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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇覚醒編〜無惨な外れモノ〜
96/101

番外編 秋だ!メイドだ!文化祭!《前編》

*番外編なので、文章力低下が酷いです。フィーリングでお読みください。

 秋。それは薔薇色の青春を送る学生達にとって、最も大事な季節の一つであった。



 *       *       *



「……という訳で、今年の一組、二組の出し物は『執事&メイド喫茶』に決まりました!!」


 夏休みが明けてすぐ。星影高校では、二クラス合同のホームルームがあった。

 その内容が学生のビッグイベントの一つ……“文化祭”である。

 星影高校の文化祭は全国から一般客が入り、毎年大盛り上がりを見せている。その理由は、星影高校の一組。未来を担うガーディアン隊員のエリート……何より星天七宿家の人間を一目見ようと集まるからだ。

 特に今年は現役北斗七星である奏楽が在籍しているので、大注目を浴びるのは間違いない。


「今から当日のウェイター係、厨房係、客引き係と、準備期間中の衣装係、買い出し係、セッティング係を決めたいと思います。ただ、一組の皆さんは当日確定でウェイターをやって頂くので、ご了承くださーい」


 ニッコリ笑顔で二組のクラス委員が告げる。

 取り繕うことなく表情かおを顰めている者が数人居るが、反論は上がらなかった。何故なら文化祭において、一組である彼らに決定権は一切与えられていないからだ。

 要は大人しく見せ物パンダとして、市民の要望に応えてくれと言うことである。


「…………予め莉一から聞いていたとは言え……とんだ悪趣味イベントだな、全く」


 二組の間で勝手に話が進んでいく中、蛍は小声で愚痴った。蛍の左隣では透が「同感だな」と強く頷いている。

 一組は人数が限りなく少ない。その為毎年二組と合同で出し物をするらしいが、その内容は『演劇』と『カフェ』を一年交代でやっているようだ。

 去年が劇だったので、今年はカフェ。だが劇だろうとカフェだろうと、世論の代表と言わんばかりに二組の生徒が、一組生徒に色々な要望を突き付けて来るのは毎年変わらない。


「そう言えば一学年の御二方はともかくぅ、透殿も今年が初めての文化祭でしたなぁ。自分は去年散々良い様に使われたんで、流石に今年は諦めましたわぁ。どれだけ文句を言っても全部無駄なんで、今のうちに腹を括っておくことをお勧めしますよぉ」

「「否、何させられるんだよ……」」


 遠い目をして告げる莉一に、蛍と透が揃って眉根を寄せる。

 明らかに乗り気でない三人。

 そんな中、蛍と莉一の間に座っている奏楽は、一人ワクワクと楽しそうに笑っていた。


「良いじゃないですか〜、学生らしくって。ウェイターってことは、お客さんをおもてなしするってことですよね?接客なんて初めてです〜」

「まあソラは、普段もてなされる側だもんな。本物の使用人から」


 蛍が苦笑を漏らした。

 日々本物の使用人から世話を焼かれている奏楽が、学祭の出し物とは言え、執事服を着て一般人をもてなすのは中々にレアな光景だろう。それだけで注目度が高まりそうな話である。

 ちなみに土萌家にも使用人は居るが、人間不信の蛍は当然身の回りの世話を他人に任せたりはしない。元々一人暮らしをしていただけあって、全て自分のことは自分でやっていた。


「使用人って言ったら、莉一も金持ちだろ?お前の家泊まった時、使用人見かけなかったけど、居ねぇの?」

「実家には居ますけどねぇ……そもそも世話役なんて必要ないでしょぉ。洗濯も掃除も全自動マシーンを作りましたし、食事なんて出前で済みます。着替えくらい一人でできるんで、赤の他人なんて側に居ても煩わしいだけですわぁ」

