先輩
「優里亜ちゃん、退院……」
「「「「おめでとう(ございます)!!」」」」
パァアンとクラッカーが鳴らされる。
莉一家のリビング。クリスマスや誕生日並に飾られたリビングには、大きな食卓の上にこれまた豪勢な食事がズラリと並んでいた。蛍と透が作った優里亜の好物達だ。
無事解毒も完了し、身体にも問題がなかったことで、優里亜は晴れて今日の昼に咲良病院から退院した。そのお祝いパーティーだ。
「皆、ありがとう!!」
造花で作った花束を手に、優里亜が満面の笑みを浮かべる。
ジュースの入ったグラスで乾杯すれば、パーティーの始まりだ。
「でも凄いね!莉一お兄ちゃんのお家、お嬢様のお屋敷みたい!!」
唐揚げを頬張りながら、優里亜がテンションマックスで莉一に話し掛ける。
莉一家の門の前から、優里亜はまるで少女漫画に出てくるような家の外観に瞳を煌めかせていた。
対する莉一は変わらぬテンションで「あぁ〜、まあそうですねぇ」と適当に相槌を打つ。
「無駄に広くて部屋数が多いと言う点では、貴族の屋敷と同じですなぁ。気に入ったなら、いつでも透殿と一緒に来て良いですよぉ」
「本当!?ありがとう!!」
優里亜がその場でピョンピョン飛び跳ねる。その姿に、莉一は小さく微笑んだ。
そんな一部始終を見て、蛍は「莉一」と意地悪く口角を上げる。
「お前、幼女にだけは本当優しいな」
「自分をロリコンみたいに言うの、止めてもらえますぅ?」
「おい、莉一。いくらお前でも優里亜はやらないからな!」
「そっちもそっちで、シスコン止めてもらって良いですかぁ?第一、狙ってないんでぇ」
男三人、やいのやいの言い合う姿を、奏楽と優里亜が微笑ましげに見つめる。
ふと、優里亜が奏楽の服の裾を引っ張った。奏楽が「どうかしましたか?」と優里亜と目線を合わせる。
「あのね……お兄ちゃんと友達になってくれて、ありがとう!」
「!」
ニコッと幸せそうに満開スマイルを見せる優里亜に、奏楽は一瞬キョトンとして、そしてすぐに釣られるようにフワリと笑んだ。
「こちらこそ、友達になってくれて、ありがとうございます!優里亜ちゃんとも仲良くなれて、ボクとっても嬉しいです!」
互いに「フフッ」と笑い合う二人。
その時、奏楽の胸ポケットでブザーが響いた。マナーモードとは言え、ブザー音は優里亜にも聞こえていたらしく、「電話?」と首を横に倒す。
奏楽は「はい」と苦笑いを返すと、立ち上がった。
「ちょっと失礼しますね」
「「「…………」」」
電話を手に、リビングから出て行く奏楽。その後ろ姿を先程まで騒いでいた蛍達が見遣る。
「奏楽に電話掛かってくるの、昨日からこれで五件目か?」
「えぇ、やけに頻繁に掛かってきますねぇ。まあ昨日、ただの伝説とまで言われていた『南星十戒』が現れたんじゃあ、上の人間が慌ただしくなるのは当然でしょうけどぉ」
「『生け捕りに』って言われてた亜人の複合体も結局殺されちまったしな。……蛍は何か、奏楽から聞いてねぇの?電話の内容」
莉一と透の視線が蛍へ向かう。
蛍はと言えば、神妙な表情で奏楽の出て行った扉だけを見つめていた。
どうやら透の問いにも気付いていないようなので、透から「蛍!」と再度呼び掛けられる。その声に蛍はハッとして、「何だよ」と不機嫌そうに透達へと振り返った。
「『何だよ』じゃねぇよ。聞いてねぇのかって、電話の内容。奏楽から」
「……聞いてねぇ。昨日はぐらかされたからな。言うつもりねぇんだろ。……」
言いながら、蛍は既に視線を透から扉の向こうへと移していた。
すると、電話が終わったらしい奏楽が「すみませんでした」と苦笑を溢しながら、リビングに戻って来る。すぐにいつもの調子で優里亜と楽しげに笑っていた。
「…………第一、ソラが俺に話してくれたことなんて……」
ボソリと、隣に居る莉一や透ですら聞き取れない程の音量で蛍が呟く。明らかに独り言だろう。その目はずっと奏楽にだけ向けられていた。
