#9 退学危機/ドロップアウトクライシス
翌日の朝。
拙者は背に日の出の光を受けながら、毛筆で書をしたためた。
『決闘』
その墨汁と朝の日差しの香りは、拙者を静かに心地よく立ち上がらせた。
「ん〜!っと。」
腕を天に向かって伸ばす。
「そろそろ、行くでござるか。」
そして決闘を心待ちにし意気揚々と弾み歩き登校した拙者!......であったが、呼び出しを食らった。
生徒指導の体育教師から、ガミガミとお説教されたでござる。
そこには校長殿、そして拙者の隣にはプラチナ・ブロディエール生徒会長殿もいた。
「反省しろ!」
「反省しているでござ」
「嘘をつけ!反省の色が見られん!」
「まあまあバーニオス先生、あまりかっかしないで-」
目元のやつれている痩せた長身の青年、ファーティル・シードリング校長は体育教師を諫める。
「校長は黙っていてください!
お前に殴られたポイドリーヌ・ヘドリアヌス、今どうなってるか知っているか?
あんなにうつろな目をしている人間を、俺は生まれて初めて見た。
前は明るく元気で活発な子だったんだぞ!
なのにお前は......
同じ学校の仲間である彼女に暴力を振るっておいて、なんでそんな平気な顔をしていられるんだ!」
そう言って身を乗り出そうとする体育教師を、シードリング校長は羽交い締めにして止める。
「まあまあまあ、落ち着いて」
「我が校に、不良やいじめなどはあってはならないのだ!このような悪を簡単に許してなるものか!」
プラチナ・ブロディエールは、結局こうなったと言うかのように「はあ」とため息をした。
「誰だ!今ため息をしたのは!」
「はあ......彼は反省しています。」
「そ、そうか。プラチナ、お前がそう言うなら......おい!反省しておけよ!」
「承知したでござる」
「ござるだと!?なんなんだそのふざけた語尾は!おい、お前!!!」
「まあまあまあ、もう授業が始まる時間ですから」
「今日の1時間目に体育の授業はない!私の今の仕事は生徒指導だ!どうせ後にも指導しなきゃいけない生徒が控えてるんです!だから時間を使っても関係な-」
校長殿が体育教師を抑えているうちに、拙者と生徒会長殿は生徒指導室を出た。
「......気にしないでね。あの教師、あんな感じの人間だから。
女子生徒には馴れ馴れしくして、男子生徒には厳しく当たり散らす。
気持ち悪い。」
「お気遣い感謝いたす。
でも拙者、微塵も気にしていないでござるから、大丈夫でござるよ!」
「......そう。」
するとプラチナ・ブロディエール生徒会長は微笑んだ。
「またね。約束、放課後。」
そう言って足早に去っていった。
拙者も教室に戻るため、階段を素早く駆け上がった。
が。
「ま、待って!」
はあはあと息を切らし、ファーティル・シードリング校長殿が拙者を呼び止めた。
「だ、大丈夫でござるか!?」
「うん、えっと、これ-」
校長は長細い腕で、拙者に書類を突き出す。
「校内最強決定戦、敗者復活戦の参加通知書-」
「お、おおお!!受理してくれたのでござるか!!?」
「もちろんだよ。」
「心より感謝申し上げるでござる」
「いやいや、そんな畏まらなくても。それとあと......さっきはごめんね。」
「ああ、いや。拙者全然気にしていないでござるから、ご心配なさらず。
人と争うということは、また別の誰かの反感を買うということでござる。
そしてまた争いが起きる......
"行動"は"観客"に"影響"を与え、"観客"を"第二の演者"へと変える。
そして"第二の演者"は"行動"し、演者の足が踏み締める土は新たな"舞台"へと作り変えられるものでござる。」
「そしてその"舞台"と"第二の演者"を観測した観客が、"第三の演者"へと変貌する......だっけ。
うんうん、何度聞いても興味深い詩だよ。
まるで僕はこの詩を知るために生まれてきたんじゃないかと信じ込んでしまうくらいには......
