#7 教室衝突/クラスルームコンクリフト
「こっちを見てくれたでござるね。ありがとうでござる」
スケバンは、ムキになって拙者を睨んだ。
「スケバン殿が人を見下すのは、人に見下されたら嫌だという恐怖ゆえ。
いじめられっ子になるくらいなら、自分が先にいじめっ子になってやる!ということでござるか。
辛かったでござるね......。
ありのままの自分をさらけだすのが怖いから、高貴な家柄であることをやたら押し出していたわけでござる。
しかし自分を隠せば隠すほど、むしろ苦しみは大きくなる一方でござるよ。」
......と、このように。口喧嘩のコツは、相手の気持ちをよく考えること。そして、それで見破った弱みをこれでもかと刺激しまくることでござる!
「なんなの......なんなの、なんなの、なんなのよ!?
黒髪ごときが偉そうに!
あんたみたいな何の地位もない下人の言葉に、説得力なんてないわ!!」
「汗がだくだくでござるが、大丈夫でござるか?
拙者、手拭いの予備を持っているでござるから、ほらこれで」
「うるさい!汚ない手で触るなっ!!」
スケバンは拙者の手拭いをバシッとはたき飛ばす。
宙を舞う手拭いが床に落ちる前に、拙者はきゃっちした。
「汚くないでござるよ!
拙者この教室に入る前に、手を念入りに洗ってきたでござる!
それにこの手拭いも、予備なので今のところ未使用でござる!!」
スケバンは舌打ちすると、自分の腕で汗を拭う。
「そんなことより、あんた言ったわよね?私には何もできないって。」
「ええ」
「私が誰だか知っていて、本気で言っているの?」
「高貴な家の出とのこと。それだけでござるね。」
「ぷっ......ギャハハハハ!!!
みんなが私に従っているのは、私が高貴な家の出だから?
権力が怖くて従ってる?そうね、でもそれだけじゃないわ!」
「何があるでござるか?」
「この私ポイドリーヌ・ヘドリアヌス様は、このクラスで一番強い!最強無敗なのよ!
みんな私が<誓約決闘>で負かしたの!
私の実力を見て、みんなひれ伏したの!」
「なんでござる?ぷれっじでゅえるとは。」
「ぷっ、そんなことも知らないの?さすがクロマノッツね!それとも私が怖くなって、知らないふりをしちゃってるわけ?」
「本当に知らないでござるよ。」
「け、決闘だよ......。」
もじゃもじゃ頭の教師が言った。
「色髪学園の生徒たちは、色髪能力を競い育てるために、ルールで決められた公正な決闘が許されてる。
実際、独学よりも他の能力者同士で一緒にさせた方が発展するって研究結果も出てるからね......」
「明らかに公正じゃない暴力が思いっきり横行してたばかりでござるが、その情報は本当でござるか?」
「クロノブさん、今の情報は本当です......」
ソフラ師匠が言った。
「大丈夫でござるか?」
「そうよ!そいつだって私に決闘で負けたから、私の財布犬になるって誓約を結んだわけ!
決闘の誓約は絶対よ。
学園が立ったばかりの頃は、負けた方が処刑されてたって話もある。
今だって別にそういう誓約で<誓約決闘>をしたって、ルール違反になるとかはどこにも書いていないわ。生徒手帳は読んだかしら?
だけど私は優しいから、殺さずに私の下僕にしてあげてるってわけ。あれえ?これってむしろ、ご褒美よねえ?」
「普通は、おやつや飲み物を奢るとか、そういうのだけどね......」
そう言った教師をスケバンは睨んだ。
「ひっ!?」
「......でも最悪。誓約を破ったら髪の彩度が減るってペナルティがあるんだけど、そいつは元からまっしろだから意味ないんだよね。
でもさあ......それなのに今まで従順に従ってたってことは、私に顎で使われるのを喜んでたってことよねぇ?
とんだ変態犬だわぁ!ギャハハハハ!」
スケバンは周りを見て威圧する。
取り巻きたちはそれを怖がって、義務的にくすくすと笑い出した。
彼女がある程度の力を持っていることは、事実のようでござるな。
ならば拙者は-
「やばいやばい!みんな笑っちゃダメだって!また殴られちゃうかもよ〜?こわーい!ギャハハハハハ」
「ならば拙者と決」
言いかけた時だった。
「決闘......!します」
必死に絞り出した、だけど芯のある声が響いた。
「は?」
その場がしんとした。
「今、誰がなんて言った?」
「決闘する......そう言ったんです。
ポイドリーヌ=ヘドリアヌス、あなたにこのソフラ・ホワイトが、決闘を申し込みます!」
「はあ?石鹸しか出せないあんたが、無敗の私に?決闘を?」
スケバンは笑い転げる。
「ギャーハッハッハッハッハ!!!!
