくの仮想現実なんだからってこのノイズまで再現しなくたっていいのになあ。
「アー、アー、聞こえてる?」
«ああ。聞こえてるよ»
「手短に言うと、アイランゲェ........................................長いからっ氷蛇て呼ぶけど、氷蛇の口内に何とかしてパキケ君の「貫く矢」を当てられない?」
«できる!..............................だけど。»
「だけど?」
«俺、今北のデカイ建物のほうにいるからそっちに顔を向かせて。»
「わかった。」
ツー、ツー、ツー。
とりあえずパキケ君とのコミュニケーションはとれた。
俺たちのいる場所から少し右に移動するとパキケ君が言っている建物の一直線上になる。
だから、ここから少し右に氷蛇の首を誘導してやればいい。
「どうだ?」
「あの建物の方に顔向かせろってさ。
........................................ねえディラン君。」
「どうした?」
「ディラン君を投げたらいい感じに殴れる?
..............................俺が攻撃しても意味ないと思うからさ?」
「そうだな。ならあの辺に投げてくれるか?」
「オーケー。」
俺はディラン君の手を持ち、そのまま「速」を起動する。
そのままベーゴマの要領で体を回転させる。
1本目、2歩目と速度を増していく俺の体はエネルギーを持ち始める。
「いつでもいいぞ。」
「いくよー..............................3、2、1..............................」
最大速度に到達した俺の体の持つエネルギーをディラン君に流すように力を加える。
そして、ディラン君が指定した方向にちょうど飛んでいきそうな場所で手を離した。
「行ってこーい!!」
飛んで行ったディラン君は、とある建物の壁を足場のように使って移動する。
次は道路標識。
その次は止まっている車。
この時点でディラン君には3回分の力が加わっている。
そして次は。
「肆!」
四段目。
さっきの動きで3回分の蓄積を込めた。
そして俺が俺の全力投球による衝撃も、当然込の威力だ。
ディラン君は左の方向から思いっきり拳を振りかぶる。
何か硬いモノが割れるかのような生々しい音とともに、可視化されるほどの凄まじい衝撃が氷蛇を襲う。
しかし..............................。
「あれぇ?」
なんか氷蛇の口内から変な光が漏れ出てるような。
..............................キンキンに冷えた水がたくさん入ってるコップをライトで照らしたみたいな光だ。
あれぇ..............................氷蛇の口から凄まじい冷気が漏れ出て..............................。
リンさんが見てた怪獣映画の何とかジラっていう怪獣がレーザービームを口から吐く直前みたいな..............................。
これは........................................。
キィィィィィィィィ!!!!!!
超圧縮極低音の氷レーザービームだぁ!!
「ディラン君!!!」
「俺は大丈夫だ!ベロキも避けろ!」
へ?
「........................................ぁ」
俺が気づいた時にはもう遅かった。
極低音高圧力の氷レーザーのなぎ払いは俺の想像を超えたスピードで迫っていた。
もう後ろ数メートルにまで迫っていて、確実に追いつかれる。
俺は目の前の壁を突き破りながら逃げるほどのパワーとスピードを持ち合わせていない。
「ああ........................................終わった。」
レーザーが俺の体を削り取るまであと数十センチ。
「..................................................はぁ。」
もう、何も出来ない。
すぐ横にレーザーが迫っているのを感じる。
仮想空間だから死ぬことはないんだろうけど、走馬灯まで再現されてるのか........................................。
はぁーっ、体が暑い。
緊張しすぎだな。
「ふう。」
俺とで体が削られる瞬間は見たくない。
俺は目を閉じ、痛みに備える。
脱力..................................................。
さあ、死ぬ準備と覚悟はできた。
いつでも来いっ!!
「............................................................ッ。」
しかし、何も起こらなかった。
体がジンジンと熱い。
度の強いお酒を飲んだときみたいに、芯から燃え上がっている感じがすふ。
とりあえず目を開けよう。
えーと、体は無事..............................。
無事だけどさ。
「........................................炎??」
ちょっと数学も勉強したべロキくん、ドヤ顔で数学用語を披露する