「『全自動マシーン』……そう言やぁ、指定の場所に服入れとくだけで、翌日には洗って出てきてたな。アレ、お前が作ったのかよ……」


 透が莉一の行動力と技術力に若干引く。


「莉一くんが執事だったら、お仕事全部機械任せにして、莉一くんは一歩も自分で動かなさそうですね〜」


 奏楽が人差し指を天井に向けて、良い笑顔で言い放つ。隣で「言えてんな」と蛍が悪い笑みを浮かべれば、莉一は「褒めてんですかぁ?」とジト目を向けた。


「逆に透くんは立派な執事さんになりそうですよね〜」

「暗に自分が『立派じゃない』って言ってますぅ?」


 莉一がツッコむが、奏楽はスルー。

 透は「そうか?」と照れ臭そうに頬を掻いた。


「透が執事だったら、少しの汚れも許さねぇだろ。んな空間、気が休まらねぇから絶対御免だ」

「安心しろよ。頼まれたって、お前の世話は焼かねぇから!」


 蛍と透が睨み合う。

 奏楽は気にせず「ほたちゃんは〜」と、楽しそうに微笑んでいた。


「『執事さん』って言うより、『お母さん』になりそうですね〜」

「誰が『お母さん』だ!?」


 蛍が思わず声を荒げるが、奏楽から訂正が入ることはない。それどころか双方から「どっちかと言えば『小姑』だろ」「言えてますねぇ」と、更に失礼な発言が出てきていた。

 ホームルームそっちのけで会話が盛り上がる四人。

 とそこで、前に立っている二組のクラス委員から「奏楽様!」と大声で呼ばれた。

 そう言えばホームルーム中だったと、四人同時に振り向けば、クラス委員の女子生徒は「奏楽様にお願いが……」と下心見え見えの笑みでゴマを擦っていた。


「何ですか?」


 相手の下心に気付いているのかいないのか。奏楽があっさり尋ね返す。

 奏楽の代わりに、蛍が睨み付けて牽制する中、クラス委員は屈せず「実は」と口を開いた。そしてガバッと思い切り頭を下げる。


「奏楽様は『執事』じゃなくて『メイドさん』をしてください!!!」

「「「「…………」」」」



 *       *       *



 騒がしかった教室が一瞬にして静まりかえった。

 ミニ丈フリルの黒のスカートに、リボンを丁寧に編み上げた白のエプロン。頭にはフリルのカチューシャ。二の腕まである純白の手袋と、黒のガーターベルトで止められた白のニーハイソックス。黒のベルト付きパンプスには控えめにリボンが飾られていた。

