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#12 墨汁剣鬼/ブラックカタナ

戦いは、長く続いていた。


まずプラチナが大剣を力強く振り、クロノブがそれを刀で受け流す。


大振りをした直後のプラチナに隙ができる。

クロノブがそれを切り裂くが、途端にプラチナの躰はダミーの黄金の液体になる。


そして背後に回った本物のプラチナがクロノブの隙をついて斬りかかり、それをまたクロノブが刀で受け流す。


その繰り返し。

両者一歩も譲らぬ攻防の繰り返し。拮抗。はっきり言って膠着状態であった。


... ... ...


「消耗戦......拙者、根比べなら自身があるでござるよ!」

拙者は笑って言った。


「私だって!」

同じように笑うプラチナ。


「ははっ!」


「...............でも。」

彼女の突然の一言。


「そんなのは-」

刀を通り越すとともに、プラチナ・ブロディエールの表情は変わった。


「-面白くない。」


その一言とともに、空気が一変した。


「ッ?!」


拙者が振り切った刀。

今度も切り裂かれ黄金の液体になると思われたプラチナ殿の躰は......本人だった。


拙者の刀は彼女を切り裂かず、黄金の拳の5本の指に掴みとられていて、そして一瞬にしてパキリと折られた。


「......ッ!!!」


砕けちる痛快な音を立てた刀身が地面に落下するより前に、彼女は大剣を振り抜いていた。


プラチナ・ブロディエールの必殺の重い斬撃に、歓声が上がる。

「うおおおおおおおおお!!!!!!」


拙者はそれを横っ飛び転がって回避。少し距離をとった。

「おおおおおおおおおお!!!!!!」


拙者が避けられたのが意外だったようで、歓声が上がる。

口笛も聞こえてくる。


互いに振り向くと、会話を交わした。


「盛り上がってるみたいでござるな。」


「......それも当然。私のこの一撃を避けきったのは、あなただけ。

みんな最後は"これ"で斬られるの。」


「そうでござるか。」


「でも............じきにあなたも、そこに加わることになる。"だけ"じゃなくなってしまう。

別に"最後の一撃"だからと言って、1回しか打てないわけじゃないもの。


最後の一撃は、最後に決まって初めて"最後の一撃"と呼べる。

文字通りの事、当たり前の事だけれど......


