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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
57/101

解毒完了

 ドクンドクンと、透の心拍が上がる。身体を巡る血液が沸騰しているかのように熱く感じる。

 亜人の血を舐めて数分。

 透は息を荒くして、必死に異能をコントロールしようと踠いていた。


「ハァ!ハァ!ハァ!」


 その間にも、亜人は出血しているのもお構いなしで奏楽と蛍に飛び掛かっている。


「おい!解毒剤はまだかよ!?」


 蛍の怒号が飛んだ。

 しかし、蛍に一々返答している余裕は透にはない。


 ……クソッ!俺の異能だろう!?言うこと聞けよ!暴走するな!もう……二度と!!


 透は目を瞑って、心を落ち着かせようと深く息を吸った。

 自身の血液中を巡っている亜人の血……その中に含まれている薬物に意識を集中させる。


 ……“分析・分解(プレパレイション)



 薬物の成分が分解、分析され……そしてその薬物を打ち消す為の抗体が透の中で生成される。

 問題はここからだ。

 今できた抗体を解毒剤として再現し、その上で亜人に摂取させなければならない。


「ハァ!ハァ!……」


 額に滲んだ汗が透の頬を伝って床に落ちる。


 ……今まで、望んで毒を再現、生成できた試しは一度もない……だけど頼む!今だけで良いからできてくれ!


 透が心の中で必死に唱える。


 ……“解毒調合ミクスベノム


 透が自身の右手に全意識を集中させる。すると、透の右手からフヨフヨと形の定まらない液体のようなものが薄ら見え始めた。


 ……頼む!頼む!頼む!!


 液体が徐々に手の平分の大きさになり、不安定だった形が綺麗な球体へと変わっていく。色も段々、無色から水色へと濃くなっていった。


 ……“解毒液ベノム・オフ


 透が小さく唱えた。


「ハァ!ハァ!ハァ……できた……」


 透はすぐにナイフを手に持つと、できたばかりの解毒剤をナイフに纏わせた。


「ハァ!ハァ……北斗七星!コイツを使え!!」


 叫ぶなり、透はナイフを奏楽へ投げる。奏楽は近くの水鏡を足蹴にして、空中でナイフをキャッチした。


「ありがとうございます、透さん」


 奏楽は空中で亜人と向き直ると、ナイフを構えた。


「ほたちゃん!」

「わぁってるよ!」


 叫ぶと同時に、蛍は手で印を結んだ。すると、十枚の水鏡が一斉に奏楽と亜人の周りに飛んで行く。奏楽は地面に着く前に、蛍の水鏡を蹴った。

 何枚もの水鏡を目で追えない速度で経由して、亜人の注意を逸らしていく。


 ……ココ!


 奏楽が亜人の背後へと回る。

 亜人が遅れて振り返るが、もう遅い。

 奏楽は右手のナイフを真っ直ぐに、亜人の傷口に向かって差し込んでいた。


「グッ!……ァアア!!」


 すぐにナイフから手を離した為、カランとナイフが床に落ちる音が響く。

 亜人は頭を両腕で抱えながら、苦しそうに喘いだ。

 その様子を不安げな表情で見守る奏楽。

 しばらくのたうち回っていた亜人だが、ピタリと動きを止めた。


「ハァ!ハァ!ハァ!……お、俺は……ウッ!」


 どうやら正気を取り戻したらしい。傷の痛みに顔を顰めるが、先程までの狂気は綺麗さっぱり消えていた。

 奏楽はホッと胸を撫で下ろすと、亜人へと近付いていった。


「すみません。ボクの力不足で、こんな大怪我を負わせてしまって……星力が操れたら、すぐに回復させたんですけど……大丈夫ですか?」


 優しく話しかけながら、手を差し伸べる奏楽。亜人は奏楽の手を取ることはしなかったが、それでも出会ったすぐよりは落ち着いた反応を見せていた。


「な、何で俺を殺さなかったんだ?」


 亜人か奏楽に尋ねる。

 奏楽からは敵意も殺意も感じない。実際、中毒反応から助けて貰った上に生かして貰った。

 その為最初のように、吠え掛かることはしないが、だからこそ意味がわからなかった。

 何故貴人……それも北斗七星である奏楽が亜人である自分を助けたのか。

 訝しむ亜人だが、奏楽は変わらずニコニコと微笑むだけだ。


「そんなの決まってるじゃないですか〜。殺す必要ないからですよ〜」

「はぁあ!?お前は北斗七星だろう!?亜人を殺すのが仕事じゃねぇのか!?」


 亜人が意味不明とでも言いたげに叫ぶ。それに対して奏楽は「違いますね」ときっぱり言い放った。


「ボクらのお仕事は、亜人を殺すことじゃありません。この国に生きる人達の命を守ることですよ〜。そして、君もこの国に生きる命の一つです。亜人だろうと凡人だろうと……そんなちょっとした違いなんて関係ないですよ〜」


