黒い濃霧 その10
「おーいッ!俺はこっちだぞー!」
びゅんっ!
触手を避ける。
「当てる気あるのかー!このエセタコー!」
ぐわっ!
再び触手を避ける。
「そんな遅っそい攻撃、当たる気がしないねー!」
びゅんっ!
またまた触手を避けて......いや、こんなことやってたらキリがない。
生半可な攻撃では効いているのかわからない......実際、どの程度の耐久力を持つのか分からない奴を相手に、耐久力勝負を持ちかけても決着がつくとは思えない。
前提として、俺がトドメを刺す役ではないのではあるが、それにしてももう少し.........なんかこう、できることはあるはずでしょ。
「おっと危ない」
しまった。後ろに行き過ぎだ。
これ以上後ろにいくと役目を果たせない。
俺は触手攻撃を避けながら回り込み、注意を横に向けようと努力する。
木々をつたればほら、すぐ横に回り込め...
「っ!!!」
危ない。
本当に危ない。
さっきよりも触手攻撃の速度が上がっていた。
相当、俺のことが鬱陶しいんだろう。
じゃあもっと面倒臭いことしてやるよ...!
今度は攻撃を避けるとき、すれ違い様に........切りつける。というか刺す。
液体であるとはいえ、それなりの弾力と耐久性を持つ体に刃を突き刺し、張り付く。
俺のこの行動は撹乱と検証というふたつの意図を孕んでいて.........わあ、やめろやめろ!俺を振りほどこうととするな!暴れるな!!
えーっと、さっきまで使っていた「速」を切ってダイヤルを回して........!
機能決定!
「鍵:衝.....ッ!」
俺は刀を持っていない方の手から衝撃波を纏ったパンチを放ち、触手を爆散させる。
更にダイヤルを回して、「守」という機能を起動させる。
「守」はその名の通り、自身のまわりに板状のシールドを生成する機能だ。
が、板状の形が固定されてしまうので汎用性に欠ける上、耐久性が心もとない(ピストルをギリギリ防げる程度)という残念仕様。
正直、盾として使うなら一般の業者が販売している「シールド」で十分だ。
実際、俺も今まで、「守」は防御目的で使ったことないし。
じゃあなんで今使うのかって?
では、現在の状況を例に使用方法挙げてみよう。正規の使用方法じゃないけど。
さっきまでしがみついていた触手が無くなった今、俺はどうなると思う?............当然、空中に放り出される訳だが.......。
この「守」は自身のまわりに盾を生成するのだが、これが盾ではなく「足場」としてかなり便利。
さて、足場として使用した「守」で作った足場の上に着地する。
その瞬間、もう一本の触手が俺を狙って動く。
「あっ.......ぶないんだよ!」
再び「守」にて足場を生成し、空中に着地。近くの木に飛び降りる。
俺は即座に「速」を起動し、その場から離れる。
木々を足場に使って伝ってゆき、一旦森の中に避難した。
背後から木々が折られる音が聞こえる。
あいつの心ははだいぶ荒れてるけど...一旦休憩。
うわ...視界が歪む。
俺はここら辺で一息つくことにした。
5分間くらい間隔を開けずに「速」を使ってたら流石に酔う.........!
俺は周りの空気を思いっきり吸う。
深呼吸!
.............よし、身も心も落ち着いた。
よし、せっかく休憩できて、尚且つ音が出せる今にやらないといけないことは......。
「アロくん、あいつは今どういう挙動してる?」
遠くから観察をしているアロくんへの報告だ。
やつがあんなにとてつもない音を発しながら暴れてる間ならば、通話の時に漏れる音声程度で場所がバレるようなことはない。たぶん。
«結構暴れてるな。ミクロさんの予想通り周りを飛び回ってるベロキの事が相当目障りみたいだ»
「そうかぁ...全くありがたくないけど作戦通りだね、よかった。俺はこのまま暴れても大丈夫そうなのかな?」
«大丈夫だと思う。むしろリンやミクロさんに注意が行ったらマズイだろ»
「了解。切るね」
«ベロキ、頼んだぞ»
「もちろん」
通話を切る。
俺がなぜこんなにも忙しいのか?
話はミクロさんがリンさんのもとへ通話をしたとき.........つまりたった5分前へと遡る。
「あのクソ上司は人使いが荒すぎるのよ...!」
と毒を吐きつつ、リンはバズーカの冷却装置の部分に水を突っ込む。
この水はメーカー独自設計のカートリッジに入っていて、バズーカにはめることで冷却を促すためのものである。
水を装填したことで冷却装置が作動し、小さな照準兼モニタに表示されている再使用時間の減りがみるみる早くなってゆく。
このバズーカに威力の上限はないものの、リンの持ちうる限りのコスモを詰め込んだ最大火力を出してしまうと、オーバーヒートのような現象を巻き起こし、それ相応の再使用時間が発生する。
込めるコスモの量によって威力が変動するこのバズーカも、リンのつぎ込むコスモは途方もない量なので、相当な負荷がかかる。
万一壊してしまったら............と今までに何度考えたことだろうか、とリンは思いを馳せた。
ミクロは先程、リンに通話で作戦の必要事項を伝えたあと「あと僕はやるべき事をやるからね」とでも考えているかのような速さで通話をマグロをを刺身にするかのようにぶつ切りした。
しかも、それはそれは大変で時間と労力のかかる.........その上で説得力に満ちているが故に、従う以外の選択肢が消えてしまう合理的な指示。
そう。たしかに合理的なのだ。
ミクロの提示した作戦は至って簡単。
①ベロキが相手の注意を引き続ける
②リンが最大威力の攻撃をぶつける
③あとはミクロがなんとかする
この3STEPだ。
一見、簡単に見えるこれも、難易度でいえばかなり高い.........というか運の要素を含む。
それは「相手の注意を引き続ける」こと。
ベロキがどれだけ上手く陽動を続けても、相手の気分次第では全くの無駄であったりする。
この作戦は、「相手の気分」という最大の運要素を考慮しない前提ならばたしかに合理的なのだ。
いや、たとえ失敗しても何とかできる.........と、リンは途中まで思考したが、失敗のケースは考えないことにした。
だからリンは、これはタチの悪い指示だ......と思った。
«リン、まだ撃てねぇか?»
ミクロが急かしてくる。
モニタを見ると、再使用時間は10秒に満たないほどにまで短縮されていた。
(カートリッジの冷却様々だよ...)
リンはコソコソと隠れていた岩の裏から出て、ベロキとじゃれあって......じゃれあって周りの物を破壊しまくっている液体タコを狙えるような位置まで移動する。
«もうすぐ撃てます»
と、手短に返事をし、さっきのお返しだと言わんばかりにミクロとの通話をブツ切りにすると、リンはいよいよ攻撃の準備を始めた。
「ねえミクロ、ほんとに貸さなくていいの?」
「大丈夫だ」
ミクロは首についたチョーカーに触れる。
「本当はこれでもダメなんだよなぁ...............................はぁ、こりゃ今度レスパに怒られるなぁ」
そのままチョーカーを撫でるように触りながら、呟いた。
「過去の遺物:音霊の珠」