その当たり前から外れれば、どんな単語だろうと意味は消えてなくなる。」


「確かにその通り......とは、言い切れないかもでござるよ?」

拙者は刀が折れて残った柄を、握り締めた。


「......あなたの方こそ、普段は短剣も持ち歩いていたようだけれど、それは"2回目"として使えるの?」


「あれは自害用、だから置いてきたでござる!持ってこればよかったでござるかね?」


「ふふふっ...............」

プラチナは少し笑って、それから

「これで、終わってしまうのね。」

悲しそうに言った。


「どうする?降参してもいいわよ。私に斬られるのが怖ければね。」


「まさか。どんと来いでござる!」


「ふふっ、無意味な質問をしてしまったわね。」


「いいえ、無意味などではありませぬ。

言わなければ伝わらぬことは、この世にたくさんあるでござる。


だから、言うでござるよ。

拙者、意味深な笑み合いは好みではござるが、それで終わらせずに、言葉にして言うでござるよ!」


「何を言うの?」


「拙者が、返り討ちにしてやるでござる!!!」

小洒落た冗談などではなく、真剣。真剣に返り討ちを企てる瞳を見せた。


「......!」

彼女は思わず目を見開く。そして目を閉じて......目を開けた。


「望むところよ。」


その後。拙者もプラチナ殿も、両者互いに向かい走っていく。


プラチナ・ブロディエールは手を開き、そして握る。


黄金の液体から大剣が完全に成形される。

力強く芯のある重厚な一撃が、クロノブへと一直線に振り下ろされる。


迎え撃つのは、折れた刀。


誰もが、決着を予感していた。誰もがこれで終わりだと、思っていた。


観客席で、生徒たちが話していた。

「意外といい勝負でちょっとは期待したけどさ。」

「ああ、やっぱり無彩色者が生徒会長に勝つなんて無理な話だったよな。......えっ!?」


ただ、一人を除いて。


「............!?」

プラチナ・ブロディエールは、今度こそ最後の一撃を決め切るつもりだったので......驚いた。


一瞬にして、あたりは真っ黒になっていた。


折れたはずの刀の断面から、荒々しい黒煙がブワッと吹き出したのだ。

それに吹き飛ばされるように重い大剣が液体へと戻り、プラチナ自身も吹き飛ばされた。


黒煙に覆われるスタジアム。観客たちはざわざわとし始める。


「ごほっ、ごほっ。すん、この独特な匂い......今、何が......」

プラチナは立ち上がった。


そして立ち込める煙は徐々にすぅーっと、引いていく。

ぼんやりと輪郭を現し、そして出てきたのは、黒い刀を握った一人の侍だ。


「......ッ!!」


己が心のうちに留めていた気迫を、躰の外へと纏って。

拙者は一振りの、黒煙の刀を握りしめていた。


「無彩色者は、能力で"武器を作れない"。


だが拙者といつも一緒にいてくれたこの刀......手肌になじんだ我が戦友(カタナ)を"思い出"で"打ち治す"ことならできるみたいでござるな。」


思い出が刻まれた脳味噌を指し示すように、片手でこめかみを叩いた。


「さながらカラカラに乾いた筆がもう一度文字を紡ぐ為、墨汁を染み込ませるかのように......

ポッキリと折れてしまった刀身をもう一度、一振りの刀として蘇らせる......」


ふと、何も持っていない片手を伸ばして、力をこめた。

が、すぐに下した。


「やはり、もう一本を新たに生み出すことはできないようでござるな。

あくまで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


それこそが拙者の色髪能力。どうやら、そう言うことらしいでござる。


だが、それは拙者にとって何よりも大切なことでござる。」


「.........ふふ、そうなのね。


"作る"のではなく、壊れたものを"治す"。


......それがあなたの能力、それこそがあなたの"2回目"かッ!!」

痛快に納得したプラチナ・ブロディエール殿は、にっと笑った。


観客の大きな声援など、耳に入らぬ。

脳内に、まるで太鼓の音が聴こえるようだった。


拙者は囃子に乗るような、小気味良い足取りで駆ける。


揺らめく煙の中で、両者相見え。

プラチナ殿は大剣をぐわっと振り上げ、振り下ろす。


拙者はこの刀を横一線に-今度は受け流すのではなく、迎え撃つためにぶつけた。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」


太鼓を鳴らした地響きかのような、幻聴が聴こえるほどだった。

拙者の気迫で、プラチナ殿の大剣の輪郭線が揺らぎ、液体になりかける。


しかし彼女も、絶対に勝つ、押し返してやるという気迫で、刀を再び鋼鉄にした。

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」


鬨の声を叫び合い、勝利を手に入れんと力を込めぶつけあう、本気の鍔迫り合い。


「グオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

「ハアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!!!」

雄叫びのぶつかる音すら空間に響いた。


拙者が故郷でやっていた刀同士の鍔迫り合いは、どれもここまで力任せではなかった。

それは読み合いや、小手先の技術が必要になる。だから冷めてしまうのだ。いい意味でも、悪い意味でも。


だけど、この鍔迫り合いは。プラチナ・ブロディエール殿とのこの鍔迫り合いは。

本気の力と、そこに乗せる本気の想いと、それをぶつけ合うことができる。完全な"熱"の戦いだった。


大剣がピキピキと音を立てている。刀もだ。


だからこそ……拙者は、必ず勝つ!!!

こんな勝負をしてくれるプラチナ殿に、勝ってみせる!!!!!!!


