表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
73/101

足手纏い

 凄まじい轟音が鳴り響き、既に瓦礫と化している町の残骸が更に粉々に打ち砕かれることで、辺り一面を土煙が覆う。


 ……“刺肢しし龍蛇りゅうだ


 奏楽のりゅうの刀身が十メートル近く伸び、グネグネと地面を抉りながら、月詠を追いかける。それを軽く躱しながら、月詠は奏楽との距離を一気に詰め、そのまま踵落としのモーションに入った。

 後ろにジャンプすることで避けた奏楽は、地面に足が着くと同時に地を蹴り、体勢が整っていない月詠の横腹目掛けて剣を振るう。

 しかし、これも身体を逸らすことで躱された。


「……な、どうなってんだよ、コレ……」

「流石は北斗七星と南星十戒のバトルですねぇ……」


 目で追えないレベルの高次元な攻防戦に、透と莉一が冷や汗を流す。

 とてもじゃないが、あの場に加勢することはできそうもない。それ程までに、自分達とは違う次元の闘いだった。


 ……ソラ……。


 蛍が固く拳を握り締める。額を流れて、汗が頬を伝っていった。


「……マズいな……」

「ッ!?蛍、見えてるのか!?」


 ボソッと呟かれた言葉に透が反応する。

 蛍は戦況から一瞬たりとも目を離すことなく「見るだけならな」と応えた。


「ソラ達の動きを追うことはできる。ただ実際付いて行けって言われたら、今は無理だ」


 奏楽の闘い方は幼い頃からずっと見てきている。追えなくなることはないだろう。だが、身体がそれに追いつくかと言われれば話は別ということだ。

 しかし、問題なのはソコではない。


「というか、マズいんですかぁ?今どんな状況ですぅ?」


 莉一が固い声で蛍に尋ねる。莉一に戦況はわからないが、蛍が言う程とは余程のことだ。

 透もゴクリと唾を呑み込む。


「……ちょっとだけだが押されてる。戦い辛そうにしてるから、原因は俺達だろうな」


 言いながら、蛍が顔を顰めた。

 奏楽の剣は伸縮自在で、軽く百メートルは余裕で伸びる。切れ味も抜群な上に、その刀身は竜の胴体のようにグネグネと自由自在に動く。だが、いくら凄い武器と言えど、それを思いきり使える条件はシビアで、周りに人が居れば、それだけで剣を振るうにも神経を削られる。相手が格下ならともかく、今奏楽が相手にしているのは亜人最強の一人である。

 圧倒的に分が悪かった。


「なら、ここから離れた方が良いんじゃ……助太刀できるならともかく、戦力になれないなら、せめて足手纏いにならないよう逃げた方が良いだろ」

「一理ありますねぇ」


 透と莉一が頷き合う。しかし、蛍がそれに待ったをかけた。


「逃げた方が良いなら、もうソラが先にそう指示してる。それを言わねぇってことは、離れられた方が逆に迷惑ってことだ」


 蛍の言う通りだった。

 まだ奏楽達は月詠の実力を知らない。どんな攻撃を仕掛けてくるかも判断できない状況で、勝手に離れられたら、それこそ奏楽は蛍達を護りきれなくなる。

 奏楽の考えがはっきりわかる蛍は、奏楽が自分達の為に苦戦している状況に「クソッ」と奥歯を噛み締めた。

 逃げることも戦力になることもできない。本当にただの足手纏いだ。


「なるほど。腐っても現役北斗七星。これは完全に育ち切る前に摘み取った方が良いかもね」


 奏楽の一撃を避けながら、月詠が笑う。その表情は余裕の一言だ。

 対する奏楽もヘラッと笑みを浮かべる。


「それはどうも〜。十戒に褒めて貰えるなんて、光栄ですね〜」


 不利な状況にも関わらず、奏楽は呑気なものだ。

 そんな奏楽の様子に、月詠は僅かに表情を顰める。


「へぇ、まだそんなに余裕があるんだ。ならこちらも、そろそろ準備運動ウォーミングアップを終わらせようかな」


 月詠の瞳が怪しく光る。

 背筋に悪寒が走ると、奏楽は表情を引き締め直し、構えを取った。気にせず、月詠はバサリと両腕を真横に広げる。


 ……“夜の行進(ブラッドディナー)


 瞬間、月詠の広げられた腕からカーテンのような暗幕が現れ、そこから無数の蝙蝠コウモリが飛んで来た。

 一々避けるのは手間だと判断した奏楽は、両腕を顔面でクロスさせ蝙蝠の大群に備える。

 しかし、そんな奏楽の対応に、月詠がフッと意味深に笑った。

 嫌な予感がして、咄嗟に奏楽はその場から大きくジャンプする。


「ッ!!」


 反応が遅れた所為で、一匹の牙が足を掠めたらしい。少し表情を歪める奏楽だが、これくらいで動けなくなることはない。

 だがしかし。


「ッ……!?」


 途端に走る激痛に、奏楽がバッと足に視線を落とす。見れば、ただの擦り傷だった傷口が、深い切り傷へと変化しており、ダラダラと血が流れていた。瞬時に足へ星力を込め、治癒術を使い傷を癒す奏楽。

