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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇覚醒編〜無惨な外れモノ〜
97/101

番外編 秋だ!メイドだ!文化祭!《後編》

番外編なのに、初登場の主要人物が出て来ます(何でやねん)

割と本当に主要人物なので、皆様お見知り置きを。

 文化祭当日。

 開演一時間前から、校門には長蛇の列が並んでいた訳だが、開演して既に二時間。

 一組二組の合同『執事&メイド喫茶』をやっている教室は、開演直後から延々と満席状態を維持していた。

 勿論皆の目当ては唯一人。


「奏楽様ー!こっちのオーダーお願いします!!」

「奏楽様ー!お水のおかわり貰えますか!?」

「奏楽様!!写真一緒に撮ってください!!」


 ひっきりなしに呼ばれるのは『奏楽』の名前。

 そんな訳でカフェは大盛況となっていた。

 ただでさえ珍しい北斗七星……それも女装姿となれば、この状況も納得できるが、奏楽は息吐く暇もなく、教室内をあっちへ行きこっちへ行きと繰り返していた。


「……予想してたけど、ヤバいな。集客率」

「まぁ……『現役北斗七星の女装』ってだけでも客は見込めそうですしぃ……何より本人の完成度がアレですからねぇ……」


 執事服に身を纏い、トレーにそれぞれドリンクやケーキを乗せながら、透と莉一が小声で会話する。

 当然二人も忙しいが、客の目当てが奏楽である以上、忙しさは奏楽の比ではない。


「お兄ちゃん!医者せんせい!!」

「!優里亜ちゃん!!」


 聞き覚えのある声に、奏楽達が振り返る。

 教室の入り口に、ニャイチを抱いた優里亜が立っていた。どうやら遊びに来たらしい。

 優里亜は瞳をキラキラ輝かせて、奏楽の元へと駆け寄った。


医者せんせい、とっても可愛い!!お姫様みたい!!」

「ありがとうございます〜。それでは……」


 ゴホンと奏楽が咳払いを挟む。

 胸に手を当て仰々しく腰を折れば、ニコリと優里亜に向けて微笑んだ。


「おかえりなさいませ、お嬢様。お席までご案内致します。どうぞ、御手を」

「うん!」


 奏楽がソッと手を差し出すと、優里亜は満面の笑みでその手を取る。

 仲睦まじく空いてる席まで並んで歩けば、「どうぞ、お嬢様」と奏楽が椅子を引いた。

 奏楽がメニューを渡したところで、「優里亜」と透達もテーブルに集まって来る。


「無事に来れたか?道中、何も問題とか無かったか?」

「お兄ちゃん、心配し過ぎ!大丈夫だもん!ニャイチちゃんが一緒だったから!ねー!?」

「ニャー!」


 優里亜が腕に抱き抱えているニャイチへと笑顔を向ければ、ニャイチもソレに応える。

 それには透の後ろに立っていた莉一が「ちょっ!」と慌てた。


「ニャイチ!喋っちゃダメって言ってんでしょぉ!」

「そう言やぁ透、『優里亜がどうしても文化祭行きたいってごねてる』って言ってたな。一人は不安とか心配とかブツブツ反対してたけど、結局ニャイチ借りたのかよ」


 蛍が透へと尋ねる。

 透は「まあな」と頷いた。


「莉一が『ならニャイチをボディガードにしますか?』ってな……正直助かった」

「折角の執事姿ですからねぇ。しっかり妹殿にサービスしてあげなさいよぉ、透殿ぉ」

「……親切心じゃなかったんだな?」

「否ですねぇ。親切心ですよぉ?優里亜殿への」

「言葉の裏から、俺への嫌がらせが滲み出てんだよ」


 意地の悪い笑みを浮かべる莉一に、透がジト目で返す訳だが、当の優里亜は兄の執事には興味が一切無く。ただただ奏楽のメイドに夢中になっていた。


医者せんせい!このオムライスとパンケーキ、優里亜と半分こしよ!」

「ボクもご一緒して良いんですか?」

「うん!お願い!……ダメ?」

「勿論構いませんよ。お嬢様は甘えたですね〜」

「えへへ〜」


 可愛くてしょうがないらしく、奏楽はニコニコと優里亜の頭を優しく撫でる。

 そんな二人の様子を、他の客達は羨望の眼差しで持って見守っていた。


「……ソラに妹取られてんぞ、『お兄ちゃん』」

「うるさいな。そもそも、初めから優里亜の目的は奏楽だったんだよ。俺が案内できないかもって言ったら、『医者せんせいがエスコートしてくれるなら、それが良い』って即答されたし」

