黒い濃霧 その11
「人間じゃないお前に向けて語るのもどうかと思んだがぁ、な.....................オーサン」
『なに?』
ミクロは屈伸のような動作をしながら、オーサンに話しかける。
とはいえ、オーサンは全く姿を見せていないし、基本的に声はミクロ以外には聞こえないので、傍から見ると自問自答している不審者である。
「部下っていいモンだな」
『急に何を言ってるの? 』
「別にいいじゃねえか」
『戦闘中にやることではないわ』
「そりゃ悪かったって」
『部下って...リンちゃんがいたじゃない』
「あれはさぁ......部下じゃねえよ。生意気だし」
『何を言ってるのかわからないわ』
ミクロは移動をしながらオーサンと話す。
目的地は、木々の間を縫い.........森の少し奥の方。
少なくとも、絶対に森の外からは見えないような位置に身を置く。
「だって最低賃金ギリギリなのにあんなに働いてくれんだぜ...................?最高じゃねえか。」
『酷いこというのね。』
「お前もわかってる癖によ。ベロキはいる事そのものが重要だってさ。」
『アレ目的で呼んだのならそんなに情を持つものかしら?』
「持つんだよ。僕かぁバカだからよ。」
『わからないわ。』
「.....................わかんなくてもいい」
『そう。
.................位置はここでいいの?』
「そうだな」
ミクロは大型怪獣との戦闘の際、必ずと言っていいほどに位置取りに拘るタイプだ。
理由、はミクロが持つ「過去の遺物」に由来する。
そもそも、「過去の遺物」とはなんなのか。
過去の異物......これは頭のいい学者たちが分類の仕方を未だ言い争っている、複雑な代物である。
意見が分かれようとも共通認識として持たれているのは、「現代の科学力では再現不可、もしくは、極めて困難なものの総称」というものだ。
現代に製造されている武装は「使用者の体内」から取り出したコスモを、制御装置によって何らかのものに「変換」して使う。
例えば、刀。
例えば、弾丸。
例えば、シールド。
これは通常武装であろうが、固有武装であろうが、あらゆる道具において例外なく決まっているものだ。
ならば、なぜ過去の遺物が特別視されているのか。
過去の遺物は、使用するコスモの集め方が特殊なのだ。
大まかに分類をすると、
・コスモを人体から取り出す
・コスモそのものを増幅させる
・コスモを生成する
この3つとなる。
このような技術は現代では再現が不可能であり、あまりの性能から「オーパーツ」と比喩されることもしばしばある。
まさに、過去文明の遺産である。
さて、話を戻そう。
ミクロが位置取りに拘る2つ目の理由。
端的に言えば、過去の遺物を使う時に隙が生まれるから、その隙を狩られないように隠密するためだ。
そのミクロの過去の遺物の能力行使には、どうしても意識的な隙が生じてしまう。
«撃ちます!»
「あいよー!」
リンの合図の直後、ミクロのちょうど真上あたりで爆発が巻き起こる。
火花の類は全くないが、衝撃波と煙があたりを占領し、みるみる視界を悪くする。
(クレッシェンド+アラルガンド....!)
「2人の手前、大口叩いたからにはなぁ.................................」
(バッラ・ドッピア...........................!)
ミクロの透明化が解除される。
手足の指先や頭のてっぺんから、静電気が弾けるような光とともに、段々とミクロの肌が現れる。
金髪と黒髪が混合した頭髪が少し露出し、髪が現れた後には目の部分の透明が解けていく。
露出された右手には刀を持っていて......そのコスモの刀身が明らかに伸びている。
長さは、倍どころではない。
「僕がちゃんと決めねえと...........................」
この間わずか5秒に満たず。
地上の、爆発があった真下あたりの位置で透明化を解除したミクロは、地を踏みしめ、刀を構える。
そのまま、振り上げた。
相手に場所を悟られないために隠れているミクロの目の前には、大量の木がある。
伸びた刀身は経路の上にある木を切り倒しながら、煙を掻き分けながら、確実にそのどす黒い液体の中心に向かっていき.........。
ずぶん、という重たい音を立て、黄色い鋭利な刃が黒い液体に埋まった。
「格好がつかねえだろうがッ!!!!」
ギシシシ、という重さがミクロの体にもたれかかる。
てこの原理によりパワーが増した反動的重さに、思わず腕を引きそうになる。
(アニマート..............................)
体を補強して重さを軽減しても、次の課題が差し掛かる。
「ったく剣とは相性が悪ぃなぁ...................」
壁、という表現が適切なほど強く結合しているその液体は、刺さった刃を捕縛せんという勢いで呑み込んでいく。
(フォルテッシモ)
「格好がつかねえだろぅが!!」
手応えを感じたミクロはそのまま目一杯の力を込めて、限りなく個体に近いその液体を切り抜いていく。
確かに、硬いものは硬い。
しかし、リンの砲撃の余波によって、絶対的な体積が大きく減り、結合の強さも弱くなったその液体をものの数秒で突破した刃は、中心部に鎮座している核に触れる。
(モルト!!)
液体の反発が無くなったことで、核のまわりの部分の強度かなり柔らかくなっている。
刃は、どくんどくんと蠢く肉塊を、ものの見事に両断した。




