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#4 一衣不纏/ネイキッド

「うう......しくしく、しくしく......」


草木の中に身体を隠しながら情けなく泣いていた拙者に、突如手持ちの提灯の光があたった。


「あっ......」


「う......ソフラ殿おおおおお......拙者、拙者ああ......!」


「えと.....クロノブさんの服、持ってき......」


「拙者風呂に入れず、ソフラ殿の石鹸を使えずに出てきてしまって、非常に申し訳ないでござる......!」


「あ、いえ、そ、それよりその......裸なんですよね?」


「......そ、その通りでござる......拙者の裸など、ソフラ殿に見せるわけにはいきませぬ。

ここは腹を-」


「く、クロノブさんの服、持ってきましたよ......!!だからやめて、着てくださいっ......!!」


「そ......ソフラ殿おお......!!」


拙者は衣服を受け取ると、草陰の中ですぐさま身につけた。

「は、早いっ!?ですね......!?」


拙者は草木の中から出てお辞儀した。

「かたじけないでござる。

感謝しても仕切れませぬ、この御恩はいつか必ずお返しさせていただくで候。」


「いえ、そんなの......」


「ソフラ殿は謙虚にござるな。もっと自信を持って良いでござる。

それにしても。この着慣れた袴を身につけていると、本当に落ち着くでござる......」


拙者はその布地の感触を確かめるように、胸を撫で下ろした。


「やはり人たるもの、衣を着てこそ!

決して初対面の人前で、不用意に一糸纏わぬ姿をさらけ出すなど......など............」


「クロノブ、さん......?」


拙者はさっきのことを思い出して顔を抑えた。

「拙者、ソフラ殿に謝らないといけないことがあるでござるよ。」


土下座する。


「ちょっと、クロノブさん!?」


「拙者実は」


「男の人......なんですよね?」


「し、知っていたでござるか。」


「本当、なんですね......」


「本当でござるよ......黙っていて申し訳ないでござる......」


「ええと、お風呂で、聞いたんです。生徒会長のプラチナ・ブロディエールさんから......」


「ああ......そうでござったか。彼女にも悪いことをした。

拙者と同じように、傷ついていないと良いでござるが.........」


「自分を責めないでください、元はと言えば私が悪いんです。

私が勝手に勘違いして連れてきちゃったせいで......」


「いえ、拙者の責任で候。


女子寮と男子寮で分かれていることくらい、少し考えれば気がつけたこと。学園生活への期待に浮かれて、すっかり呆けていた拙者の過ちに他ならぬ。」


「そんな、クロノブさんは悪くありません!私のせいで......!」


「否、そのようなことはございませぬ。全て拙者の責任でござる。」


「いや、私の責任で!!」


「いやいや、拙者の責任でござる!!!」


「私が!!!!」


「拙者が!!!!!」


「「..................」」


堂々巡りでござる。


「そのお気持ちは、ありがたく受け取っておくでござるよ。

とにかく拙者、もうこの学園に入学する資格がないでござるよ。


無意識といえど、初対面の女子にあられもない姿を惜しげもなく見せつけるなどという下劣な罪人つみびとになってしまった以上。

優しき人であるソフラ殿や他のみんなさんと、言葉を交わし結びつくことなど一生できませぬ。


これからは野原を醜く這いずり回るけがらわしい獣として、孤独に荒野を彷徨わせてもらうでござるよ。

それでは......」


「待ってください!!」


拙者には、ソフラ殿の優しい言葉を浴びる資格などない。だから優しい言葉に心打たれて立ち止まったりしない。

本当は立ち止まりたい。けど......立ち止まらない。


「待って」

ソフラ殿は、拙者の手を掴んだ。


「......やめてくださらぬか?」


「いいえ......やめません!!」


「拙者、ソフラ殿に乱暴な真似はしたくないでござるよ?」


「絶対に離しません!

それにクロノブさんはきっと、無理矢理振り払ったりしないってわかってますから。」


「.........」


「そんなに落ち込まないでください、えっと......」


「何でござるか?」


「クロノブさんは優しくて、素敵で、本当に素晴らしい人です!

それっぽい言葉で雑に慰めるんじゃなくて、私を本当に勇気づけてくれた、そんなところが......