 わざわざ莉一が制作した薬を飲んで伸ばした髪は背中程あり、普段はサラシで隠れた女性特有の膨らみが胸元を強調している。

 今日は、出来上がったメイド服と執事服の試着日。

 試着室代わりに使っている隣の教室から戻ってきた奏楽の姿に、その場に居た全生徒が固まった。


「??……ボク、何かおかしい所でもありますか?」


 コテンと可憐にメイド服へと身を包んだ奏楽が首を傾げれば、「キャアアアア」と女子生徒達の断末魔が学校中に響き渡った。


「『おかしい』だなんて、とんでもありません!!!」

「すっごくお似合いです、奏楽様!!!」

「写真!是非写真を撮らせてください!!!」

「もう私、女辞めます!!!」


 一気に群がられる奏楽。

 教室は再び、否返って騒がしさが増した様だ。

 勿論奏楽に不用意に近付けば、黙っていないのはこの人である。


「テメェらうるせぇ!!俺のソラに近付くんじゃねぇよ!さっさと散れ!!」


 蛍だ。

 蛍も蛍で執事服を着ており、奏楽は惚けた表情かおで新鮮な蛍の姿を見つめていた。

 ふと奏楽の視線に蛍が気付く。

 目が合えば、奏楽はふにゃりと微笑んだ。


「カッコ良いですね〜、ほたちゃん」

「!……ソラも似合ってる」

「ありがとうございます〜」


 蛍の不器用な賞賛を素直に喜ぶ奏楽。

 外野が散れば、同じく執事服を身に纏った莉一と透も二人の側へと寄って来る。


「お似合いですよぉ、奏楽殿ぉ。長髪剤も問題なさそうですねぇ」

「つか、どっからどう見ても女にしか見えねぇな。元々華奢な体躯だし、全然違和感ねぇ」

「ありがとうございます〜。莉一くんと透くんも、とっても素敵ですよ〜」


 互いに互いの感想を軽く言い合えば、莉一が何かに気付いたように、周りの女子生徒へと目を向けた。「莉一くん?」と奏楽が首を傾げる。


「……奏楽殿のメイド服だけ、微妙にデザイン違いませんかぁ?」

「確かに。やたら丈短いし、ガーターベルトだっけ?他の女子は着けてねぇし。アレ過ぎだろ。誰がデザインしたんだ?その服」


 莉一に続き、透が尋ねた。

 奏楽はデザインに全く興味がないのか、「えっとですね〜」と自身の記憶を頑張って引っ張り出す。


「二組の女の子達が『皆で考えた』って言ってましたよ〜。ボクは女装枠なんで、特別製なんですって〜。ちょっと恥ずかしいですよね〜」


 言いながら、顔が赤く染まるでも目が泳いでいる訳でもない。

 一切恥ずかしそうに見えない訳だが、わざわざソレをツッコむ馬鹿はここにはいない。

 むしろ奏楽の反応よりも、意外なのは蛍の方だ。

 莉一は「蛍殿ぉ」と大人しくしている蛍に話し掛ける。


「蛍殿は、奏楽殿があんな格好させられて怒らないんでぇ?本当にメイドカフェみたいな衣装着せられてますけどぉ」


 ソレだ。

 普段から過保護で独占欲の強い蛍である。

『メイド服』がある界隈の人々にとって、性的興奮を促す衣装である以上、奏楽が着ることを蛍が是とするとは思えなかった。本場の落ち着き払った質素なデザインならまだしも、奏楽に渡されたのは明らかに下心しか込められていない衣装。

 最悪奏楽が着る前に、蛍が破り捨ててもおかしくないと、莉一は割と本気で思っていた。

 だが莉一の予想と裏腹に、蛍は「ぁあ?」と気怠そうに応える。


「まあ確かにムカつくことに変わりはねぇが……ソラが周りの目を惹くなんて今に始まったことじゃねぇしな。見られたくはねぇけど、ソレはどんな服着てても変わんねぇし……まあ今回は露出が高い訳でもねぇから、百歩譲って許す」

「……はぁ、なるほど……(蛍殿にとってはデザイン性よりも、肌の露出度の方が重要って訳ですかぁ)」


 口に出さず、莉一が淡々と分析した。

 お互い、奏楽の着る服に蛍が一々口を挟むこと自体おかしいだろという考えは既にない。

 段々と莉一が奏楽と蛍の距離感に毒されている中、透は透で「なぁ」と奏楽の胸元を指差す。


ソレ、何入れてんだ?……ッイッタァ!!?」


 すかさず蛍が透の頭を殴り付けた。


「何すんだ、蛍!!?」


 痛む後頭部を押さえながら、涙目で透が吼えれば、蛍は「ぁ"あ"!?」とど低音ボイスで返す。


「一発で勘弁しただけ感謝しろよ。次ソラに変なこと聞いたら殺すぞ」

「意味わかんねぇわ!!ちょっと気になっただけだろ!!」

「否ぁ……流石に今のは透殿が悪いですわぁ。セクハラですよぉ」

「はぁあ!?今のが!?つか、何で莉一までそっち側なんだよ!!」

「……三人共、仲良しさんですね〜」


 いつもの光景であった。

 仲良く(?)喧嘩している三人を、微笑ましそうに見守る奏楽。

 だが透は殴られたことに納得いかないのか、「だって」と言葉を続ける。


「文化祭の女装で、胸まで作るって珍しいだろ!純粋に疑問に思ったって良いだろ、別に!!」


 透の必死の弁解も、蛍の前では無意味である。蛍は殴ったことを謝るでもなく、険しく表情かおを歪めていた。対して、話題の中心人物である奏楽は「あはは〜」と呑気に笑う。


「つい張り切っちゃいまして〜。女の子の格好するなんて初めてですし、ちょっとドキドキしますよね〜。でも別に何か入れてる訳じゃないんですよ〜」

「…………は?」

「ッソラ!!」


 慌てて蛍が奏楽の口を塞ぐ……が、時既に遅し。

「は?……え、は?」と見事に困惑してる透を放ったらかして、蛍は奏楽に「何考えてんだ」と顔を近付けた。


「秘密なんだろ!何バラそうとしてんだ!?」


 小声で怒鳴るという高度な怒り方をする蛍だが、当の奏楽は何処吹く風。


「透くん達ならバラしても良いかなぁって〜」

「だとしてもせめて小声で言え!他の奴らも居るんだぞ!!」

「確かにそうですね〜」


 納得した奏楽は、ちょいちょいと莉一と透を手招きした。

 素直に近寄り、奏楽の背丈に合わせるように二人が少し屈めば、奏楽は二人の耳元に口を寄せる。


「実はボク、本当は女の子なんですよ〜」


 アッサリとバラしてしまったのである――。

読んで頂きありがとうございました!!


ラブコメを意識しまくった番外編です。

連載開始する前から書きたかった話の一つです(本編書けや!)

書きたい番外編は割と沢山あって、いつ書こうか悩んでます。

奏芽や瑠依など、主要人物以外の話も割と裏設定沢山あるので、番外編で出していきたいです。その前に本編ですけど……。


次回は文化祭当日!是非お楽しみに!

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