「『それで良い』じゃなくて『それが良い』ですかぁ。奏楽殿に完敗ですねぇ、『お兄ちゃん』?」

「……お前ら、俺に恨みでもあんのか?……」


 そんな会話をしている内に、料理が仕上がったらしい。

 いくら奏楽目当ての客しかいないと言えど、蛍達もただ突っ立って駄弁り続けてる訳にもいかない。

 優里亜用の料理をトレーに乗せて、蛍が「お待たせ致しました、お嬢様」と優里亜の前に丁寧に並べた。


「わあ!美味しそう!……ねぇ、医者せんせい!コレやって!」

「『コレ』?」


 キョトンと奏楽が首を傾げる。

 優里亜が奏楽の前に突き出してきたのは、一冊の漫画だ。少女漫画だろう。

 優里亜の指示するページを開けば、そこにはメイド服に身を包んだヒロインが手でハートを作り、何やら呪文を唱えているシーンが載っている。

 気になったらしい蛍達三人も、奏楽の後ろから漫画を覗き込み、その内容にピシャリと固まってしまった。

 対して奏楽は「畏まりました〜」と軽く了承すると、ヒロインと同じく両手を合わせてハートを作る。


「『おいしくなーれ。萌え萌えキュン』」


「ギャアアアア」と教室中に叫声が響き渡った。バタンと人々の倒れる音もする。

 正に阿鼻叫喚とはこのことだろう。『萌え』も過ぎれば、身体に毒だ。

 気にしていないのは、どれだけヤバい行為をしたか自覚していない奏楽と、ヤバい行為を頼んだ張本人たる優里亜の二人だけである。

 蛍達は蛍達で「良くそんな恥ずかしい事できるな」と呆れを通り越して、奏楽への感心を深めていた。


「ありがとう!!アーンして、医者せんせい!アーン!」

「甘えんぼなお嬢様ですね〜」


 言いながら、満更でもないのだろう。

 すぐに奏楽はスプーンを手に取り、オムライスを掬った。


「はい、アーン」

「アーン……美味しい!!」

「良かったです〜」


 口一杯頬張る優里亜に、奏楽が嬉しそうに瞳を細める。

 今度は優里亜がスプーンを手に取った。


「はい!医者せんせいもアーン」

「ボクもですか?アーン……」

「どう?医者せんせい

「とっても美味しいですよ〜」

「ほんと!?」

「はい〜」


 キャッキャッとはしゃぐ二人。

 周りから心底「羨ましい」という嫉妬に近しい視線を浴びながら、完全に二人だけの世界である。


「……おい透、テメェの妹何とかしろ」

「できる訳ねぇだろ」

「『幼い』ってのは、とんでもない武器ですねぇ」


 莉一の言う通りであった。

 これで優里亜が中学生、高校生であれば、周りから「狡い」と暴動が起こっていたことだろう。というより、その前に蛍から何らかの牽制があった筈だ。

 正に年齢様様である。


「ねぇねぇ、医者せんせい!お仕事、何時に終わる?優里亜と一緒にお店回ろ?」

「そうですね〜。後二時間すれば、カフェを一旦閉じて、皆休憩に入るんで〜……そのタイミングなら大丈夫ですよ〜」

「ほんと!?じゃあ約束ね!!」

「はい、約束です〜」


 二人は指切りを交わした。

 互いに互いへと食べさせ合いながら、本当にオムライスとパンケーキを半分こした優里亜は、ご満悦と言った様子で席を立つ。


「優里亜、絶対ニャイチから手ぇ離すなよ?」

「わかってるもん!後、『優里亜』じゃないでしょ!」


 ビシッと、優里亜が頬を膨らませて透を指差す。

 言わんとしていることはわかったので、透は「ウッ」と眉を顰めながらも、小さく頭を下げる。


「決してそちらのぬいぐるみを手離されないよう、お気をつけくださいませ、お嬢様」

「はーい!」


 満足したようだ。出入り口へと向かう優里亜。

