#3 純白石鹸/ホワイトソープ
「してソフラ殿、先ほどお話に出た"むさいしょくしゃ"とは一体?」
「あ......」
「イヤなのであれば言わずとも察すが、ソフラ殿がよろしければ話してほしいでござる。
拙者できれば、できる限りの事を知りたいでござるよ。」
少し沈黙した後、ソフラ殿は話してくれた。
「髪の毛に彩がない人のことを、無彩色者っていうんです。色髪能力は髪の色で決まりますから、それがない人は......」
「と、透明の髪の人がいるということでござるか!?そ、それは坊さんのことなのではござらぬか!!?」
「そ、そうじゃなくって......」
「ああ、拙者やソフラ殿のことですものな、坊さんではないでござるか......」
「あっ、あのごめんなさい、やっぱり聞かなかったことに......」
「意地悪を言ってすまなかったでござる。
要するに、黄金や紫紺のような派手な髪色ではなく、白や黒や灰色のような髪色の者のこと......で、合っているでござるか?」
「う、うん。そうです。」
彼女は俯いた。
「それに、どのような問題があるのでござるか?」
「大問題...ですよ。
無彩色者にできることなんか......。いや、クロノブさんは明るくて、個性があって、私なんかとは大違いです!
刀だって持ってるし......それで戦えるんですよね?」
「ええ、つわものと立ち会う覚悟は、いつでもできてるでござるよ!」
「私は戦えない。
校内最強決定戦......負けて悔しがる人が、羨ましかったです。」
「......」
「私だって、本気で挑戦して、本気でぶつかって、本気の汗を流して、それで負けて、倒れて、くそーーーーーー!!!!って叫びたい。
でも攻撃手段のない私には、挑戦するチャンスすらない。
『無彩色者は武器を生成できない。』
それが常識なんです。
私が能力で出せるのは、こんな手のひらに収まるような、ちっぽけな"石鹸"だけなんです!!」
彼女は悲痛に叫びながら、拙者に両手を見せてきた。
「せ......石鹸.........?」
「そうです、石鹸です!!こんな石鹸じゃ......石鹸なんかじゃ......!!!!」
涙目の彼女の手を、気がつくと拙者は握っていた。
「せせせせせ、石鹸!?石鹸でござるかあああああっ!?!?!?!?」
「ふえっ!?」
「石鹸なんか、人間に絶対的に必要なものでござるううううう!!!!!」
ああ、こんなにも素敵な人に出会えたなんて、拙者は天にも登る気分だった。
「ど、どうしたんですか......?」
彼女は困惑した。
でもそんなのお構いなしに、拙者は興奮して言った。
「なるほど、合点がいった!!ソフラ殿の美しい純白の髪の毛は、石鹸の色だったのでござるか!!!すすすすす......素晴らしいでござるうううううう!!!!!!!!!!」
「へっ、はっ、えっ......!?」
「拙者是非とも、ソフラ殿の石鹸をいただきたい!!!!」
「.........へあっ、その、えっと......
こ、ここで出すのはその、恥ずかしいので......寮に戻ったら渡しますね。」
「ぜひよろしくお願いいたしますでござる!」
「たくさん置いてありますから......!ぜひ、使ってくだひゃいっ!!!」
「うるさいぞー」
声の方を見ると、扉から女性が顔を出していた。
「無事寮にたどり着けてよかったでござるな!」
「は、はい、そうですね......」
「あっ、そうだった!拙者、友人を待たないといけないでござるよ」
すると扉から顔を出しているその御仁が言った。
「いや、寒いから中入っとき」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて中で待っておきましょうか。」
「ええ。ではお言葉に甘えて、そうさせてもらうでござる。」
拙者は扉を開く。
「たのもう!」
「道場破りかて」
その女性はそうつっこむと、受付机で眼鏡をかけて何やら紙を睨みつけた。
「この人は寮監のフロウデンさんです。」
「よろしくでござる。」
「はーいよろしくねー。」
そう言いながらフロウデン殿は、書類に筆を走らせる。
「ソフィちゃん...っと。OKOK。そんでええと、君は......」
「拙者は来週から色髪学園に転入させていただく、黒田簡太郎秀吉座右左衛門海信と申す者で候。
フロウデン殿、某不束者ではござるが、今度とも何卒よろしくお願いいたしますでござる。」
「ござるー?なんそれいいじゃん。てか、転校生ね、黒髪の。聞いてる聞いてる。
えーとじゃあクロちゃん、今日はー」
「クロちゃん!?」
「今日はっ、私の部屋に泊めようかなと思います。」
ソフラ殿が言った。
「うん、じゃあ、そうしてもらおうかな。」
寮監殿は、紙に筆を走らせた。
しかし......
