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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
58/101

感謝と謝罪

「……ほんとに全員死なせなかった……」


 亜人が工場から出ていってすぐに、透がボソリと溢す。

 宣言通り、奏楽は優里亜も透も、亜人の男ですら、全員無事助けてしまった。

 惚けた表情で透が奏楽を見つめると、視線に気付いた奏楽が、透に向かってニコリと微笑んだ。

 老若男女が見惚れる笑みだ。透も思わずドキッと頬を染める。

 構わず、奏楽は透の方へと歩いていった。


「透さん、怪我……大、丈…………」


 言い終わる前に、奏楽の身体がグラリと傾く。


「お、おいッ!」


 反射的に透が腕を前に出すが、その前に蛍が倒れた奏楽の身体を片腕で受け止めた。

 蛍の腕に寄り掛かりながら、奏楽は荒い息を繰り返す。


「……電池切れ、か……ったく、無茶ばっかりしやがって……」


 苛立ち混じりに蛍が呟いた。蛍は奏楽の身体を横抱きにすると、透を見下ろす。


「おい、動けんなら俺に付いて来い」

「は、はぁ?何処にだよ」

「怪我の手当てする必要があんだろうが。このままテメェ放ったらかしで帰ったら、後でソラに文句言われんだよ」

「……」


 上から目線かつ、ぶっきらぼうな物言いだが、助けて貰った手前、透は渋々立ち上がった。多少ふらつくが、動けない程ではない。


「じゃあ、莉一ん家行くか。莉一に連絡……は、後で良いな。行くぞ」

「お、おう」


 そうして、蛍と透は工場を後にした。



 *       *       *



「ハァ!……ハァ!……ン……」


 苦しそうに荒い息を繰り返す奏楽を蛍がソッとベッドの上に降ろす。

 ここは莉一の家の、奏楽と蛍に与えられた部屋だ。

 血の気の引いた真っ白な顔に、酷い高熱。本来なら真っ先に病院に連れて行くべきだが、そんなことをすれば、次期当主として見栄を張ろうとする奏楽は、更に無茶と無理を重ねるだけだろう。

 蛍は心配と自分に対する怒りの混ざった面持ちで奏楽を見つめた。

 そんな蛍と奏楽の様子を見て、透は「な、なあ」と遠慮がちに蛍に話しかける。


「ソイツ、何か病気か?具合が悪いとか?」

「…………」


 透からの質問に、蛍は思いきり眉間に皺を寄せた。透は何も知らないが、蛍からすれば「誰の所為だと思ってる」という怒りしか出てこない。

 まあ正確に言えば、星力が操れないことによる身体補助の停止は透の所為ではなく、優里亜を助ける為の奏楽の我儘だが……。勿論、蛍にそんなことは関係ない。

 先程の亜人とのこともあって、全ての怒りの矛先を透に固定していた。

 そういう訳で皮肉たっぷりに蛍は「誰の所為だと思ってんだ?」と口を開いた。


「ソラは元々身体が弱いんだよ。それを今までは星力でドーピングして誤魔化してただけだ。それをどっかの誰かさんの妹を助ける為に、自分の血を使って血星療法しやがった。それをすれば、しばらくの間星力が操れなくなって、立つことすらままならない身体に戻ることがわかっていながらな」

「……そ、それってつまり……」

「ソラが今こうなってんのは、テメェの妹を危篤状態から救う為だ。まあ、応急処置みたいなもんらしいから、妹の解毒の方は済んでねぇけど……今日会って何も思わなかったか?毒に侵されてる割には元気過ぎただろ?テメェの妹」

「ッ!!」


 蛍の言葉に透はハッとする。

 先程は優里亜の身柄が心配でそれどころではなかったが、言われてみれば確かに最後病院で会った時より格段に回復していた。

 そしてもう一つ別の事に気が付いた。


「星力が操れないって……立つこともままならないって……そんな状態でコイツは優里亜を助けに工場に来たのか?誘拐の報告を聞いて来たんなら、相手の亜人がどれだけ強いか知ってたんだろ?いくら北斗七星っつったって、そんな状態でまともに闘える訳ねぇのに……何でそこまでして……」


 透が戸惑いの声を上げる。

 そもそも奏楽はあの工場で亜人と接している間、一度たりとも自身の体調不良さを感じさせなかった。今ベッドで横たわっている姿が本来の奏楽の姿だと言うなら、どれだけ無理をしていたのだろうか。