だから、そんな明るいクロノブさんが落ち込むなんて、私は-」


「ありがとうでござる。でもソフラ殿、それは残酷でござるな。

拙者だって、落ち込むことには落ち込むのでござるよ。」


「.........。」


「.........。」


「もし......、私の勘違いだったらすみません。私の勝手な、イメージの話です。違っていたら、すみません。」

彼女は言った。


「.........」


彼女は胸に手を当てて深呼吸をして、そして唾をごくりと飲んで言った。

「クロノブさんがこのことでこんなにも落ち込んだのは、相手がプラチナ生徒会長だったからじゃないですか?」


「......えっ?」


「クロノブさんは、第一試合のプラチナ会長の戦いを見てきっと思ったんじゃないかって......私は思うんです。

拙者もぜひ、いつかこのお方と立ち会いたいものでござる!って。


私の勝手な想像の中のクロノブさんは、そう言ったと思うんです!」


「それは.....」


「もしその相手が、校内最強決定戦に出場している選手じゃなくて、私みたいな戦えない弱い人間だったら......土下座で思いっきり"申し訳ないでござるうううう!!!!"なんて謝って。

それで相手から逆に心配されたり、もしくはひどい言葉で罵られたりして......それで終わり。


醜く水たまりをベロベロ舐めながら這いずり回る野獣だとか、そんなふうに自分を酷く貶める言い方をしてしまうほど、落ち込んだりはしなかったはず。


......って、こう言うとクロノブさんって、結構酷い人ですね。

いや、これは私の勝手な妄想の中のクロノブさんなんですけど......」


「いや、大正解でござるよ。


ソフラ殿とはつい先ほど会ったばかりにも関わらず......この短時間だけで、拙者の幼稚で悪辣な思考回路を()()にされてしまうとは。


確かにこんなに簡単に裸にされてしまうのなら、そんなに落ち込む必要はなかったかもしれないでござるな。」


「.........」


「お婿にいけないでござるう〜!なんて、口走っていた自分に今度こそ恥ずかしくなってきたでござるよ。


でもまあだからこそ。そんな酷い人間である拙者は、ここを立ち去らなくてはならないのでござ-」


「いいえ、去る必要なんかありません!」


「もう......」

首を横に振った。

「そのような慰めは、もういいでござ-」


「あなたは......クロノブさんは......!

自分なんか凡人で取り柄がない、生きてる価値なんかないんだって思ってた私を、私なんてちっぽけな存在なんだって言い張る私を、素晴らしいって言ってくれましたよね!?


石鹸は、人間に絶対的に必要なものだって!その......私の髪を......石鹸みたいな純白で美しいって......そう言ってくれました......!!」


「そう思ったから。それが一目瞭然の事実だったから、それを言っただけでござるよ。

ソフラ殿は本当に素敵な人間でござるから。」


「なら私だって、事実を言います!

あなたがそうやって、落ち込んでる私を勇気づけてくれたから!今度は私だって、落ち込んでるあなたを勇気づけます!!


慰めなんて"やわ"なものじゃありません。事実で、勇気です!


あなたがどんなに自分を否定しても、あなたを否定するあなたを、私が否定します!


クロノブさんは素敵な人です!!

私たちまだ会ったばっかりです、もっとあなたのことを知りたいです!これで終わりなんて嫌です!


だから......明日一緒に、プラチナ生徒会長に謝りにいきましょう!!」


「......あ、謝りに行くにしても、さすがに一緒に行くわけには」

「一緒に行きます!絶対です!!」


「............」


おでこをぶつけてしまいそうな程至近距離まで迫り、顔を真っ赤にして、唇を噛んでまで。

そうまでして拙者を必死に説得する彼女に、拙者は......。


「............拙者の負けでござる。」


「そ、それじゃあ......」


「拙者今まで謝ったことは幾度もあれど、一度買ってしまった口喧嘩には負けたことがない強情さが取り柄だったでござるよ。でも今日、初めての黒星がついてしまったでござる。


明日、プラチナ生徒会長殿に謝りに行くでござるよ。」


「......はいっ!」

元気の良い返事が飛んできた。


「ほ、本当に......ついてくるのでござるか?」


「当たり前ですっ、一緒に行きましょう!!」

夜空を背に、彼女の満天の笑みが見えた。


ソフラ・ホワイト殿......拙者の想像を遥かに超えて、強かな御仁だったようでござる。


彼女、武力の刀は握れずとも、心の方はいずれ天下をも飲み入れる器とみた。

拙者これからは心の中では、"ソフラ師匠"と呼ばせてもらうでござるよ!

「おーい、クロノブー?まったく、どこ行ったんだよ。

まあ流石にこの時間だし、どっか別の場所に泊まれたってことだよな......?」


オクタビオは寮の自室へと戻った。

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