「お気遣いは大変ありがたいでござるが、それはできないでござる。
拙者、既に別の友人に泊めてもらう約束をしてて。」
「えっ......?」
「あいつは腹痛で便所に行ったので、待たないといけないでござるよ」
「いやお花摘みとか言わんかい!デリカシーないなあ」
そして寮監殿は名簿らしき紙を、指ですーっとなぞるが......
「うーん......いや、ソフィちゃんで最後だから.....
多分そのコ、もう帰って来てるっぽいね。寮が違くなければ。」
「そうでござったか!」
「一応、名前訊いてもいい?」
「オ」「あっ、ちょっと待って」
寮監殿が止めた。
「なんでござるか?」
「クロちゃん、君さあ......なんか臭うよ、これは......」
「これは?」
「......男の匂いだわ」
「おっ、男の匂い!?」
ソフラ殿が悲鳴のような声をあげた。
「えっ、そ、そうでござるか?拙者の溢れ出る猛々しいオーラが---」
しかし拙者の独り言など聞かず、寮監殿は机の裏から手拭いと石鹸の入った桶を取り出す。
それを拙者に、リズムよく渡した。
「ホイホイホイっと、これでいいね。
あっ、その石鹸ソフィちゃん製なの、最高だから」
「おお、これが!」
そして彼女は椅子から立ち上がり、拙者をズンズン部屋の隅に追いやった。
「はいはーい下がって下がってー」
「何で何で何でござるか!?」
「よーし。そんじゃ横の窪みにその木札嵌めて」
「嵌めたでござる。」
「それじゃ、行ってらっしゃーい」
そう言って寮監殿が受付後ろの赤い紐を引くと、拙者の足元が抜けた。
「わわわわわわわわわわわ!?!?!?!?!?!?」
筒のような中を滑り落ちていき、その最中に服を脱がされていく。
かなり速度が出ていて、結構怖かった。
「ござるござるござるござるござるうううううううううう!!?!?!?!?!?」
そして、着地。
温かい。湯煙の立ち込める場所に出た。
これは......風呂だ。
拙者の知るそれに近い......"風呂"だ。
拙者は気がつくと......涙を流していた。
思えば長い船旅で、しばらく湯船に浸かることができずにいた。
泣いていられない、この喜びを満喫しよう。笑いながら噛み締めよう。
拙者は涙を拭って、一歩踏み出した。
しかし......
「あ」
「あ」
拙者は対峙した。風呂の先客に。
夜遅くなったといえど。
まだ他の誰かが風呂に入っていること自体は、なんらおかしくなかった。
「.........」
拙者の前にいたのはあろうことか、プラチナ・ブロディエール生徒会長だった。
昼はツインテールにしていた金髪を下ろし、一糸纏わぬ姿だった。
でも何もおかしくない。当然だ。だって、風呂だもの。
彼女はおかしくなかった。
おかしかったのは、拙者だった。
彼女は拙者の身体を、この沈黙の間に十分に見た。
そして、目前の出来事の脳内処理が完了したのか。
拙者に気を使って後ろを向いて縮こまり、ぼそりと言った。
「ここ.........女湯だから」
「......っ......あっ」
拙者はぐるぐるとめまいがしたが、なんとかここを出ないとと思った。
「し、し、失礼したでござるううううううううううう!!!!!!!!!」
走り出した。
「みみみみみ見られてしまったでござるうううううううううう!!!
せ、拙者ああっ、女子に見られて......!
拙者の尊厳が!尊厳破壊でござるうううううう......!!!!!
もうお婿に行けないでござるうううううう!!!!」
混乱し、泣き叫びながらどうにか階段を駆け上がり、出口を探して、外に出た。
「はあ、はあ、はあ、はあ.........」
それから行くあてもないので......拙者は裸なので......草木の影に隠れることにした。
ソフラ・ホワイトは浴場にやってきた。
「クロノブさーん?」
返事は帰ってこない。
すると突然、バシャンと勢いよく水しぶきの音が鳴った。
「!」
ソフラは少し浮き足立って見に行く。
「もう、クロノブさん!そんなに勢いよく入っちゃ-」
しかしそこいたのは、湯船に浸かるプラチナ・ブロディエール生徒会長だった。
「あっ......すみません、いらっしゃったんですね......」
すると生徒会長はすぐにまた勢いよくしぶきをあげて、慌てるように歩いてきた。
その様に気圧され怯えるソフラ。
「ごめんなさいっ!生徒会長がお一人で入っていたのに私なんかが!今すぐ出ますか-」
すると彼女の真横で、プラチナは言った。
「-すぐに服を持っていってあげたほうがいいわ。彼、今裸だから。」
「えっ?」
彼女はそう言って立ち去るかと思いきや、少し歩くとまた止まって言った。
「あと...私たち初対面よね?そんなに怖がられると、ちょっと傷ついたかも。」
「......っ!」
ソフラは振り向いた。
「......忘れて。」
そしてそのまま、プラチナは去っていった。