 奏楽のメリットがわからない。そこまでして貰う理由もない。

 透の心情は蛍にもわかるところがあるらしく、蛍はムスッとした表情から一転、フッと優しく微笑んで奏楽を見つめた。


「何でって……決まってんだろ?コイツが超の付くお人好しだからだよ。ま、言い換えりゃあ、ただの馬鹿だな」

「……ば、馬鹿って……」


 バッサリ言い切る蛍に、透が言い淀む。

 とそこで、「奏楽殿ぉ?蛍殿ぉ?」と優里亜を病院まで送り届けていた莉一が帰ってきた。


「ちょっと蛍殿ぉ?工場でのゴタゴタ片付いたなら連絡くらいしてくれますぅ?危うく工場に戻るところだったんですけどぉ?」

「あ?どうせ星力で居場所くらいわかるだろ?」


 詫びれもなく言い放つ蛍。自分勝手なのは今に始まったことではないので、莉一は溜め息と共に謝罪を求めることを諦めた。


「奏楽殿、体調悪化してますねぇ。まあ、当然と言えば当然ですが……。病院行ったついでに、奏楽殿が行った血星療法について色々と聞いてきたんで、ちょっと良いですかぁ?」


 莉一が言えば、蛍は「おう」と身体の向きを奏楽から莉一へ変えた。

 病人の側で色々話すのも身体に悪いかと、蛍は莉一と共に部屋から一旦出る。勿論部屋から出る際、透に「ソラに手ェ出すんじゃねぇぞ」と残すのを忘れない。

 蛍に「過保護か」と心の中だけでツッコんだ透は、二人が完全に出て行ったのを確認して、部屋に置いてある椅子を枕元に持ってくる。持ってきた椅子に腰掛けると、眠る奏楽へと向き直った。


「…………」


 奏楽を見つめたまま、透が口を開けては閉じてを繰り返す。言いたいことはあるが、何から話せばいいのかわからない。

 数分、沈黙が部屋を支配した。


「………俺は……」


 透がようやくゆっくりと語り出す。


「……お前に謝る資格も、礼を言う資格も……俺にはないかもしれない……お前に言われた通りだった……」


 透は昨日のことを思い出す。奏楽は透に向かってハッキリ「復讐は復讐しか生まない」と「怨むべき相手を見失った暴力は、更なる禍いしか招かない」と教えてくれた。

 それを無視した挙句、優里亜を危険な目に遭わせ、なのに自分の力で助けることすら出来ず、危うく優里亜も透自身も死ぬところだった。

 それを奏楽は救ってくれた。

 透は奏楽に酷いことを言った自覚がある。怒られて、嫌われて当然だと思っている。にも関わらず、奏楽は自分の身を削って透の妹である優里亜を助けてくれた。


「……怖かった……優里亜を失うんじゃないかって……すっげぇ、怖かった……」


 透が膝の上で両手を握り締める。


「俺が、間違ってた……俺が悪かったんだ……ホントに……本当に……ごめん……」


 透は顔を俯けた。

 そして、再び奏楽を見つめる。


「それと……優里亜を助けてくれて、本当にありがとッ!」


 最後は嗚咽に変わったが、心からの透の言葉だ。

 数秒透は顔を床に向けて、肩を震わせる。


「……別に良いですよ……」

「ッ!!」


 聞こえる筈のない声に、バッと透が顔を上げる。

 先程まで苦しそうに瞼を下ろしていた奏楽が、目を開け、柔らかく微笑んでいた。

 その額には汗が少し滲んでいる上、頬も赤く染まっているので、恐らく熱はまだ下がってないのだろう。それでも、さっきまでの死人のような青白い肌よりかは余程人間らしい。

 透は慌てて立ち上がった。


「か、身体は大丈夫なのか!?」

「ちょっと、まだ怠いですけど、平気ですよ。心配してくれて、ありがとうございます」


 弱々しく奏楽が笑いかける。

 その表情かおに、透は再び胸が締め付けられるような罪悪感を感じた。


「…………悪かった……お前が正しかった……俺は、最低の兄ちゃんだ……」


 透が俯きながら謝る。

 奏楽は一瞬キョトンとすると、布団から両手を出して透の右手を包み込んだ。


「優里亜ちゃんから伝言です。『今度病院にお見舞いに来て欲しい』だそうですよ」

「…………」


 何故今、奏楽がそんな話をし始めたのかわからず、透は困惑した表情を浮かべる。気にせず、奏楽は続けた。


「何が正解で、何が間違いとかは、人それぞれなので一概には言えませんけど……本当に透さんが最低なお兄さんなら、優里亜ちゃんは会いたいなんて思いませんよ?」

「ッ!!」


 奏楽の言葉に、透は目を潤ませる。

 奏楽はフッと目元を緩めた。


「透さんの怪我が完全に治ったら、一緒に優里亜ちゃんのお見舞いに行きましょう?」

「……ああ。ありがとう、春桜」

「『奏楽』です」


 すかさず奏楽がツッコむ。

 透は少し面食らうと、フハッと軽く吹き出して笑った。


「ありがとな、奏楽」


 初めて見せた透の笑みに、奏楽も嬉しくなって微笑み返す。


「はい、透()()

大変お待たせ致しました!!読んでいただき、ありがとうございます!!


ようやく次話投稿……先が思いやられますね(誰の所為だよ!)


次回も気長にお待ちを!

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