#11 誓約決闘/プレッジデュエル
「対戦相手、出てこないな......」
「やっぱり逃げたんじゃね?」
「やっぱりそうだよね、あの生徒会長に勝てる人間なんかいるわけないし。
ましてや入ってきたばかりの転入生で、しかも黒髪なんだろ?」
「ええ、無彩色者!?そんな奴がなんで......」
「そんな奴だからこそ、実力の差がわかんなかったんだろ?」
スタジアムはざわざわとしていた。
「クロノブ遅いな......」
オクタビオは言った。
「トラブルかな?ちょっとウチらで見に行ってみない......?」
ズミカは言った。
「チッ、俺が行く。」
そう言ったのは、ヴィオレオットだった。
「えっ、お前が......?」
「不正や危険を避けるため<誓約決闘>直前での、出場者と観客の接触は禁止されている。
生徒会副会長である俺が業務として確認に行くから、お前たちはそこで大人しく座っていろ。」
「お、おう......」
ヴィオレオットは足早に去っていく。
「ベー!まったく、嫌味なヤツ。」
「でもクロノブ君、本当に大丈夫かな......」
「うーん......いや、あいつならきっと、大丈夫だ!」
... ... ...
ヴィオレオットは待機室のすぐ近くまでやってきた。
すると、「うわああああああ」と情けない叫び声を上げて、男子生徒が走ってきた。
「止まれ」
「ど、どけよ!俺はこんなところで......っ!?ヴィ、ヴィオレッ、副会ちょ......!?」
「お前、待機室の方から来たな。何をやっていた」
「う、ぐっ、うわあああああああ!!」
「おい、待て!」
走り出すハードリード・ヘドリアヌス。
しかし。
「はいストーップ。」
ブーツの人物が足を引っ掛けて転ばせた。
「なんでこんな楽しそうなこと1人でやろうとしてるんですか?副・会・長?」
ロングブーツと手袋をした、ピンク髪の少女が言った。
彼女はいつの間にか、地を這いつくばるハードリードに首枷をつけていた。
彼の背中を踏みつけ、首枷に繋いだ鎖を引っ張る。
「ひっ!?」
「あとは任せた、なんでも好きにしろ。」
少女にそう言うと、待機室に駆け出そうとするヴィオレオット。
「へっ!?ちょっとま-」
「ああちょっと待って!」
駆け出そうとするヴィオレオット・パープロンを、ハードリードだけでなく少女も引き留めた。
「なんだ-」
すると、後ろから「うおおおおお」と歓声が聞こえてくる。
「彼、もう出てきたみたいだから。安心して。」
「......そうか。」
「あ、あの、俺、いえわたくしは、何もしていません!信じてください!あの化け物が-」
突如としてその口元に、猿轡が出現し塞いだ。
ピンク髪の少女は「ムフッ」と笑うと、喋れなくなったハードリードにスマホを向けた。
『!危険!最後の色髪能力使用から10分未満です。』
『【備考】能力使用許可:未申請』
「はい、アウトー!」
「処罰は任せる。俺は試合を見にいくからな。」
すると少女は嬉しそうに堪えてから、ピシッと敬礼した。
「はい、この<生徒会会計>ベリージェル・ジェイラー、確とまかされました!
収支に配慮した上で最適に、節制で余剰した潤沢な予算を使用して、最大限楽しんで尋問を行います!」
「-!---!」
ハードリードは涙を浮かべ身を捩らせるが、もう遅かった。
... ... ...
