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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
53/101

ヒーローは遅れてやって来る

「優里亜ッ!!!」

「お兄ちゃん!!」


 コウモリの亜人に言われた廃工場へと辿り着いた透は、扉を蹴破るなり優里亜の名を叫んだ。そして工場内の様子を確認する。

 廃工場と言うだけあって、機材などは何もなく埃っぽい。ただ工場の奥に、一体の亜人と、手足を縛られた優里亜が居た。

 優里亜の姿を視界に入れると、透は一気に殺気を露わに、亜人に飛び掛かった。

 しかし……。


「グアッ!!」

「お兄ちゃんッ!!」


 優里亜の悲鳴が工場内に響き渡る。

 透の拳が届くより、亜人の鋭い爪が透の身体を切り裂く方が早かった。勢いのまま吹き飛ばされた透は、何とか壁に激突する前に床に着地する。だが、ダメージが大きいのか、グラリと上半身が傾きかけた。


「……ッな……!?」


 透の頭の中に疑問符が浮かび上がる。

 目の前の亜人のことを透は覚えていた。一昨日、透が怒りのまま襲った、二人組の亜人の片方だ。その時、この亜人はこれ程の強さを持っていなかった。

 急なパワーアップに戸惑いながら、透はフラフラと立ち上がる。

 そんな透を見て、亜人の男は「ハハハ」と高笑いを溢した。


「ハハハ!!良いザマだ!!七海透!!俺の友人ダチに手を出したこと、死ぬ程後悔させてやる!」

「……復讐か……だ、たら……優里亜は関係ないだろ!!優里亜に手ぇ出すんじゃねぇよ!!」


 透が吠える。だがしかし、「はいそうですか」と聞く相手ではない。

 亜人は透に向かって走り出すと、思いきり透の横腹に蹴りを入れた。思わず、「ガハッ」と空気の塊が透の口から飛び出す。今度こそ壁に強く激突した透に追い打ちをかけるかのように、亜人の男は透の頭を鷲掴みにすると、何度も透の頭を壁に打ち付けた。その度に鮮血が舞い、透からくぐもった声が漏れる。


「お兄ちゃんッ!!!」

「……ウッ……優、里……」


 頭の強打により、視界がグラつく。

 息も絶え絶えに透は優里亜の名を呟いた。

 亜人が手を離すと、重力に従って透の身体が床へと落ちる。


「ハッ、ハハハッ!その程度か!?七海透!……まあ良い。まさか、これくらいで俺の復讐が終わると思ってねぇよなぁ?」

「?……殺す、なら……さ、さと、殺せ!」


 透が亜人を鋭く睨み付ける。

 しかし、亜人の男はニヤリと意味深に笑うと「テメェを殺すのは後だ」と視線を優里亜へ向けた。

 一気に透の背筋に悪寒が駆け抜ける。


「お、おい!ま、さかッ!!」

「先にテメェの妹を殺して、テメェの犯した罪の重さを思い知らせてやる!」


 透の嫌な予感は的中した。

 痛みで全く力の入っていなかった透の身体に、憤怒による力が込み上げてくる。

 グッと立ち上がった透は、ナイフを袖から取り出した。そして、ボロボロの身体で亜人へと突進する。

 亜人はそれを余裕で躱すと、もう一発透の腹に蹴りを入れた。

 勢いよく後ろに吹き飛ぶ透。

 その様子を尻目に、亜人はゆっくりと優里亜へと近付いていった。


「……ま、待て……優里亜に、ッ手を、出すなッ!……」


 ガクガクと震える四肢に鞭打って、透が立ち上がる。だが、もう亜人は優里亜のすぐ側まで来てしまっていた。


「……あ、ぁあ……お兄ちゃ……」


 自分を見下ろしてくる亜人に、優里亜の身体は自然と恐怖で震えてくる。その様子を見ながら、亜人はハッと笑った。


「七海透……精々死ぬ程苦しみやがれ!!」


 亜人が爪を尖らせて、腕を高く振りかぶった。


「やめッ……やめろォオオオオ!!!!」



 ……“水面鏡すいめんきょう



 凛とした声が三人の鼓膜を震わせると、追って鏡が割れるような音が響いた。


「「「…………」」」


 亜人も透も、優里亜も、何が起こったのかわからず、呆けた表情を浮かべる。

 わかったのは、水膜のようなものが突如現れ、亜人の攻撃から優里亜を守ったということだけだ。


「はぁあ?一撃で水鏡を割るとかふざけてんのか」

「流石春桜家の精鋭を、たった一人で倒しただけのことはありますねぇ」


 苛々した声と気怠げな声が続けて上がる。声の方へと三人が振り向くと、透が「お前ら……」と目を見開いた。

 ニコリと、透の視線の先に立つ、奏楽が微笑む。


「お待たせしました〜。北斗七星“α(ドゥーべ)”春桜奏楽、只今参上です〜」

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