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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
52/101

使命

 

「『けっせい療法』?」


 あれから奏楽を担いで、急いで莉一の家に戻って来た蛍は、家に着くなり奏楽をベッドに寝かせると、事の顛末を莉一に話した。奏楽はまた何をやらかしたのかと愚痴る蛍に、思い当たる節があったらしい莉一が告げたのが『血星療法』だった。


「それって、馬使って治療するアレか?」

「そっちの血清じゃありませんわぁ。『血星療法』……簡単に言えば、星力をより濃く集めた箇所の血液を患者に与えて、患者の中に在る亜人の星力と相殺させるっていう治療法ですなぁ。まあ、治療というより応急処置ですけどぉ。血をあげた人間は酷い貧血になるのと、数時間星力が操れなくなるのが特徴らしいですよぉ」

「……つまり、またコイツは性懲りも無く、他人に自分の血をあげたってことだな?」


 莉一の説明に思いきり眉を顰める蛍。

 昨日透の家で「次はない」と言っていたが、やはり奏楽には無意味だったようだ。

 わかりきっていたことなので、蛍は溜め息と共に、今度から奏楽一人で傷病人の元に行かせないことを固く誓う。


「じゃあ、ソラは今、星力操れねぇから、本来の身体の弱さに戻ってるってことで良いか?」

「ええ。恐らくですけどぉ……まあ、本当のところは奏楽殿に直接聞いた方が良いのではぁ?」

「聞いて素直に言う奴なら苦労しねぇがな」


 相変わらず表情かおを顰めたまま告げる蛍だが、奏楽の目尻に生理的に浮かんだ涙を掬う指は慈愛に満ちている。


 ……どちらも難儀な性格してますねぇ。


 蛍にも奏楽にも呆れながら、莉一が心の中だけで呟いた。

 素直じゃないのは、どう考えてもお互い様だ。

 まあ、一々二人のことにツッコみを入れる程、莉一は馬鹿ではない。「それはそうと」と莉一は話題を変えた。


「ソレ……奏楽殿の携帯ですよねぇ。先程から鳴ってますけどぉ……」

「あ?」


 莉一が『ソレ』と指差したのは、枕元に置かれた奏楽の携帯電話だ。寝る時邪魔だろうと、蛍が奏楽のポケットから取り出して枕元に置いていたのである。

 マナーモードにしてあるので音は出ていないが、確かに画面が光り、ブザーによる振動音が微かに響いていた。

 しかし、奏楽に出させる訳にはいかないので、諦めて電話が切れるのを蛍は待つ。だが、中々止む気配のない携帯に、蛍の方が諦めて、溜め息を吐きながら「はい、春桜です」と電話に出た。


『奏楽様!……ん?奏楽様……ですか?』

「ソラは今手が離せねぇ。代わりに出てんだ。用件だけとっとと言え」


 控えめに言っても、代わりに電話に出る人の態度ではないが、向こうも蛍の無礼さに構ってられる程余裕のある状況ではないらしい。非常に焦って声で「奏楽様にお伝えください」と叫んだ。


『一体の亜人の襲撃により!優里亜ちゃんを誘拐されてしまいました!!』

「「!!?」」


 思わぬ報告に、蛍も莉一も目を見開く。


「は……どういう……「電話変わりました。奏楽です」」


 とそこで、いつの間にか目が覚めていたらしい奏楽が、蛍の手から電話を引き抜いた。思わず「おい、ソラ」と声を上げる蛍だが、奏楽は蛍をスルーして、声だけ取り繕い「詳細を話してください」と、電話の相手に告げた。


『奏楽様……それが……一体の亜人が突如病院を襲撃し、応戦した警護兵を全員倒して、優里亜ちゃんを連れ去って行きました。何処に行ったかはわからず、現在捜索中です。如何なさいますか?』

「……警護兵が全員やられちゃったんですか?」


 信じられないと言うように奏楽が復唱する。

 警護兵は所謂警備員のことだ。咲良病院に入院しているのは、亜人に襲われる可能性の高い者達が多いので、春桜家の精鋭十人の貴人が二十四時間、交代で警護している。

 それがたった一体の亜人に全員倒されるなど前代未聞だ。

 奏楽は少し表情を歪めると、息を小さく吐いて纒うオーラを変えた。


「わかりました。捜索は中断して構いません。優里亜ちゃんのことはボクが何とかします。代わりに怪我人の手当てと、病院の警護を強化しておいてください。本家への連絡もお願いしますよ」

『かしこまりました』


 そこで電話は終わった。

 携帯を自身の胸ポケットに入れ直すと、奏楽はフラつきながらもベッドから起き上がる。それを止めたのは蛍だ。


「おい、ソラ!何考えてんだ!?まさか、優里亜を助けに行くとか言い出すんじゃねぇだろうな!?」


 奏楽の肩を強く掴んで、ベッドに押し戻そうとする蛍。

 とてもじゃないが、星力も操れない、立つのがやっとな状態の奏楽を外に出すことなどできはしなかった。

 しかし奏楽は止まらない。


「すみません。お説教なら後で聞くんで、この手離してもらって良いですか?」

「ふざけんな!!そんな身体で何するってんだ!?そもそも、亜人が何処に行ったかもわからねぇのに、何処探すつもりだよ!!」

「居場所ならわかります」

「はぁあ!!?」


 蛍が声を荒げる。

 何故奏楽に会ったこともない亜人の居場所がわかるのか。

 意味がわからない蛍だが、奏楽は淡々と「透さんが凄いスピードで移動してますからね」と付け加えた。

 その言葉に蛍もピンと来る。

 現在優里亜を誘拐しようと考える奴は無差別誘拐でもない限り二択だ。一方は優里亜に毒を盛った亜人。もう一方は、透に捕まった亜人達の知り合いの可能性だ。

 透がこのタイミングで移動しているのだとしたら、優里亜を誘拐した犯人は後者なのだろう。

 それならば、透の星力を辿り、追った先に亜人と優里亜が居るという訳だ。


「居場所はわかる訳か……。なら俺と莉一で行ってきてやるから、ソラはここで寝てろ。今のお前じゃ、闘うことすらできねぇだろ」


 代打案を出す蛍。だがしかし、奏楽は首を横に振った。


「春桜家の精鋭十人を一人で倒す相手に、ほたちゃんと莉一くんだけじゃあ、絶対に勝てませんよ」

「そんなもん、ソラが行っても同じことだろ!!お前今、星力操れねぇんだぞ!?異能すら使えねぇんだぞ!?そんな状態で、どうやって優里亜を助けるつもりだ!?」


 蛍の発言は正論そのものだったが、奏楽が首を縦に振ることはなかった。

 力の全く入っていない手で蛍の腕を掴むと、奏楽は強い意志を宿した瞳で蛍の目を見据えた。


「心配してくれて、ありがとうございます。ボクは大丈夫ですよ。これでも“北斗七星”ですから」


 フワリと力なく微笑みを蛍に向ける奏楽。

 奏楽のこの表情かおに蛍は弱かった。

 それに蛍は知っている。こうなったら、奏楽はテコでも考えを曲げないことを。

 蛍は後頭部をガシガシと掻くと、大きく溜め息を吐いた。


「……せめて俺と莉一も一緒に付いて行く。無茶は絶対にしない。それが条件だ」


 結局最後は蛍が折れるのであった。

 いつもの光景に、後ろでは莉一がやれやれと肩を竦めている。

 奏楽は蛍に「ありがとうございます」と礼を告げると、キリリと表情を変えた。


「それじゃあ……行きますか」

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