少年、借り物の靴を脱ぐ その1
[滞在8日目]
「オトズナさーん、お届けものです!」
3日後、インターフォンから垂れ流されたその声とともに、オトズナ邸にひとつの荷物が届いた。
どうやらこの家はステゴさんのしている仕事の関係上、荷物が届くこと自体はよくあることだった。
だから、その荷物についても、べつに気にしないでいた。
けれど、数分後に俺の部屋のフスマの向こうから、「お届けものだそうですよ〜」と、声がかけられた。
フスマは開けられ、その小さな荷物は使用人さんによって俺へ手渡された。
そう、なんとそれは、俺宛の荷物だったのだ。
「えーっと、これは..........?」
しかし、荷物と言っても、手で軽く持ち上げられるくらいに小さなものだった。
ダンボール製の箱なのだが、とにかくこぢんまりとしているのだ。
手に持ってみると、まるで最初からそこにあったみたいに収まってくれる。
とはいえ、俺がそんなものを頼んだ覚えは欠片もない。
通販など生きていて使ったことはない。
俺はどうやら、与えられた小遣いを何も考えずにパーッと使ってしまうタイプだ。
通販なんて手を出してしまったら....................後払い機能なんて言う制度を利用してしまったら。
ああ、悪寒がする。
しかし、この荷物はどうしたものだろう。
俺宛なのは間違いないないのだ。
しかし、勝手に中を見て良いものなのだろうか?
などと、箱を開けて良いものか悩ましく思っていると、ペラルさんがふらりとやってきた。
「ああ、開けていいよ、ソレ。」
なんでこの人がこのプレゼント....................じゃなくて配達物の処遇について知っているのだろうか。
と思ったが、俺自身も箱に貼り付けられたシールに書かれているこの住所には心当たりがあった。
詳しく覚えている訳じゃないけれど、これはきっと、スターダスト事務所のある場所の住所だ。
わざわざこのジパング送られてきたのだから、理由と宛先くらいはペラルさんに伝えられていたのだろう。
それをペラルさんは伝えに来た。
そういうことに違いない。
「俺宛ですか?これ。」
とはいえ不安であるのでそう聞いてみると。
「そうだよ。」
と言われた。
やったぜ。
これで正式に、この箱の中身は俺のものであることが証明された。
つまり、この箱をどうするもこうするも俺の自由ということである。
へっへっへっ。
大義名分を得た俺は止まらない。
包装紙を破るのは楽しいのだ。
カッターは、鋭く生え揃っている爪で代用。
テープの間をするッと爪が通ってゆく。
それを合図にしたかのように、小さなそのダンボールの蓋が左右にわかれる。
さーあ、御開帳..........!!
「おお....................。」
すごくいい素材だ。
頑丈だし、凄く理の通った構造。
いいね、いいね、素晴らしい。
やはり数百年前から、配達業の心を鷲掴みにしてきた素材と言える。
イイネ。
グッドボタンを押してやろう。
欠点は、あまりにも有名な商品すぎてどこにレビューをすればいいのかがわからないことだろうか。
まあいいや。
本題な中身、中身。
「箱っの中身はなんだろな〜?」
オープン!
さあさあ、菓子かな?ねぎらいのお小遣いかな?
ミクロさんのことだ。
きっと、なんだかんだ気の使われたものを....................。
「えーと、うん、あの....................?」
箱だった。
箱の中には箱があったのだ。
箱だよ、ただの箱。
うん、えーと、箱。
パッケージっていうやつだろう。
黒い、樹脂製の、薄い薄い箱。
ぱかっと開けたら、ゲームソフトがこんにちはと顔を出してきそうだ。
そんな形状をしている。
黒い板のような面の真ん中には、白のような青い色で、文字が記されている。
商品名だ。
[斧型刃武装・回転式 中型(150センチ級)]
なんだろう、これは。
ああ、いや、商品名の文字が読めるから、これが何なのかはわかるんだ。
しかし俺は、この武装を知らない。
斧型刃武装なら、一個だけ知っている。
トマホークだ。
しかしあれは持っている。
そもそもなんで、こんなものが俺に送られてきたのだろうか。
俺は頼んだ覚えなんてないぞ。
お金なんて持っていないし。
ああ、そういえばステゴさんに初めて会ったときに、トマホークはやめておくべきだと言われていたっけ。
それで彼に根回しされていたのだろうか。
それこそ、今からそのことについて相談しようとしていたんだけどな。
「よし!」
いや、これはいい機会だということにしておこう。
これを持って、ステゴさんのところに行くのだ。
そして、「使い方を知らないので教えてください!」と、弟子や舎弟らしくお願いするのだ。
そして、いろいろ教えてもらうのだ。
なんだかんだ彼のことだから、俺へのオススメかあるとか言って、他のものも勧めてきてくれそうだ。
存分に試せるし、存分にいいことを学べそうだ。
一途を追うもの二兎を得ず?
うるさい。
俺はうさぎを二匹狙うぞ。
いや、二羽じゃん。
..........ごほん!
とにかく、これはいい後押しだ。
今からステゴさんのところへ行ってこよう。
「ね〜ね〜、私も私も〜。」
なお、お邪魔虫も一匹。
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[滞在9日目]
「てめえに本格的な戦闘のイロハを教えるに当たってよぉ、会わせとかなきゃならねえ奴がいる。」
とのことで、俺はステゴさんに連れ出された。
何はともあれ、本格的なレッスン?訓練?修行?
