黒い濃霧 その8
コトダマ勇者っていうスマホゲー、おぬぬめよ
「よぉベロキ、ひさしぶり」
「...言うほど時間は経ってないですよ」
ミクロさんは触手を踏みつけ、さらに触手の先端を剣で突き刺して完全に固定している。
触手はバタバタ動いて抵抗してるが、ミクロさんが先端を押さえつけているから思うように動けない。
...いや、あの華奢な体からなんであんなに強い力が出るんだよ。
発勁術の類なのかな...いや、継続的に発散させる発勁は見たことないな。
脱いだら意外と筋肉質な体してるのかな?
「リンはどこにいんの?」
「わからないです」
「ふーん、そっか」
ミクロさんは話しながら触手から剣を引き抜いて、そのまま触手の先端を切り離した。
切り離された触手は形を崩し、ただのドス黒い液体になってしまった。
液体はひくひくと震えた後、切り離された元の部分へと寄っていく。
ミクロさんが踏みつけているのでなかなか動けない触手だが、切り離された先端との融合はしっかりと果たした。
「さっきの音なに?」
「ああ...これの機能のひとつです」
「あー、あの「衝」とか言うやつか?...ちゃんと触手に当てた?」
「...?......そうです」
一瞬、思考が止まった。
なんでこの人、「鍵」のことを知ってるんだ?
まだあんまり鍵のことは話してないんだけど。
いや、討伐隊の人達から聞いたのかな?
それより質問に答えないと。
「触手にしっかり当てて、爆散させました」
これは数秒前の出来事だったので、俺は即答する。
さっきは確か、触手に「衝」を命中させて、あの液体触手を爆散させて、時間を稼...。
いや待て。
俺の記憶が正しいならあのとき...
「...再生が遅かった?」
「マジ?」
そうだ。
迫ってきた触手の大部分を衝撃波で吹き飛ばしたから、治すのに時間がかかったんだ。
多分欠片も傷を与えられてないけど、何かしらの時間は稼げそう...?
そうだ。リンさんのデタラメな砲撃なら。
「...お、リンか。大丈夫?.........よかったよかった。」
ミクロさんの所にリンさんから連絡が来たみたいだ。
連絡をくれた、ということはリンさんも落ち着いたのかな。
ミクロさんに連絡を入れたということは、身を隠したか、何かしらの方法で逃げたか。
この際だから伝えてもらおう。
「リンさんに伝えて欲しいのですが」という前置きのもと、ミクロさんにさっき考えていたことを伝える。
ミクロさんは「いいな、それなら時間を稼げそうだ」と同意し、リンさんにこう伝えた。
「いいか、お前のタイミングでいいから、目の前の触手に最大出力で攻撃してみてくれ。
どうせ再生するけど、気にしないでいいぞ」
(...は?最大出力で攻撃?再生?)
リンの武器は重い。
最大限の軽量化は図られているが、重いものは重いのだ。
収納しようにしても容量が大きすぎるので収納できず、リンは未だに背中に重力を感じながら生活している。
何もかもミクロが馬鹿みたいに渡してきたあの「粉」のせいなのだが、この際文句を言っても仕方がなかった。
幸い相手の動きが早くないゆえにリンは自身の身長よりも何倍も大きい岩が沢山ある場所に逃げ込み、適当に選んだ岩に身を隠している。
やっとできた余裕のもと、先程聞こえた音の正体を探る意味も含めてミクロに連絡をしてみればこの始末。
「まったく...」
リンは背中にかかる重力の原因たるバズーカを手に取り、岩の向こうを見る。
「うにょ...」という擬音がぴったりとハマりそうな触手の位置を確認し、岩から体を出した。
リンを確認した液体触手は「きゅら!」という不気味な音を立てながらリンの方を向く。
段々と近づく触手を見据え、リンはバズーカの威力メーターを最大まで動かす。
「私は...」
腰から下に全体重を込めて反動を軽減できる構えをとり、引き金を押す。
バズーカが「最大出力」になるまで数秒のチャージを挟み、口金が光り始める。
「固定砲台じゃないっての!!!!」
引き金を引いてから数秒後。
戦車の大砲と聞き間違うほどのとてつもない音と共に弾が発射され...?
〈ドッパーン!!!〉
うお、すごい音がした。
これはこの間から何度か聞いているミサイルが着弾したような音に似ているから、リンさんがあのバズーカで何かしたんだろう。
それに加えて、何かが破裂したような音もする。
音からして命中したことは明白。
よし、幸先順調。
次に重要なのは命中したあとにどうなるかだ。
「ベロキ、回り込めるか?」
「いけます」
俺は黒い腕輪の形状をした「鍵」のダイヤルをさらに回していき、機能を変更する。
位置関係としては「衝」の2つぶん左。
「速」と記された機能を決定し、反映させる。
使用者である俺自身も原理がよく分かってない青いオーラが俺の右足にまとわりつき、効果が現れたことを俺に教える。
ここから、さっきの音がしたところまで走る!
まずは1歩目。右足のオーラが消滅し、左足にオーラが現れる。
そして...2歩目!
足を踏み出すと同時に左足のオーラが炸裂。
周りの景色が歪み、俺は一瞬にしてとてつもない空気抵抗を伴った加速をする。
「うおあっ...あんまり使わないから慣れないんだよね、これ」
「速」は足を踏み込む度に加速していく。
1歩目では何も起こらないが、2歩目では速度に2倍の強化が、3歩目では3倍、4歩目では4倍。
そして、5歩目では5倍の強化がかかる。
俺は再び足を踏み出し.........。
3歩目。
4歩目。
「5ォーッ!!!」
俺は最後の加速に体を任せ、森を駆ける。
5回目の加速のあとは機能を停止するまでずっと加速の効果を受けるままだ。
5歩目のとてつもない加速は毎度毎度、「このくらいだったっけ?」という想像を上回ってくる。
しかし、これは俺がルキ家にいたとき、俺のために独自に設計された武装だ。
どんなに速くなろうとも、俺の反応速度を上回ったりすることはない。
すこし集中をすればついていける。
ものすごい速さで足を動かし、踏み出す度に地面から土煙が立ち込める様は、傍から見れば面白い光景かもしれない。
それにしても足場が悪い。
俺は跳躍し、猿のように木の枝を伝って上に登る。
枝に乗って蹴り、掴んで飛び、幹に手をかけて再び枝を蹴る。
そろそろ目的地に着きそ..........
「!!!!」
木がない。
下を見ると、線上に地面が抉れている。
リンさんが砲撃で吹き飛ばしたエリアに到達したみたいだ。
ということは後ろに...。
「これは......」
リンさんが砲撃してから俺がここにたどり着くまでは、10秒くらいしかかかっていない。
当然、リンさんの砲撃の再使用時間はまだ終わっていなかったが、効果を見ることができた。
やつの再生はまだ終わっておらず、形はまだ不完全。
まだ、タコのような形には戻れていない。
そこには、どす黒い液体に囲まれた真紅の肉の塊があった。