 傷口が完全に塞がると、大量の蝙蝠を侍らせている月詠と向き合った。


「面白い術ですね。吸血鬼の特性ですか?」

「ああ。一度の咬み傷で、より多くの血を飲む為の術だよ。でも流石だね。少し掠めた程度じゃ、貧血にすらならないか」

「貧血には慣れてますから〜」


 若干噛み合ってない切り返しを奏楽がするのと、月詠が蝙蝠を放つのは同時だった。奏楽は剣を構えると、自分から蝙蝠の群れへと突っ込んでいく。


 ……“龍光りゅうこう斬魄ざんぱく


 奏楽が剣を振えば、ぐんぐんと刀身が伸びていき、針の穴を縫うように、蝙蝠達の胴体を一瞬にして真っ二つにしていった。蝙蝠だった物体は黒い影へと姿を変え、ボトボトと地面に落ちる。

 次はお前だとでも言うように、奏楽が刃の切っ先を月詠に向けた。

 しかし、容易に技を見切られたにも関わらず、月詠の余裕ぶった表情は変わらない。


「良いね。やはり簡単に壊せるか。でも、ここからが本番だよ」

「ッ!!」


 殺気に反応して、奏楽がその場から飛び退く。振り返った先の光景に、思わず言葉を失ってしまった。


「…………これはこれは……」


 漸く出た言葉と共に、冷や汗が奏楽の頬を伝う。

 奏楽の視界には、先程身体を真っ二つに斬られて崩れ去った蝙蝠の群れが、完全復活している姿が映っていた。


「不死身ですか……厄介ですね〜」

「安心しなよ。この子達が狙うのは()じゃない」

「?」


 奏楽が頭に疑問符を浮かべる。と、同時に月詠がニヤリと口角を上げた。

 パチンと月詠が指を鳴らす。

 すると蝙蝠達は奏楽から向きを変え、一斉に飛び出した。


「ッ!!」


 慌てて奏楽が駆け出す。

 蝙蝠の狙いは蛍達だった。

 普段の万全の状態ならともかく、先程まで926番と戦って、体力も星力量も底が尽き掛けの三人に、半不死身の蝙蝠達を倒す余力はない。


 ……“龍流りゅうりゅう演舞えんぶ


 何とか蝙蝠達より先に三人の元へ間に合った奏楽は、蛍達を背に庇い剣を振った。

 まるで龍が宙を舞うかのような剣筋に、アッサリと蝙蝠達が叩き斬られていく。しかし、影になった蝙蝠は数秒足らずで元の姿に戻り、何度でも襲いかかって来た。


「ッ……!」


 流石の奏楽も表情に焦りが滲んできた。相手の蝙蝠は無尽蔵でも、奏楽の体力には限りがある。と言うより、体力に関してだけ言えば、他人ひとより劣るくらいだ。星力量と天才的な戦闘センスで誤魔化しているだけである。その為、防御一辺倒の戦闘は、奏楽の一番苦手とする戦いだった。


「ソラ!!」


 蛍から心配の声が上がる。

 奏楽は奥歯を食い縛った。


 ……何とかしないと……ほたちゃんに心配をかける訳には…………こうなったら……。


 奏楽は短く息を吐くと、攻撃を受け流している剣はそのままに、地面へと片膝を着いた。

 到頭体力切れかと焦る莉一と透に、勝ち誇った表情を浮かべる月詠。

 だがしかし、奏楽の目は死んでいなかった。


 ……“土竜もぐら


 奏楽が素早く唱える。

 途端、ゴゴゴと地響きが鳴り、地面が揺れ始めた。


「な、何だ!?」

「地震?」


 状況を飲み込めていない透と莉一。

 月詠も言いようのない不安を感じて、眉を顰めた。


「皆、しっかり踏ん張っててくださいよ!」


 奏楽が蛍達に横目で告げれば、その次の瞬間、大地の揺れが一層酷くなり、奏楽の目の前の地面が大きく盛り上がっていった。

 ただ盛り上がったのではない。

 龍だ。土でできた龍が蝙蝠達の前に立ち塞がっていた。


 ……“土砂津波どしゃつなみ


 土の龍が蝙蝠を呑み込むように、首を地面に倒していく。まるで土砂災害の図だ。

 半不死身と言えど、大地に呑み込まれればそう簡単に復活できないようで、奏楽は肩で呼吸しながら「どうですか?」と月詠に笑みを向けた。

 対する月詠は両目を見開き、信じられないとでも言うように固まっていた。


「……驚いた。まさかこれ程まで星力量を湛えているとは……正直、今の技を僕本体に打たれていたら、無事じゃ済まなかったかもね。まあ、それだけ星力量を削る技だ。連発はできないだろうし、そもそも使いたくすら無かったんだろうけど……()()というのは、ちゃんと打っておくべきだね」


 そこで言葉を区切ると、月詠はニコリと綺麗に微笑んだ。


「これでジ・エンドだよ」


 奏楽の死角で、ユラリと影が揺らめく。月詠が予め避けさせていた、最後の蝙蝠である。

 奏楽はまだ気付いていない。


「ッ!!」


 蛍の身体が誰よりも先に反応した。疲れ切っていた足に力が宿り、奏楽目掛けて一直線に駆けていく。


「ソラッ!!!」

「!?ほたちゃッ……!!」


 蛍に押し倒されるように抱き締められて、漸く奏楽も蝙蝠に気が付いた。

 どんどんスピードを上げて、二人へと突進してくる蝙蝠。このままでは、後一秒もしない内に、蛍の身体が食い破られてしまうだろう。



「ほたちゃん!!」



 瞬間、肉と骨が千切れる音の後、血飛沫が上がった――。

読んで頂きありがとうございました!!!


大変遅くなってしまい、申し訳ございません!!


知ってる方ももしかしたら居るかもしれませんが、今別の小説に掛かり切りなので、『星に唄う』の投稿ペースが一ヶ月に一話程度になってしまうことをお詫びします。

すみません!!

出来るだけ、早く次話を出せるよう頑張ります!

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