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「-ッ!!?」


拙者は、押し切った。


それとともに大剣は黄金の液体となり溶け落ちた。


そして大量の墨汁が、彼女の体を貫く。


「FINISH!!!!」

そんな巨大な文字が表示された。


そして、少しの沈黙。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

大歓声が上がった。


「うそ......」


「無彩色者の転校生が、生徒会長に......勝った..........!?嘘だろ......?」


「ありえない、こんなのやらせに決まってんだろ」


「だよな、流石に、ねえ?」


身体は一応拍手しながらも、それは建前で口ではわかっていますよという空気を出している生徒たちは多かった。


「ふふふっ!さっすがクロノブさん!!」

白髪の少女が腕を組んで、得意げに呟いた。


「......何故だ。何故だッ!?」

ヴィオレオット・パープロンは、柵に拳を打ち付けて言った。


そして不機嫌そうに歯軋りをしながら、その場を去った。


校長は、生徒たちのいる観客席とは別の、特等席から眺めていた。

「これで......生徒全員が見てしまいましたね。


無彩色者は武器を生成できない。だから戦闘能力を保有できない......


当たり前。常識。


そんな思い込みを言い訳にして、一体何人の無彩色者が挑戦から逃げ出し、何人の色髪能力者が無彩色者を見下し傲り高ぶってきたでしょう。


自分は理性的で、現実が見えているんだ。無謀な奴らとは違うんだ。

そんな適当なことを自分に言い聞かせて......自分と向き合わない、挑戦しない、前に進まない。


そんなふうに人を枠に当てはめて弱めてしまう、常識なんていう......


常識なんていう、現実ぶってるだけのご都合良い虚構を壊してしまうイレギュラーを、彼らは今、知りましたね......!」

校長は企むように眼光を尖らせ、いかれたようにも見える笑みを浮かべた。


しかし校長は背後のソファへ振り返るとすぐに、いつも通りの落ち着いた声色になる。

腕を頭の後ろで組んで昼寝をしていた女子生徒に言った。


「この会場にいない生徒や、ただ見ただけでは受け入れない生徒もいるはずです。

ですからこの事ははっきりと知らしめる必要があります。


()()をお願いしますね、<虹神遊星(ゲーミングプラネット)>さん」


二つ名で呼ばれた少女は不機嫌そうに立ち上がり、そのまま無言でドアをガチャリと開けて出て行った。


校長は一人、眼鏡の位置をくいっと直すと、雰囲気が打って変わっていつものほわっとした笑顔になって一人ごとを言った。

「これからこの学園の生徒たちはどうなっていくのか.............今からとっても楽しみです!」


観客席で、一人の生徒が呟いた。

「す、すげえ......ええと、あの黒髪の......」


「黒田簡太郎秀吉座右左衛門海信」

隣のクラスの生徒に、パピルス・パルプスが早口でその本名を言った。


「えっ、なんて?」


「黒田簡太郎秀吉座右左衛門海信、うちのクラスの転入生で-」


「もうパピルス、ゆっくり喋りなよ」

ズミカ・ブルーコが宥めた。


「クロノブ、あいつはクロノブって呼んでくれって言った。」

オクタビオ・グリーンズは言った。


「そうか、クロノブ......それなら覚えやすいな。」


別の生徒が言った。

「あのクロノブ......?って奴にも、二つ名がつくのかな。

ほら、<黄金の女帝(ゴールデンエンプレス)>とか<紫紺の貴公子ヴァイオレットプリンス>みたいな。」


「うーん、それなら......そうだ!漆黒の剣士で、ブラックブレードってのはどうだ!?」


「おお、いいな。でもいや、あいつの武器は"ブレード"じゃない。」

オクタビオが言った。


「はっ?ブレードじゃない?」


()()()っていうらしい。

だからあいつはブラック()()()()じゃなくて......ブラック()()()、<墨汁剣鬼(ブラックカタナ)>って呼ぶのはどうだ?


最高だろッ!」


「へえ、<墨汁剣鬼(ブラックカタナ)>か......」


生徒はうなずくと、スタジアムへ向かって大声で叫んだ。

「凄かったぞーーっ!墨汁剣鬼ー!!」

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