#2 無彩色者/クロマノッツ
大会の観戦が終わり、日もすっかり暮れた頃。
拙者は友人になったオクタ殿と一緒に帰っていた。
「いやあ、満足満足でござる!」
「だな!ところでクロノブ。
俺はこのまま寮に帰るんだけど、お前は?」
「はっ......!?」
「な、なんだっ!?」
「今日の宿をどうするか聞いてなかったでござるうううううううううう!!!!!!!!!!!」
またつい、大声を出してしまった。
「あああうるさい!落ち着けって!」
「おお、失礼したでござる......ここは責任をとって切腹を」
「もういいからそれ。今日だけ何回やってんだよ。止めるこっちの身にもなれよな!」
「それは、すまなんだー」
「変な言い方......謝ってるんだよな?なんか、バカにしてないか?」
「そんな、してないでござるよ!」
「そうか。じゃあいいけど。」
「......」
「......なあ、俺の部屋、泊まるか?」
「よ、良いのでござるか!?」
「狭いけどな」
「では、喜んで!友達とお泊まりなんて拙者、夢のようでござるよ〜!」
「おい、暑苦しいから離れろって!」
「おお、それはすまなんだーでござる」
「スマナンダーって何だよ、戦隊ヒーローか......?」
それから少し歩いて。
「そういえばオクタ殿、最初のプラチナ殿とヴィオレオット殿の試合を観戦した後-」
「おう。それが、なんだー?」
「オクタ殿が拙者が黒髪であることを言及した際。
尋ねているオクタ殿だけでなく、周りのみんなさんまで怪訝な面持ちをしておられた気がするでござるが」
「あ......」
「あれは何だったでござるか?」
「ああ、あれか、あれは......」
オクタ殿は、やたらと青い顔をした。
「やっぱり、お腹痛かった感じでござるか!?
拙者から書物の匂いがするばっかりに、催してしまったでござるか!?」
「え、いや......」
「言い淀んでる!やっぱりそうだったでござるね!
これは今度こそ、腹を切ってお詫びするしか......!!!!」
「ぷっ......」
「えっ?」
「あっはっはっはっは!!!!」
オクタ殿は吹き出して、そして大笑いした。
「オクタ殿!?なぜ笑っているでござるか!!!
拙者は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなのでござるが!!!??」
「いや、流石に、なんつーか、ぶふっ!お前は......っ!」
「オクタ殿酷いでござる、貴様と拙者は友達ではなかったのでござるかッ!!!??」
「あっはっはっは......うっ!?」
オクタ殿は突然、腹を抑えた。
「...っ!?大丈夫でござるか!?」
「本当に、お腹痛くなってきた......」
「便所はどこでござるか!?連れていくでござる、ほら肩を......」
「いや、大丈夫だ、1人行ける。それにお前、道わかんないだろ?」
「それはそうでござるが......」
「まっすぐ行けば寮に着くから、入り口で待っててくれ」
「わ、わかったでござる!」
するとオクタ殿は去り際に、
「思ったんだけどよ、きっとお前みたいな気持ちのイイヤツなら、何があっても大丈夫そうだな!」
と言って、反対方向へと歩いていった。
「......まったく、オクタ殿も気持ちの良い御仁で候に。」
そして拙者は、寮と思われる方向に歩いて行こうとする。
が、しかし......
「あれ?拙者どっちから来たでござるか......?」
あたりを見回す。
「こっち?」
いや......
「こっちでござるか?」
.........
「これは......」
どうやら......
「うわーん!!迷子になってしまったでござるうううううう!!!!」
思わず叫んでしまった。
そうしているうちにあたりは真っ暗になり、何も見えなくなってしまった。
「わああああああっ!?」
誰かが驚いた声。
「うわあああああっ!?」
拙者がそれに驚いた声。
「えっ?」
「えっ?」
「せ、拙者のドッペルゲンガーでは......」
目の前の御仁が、手持ちの提灯でその場を照らしてくれた。
そこにいたのは拙者に化けた物の怪ではなく、髪の毛の白い可憐な女子であった。
「ござらぬよな。そりゃそうでござる。」
「ご、ござる、ですか......?」
「ええ、ござるでござるよ。」
「あ、あの!さっき、迷子になっちゃったって.....?」
「そうでござるそうでござるよ!助けてほしいでござる!!
寮に行きたいのに道がわからないでござるよおお!!!」
「えっと、私も迷子になっちゃって......」
「そ、そうでござったか......」
「ええと、寮ってことは色髪学園の生徒......なん、ですよね?」
「いかにも。来週からこの学園に転入させていただく"転校生"で候。」
「やっぱりそうなんだ。でも、髪の毛が......」
「髪の毛...」
「あっ、ええと」
「き、貴様も腹痛でござるか!?申し訳ないでござる...!」
「い、いえ、お腹は痛くないですけど......!」
「じゃあなにゆえ......」
「あの、髪!わ、私も<無彩色者>なので......」
「むさいしょくしゃ......?何でござるか、それは。八百屋さんのことでござるか?」
「えっ、知らない......?」
しばしの沈黙。
「拙者、何か失礼を働いたでござるか?もしそうなら、申し訳ないでござる......」
「いえ、全然!気にしないでください!大した話じゃないので!」
そういう彼女の顔は、結構気にしているように見えた。
「ええと、私<ソフラ・ホワイト>って言います。色髪学園1年生です。」
「ソフラ殿、ご丁寧に有り難うでござる。
拙者は黒田簡太郎秀吉座右左衛門海信と申す者で候。
気軽に<クロノブ>と呼んでいただいて構わないでござるよ!」
「は、はい、クロノブさん」
「まるで、西洋の時間の神様のようなイントネーションでござるね。」
「す、すみません!」
「いやいや、ソフラ殿の好きなように呼んでくださるのが、一番嬉しいでござるよ。
それに1年生とはいえ、一応はソフラ殿は拙者の先輩となるお方。
先立つ者には敬意を払うのが、拙者のぽりぽりでござるから!」
「ポリシー、かな?」
「ありゃ、拙者間違えてしまったでござるか!あはははははは」
下手な冗談。
しかしソフラ殿はくすっと笑った。
白百合のような彼女の優しい笑顔に、気持ちが穏やかになるでござるな。
であれば余計に、彼女の顔を陰らす"むさいしょくしゃ"なるもののことが気にかかる。
「............」
ともあれ拙者とソフラ殿は、どこに向かっているのかもわからないまま、ひとまず無計画に歩き始めた。
立ち止まっていたら一生寮に辿り着けない故、迷子だとしてもとりあえず歩いてみるのだ。