 お客様のお帰りだ。奏楽達一同、胸に手を当てお辞儀をする。


「「「「いってらしゃいませ、お嬢様」」」」

「うん!またねー!!」


 優里亜が出て行った後、堰を切ったように他の客から奏楽への注文が殺到したのであった。


 *       *       *



 そして気付けば、あっという間に文化祭閉演まで残り十分となっていた。

 休憩時間中、たっぷり奏楽達と各クラスの出し物を満喫した優里亜は、既にニャイチをボディガードに帰宅済み。

 休憩が終わり、再び次から次へとやって来るお客さんの相手を頑張っていた奏楽達も、最後のお客さんのお見送りを終えたところだった。


「ふぅ〜、流石に疲れましたね〜」

「そりゃ、あれだけひっきりなしに呼ばれてたらな」


 ホッと一息吐く奏楽に、蛍がツッコむ。

 残り時間的に、もうお客が来ることはないだろう。残るは文化祭の名物……大量のゴミの後片付けのみである。


「奏楽様!並びに一組の皆様、本日は本当にありがとうございました!!後片付けは私達がやるんで、是非休んでいてください!」


 二組のクラス委員がピカピカの笑顔で告げる。一組……主に奏楽に色んな要望を叶えて貰えて、客以上に満足したようだ。

 いつもなら「ボクも手伝いますよ」と手を挙げる奏楽だが、流石に疲労困憊らしく「ありがとうございます〜」と素直に任せる。


「……『並びに』って、俺らはソラのオマケかよ」

「まあ実際似たようなものでしたけどねぇ」

「こんなに大変なら、来年は休みてぇかも……」


 奏楽以外の三人も当然疲れは溜まっている。

 ループタイを外して襟元を緩め、空いてる席にドカッと腰掛けていた。



「何だ。折角来てやったのに、もう祭りは終いか」



「「「?」」」


 突然聞こえて来た耳覚えのない声に、蛍達が声の主へと振り返る。

 教室の扉に、一人の少年が立っていた。

 オレンジ色の鮮やかな髪は、一部の長い後ろ髪部分だけ一つに結び、意志の強さがビシビシと伝わる大きな瞳は、彩度の高い深緑。生意気な表情が幼さを残すも、それと同時に気高さを感じさせる少年だった。見たところ小学生と言ったところか。

 この少年に一切見覚えのない蛍は「まだ客が居たのかよ」と内心舌打ちを溢すが、莉一と透は口をあんぐりと開けて固まっていた。

 そして何より……。


あきらですか!?」


 奏楽が少年の顔を見て、目を見開く。

「よぉ」と片手を挙げ応える少年は、「久しぶりだな、桜さん」と奏楽相手に微笑み掛けた。

 そんな二人の様子に、蛍がムッと表情かおを顰める。


「おい、ソラ。誰だよ、そのガキ」

「ちょっ、蛍殿!」

「『ガキ』って、おま……」


 蛍の不躾な言い方に、莉一と透が焦る。

 奏楽は「そう言えば初対面ですね〜」と呑気に笑っていた。


「この子は……「お前が例の次期“β(メラク)”候補か」


 奏楽の言葉を遮って、少年が蛍へと視線を向ける。

 そしてビシッと、親指で自分自身を指差した。


「俺の名前は大空だいくうあきら。大空家当主、北斗七星“η(アルカイド)”を司ってる。テメェの先輩だ。まあそんなことより……」


『明』と名乗った少年はそこで言葉を区切ると、奏楽に近付いて思いきり奏楽の腕を自身の方へと引っ張った。

 傾く奏楽の身体。次いで「チュッ」と軽いリップ音。一瞬にして凍り付いた教室内。


「……桜さんは俺が貰うから」


 奏楽の唇から自身の唇を離した明は、固まる蛍達に向かって、不敵な笑みを携えて確かに宣言したのであった――。

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