#10 約束必守/キーププロミス
授業を終え、拙者は早速スタジアムへと向かうことにした。
移動中、クラスのみんなが一緒についてきて、大所帯になってしまった。
「あれってもしかして、生徒会長と決闘するっていう転校生?」
「生徒会長!?勝てるわけねえだろ......」
「てかあれ髪、黒......だよね?どういうこと?」
通りすがりの生徒たちはひそひそ話をしていた。
「気にすんなよな」
オクタ殿が言った。
「ひひっ、あたぼうよ!」
拙者は肘打ちした。
「うぐっ!お、おう。
つうか、"ござる"って、絶対つけなくてもよかったんだな」
「拙者をなんだと思っているでござるか」
そして立ち止まった。
拙者は出場者の待機室、みんなは観客席へ行くため、ここで別れることになった。
「よし、それじゃあ......頑張れよ!」
「ええ!もちろんでござる!」
「ウチ、クロっちが戦ってるとこ見るの初めてだけどさ......
なんとなくクロッチなら、会長相手でもいいとこまで行けそうな気がしてるよ!」
「ありがとうでござる。
でも拙者、いいとこまでと言わず、勝ちに行くでござるよ!」
「えっと、その、多分最初じゃ勝てないと思うけど......この1回目で負けても、諦めないで。
僕、クロノブ君の戦いをしっかり見て分析するから。えと、強くなれる、いつかは勝てる。絶対いつか君を勝たせるから!」
「それは心強いでござるな!」
他のクラスメイトたちの応援も背に受けて、拙者は待機室へと向かった。
「チッ、なんであいつが......」
... ... ...
拙者は待機室にやってきた。
地べたに胡座をかき、深呼吸する。瞑想。
静寂。
しかし。
「おお、ここにいらしたんですね!」
瞑想に入りきる前に声がして、目を開いた。
「クロノブさん?でしたっけ?あなた間違えてますよ?ここ違うんですよ〜」
「ああ、そうでござったか!それは失礼し」
その瞬間、顔面に鈍い感触。
拙者はそいつの手が離れる前に、腕を掴み取る。
「何をするでござるか?」
手首の痛みに顔を歪ませる男子生徒。誓約決闘の係員ではなさそうだ。
「チッ、いってぇなあ…何って?そりゃこっちのセリフだろう、が!!」
そう言って蹴りを入れようとしてきたが、拙者は腕を離し避ける。
そして拙者は逆に蹴りを入れようと、足をそいつの顔面に振り上げ-
「おっと暴力は禁止だろぉ?イキリ野郎」
「......」
足先をその男の顔面に向けたまま静止する。
「"イキリ"とはなんでござるか?」
「イキリって言ったらイキってる、調子乗ってるってことだ。そんなことも知らねえの?
脳味噌の中までイカスミ色なのかあ?」
「確かに拙者、調子乗ってるでござる。これからも乗りに乗りまくるでござるよ。」
「うわー萎えるわー。
って、そんなんどうでもいいや。
それよりさあ、たまたま聞いちゃったんだよねぇ、あの"もやしコーチョー"と君が話してるとこ。
次暴力を振るったら退学しちゃうかもって、ねえ!」
ああ、あの人影はこいつだったでござるか。
「キャ〜!かーかりいんさーん!大変だあ〜!暴力よ〜〜!......ってねぇ!」
いつでもそう呼べる、冤罪をなすり付けられると、ほくそ笑む男子生徒。
拙者は足を下ろす。
「何が目的でござるか?」
「まあまあ、話を聞けよ。
お前が殴った、ポイドリーヌ・ヘドリアヌス......あいつは、あいつの親から幻滅されてた。
だから娘があんな目にあっても、親はクレームを入れなかった。
でも、俺は違う。俺は親から期待されている。
この前の校内最強決定戦でも、予選を突破した。本戦でも上位に食い込めるだろう。」
「ああ、通りで。見覚えがある顔だと思ったでござるよ。
<心電神殿>ハードリード・ヘドリアヌス。」
「え?覚えててくれたの?ま、俺様の活躍なら、記憶に残って当然か。
だが......ならばわかるだろう?この部屋が俺の"テリトリー"になってるってことがさ。」
待機室は最初と違って薄暗くなっており、部屋の壁を"青い蛍光色をした電撃の波"が不気味に流れていた。
「この部屋の中では、お前の声は外には聴こえないし、姿も見えない。
一方で俺の声は、任意で外に聴かせたり聴かせなかったりできる。
つーまーり、ここでは俺様の思い通りになんでもしていいってことなんだよ。
何したってバレない。
お前のうぜえ顔面をボコボコにして、元の形がわからないようにしたり......なあ!!
あ、抵抗したら退学が待ってるよおー!オラア2発目ェ!
おまけの三発ゥ!」
そう言ってそいつは、拙者の顔に次々とパンチを入れた。
「......バレないことなんか、この世に一つとしてないでござるよ」
「え?何ー?何何何ー?」
「どのような隠し事や秘密も、時間が経てば、簡単にバレてしまうものでござる。」
「いやあねえ奥さん!