スタジアムの、困惑や噂話でできた、ざわざわとした声が聞こえてくる。
しかし入場し、拙者が姿を現すと、歓声に変わった。
もっとも、そのほとんどは拙者への期待の声などではなく。
身の程知らずが無様に負けて地に伏すことを期待した、悪意に満ちた歓声であったことは言うまでもなかった。
しかしそんなことは最早どうでもよかった。
プラチナ殿との試合に心を弾ませる拙者は、確かな足取りで、スタジアムの中央へと向かった。
「おおおおおおおおーーーおおぉ?」
それでもボロボロなのに気づかれたのか、また困惑のざわざわが聴こえ出した。
「......!!どうしたの!?何があった!?」
プラチナ・ブロディエール殿は駆け寄ってきた。
しかし拙者は手で静止した。
「大したことではありませぬ。」
「いいえ。とにかく、決闘は延期に-」
「いいや、今、決闘をお願いいたします。プラチナ・ブロディエール殿。」
「......。」
生徒会長は首を横にふった。
「そんな状態で戦われても、私は嬉しくない。断らせてもら-」
「勝利は、拙者の手の中でござる。」
「......!」
ボロボロなはずの拙者から放たれた確信じみた言葉に、プラチナ殿は驚いた顔をした。
「勝ちます。
プラチナ・ブロディエール生徒会長殿、拙者必ず、貴様に勝つでござる。
試合の後、勝鬨の声を上げている己の姿が、拙者の瞳には見えているでござる。」
拙者は明確に、真にはっきりと告げた。
「............そう。そんな状態で。」
彼女は目を瞑った。心配の表情は消え、微笑む。
そしてその表情も、目蓋を上げるとともに戦士の瞳に変わる。
「私も舐められたものね。
黒田簡太郎秀吉座右左衛門海信。
学園最強の名をかけて、あなたを全力で叩き潰す。」
拙者の名前を全て言い切った彼女は、足を踏みしめた。
「3!」
審判が確認すると、カウントダウンが始まる。
「2!!」
プラチナ・ブロディエールは、今回はすぐに手から黄金の液体を噴出。籠手を作り出す。
「1!!!!」
拙者は刀の柄に手を下ろした。
誓約決闘のスタジアム内では、通常の刀は人を切れない。
そのことは既に、パピルス殿から確認済みであった。
「FIGHT!!!!!!!!」
「あの会長が、グローブだけとはいえ、すぐに生成するなんて......」
「そんなのわかりきったことだろ、あの程度の相手、戦略もクソもない、ちゃちゃっと終わらせるつもりなんだ」
開戦後、沈黙。戦場はしばしの静寂。
来ないならこちらからと、プラチナ・ブロディエールは一歩ずつ歩いてくる。
黄金の液体が彼女の輪郭を揺らめいて、いつどこからでも武器を作り出せると示していた。
拙者は腰を落とし、構える。
彼女はゆっくりと歩いていたが、突如として素早く踏み込む。
拙者は刀を握る。
彼女が拳を突き出すよりも一瞬先に、その躰を裂くように刀を振り抜いた。
するとあろうことか、彼女の躰はいとも簡単に横一線に裂け、真っ二つになる。
驚きの光景に観客席から悲鳴が上がるが......
その断面は、真紅の鮮血ではなく黄金の液体で、まさに変わり身の術。
黄金の液体が突き出した偽の拳は、剣の柄、の形へと変化していく。
本物の彼女は拙者の背後をとっていて、そこへとちょうど向かってくる柄と握手した彼女は、そのまま生成された大剣を斜めに振り下ろす。
拙者は刀を素早く繰り、背後の大剣を受ける。
刀身が擦れて火花がバチバチと飛ぶ中、刀をそのまま滑らせ流す。
体を振り返らせ、正面にまみえる。
観客席にて。
「あれなんか......結構戦えてない?」
「は、まぐれだろ......!それか、手加減してるとかさ」
聞こえてきた声を横耳に、オクタビオ・グリーンズは言った。
「ケッ、当たり前だろ!クロノブは強いんだ!......とか言いまわってやりたいところだけどよ......
あれって、クロノブが普段から持ってる刀だよな?
このままじゃあいつ、まずいんじゃ......」
「あ、そっか!クロっち、今は会長にダミーで避けられてるだけだって思ってそうだけど......
実際に攻撃が当てられたとしても-」
そんなズミカ・ブルーコの言葉に、パピルス・パルプスが続けて言った。
「-誓約決闘中は色髪能力による攻撃しか効かない」
「まあ、刀が効いたら効いたで、それは危ないけどな......」
「でも、大丈夫。決闘のルールはとっくにクロノブ君に教えてある。」
パピルスはスマホを取り出して、データの羅列を指でスクロールする。
「じゃあ、あいつには何か策があるってことだよな?
「わざと出し惜しみしてるってこと?それってなんか、ミステリアスでかっこいいじゃん!」
「いや、そういうわけじゃなくて......」
パピルスは垂れてきた冷や汗をぬぐう。
「懸念点は......彼の色髪能力。
最後までわからなかったんだ。クロノブ君本人も、よくわからないって......」
「え!?それじゃクロっちは......」
「このままじゃジリ貧になる......そしたら、決定打に欠けるクロノブ君の方が負ける」
「クソ、あんなに自信満々だったのに、あの野郎......!
最初っから勝ち目なんか持ってなかったってことなのかよ、クロノブ......!!」