 ふわふわと告げる奏楽。真剣なのだろうが、口調の所為でいまいち真面目なのかわからない。

 それでも、だからだろう。

 奏楽が気負ってない喋り方をするからか、亜人の男も肩の力が抜けていた。


「……なら……お前言ってたよな?……俺の友達ダチを助けるって……それも本当なのか?本当に助けてくれんのか?」


 亜人が奏楽を真剣な眼差しで見つめる。

 奏楽は「はい」と笑って頷いた。


「助けます。ボク、嘘()いたことないですから」


 フフンと奏楽が胸を張る。

 そんな奏楽を横目で見ながら、「嘘吐いてんじゃねぇか、現在進行形で」と蛍は心の中だけでツッコんだ。

 当然、亜人の男もそう簡単に信じてくれる程甘くはない。


「……じゃあ、証拠を見せろよ。お前ら貴人が俺の友達ダチを……亜人を助けてくれるって証拠を見せろよ!俺を信じさせてみろ!」

「証拠ですか〜……難しいですね〜。逆に何をすれば信じてくれるんですか?」


 今度は奏楽が亜人に質問する。

 助ける証拠なんて、本当に助ける以外にある訳がない。だが、それは信じて待ってもらうこと前提だ。

 何をすれば亜人は信じてくれるのか。

 奏楽の疑問に、亜人は何か思いついたようにニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「なら土下座しろ!友達ダチを傷付けたこと、俺に詫びろ!」

「っな!」


 亜人の提案に反応を示したのは蛍だ。


「ふざけんな!何でソラがテメェなんかに土下座しなきゃなんねぇんだよ!!するなら、七海透コイツだろ!!」


 ビシッと人差し指で透を指す蛍。透は透で「亜人に土下座……」と信じられないとでも言いたげな表情を浮かべていた。

 貴人はその名の通り、どの人間よりも優れた貴い存在であると自負している者が多い。それが人間以下……亜人ばけものに土下座など、貴人の誇り(プライド)が許さない。北斗七星ともなれば尚更だ。

 勿論、蛍は奏楽が貴人だから、亜人に土下座するなんてあり得ないと言ってる訳ではないが……。


「どうだよ、できるもんならやってみろ!」


 亜人がたかを括る。

 奏楽はニコリと笑った。


「土下座すれば信じてくれるんですね〜」

「は……?」


 亜人が間抜けな声を漏らすのと、奏楽が床に膝を着くのは同時だった。

 頭を下げて「すみませんでした」と奏楽が躊躇なく謝る。

 瞬間、工場内の時が止まった。

 蛍も透も、言い出した張本人である亜人も唖然とした表情のまま固まっている。

 最初に動いたのは蛍だ。


「……な、何してんだよ!!ソラ!!」


 怒鳴ると共に、蛍が奏楽の身体を引っ張り上げる。


「お前が謝る必要ないだろ!?何でお前はいつもいつもッ!!」

「だって、土下座すれば信じてくれるって、あの人が言ったんですもん」

「だからって馬鹿みたいに素直に土下座する奴があるかよ!!」


 未だに驚愕のあまり動けない亜人と透をそっちのけで、奏楽と蛍がギャーギャーと言い合う。


「な、何で……そこまで……」


 亜人が呟く。

 奏楽はキョトンと首を傾げると、「そんなことよりも」と話を変えた。


「土下座したんで、信じてくれますよね?」

「……」


 無邪気に告げる奏楽をスルーして、亜人は信じられないモノを見る目で奏楽を見つめた。

 そして、胸から込み上げてくる何かを誤魔化すように、顔を俯かせる。


「……本当に友達ダチを助けてくれんのか?殺さねぇのか?」

「?だから、最初からそう言ってるじゃないですか〜」


 あっさり言い放つ奏楽に、亜人がハッと顔を上げる。真意を確かめる為に奏楽の目を真っ直ぐ見つめるが、奏楽は目を逸らすどころか優しく笑い掛けてくる始末だ。

 亜人はグッと拳を握り締めた。


「……三日だ」

「へ?」

「三日後、この時間に、俺の友達ダチを無事ここに連れて来い!もし連れて来なけりゃ、今度こそ七海透を殺す!」


 言うだけで言うと、亜人は奏楽からそっぽを向く。だが奏楽はパァアっと顔を綻ばせた。


「信じてくれるんですね!」

「……」


 亜人は応えない。それでも奏楽は嬉しそうに「ありがとうございます」と微笑んだ。


「約束、絶対に守ります!」

「フンッ!その言葉、忘れんな」


 そうして亜人は工場から出て行った。

読んで頂きありがとうございました!


それとお知らせです!ちょっとばかし、書きたい話が別にできてしまったんで、『星に唄う』の投稿ペースが遅くなるかもしれません!

最低でも一ヶ月に一話は出す予定です!

勝手な都合ですみません!!


次回もお楽しみに!

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