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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜藤色の情報屋〜
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成功報酬

「……『依存』……?それがどう関係する訳?」


 質問の答えとは思えず、奏芽が聞き返す。

 蛍は昔の事を思い出しながら、「俺にとって」と話を続けた。


「ソラは……世界で一番大切な奴だ。つか、ソラだけが大切だ。ソラ以外の人間なんて、正直死のうが生きようがどうでも良い。俺はソラさえ笑って幸せに生きてくれれば、他はどうなろうと知ったことじゃねぇんだよ」


 奏芽は反応を返さない。

 ジッと蛍を見つめているだけなので、何を考えているのかもわからない。

 だが蛍は気にせず、フッと笑って「ソラも同じだ」と告げた。


「あいつにとっても、俺は唯一無二の存在で……何が何でも守りたい奴らしい。まああいつの場合、他の人間がどうでも良いなんて思っちゃいねぇだろうがな。超の付くお人好しだし。それでも、俺が居ねぇと生きていけないことに変わりはねぇよ」

「……随分な自信だね。言ってて恥ずかしくないの?」


 揶揄うように、奏芽が口角を上げる。

 しかし蛍は動じない。


「確かに昔の俺なら、そんな自信は持てなかっただろうな。ずっと側に居てくれるって信じられても、あくまでソレはソラが優しいからで、俺だけが特別じゃねぇって……でも、()()()()が起きりゃあ、嫌でもわかるさ」

「『あんな事』?」


 奏芽が復唱する。

 蛍は少しだけ目を伏せると、軽く息を吐いた。その瞳が映しているのは、目の前の奏芽ではない。何処か遠くの景色だ。


「……俺は昔、あいつの目の前で死にかけた……」

「!」

「亜人に襲われそうになったソラを庇って、な……当時ソラは()()()()()()()()()()()()……否、そんなこと考える間もねぇ程必死だったが……とにかく、それからだ。あいつが俺の血を見る度に、我を忘れて異能が暴走するようになったのは」


 奏楽が自分の血を見て暴走すると、蛍が気付いたタイミングは割と早かった。

 “疫病神”と蔑まれた不幸体質は伊達でなく、蛍はいつものように道で転んで擦り剥いて、膝から血を流してしまったのだ。常に一緒に行動している奏楽も、当然蛍が転んだ瞬間近くに居た。蛍の血を見て……気付けば異能が暴走していたのだ。

 幸いだったのはまだ子供の為、奏楽の異能効果範囲が狭かったことと威力そのものが弱かったこと、後は周りに人が殆ど居なかったことだろう。被害はゼロで済んだ。

 しかし二回目、三回目と暴走が起これば、嫌でも蛍はわかってしまう。

 奏楽が蛍という存在を失うことを酷く恐れていることに。目の前で死にかけたことが、奏楽のトラウマになってしまったことに。


「ソラにとって、俺は案外特別な存在だったって訳だ。気付いた原因がコレじゃなけりゃ、もっと喜べたんだが……。俺だけ、奏楽の異能の効果を受けないことに驚いてたよな?その理由も同じだよ。ソラは俺が傷付くことを一番恐れてる。『自分の力で大切な奴を傷付けたくない』って、本能で俺への攻撃を回避してんだよ、昔から」

「……それじゃあ、お前が奏楽の星力を吸い取れた理由は?」


 奏芽が問い掛ける。

 蛍は少し間を空けると、アッサリと口を開いて一つ、「知らねぇよ」と言い放った。


「いつの間にかできるようになってたんだ。ソラだって詳しい要因は知らねぇみてぇだったし」


 言いながら、蛍は昔の記憶を頭の中に思い浮かべる。

 八年程前だっただろうか。奏芽と同じように、何故お互いの星力を互いの身体に入れても何ともないのか、蛍は奏楽に質問した事があった。


 ……『何でソラちゃんの星力、僕の身体の中に入っても大丈夫なんだろ。ソラちゃん、何か知ってる?』

 ……『さぁ、わからないです〜。もしかしたら、ずっと二人で一緒に居るから、ボクの星力もほたちゃんの星力も同じだって、身体が勘違いしてるのかもしれないですね〜』

 ……『そんなことがあるの?』

 ……『知らないです〜』

 ……『…………(ソラちゃん、ホント適当だなぁ)』


 回想終了。

 まともな答えを、残念ながら蛍は見つけることができなかった。

 蛍は大きく溜め息を吐く。


「お前でも原因がわからねぇって言うなら、正直お手上げだな。その質問には答えられねぇよ」


 素直に言えば、奏芽も「そ」と納得してくれる。

 相手の問いには答えた。次は奏芽が応える番だ。

 蛍は「そんなことより」と真剣な表情を浮かべる。


「そろそろ良いだろ。今回の報酬、支払って貰うぜ」

「……『奏楽と梨瀬さんから隠されてる内容』と『きみが“β(メラク)”に覚醒する条件』……だったね。良いよ。日にちを改めるのも面倒だし、今教えてあげようか」


 奏芽は了承すると、非常に愉しそうに微笑んだ。

 堪え切れないらしく、クスクスと嗤い声を漏らしながら「何処から話そうかな」と吟味する。

 奏芽の反応の意味がわからず、蛍は眉根を寄せた。

 奏芽は「そうだなぁ」と人差し指を立てる。


「奏楽と梨瀬さんが君に隠しているのは一つの命令だよ。ガーディアンの最高責任者である雅様含め、星天七宿家全当主(梨瀬さん除く)からの命令……」

「…………」


 ゴクリと蛍が無意識のうちに唾を飲み込んだ。

 ガーディアンの最高責任者と星天七宿家の全当主から出された命令……只事でないことだけは確かである。

 奏芽は意味深に笑んだまま、「命令その内容は」と口を開いた。


「『奏楽ときみの縁を切れ』って、これだけ」


 嗤笑と共に告げる奏芽。

 どんな内容が飛び出すかと思えば、今更過ぎる話に、蛍は一拍遅れて「は?」と思いきり眉を顰めた。


「何で今更……他家の人間同士は関わっちゃいけねぇんだろ?それくらい前から聞いてるし、俺はソラから離れるつもりもねぇ。そうソラにも梨瀬さんにもハッキリ伝えてある。大体そんな下らねぇ命令こと、一々ソラ達が内緒にする意味がねぇだろ」


 春桜家の人間である奏楽と土萌家の人間である蛍が、プライベートな関係を築くことは許されない……それは蛍が土萌家に戻る時に、奏楽からも梨瀬からも言われたことである。

 上からその件で命令が出るのは理解できるが、だからと言って今更蛍に隠す理由がない。

 だがしかし、奏芽は「それね〜」と蛍の意見を肯定するかのようにウンウン首を縦に振ると、「梨瀬さんはともかく」と話を続ける。


「奏楽が隠したいのは命令の内容と言うより、命令が下される羽目になった経緯と自身の今の状況なんだよね」

「……どういうことだ」


 蛍が睨みを効かせる。

 奏芽は全く怯むことなく、ニコリと老若男女が見惚れる程綺麗に微笑んで見せた。

 そして一言。


「実は奏楽、上から今物凄く叩かれてるんだよね〜!」


 あっけらかんと言い放ったのであった。

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