嘘でしょ!?しちゃうの!?決闘を!?また私に無様に負けて-」
「負けません。」
「はあ?」
「私が勝ちます。必ず。
私が勝利した時の誓約は、あなたが今までに結んだ誓約を全て破棄すること。
つまりこのクラスの全員を、あなたの下僕から解放することです!」
「へっ?......いや、はあ!?本気で言ってんの?あんた、誓約破棄って-
いやいや、私が何人と誓約を結んだと思ってるわけ?
30人近い誓約を破棄するってなると、それに見合う代償が必要だよね。
そっか。じゃあ私の誓約は......あんたに死んでもらおうかなぁ?」
スケバンはそう言って笑い出そうとするが。
「決闘を承諾するのですね?」
ソフラ師匠は間髪入れず言った。
「......へっ?」
「決闘を、承諾するのですね?」
「は......なんでよ......なんで、なんで怖がってやめないのよ!?
なんで、泣き喚いて転げ回らないのよ!?」
スケバンの顔は青ざめていく。
「なんでなんでなんでなんでなんで跪いて許しを乞わないのよおおおおお!?」
スケバンは頭を掻き毟った。
「石鹸ごときが、この無敗の私に勝てるわけがないのにいいいい!!!
何でそんなに自信満々の顔をするんだよ!!!
無彩色者のくせに!クロマノッツのくせに!!まっしろソフラのくせにぃぃぃぃぃぃいいい!!!!!!」
スケバンは息を荒くしたまま、続けて叫ぶ。
「はあ、はあ、はあ、はあ......!!!!!
お前は、絶対に死ぬ!!私に無様に負けて泣きながら死ぬ!!!後悔しながら死ぬ!!!
お前は私には勝てない!お前には!!そんな未来しか待ってないの!!!
死ぬのが怖くないの?怖いでしょ?怖がれよ!!泣いてよ!!!泣き喚いてよ!!!!」
「だったら拙者にも、もう未来が見えているでござる。
ソフラ殿は、ポイドリーヌ・ヘドリアヌス殿......貴様には負けない。勝つでござるよ。」
「今更正しい名前で呼ぶんじゃねえよ!!!」
「そ、ソフラ......本当に?本当に勝てるの?」
教室にいた1人が言った。
一緒になって見ていたクセにと、つっぱねてもいいところだが......
「はい!安心してください!」
ソフラ師匠は笑顔で言った。
「私はもう負けません。勝ちます。石鹸で、自分の能力で。
それに、クロノブさんにもそう言ってもらったんです。だったらもう100人力です!」
「はあ?なんなんだよ......誰なんだよお前は!!!」
ポイドリーヌ・ヘドリアヌス殿は、拙者に指差し訊いた。
「拙者でござるか?拙者は」
「知るか!名前なんてどうでもいいんだよ!!!
お前のせいか!お前のせいで、ソフラはこんなことになったのか!!!
だったら!!だったら!!!
だったらお前はァ!!!
決闘なんかしなくたって、直接殺してやるううううう!!!!!」
ポイドリーヌ・ヘドリアヌスが手を振り上げると、ドロドロと濁った紫色の液体がぶわっと噴出。
禍々しい"鉄の蕾"といった形状の、武器が握られていた。
「死ねええええええ!!!!!!!」
濁った紫色のそれは振り下ろされながら、蕾を開く。
開かれた花弁の表面には毒々しい液体が塗りたくられており、拙者へと滴り降りかかってくる。
逃げる間もない。
「クロノブさん!」
ソフラ師匠が拙者を庇いに入れるほどの間もなさそうで、安心した。
逃げる間がないなら......拙者は見た。対処する方法を見つけるために、相手をよく見た。
毒液が落下する速度、その何倍にも意識を加速させる。
花の中心......その武器の"核心"らしき鈍い光。
それを捕らえた瞬間......パリンという音が鳴った。
「!」
それと同時に紫の液体は、瞬時に黒ずみ霧散した。
「......へっ?」
拙者はその隙に、スケバンの右頬を殴り飛ばした。
殴り飛ばしたスケバンが地面に衝突した途端に、背後から声が通った。
「そこまでよ」
ざわざわとする教室内。
拙者は振り返る。
金色の髪が見えた。
そのツインテール。
その立ち姿。
そこにいたのは他でもない。
生徒会長、プラチナ・ブロディエール殿でござった。




