ら
期間開きすぎでは..?と思った方
正しい
ミクロさんはやつの腕を切り落とした直後、やつを全力で蹴飛ばした。
やつは数メートル吹っ飛び、その場所から土煙が立つ。
余裕のできたミクロさんは俺の方を向いて剣を構えた。
ミクロさんが少し剣を動かすと、俺の手足の自由を奪っていた植物の締め付けが緩くなる。
俺は少し力を込め、植物による拘束から脱出した。
「遅くなって悪い、ベロキ」
「いえ...それよりアイツに心当たりは?」
「心当たりなんて無いね。どっちにしろ一旦ぶっ殺すしか選択肢ないけど」
俺とミクロさんは蹴り飛ばされたやつの方向へ向き、土煙を見る。
暗闇でもハッキリとわかるほどの巨体の人影が土煙の中で立ちあがるのが見えた。
俺とミクロさんは武器を構える。
「やってくれたなァ...」
「僕も、まさか世界がここまで進んでいるなんて、思いもしなかったぞ?」
「...貴様、どこまで知っている?」
「僕は輪郭だけだ。詳しいことはウチの従業員に聞かないとわからない」
俺の隣で意味深な会話をやつと繰り広げるミクロさんだが、今はそんなこと気にしている余裕は、ない。
俺は腕に着けている「鍵」に手を触れ、発動の準備をする。
ミクロさんも俺を見て、会話するときに崩していた構えを取り直した。
やはりやつはフード越しだから表情は読めないが、漂う雰囲気から不機嫌なのは十二分に伝わってくる。
そんな中、ミクロさんが再び口を開いた。
「お前の首をちょん切る前にひとつ質問なんだけど......『楽園』って知ってるか?」
......しゃんぐりら?
なんだその言葉は。
答えを求めてミクロさんを見ても、真剣な表情で黙りこくっている。
質問しても答えてくれない。
俺は別の方向からの答えを求めて、やつの方に視線を戻した。
だが、やつは反応しない。
口も開こうとせず、ただ黙ってこちらを見ている。
ジリジリと肌を焼くような威圧感を感じる。
そんな中やつは驚愕の一言を口にした。
「やめだ」
「.....は?」
「ベロキ・ルキならばともかく。問題はお前だ...ミクロ。お前がいては俺は確実に死ぬ」
「ベロキ。無視だ無視。やるぞ」
「はい」
ミクロさんに言われ、無意識に緊張が解けていた体に再び力を込める。
目はやつをじっと見据え、次に何をしてくるのかを確かめようとする。
「だからお前ら...見たかったものを見せてやる」
やつはくるりと俺たちから向きを変える。白衣が風になびき、周りの黒と調和しない。
「......アカ、やれ」
刹那、また別の気配が感じられた。
風は吹いていないハズなのに、やつの向かう先にある木々が一瞬ザワりと震える。
「ん...?」
俺の頬に、何かが飛びついた。
それを拭おうとすると、それは引っ張られて行くように俺の頬から離れ、森の方向へ戻っていく。
周りを見る。
似たような現象がミクロさんのまわりでも、それ以外の場所でも起こっている。
それは、水滴のようなものだった。
水のようだが、色はどす黒く、粘度が高い。
ネバネバした黒いそれはやがて集まっていき、ボールのような形で大きくなる。
月光で照らされたことにより青みがある夜空よりも何倍もも黒い液体のボールはやがて空を覆い尽くして、だんだん広がっていく。
広がるボールはだんだん密度を薄めていき、霧のようになる。
その霧は、まるで俺たちの事など微塵も興味がないかのように体積だけを肥大化させていく。
「ベロキ!一旦退避!これは二人では何とかならない!」
俺はミクロさんの言葉で我に返り、ミクロさんと一緒に急いでその場から離れ始めた。
俺たちは街中に向かって全速力で走る。
ふと後ろを見ると、霧はさらに広がり、空を黒く染めていた。
街に戻った俺たちはそのまま病院のドアを蹴破るように開け、ドタバタと侵入。
アロ君もリンさんも宿にはいなかったので、2人とも病院にいるだろう、という判断だ。
今思えばここで宿と病院で二手に分けて行けばよかったな、なんて思う。
まあ反省なんてしたって仕方ない。
病院に入ると、遺体解剖の休憩をしてるのか、アロ君が玄関付近の応接ソファで爆睡をかましている。
ここのソファは背もたれのあるタイプではなく、ベンチのような高さのものだ。
アロ君はそのベンチ...もといソファに思いっきり横たわり、静かな寝息を立てている。
仰向けで天井を向いていて、これ以上ないくらいに無防備だ。
「コイツは僕が起こしとくから、ベロキはリンを呼んでこい」
ミクロさんがアロ起こしている最中に、リンさんがさっき向かったはずの俺は応接室に向かう。
しかし、リンさんは応接室にはいなかった。
...いない、ということは。
俺は応接室の近くにあった階段を全速力で駆け上がる。
最上階に辿り着くと、リンさんが例の少女がいる保護室の前にある長椅子に座っていた。
部屋に入っていないということは、あの子はまだ目を覚ましていないのだろう。
俺は端末をいじって何かしているリンさんに声をかける。
「リンさん、来て」
「何かあったの?」
「いいから来て。武器は持ってるよね?」
俺は半ば強引にリンさんを6階がら引き剥がし、1階への階段を降りる。
階段の窓からさっき居たところを見てみる。
...流石に距離が遠くて何も見えない。
夜空が見えるだけだ。
いや、ひょっとしたら。
俺はこれからあの夜空と戦おうとしているのかもしれない。
俺は階段を降りながら、リンさんに一通り起こったことを説明した。
公園にいた男の子から黒く染まる空の話を聞いたこと、見張り的なものをしていたら謎の男に襲われたこと、そして謎の液体が現れたから、これからそれと戦うこと。
1階に着くと、丁度ミクロさんがアロくんを起こしたところだった。
「お、来たか」
ミクロさんはまだ半分寝ているアロくんの襟を掴んで揺さぶり、アロくんの目を今度こそ覚まさせる。
「よし、アロは確かコスモの計測器持ってたよな?」
「......」
首を縦に振るアロくん。
ミクロさんは満足そうに微笑むと、俺たちの方を向く。
「よし、今からあの霧が本当に元凶なのかを調べにいこう」
「もし元凶だったら?」
「殺す」
ミクロさんはあっさり言い切った。
リンさんも何やら銃のことを確認し、準備ができた、とミクロさんに合図をした。
リンさんの準備完了のタイミングで、俺たちは病院を出た。
こんなに文章が思い浮かばないのは久々だった