って、そうじゃなくって。」
「まだ何か用事が?」
「別件というよりは、さっきの事に関係あるんだけどね......。」
「さっきの事......あ!校内最強決定戦のことでござるか!」
「違うよ......ええと。
この色髪学園はね、ある時から代々<色髪至上主義>なんだ。
いかんせん、色髪能力の種類も強さも、大雑把に言えば"髪色の派手さ"で決まるからね......
黒髪である君に、ひどく当たったり嫌がらせを行う生徒もいるだろう。」
「そうみたいでござるな。
でも、もしそうなったら拙者、むしろ懲らしめて返り討ちにしてやるでござるよ!」
「えっと、それがね......今回は生徒会長のブロディエールさんの力で事なきを得られたけれど......
今度もし君が生徒を殴ってしまえば、簡単に退学になる可能性もある。」
「そんな!校長権限でなんとかならないのでござるか!?」
「校長って言ってもね、あんまり偉くないんだよ......。
それこそ、生徒がいなければ学園は成立しない。親御さんの意見には従っておくしかないんだ。」
「自分勝手な奴等の言いなりでござるか?」
「もちろん僕だって、できる限りのことはしてるよ!
今回だって、結局話自体は職員室に広がっちゃってて、それでもなんとかして場を収めたんだからね...!
それでもさっきのバーニオス先生みたいに-」
「反感を抑えきれない教員もいた......でござるか。
そういった職員の面々も<色髪至上主義>ということでござるか?」
「うん......というかどちらかというと、そっちの方が普通で......ごめん。本当に申し訳ない。
でも、できる限りのことはするつもりだよ。
せっかく君という人物を見込んでスカウトしたんだもの。それなのに退学されたら、本当に悔しいからね。」
「有無。
......しかしまったく校長殿は、野心家なのか臆病者なのか、わからないでござるな」
「はははっ。どうせなら、"既存の型にはまらない規格外の人物"と言ってくれよ」
「まあ、それはよいとして。」
「ええっ!?」
「とにかく、暴力は厳禁。そういうことでござったな。」
「本当にすまない。もし何かトラブルがあったら、遠慮なく僕に言って-」
「頼りなさげな校長殿には、相談するまでもないでござるよ。」
「ははは、直球だね......」
「むしろ。拙者が解決してしまうことを-」
「...!?」
「この学園を、拙者がガラリと塗り替えてしまうことを......校長殿は、むしろそれを望んでいるのでござろう?」
「......流石鋭いね、まったくもってその通りだ。」
すると、始業の鐘が鳴った。
拙者も校長殿も、慌てて各々の目的地へと向かおうと踏み出した。
その瞬間、校長は勢い余って手に持った書類を盛大にこぼした。
校長殿は「先に行け!」と、まるでここが戦場だとでも思っているかのような、そんな声色で遊んで言った。
それと時を同じくして、廊下に人影が見えた。
拙者や校長とは別の人影が、少し動いたのが見えた。
でもそんなことを気にしている場合じゃない。
人影の主が誰なのかは、一旦忘れるでござる!
拙者は素早く階段を駆け上がり、素早く教室のドアを開ける。
何やら教室内はざわざわと騒がしかった。
その上、拙者にみんな注目していた。
「......あー、まだ出席取ってないからギリギリセーフ!
つうわけで、席つけよー」
担任殿がそう言った。
拙者は席に座る。
「お、おい、クロノブ......お前......」
オクタ殿がおそるおそる何かを言いかける。
「?」
するとパピルス殿が口を開き掛け-
「セ、セイトカッ」
「生徒会長とプレるってマジなの!?」
ミカ殿が言った。
「......」
「......プレる?」
拙者は呆気に取られた変な声で訊き返した。
その瞬間に他のクラスメイトたちも波のように押し寄せてきて、質問責めにされる。
「おい、静かにしろ!席につけー!!」
ああ、<誓約決闘>のことでござるか。
噂話、広がるの早すぎでござる!!!