まあ、とにかく、それらは今日から始まるのだ。
現在時刻は朝の7時。
朝日が見える。
住宅の向こう側に見える港の水平線から登ってきている途中の朝日だ。
それが、俺の顔に照りつけて、俺の視界を明るく染める。
いい景色だ。
メンバーは俺とステゴさんだけではない。
ペラルさんもいる。
ステゴさんは連れてきても来なくてもいいと言っていたけれど、退屈だったらしい。
昨晩に同行を宣言すると、今日の朝の玄関には誰よりも早く立っていた。
完全武装で。
よくよく考えれば、俺は彼女にしてもらいっぱなしなのだ。
良くないし、申し訳ないことをしていた。
怪獣討伐がリフレッシュになるのかは知らないけれど....................。
まあ、本人がそう言ってるんだ。
やらせておこう。
「ところで、会わせたい人っていうのは、どなたなんですか?」
「話せば長くなるなぁ。」
要約すると、以下のようなことらしい。
ステゴさんは今から三十年ほど前、両腕を失って前線を退いた。
そして、別の仕事を始めた。
ステゴさんの現在の業務は、戦闘以外の部分が占めている。
具体的には、マネージャーやバックアップのような役割が多いらしい。
経験豊富なステゴさんにはその手の仕事が大量に舞い込んでくるそう。
現在の顧客は、大手事務所のヨコハマ支部たち、それと地域密着型の事務所が10ヶ所程度。
これらをステゴさんとその他数人のメンバーで面倒見ているらしい。
面倒を見ると言っても、大したことをしている訳ではない。
税金や補助金の申請の肩代わりや、建物が壊れた際の業者の手配など。
戦闘以外の部分を担当しているそうだ。
そんな仕事を、引退後に5年続けたステゴさんは、とあることを思った。
「つまらん」
そして、そう思ってからすぐに行動を起こした。
業務内容を追加したのである。
それは、「戦闘への参加」。
頻度や対象となる戦闘は細々と定義したらしいが、それらを包括すればつまり「オイラの戦いたい時に戦わせろ!」とのことだ。
根っからのバトルジャンキーであるステゴさんの精神が、完全に根をあげたのだ。
そして、何が起こったか。
答えは、書類仕事がままならなくなった。
早い話が、ステゴさんが強すぎたのだ。
ヨコハマは怪獣の出現数が多い。
特に、海洋から現れる怪獣の数は異常と言えるほどらしい。
ゆえに、戦闘の数は必然的に多くなる。
主に、ウツボ種と故障されている巨大魚たちだ。
これらの魚は「繁殖期」「索餌期」という二度の凶暴期を持つ。
それも、年間に二度だ。
ウツボたちには強力な種や個体も多数存在する。
そして、ヨコハマの者たちはステゴさんの強さを知ってしまった。
ステゴさんに任せることの楽さを知ってしまった。
一度知ってしまった快楽を忘れられないように、一度底上げした生活水準を戻すことは困難であるように。
ステゴさんは年に三ヶ月ずつ訪れる凶暴期に、あらゆるところへ駆り出された。
引っ張りだこだった。
ステゴさんは嬉しかったし、心の底から楽しかった。
連日、他生物と命のキャッチボールを繰り広げる生活を再び続けることができる。
その快楽によりステゴさんの精神は若返り、いきいきとした性格になった。
使用人たちも嬉しそうにした。
しかしとある年の凶暴期が一通り終わった数日後、ステゴさんは風邪をひいた。
頑張りすぎたのだった。
書類仕事は続けなければ。
しかし、戦闘の快楽はまるで麻薬のように頭へこびりついている。
そして老人は、長年の生活で貯まりに貯まった口座残高の存在を思い出した。
彼は人を雇った。
一人は、俺も知っているムトゥガさんだ。
どうやら彼はボディガード以外にも、ステゴさんの書類仕事の補佐という役目があるらしい。
そしてもう一人。
ステゴさん曰く、もう一人を雇うつもりはなかったらしい。
事実として、当初は一人だけだった。
しかし、二十年前に男が殴り込んできた。
道場破りに近い。
しかし男は強かったらしい。
ステゴさんは久方ぶりに、人相手に「土塊観音」を使った。
そしてステゴさんはその男を気に入った。
「ソイツはオイラの弟子になった。
そんでここで暮らして、怪獣シバいて、ガキこしらえて、ヨコハマに住んでやがる。」
「その人に会うということですか?」
「ああ。
アイツがここに来たときは17のガキだった。
今じゃ、あいつのガキが12だ。」
いや、ステゴさんって何歳なんだろう。
外見年齢は六十歳くらいに見えるけど。
うーん、百歳って言われても俺は驚かない。
「失礼なこと考えてねえか?」
「まさかまさか....................。」
長く話していると、いつの間にやら港であった。
朝だけど、まばらに人が行き交っている。
魚を沢山持っている。
お、あれはなんだろう。
見たことがあるお魚だ。
「おいしそう..........!」
「せめて捌かれたヤツを見てから言え。」
いいじゃないか。
俺はこいつにかぶりつくことだってできるんだぞ?
ホラ、そこに今にも売られていそうなそれを購入してさ....................。
あ、お金もってないや。
「おーーい!」
遠くから声が聞こえる。
ひょっとして目の前のお魚を奢ってくれるのだろうか。
そんな一抹の期待を込めて後ろへ振り向く。
そこには、四十歳手前ほどに見える男性と、横に立っている少年がいた。
ふたりとも、完全武装である。
「あっ..........。」
目的の人物は、そこにいたのだ。