この方、自分のこと買い被りすぎ!自信過剰!自信過剰!!
ここを出てからあれこれ言ったってね、無意味!無意味!!
なあ......この俺様と、ぽっと出の転校生しかも黒髪の<無彩色者>。
誰がお前を信じるんだよ?」
「クラスメイトのみんな、担任殿、校長殿、そして、生徒会長殿でござる。」
拙者はすぐさま答えた。
「......んー?ぷっ、ぷはっ、ギャハハハハ!!
ガチで笑える!やばすぎだろこいつ!!!!
クラスメイトのみんな?みんなって具体的に誰だよ?そんなやつい-」
「オクタ殿、ミカ殿、パピル-」
「あーもういいもういいもういい。そんなんどうでもいいわ。担任も、もやしコーチョーもどうでもいい。
生徒会長っつったよな?
そうそう、生徒会長生徒会長。
そういえばよくよく思い出してみれば......お前がここに来たのって、生徒会長と決闘するためだったなあ?」
「......」
「うーん、まだ決闘まで時間あるよね?
や、ヤバイ!?今何時!?
......って、時計は暗くて見えないんだった!俺の能力でね!」
いつまで経っても目が慣れないのを見るに、単にこの場が暗くなっているのではなく、"暗い"という状態が保持されているといったところでござるか。
「あ!よそ見した!ペナルティキックドーン!!」
そう言って、真っ暗な時計を見た拙者を蹴り飛ばす。
「......決闘が不戦勝になるまでの期限は、あと3日もあるでござる。
貴様も、3日間もここに居座り続ける気はなかろう。」
「ぷっ、いやいや、違う違う違う!
ちょっと時間を稼げればいいんだよ!!
生徒会長のプラチナ・ブローええと、なんとかサン?名前くそ覚えにくすぎだろきめえな!
まあいいや。今な、あの女は今頃こう思ってる。
あの男、私と決闘するって言ったのに、約束破って逃げた!!逃げてる逃げてる!臆病者!!......って。
そしたらもう3日とか関係ねえからなあ。
信用を失ったお前のことを、信じてくれる奴は1人もいなくなる!」
「そんなことを思うのは、貴様が下品だからでござるよ。」
「あーハイハイ。スタジアムにも噂を聞きつけた生徒が大勢集まってる。
そいつらもお前のことを逃げたって思ってるだろうな。
なんせ黒髪のクロマノッツが学園最強の生徒会長に決闘だぜ?いい笑い者だろ!!
あー、想像したら興奮してきた!!
もっと殴っちゃおーっと!」
「......」
大人しく殴られながら思う。
拙者は、何をやってるでござるか?
「たたた楽しい、暴力!無抵抗な相手に〜殴打!殴打!おだおだ殴打〜!!
気持ち良すぎてささ最高!
てててて抵抗、しようものならば、退学退学退学待ってるよ〜〜〜!!!」
......そうだ、約束でござる。
約束。
約束を守るでござる。
生徒会長殿と交わした、決闘の約束。
校長殿と交わした、生徒を殴らないという約束。
しかし強引にここを脱して決闘に行けば、校長殿との約束を破ることに。
反対にここで殴られたままでいようものならば、生徒会長殿との決闘の約束を破ることになる。
............いや?校長殿と交わしたのは、殴らないという約束ではなかったでござるな。
そうでござる。そうでござった。拙者、しっかりするでござる。
本当に肝要なのはそこじゃない。
大事なのは、殴らないことそのものではなかったはずでござる。
してならないのは、そのせいで退学になることでござる。
拙者が校長とした約束は、この腐りかけの学園を、拙者が塗り替えることでござった!
「だれがみたって〜俺の正統!防衛!ルンルン〜ルルンルン!!
顔面に、パンチ!!お次はお腹にキ」
拙者はクワッと目を見開き、手を前に突き出した。
「なんだよおい、抵抗したら退が-」
そのまま右手をぐいっと掴む。
するとこの部屋に蔓延している"薄暗い空気の色"と"電撃波の青色"は、みるみるうちに拙者の手の中に吸い込まれ剥がされていく。
「えっ、はっ!?」
手の中に全てが吸い込まれると、ボンっと破裂音を立てて、それとともにほんのわずかな黒煙を吹き出して、終わった。
ここは元通りの待機室になった。
「はっ?はあ...?て、てめえ何やっ-!?......っ!!」
ハードリードは胸ぐらを掴むが......拙者の形相を見てすぐに手を離した。
「く、くそおっ、な、何だよ、この化物めええええ!!」
自分の能力が消し飛ばされたのがよっぽど応えたのか、慌てて転びながら、捨て台詞と共に逃げ去っていった。
「......」
拙者は入ってきたのとは別の方の、扉の前に立った。
親切に門のような装飾があったので、すぐにわかった。
『チェック......クロダカンタロウヒデキチザウザエモンウミノブ......データ合致。
<誓約決闘>に参加しますか?』
「少々遅れてしまったでござるが......いざ参る」
確かめるように確実に、だけど力まず軽やかに、指で画面を押す。
そして、扉が開く。




