#6 教室口争/クラスルームアーギュメント
「自分が今なんつったか、わかってんのか?自分がなんつったか、もっかい言ってみろよ!!!」
ガラの悪いスケバンが、まるでお前が悪いことをしたという感じでソフラ・ホワイトに迫っていた。
だが、ソフラ・ホワイトという人間は、拙者の心の師匠でござる。
悪事など働いているはずがないことは言うまでもなく。
であればまずは拙者が助けるより先に、師匠の正義を、師匠の返答を見届けさせてもらうでござるよ。
「あなたにあげるお金なんかありません。」
「は?なんて言ったー?聞こえないんだけどー?」
本当は聴こえているでござろうに。
そいつは小馬鹿にしたような半笑い混じりの声色で、ソフラ師匠にわざとらしく訊き返す。
「もっかい、言えまちゅか?
ギャハハハハ!!!」
スケバンの周りにいる取り巻きたちも、同調するように下品に笑った。
「私はもう二度と、あなたたちにお金を渡したりなんかしません!!!」
「......」
笑い声を遮られて、スケバンは露骨に不機嫌な顔をする。
「あんたは、このポイドリーヌ・ヘドリアヌス様のために食事代を持ってくるためだけに生きてる財布犬だって、あんなにしつけてあげたのに......」
すると取り巻きの1人が、スケバンの元に箱を持ってきた。
「ねえ、これ」
「ん?なにこれ?弁当ー?まさか、あんたが作ったわけ?」
「それはー!」
ソフラ師匠が焦った顔をしたので、スケバンはニチャアと笑みを浮かべた。
「じゃあ、私が今から食べてあげちゃいまーす!ギャハハハハ!」
ぺちゃくちゃと音を立てて、スケバンは肉団子を舌で転がす。
そして数秒後、ペッと床に吐き出した。
「まっず!なにこれ、ありえないんだけど!
一流貴族ヘドリアヌス家の長女であるのこの私に、こんな汚らしいゴミを食べさせるなんて!
まあ、石鹸しか作れないクロマノッツのバカ舌なんて、こんなもんかー!?
ギャハハハハハハハハ......なにその顔」
スケバンの笑いが止まる。
「なに?その反抗的な目つきは。」
スケバンが彼女の胸ぐらを掴む。
「朝から気に入らなかったんだよね。
いつもビクビク怯えて泣きそうな顔でいるあんたが、珍しく楽しそうな顔しちゃってさあ!」
スケバンはソフラ・ホワイトの顔を殴った。
「ぷっ、ははははは!泣けよ、ほら、泣け!」
周りの取り巻きたちもクスクスと笑い出した。
「我が主ポイドリーヌ・ヘドリアヌス様、この卑しい駄犬をどうかお許しくださいと、泣きながら懇願しろ!
まっしろソフラちゃんさあ......今後も無事に学園生活を送りたかったら、わかグブーッ!!?」
その時にはもう、取り巻きたちがくすくすと笑う声は止んでいた。
頭が突然殴られたから......というだけではない。
拙者がその道中で、一緒になって笑っていた取り巻き全員、余すことなく平手打ちしながらやってきたからでござる。
「はっ......?」
床にくずおれたスケバンは痛みで半泣きになりながら、自分の頬に手を当てて困惑した。
「ちょ、ちょっと君!暴力はいけな」
教室にいた、もじゃもじゃ頭の教師が言った。
「そうでござるよね。ポイスティーヌ殿、いきなり殴って申し訳なかったでござる。
みんなさんも、平手打ちして申し訳なかったでござる。」
拙者は頭を下げた。
スケバンも取り巻きも困惑していた。
「は、はあ......!?あんた、急に乱入してきて、私を殴るなんて、どういうつもりよ!
というか、私の名前はポイスティーヌじゃなくて」
「おかしいでござるよね。先生殿は、拙者がポイスティーヌ殿たちを殴ったらすぐに止めたのに、ポイスティーヌ殿がソフラ殿を殴ったときは、知らんぷり。」
「そ、それは......」
「なーんだ!そんなこともわからないわけー?」
スケバンは元気に、立ち上がり言った。
「上流貴族出身の私と、被差別階級の無彩色者のそいつ、どっちが偉いかは一目瞭然だよね?」
「貴様のどこが偉いでござるか?」
「......は?」
「拙者、色には貴賎などないと思っているでござる。
どのような姿かたちをしていようと、人の心があればその人は美しい。必死に生きていれば、その人は美しいと思っているでござる。」
「必死に生きる?そんなの、そいつみたいな低俗なザコがやることでしょ?