蛍の様子に、莉一と透は揃って違和感を覚える。しかし、奏楽と優里亜に名前を呼ばれ、三人は何事も無かったかのようにパーティーへと戻るのであった。
* * *
パーティーから四時間後。
ご馳走を食べ終え、皿や部屋の片付けも手分けして終わらせた後、一行は莉一家から解散した。
奏楽を春桜邸まで送り届け、現在土萌邸までの帰り道。
蛍は一人昨日のことを思い出していた。
〜 〜 〜
「蛍、奏楽から何か言われたか?」
数日ぶりに土萌邸に帰れば、いきなり蛍は梨瀬から当主の間へと呼び出された。そして開口一番コレだ。
脈絡が無さすぎて、何を聞きたいのか本来ならわかりかねるところだが、生憎蛍には一つ思い当たる節があった。
先程まで一緒に居た奏楽の元に、延々と掛かってくる着信音。
「何かあったのか?」と蛍が奏楽に問えば、「お気になさらず〜」と適当にはぐらかされた。奏楽が蛍に隠し事をする時は、決まって蛍に何らかの関わりがある時である。
このタイミングで梨瀬から「奏楽から何か聞かされたか?」という質問が来るということは、やはり奏楽への電話の内容は蛍と関係しており、梨瀬はその内容を知っている可能性が高いということだろう。
「……アイツは話さねぇよ。知ってることがあるなら、教えろ」
土萌家の当主に向かって、あいも変わらず偉そうな態度だ。
しかし梨瀬は気にすることなく「ほう」と愉しげに口角を上げる。
「話さんか……甘ったれた奴だな。奏楽から話さないのであれば、私も教えん。どのみち、いずれわかることだ。遅かれ早かれな。本来なら私から話すべき事だが、首を突っ込んで来たのは奏楽の方だ。その責任はしっかり取ってもらう」
「何の話だ?」
意味が理解できず、蛍が訝しむように睨み付ければ、梨瀬はフッと嗤った。
「独り言だ」
〜 〜 〜
昨夜の梨瀬との会話が蛍の頭に浮かんでは消えていく。
蛍の知らない蛍に関する事。奏楽と梨瀬は知っている。だがしかし、双方理由は違えど、蛍に話す気はないらしい。
……今も昔も、ソラは肝心な事を俺には話さない……。
歩く蛍の視線が自然と地面に下がっていく。
蛍が土萌の人間であった事も。星影高校の存在の事も。そして今回も。
もっと他にも、蛍の知らないところで、奏楽は蛍に意図的に隠している情報があるのだろう。
当然のことだが、ソレが蛍にとっては気に入らなかった。
……いつまで経っても、“保護対象”か……。
自虐気味に、蛍は一人嗤った。
その時だった。
「アンタが『土萌蛍』?」
「ッ!?」
急に降ってきた声に、蛍がバッと勢いよく首を振り向ける。
藤色のふわふわとした長髪に海を思わせる紺碧の瞳。幼さを残しながらも、気高さの感じる顔立ちは「整っている」などと言う簡単な言葉では表せそうもない。
とんでもない美少女だった。
突然現れた美少女にありありと警戒の色を浮かべる蛍に、美少女は満足げに微笑んだ。
その表情は何処となく見覚えがあり、初対面の筈なのにと、更に蛍は困惑する。
構わず、美少女は口を開いた。
「初めまして。北斗七星“δ”秋峰奏芽。……君の先輩だよ。次期北斗七星“β”君?」
読んで頂きありがとうございました!!!
漸く奏楽と梨瀬以外の北斗七星を出せました!!(当主集合の時、一応出てるけど)
これより新編開幕です!!
透編と違って、新編はずっと前から大まかな構成決まってるんで、透編のようにストーリーに悩むことはなさそうです笑その代わり、今まで以上に謎と重要設定と、戦闘シーンが盛り込まれる予定なので、執筆はこれまで以上に難航しそう……。付いて来れない人は置いていくジェットコースター級の文章書いてたら、すみません(土下座)
ここから他の北斗七星もちょくちょく出せていけたらなと思っています。ただ北斗七星はまじで戦力がレベチなので、活躍させるのはまだまだ先になりそう……。
次回もお楽しみに!




