遠征
俺はVR空間から引っ張りだされた。
こうなった経緯を説明しよう。
何、あまり長くはならない。
鍵が元々のメインウエポンだとしても、触るのは半年以上ぶりだ。
感覚もきっと鈍っているし、使えたとしてもこれを怪獣討伐に活かせるように訓練しないととても使い物にならない。
ということで俺はVR機器に鍵を読み込ませ、どうやら固有武装特有らしい膨大な情報量のロード時間を待ち、VR空間に飛び込んだ。
恐らく2時間ほど練習をしていた。
壁を殴りつけたり、攻撃を避ける練習をしたり、模擬戦も何度か行った。
次は模擬戦で戦う敵の強さをもう少し上げてみようか...とか考えていたときだった。
【接続を解除します....】
「え?俺まだ切ってないけど...まだやるつもりなんだけど?」
突然、強制切断を知らされた。
俺はまだ練習するつもりだったし、このまま夜まで出る気はなかったが、強制切断ならば致し方ない。
強制切断は内部や外部の故障や電源切れ(これは旧タイプなので信じ難いことに充電式らしい)、または外部からの操作によって可能らしい。
また、強制切断にVR内にいる人は逆らえない(説明書にそう書いてあった)ので、俺は大人しく従うことにした。
【接続を解除します...読み込みに不備が生じる場合がございますので動かないでください...】
「あっ、マジで切られるのか」
一瞬、故障や破損を疑ったが現状そういうふうには見えない。
万一にそうだったとしても、現実に戻ってから確かめればいいだろう。
仮想世界と俺の接続が断ち切られ、今度は現実世界と俺が接続される。
体にダメージが来ないように少しずつ目から光が消え、闇に戻った後にVR機器の電源が切られる音がする。
そうして一気に現実味を帯びた暖かな光が俺を包みこんだ後に目に入り込み...。
「.....アロ君だったっけ?」
「合ってるぞ」
目の前にはアロ君...うん、アロ君で合ってる。がいた。
結構月日が経ったはずなのに、まともに会話を交わした記憶がない。
なぜなら彼は自室から出てこないからだ。
せいぜい飲み物を取りに来るくらいで、食事しているのは何度かしか見たことがないし、何時まで起きてるのか、普段なにをしてるのか、など全く把握できていない。
つまり、
「えーと、どうしたの?」
彼が俺のVR接続を強制切断した理由がわからない。
俺に何の用なんだ?と言った感じだ。
「応接室来て。緊急のやつ。」
SとVくらいしか文法用いてないんじゃないの?というほどに必要最低限な返事で返答をしてくるアロ君。
そして満足したのかスタスタと部屋から去っていった。
よく聞くと、リンさんとミクロさんの話し声が聞こえる。
帰ってきたのか。緊急って割と重要なやつか。
俺は急いで片付けを済ませ、応接室に向かった。
時刻午後5時。
俺は応接室に来た。
応接室の机が世間知らずな俺からしても応接できる代物ではないほどに散らかっているのはいつものことだ。
しかし、今日に限っては違った。
いい意味じゃないよ?もっと汚れているという意味だ。
いつもの書類やファイルの束(今更だけど、この事務所は古典的?なオール紙だ)は近くの棚の上にまとめて置かれ、別の書類が机の上に転がっている。
軽い置物よりも高く積み重なった書類に、15冊は超えるであろうファイル(表紙には㊙️でカルテと書いてある。医療系かな?)、そして1冊のクリアファイルで厳重に保管されている1枚の印鑑つきの紙。
契約書かな?
そんな書類の束の合間をぬって3つのコップが置いてあって、今リンさんが俺のコップを持ってきた。いやいや置く場所ないって。え?自分で持て?
「それにしてもいつも以上ですね」
「これでも整理したんだよ?ベロキが仮想世界にいた5時間くらいを使って」
ああ、お疲れ様です。
つまり、俺は午前10時き仮想世界に籠ったから実に7時間仮想世界にいたわけだ。
「もともとベロキも手伝ってもらおうかと思ったんだけどさ、あんまりにも起きないから終わってから呼んだ」
「すいません」
「いい、いい。謝ることじゃない」
ミクロさんは書類の束をどかし、ファイルを取る。
そしてアロ君に目配せして、あとは任せたというふうな態度をとった。
アロ君は溜息をつきながら話し出した。
「結論から言うと、今から俺たちはモンゴルに行きます」
.....モンゴル?
「もともとこれは公営の討伐隊に依頼されたものなんだけど、俺の研究と分野が被ってるから委託された感じです」
アロ君は、「ベロキ、レジュメこれ」と言って俺に紙束を渡してきた。
俺は持っていたコップを置くために書類をどかして机に場所をとり、コップを置く。
そして俺はレジュメを受け取り名前なんかを書いてみた。
一度、こういうことしてみたかったんだよね。
「場所はモンゴルのとある村なんだけど、そこで謎の疫病が蔓延してるそうです。その疫病がどう考えてもコスモ由来のものらしいので、怪獣の仕業じゃないか、という予測が立てられてます。
宿はむこうで用意してもらってるらしいので、任務期間に制限はないです。
伸びまくっても公営討伐隊の方に請求できるのでやっちゃいましょう。」
アロはここまで話すと、咳払いをして水を飲んだ。
そしてまた話し出した。
「えー、こっからはその疫病の症状の話なんだけど、まず潜伏期間が長い...らしい。詳しいことはよく分かってないです。
それで発症するとまず吐血します。
そこから更に症状が進むと全身の麻痺、常時倦怠感、頭が裂けそうなほどの頭痛を経て、患者が発狂するようになる。
そして発狂した数日後...平均は4日くらいで死亡する。
ここまで聞いてわかると思うんだけど、これはコスモ耐性不足による症状と酷似してます。
実際、死亡者は心臓や脳みそその他諸々の内蔵がぐっちゃぐちゃに壊れてます」
コスモって摂取しすぎるとそうなるのか。
殺し屋してたときもそこまでやること無かったから、初めて知ったな。
アロ君がここまで話すと、今度はミクロさんが割って入ってきた。
「つまり、僕らの目的はその村に潜伏してるであろう元凶を見つけて、討伐することだね」