私は違う、高貴な私には、余裕があるの。」
「拙者には貴様こそが、余裕がない人間に見えるでござるよ。」
「はあ?」
「貴様は己のために研鑽を積み修練に励むことよりも、他人を貶めることで"自分はそいつより劣っていないのだ"と安心し、仮初の満足を得ることの方を好んでいるように見える。
余裕のない、相当に卑しい人間でござる。」
「はあ、何それ?当たり前でしょー?私は高貴な生まれなのだから、最初から強いのよ、誰よりも才能があるの!
無能なそいつみたいに、セコセコ必死こいて苦労なんかしなくても......
......てか、よく見たら黒髪?
あーあ!あんたもクロマノッツじゃん!やっぱり、どうせそんなことだろうと思ったわ!
ギャハハハハハ」
スケバンが笑うと、取り巻きたちもクスクスと笑い出す。
「生まれが良いというのは、良い靴を履かせてもらえるということ。本を読ませてもらえるということでござる。」
「私のことね!」
「靴があっても走らない、本があっても読まない。
刀があっても握り方がわからない......力があっても人を助けられず、むしろ傷つけることに使ってしまう。
それでは、本末転倒でござるよ。」
「何?私に説教でもしてるわけ?クロマノッツごときが?」
「クロマノッツ......その言葉を初めて聞いたのは、つい今朝のことでござる。
拙者のクラスメイトである紫髪の男が拙者に言った......ふしぎなことに、貴様も紫髪でござるな。」
「ふん、そいつはわかってるじゃない。紫は高貴な色だものね。」
「だが彼奴と違って、貴様には品がないでござる。」
「はあ?」
「はじめに拙者『どのような姿形であっても、心が懸命であれば美しいと思う。』
今は少し端折ったが、だいたいそんなことを言ったでござる。」
「そうだっけ?もう忘れちゃった!」
「拙者から見てその紫紺の男には、個人的な信念があるように思えた。
勝負に負ければ本気で悔しがり、そして勝者に吐いたのは『今度こそ絶対に勝つ』だった。」
「だったらなんだって言うの?そいつは負けたんでしょう?
一体何回戦で負けたのかしら?」
「一回戦でござる。白熱した試合でござ-」
「ぷぷぷぷ!!い、いいい一回戦!?!?一回戦が白熱した試合って!!流石クロマノッツ!見る目がないわね!!」
「一回戦で負けた紫髪って、生徒会長と戦った副会長のことなんじゃ......」
ひそひそと周りが噂し始めるが、大笑いしているスケバンには聴こえていないようだった。
「貴様にはできるでござるか?」
「は?」
「己の高潔なプライドがへし折られた時、相手の不正を疑ったりなどせずに素直に負けを認めた上で。
その上で折れ切ってしまうこともなく、次の勝利を諦めないことが。」
「関係ないわ!私は負けたことがないもの!
2年生に上がって校内最強決定戦に出たら、そいつもお前もみんな私に無様に負ける。
いとも簡単に私が優勝することでしょうね!」
「拙者が黒髪だろうとなんだろうと関係なく、温かく迎え入れてくださったクラスメイトのみんなさん。
かといって、拙者をクロマノッツと言い放った彼のことを代わりに軽蔑したりして、冷遇することもなかった。
それは真面目な彼の普段の行動が培った、信頼感ゆえなのだと友人の話で知ったでござるよ。」
「だからそんなのどうでもいいって言ってるでしょうが!!」
「このクラスのみんなさんがポイスティーヌ殿に従っているのは信頼か?
否。自分が酷い目に合わされたらどうしよう、そんな恐怖でしかないでござる。」
取り巻きたちは動揺した仕草をしている。
そして動揺しているのはスケバンも同様だった。
彼女の弱点はこれでござったか。
「己の信念による行動で、自然に集まっていた憧れや信頼ではなく。
下品な方法で直接他人を脅し、その恐怖で無理矢理人を従えるしかない。
そんな貴様に、一体何ができるでござるか?
自身が何も持たぬからこそ、他人をいたぶり操るしかない。
傲慢に振る舞うしか能が無い貴様には、何もできない。
本当に無力な存在でござるよ。」
すると彼女は歯を食いしばり、拙者からついに目を逸らした。
間髪入れずに言葉を突き刺す。
「逃げるでござるか?」
拙者昔、拙者ちょっと強いかも!と浮かれていた時期があったでござる。
(うわーん、ズ、ズルでござる......!こんなのズルに決まっているでござる〜っ!)
(ゲッヘッヘ、刀を折って仕舞えば侍もただの痛い中二病患者よ!......なんてね〜)
......だから、此奴のような調子乗りっ子の気持ちは、痛いほど理解しやすいでござるよ。
「自分と向き合うのは怖いでござるよな。だったらせめて拙者に向くでござるよ。」




