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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
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番外編 お泊まりの初日

 夕方六時半過ぎ。

 それぞれに着替えや荷物を持って、莉一の家に再集合した蛍と奏楽は、改めて莉一から家の案内を受けていた。


「ここがお風呂……ここがトイレ……最後にここの二部屋がお二人の客室ですわぁ」


 流石別荘と言うだけあって、その広さや部屋の数は一般家庭の数倍だ。これならソファや寝台が幾つあったところで不思議はないよなと、心の中だけで蛍が呟く。


「中にあるものは好きに使ってくれて構いませんので……」

「ニャー!」


 とそこで、莉一の言葉を遮って、ニャイチが莉一の肩から奏楽の胸へと飛び付いた。嬉しそうにニャイチを抱き寄せた奏楽は「どうしたんですか〜?ニャイチさん」とニャイチの顔を覗き込んだ。


「ニャー!ニャー!」

「うわぁ、本当ですか〜!でも……嬉しいお誘いですけど、ボクは……」


 満面の笑みを浮かべるもすぐに困ったように眉根を下げ、言い淀む奏楽に、蛍が「どうした?ソラ」とすぐさま反応する。


「ニャイチさんが『今夜一緒に寝よう』って誘ってくれたんですよ〜。でも今夜は亜人の人達の看病がありますし、寝るつもりなかったんでどうしようかなぁって……」

「ハァア!?」


 奏楽が言い終わる前に、毎度お馴染みの蛍の怒声が飛ぶ。

「また始まった」と呆れる莉一を無視して、蛍は続けた。


「お前寝るつもりなかったのかよ!?」

「まあ一応?」

「『一応』って何だよ!?折角俺が居んのに、今寝ずにいつ寝んだよ!?亜人の看病なんざ、日中だけで充分だろ!!莉一の家に泊まってる間は、絶対に引き摺ってでも布団に連れ込むからな!!」

「否否、ちょっと待ってくださぁい!?」


 全く予想だにしなかった発言をする蛍に、奏楽が反応する前に、莉一が慌てて「自分の家で何するつもりだ」と待ったをかける。


「『好きに使え』とは言いましたけどぉ、イチャつくならご自分らの家でやって頂けますぅ?」

「はぁ?何言ってんだよ、莉一」


 莉一の言っている意味がわからず、蛍が首を傾げる。これには、莉一も同じく「はぁ?」と首を横に倒した。


「「??………」」


 しばらく二人の頭上にハテナが舞う。

 二、三分後、ようやく莉一の言いたいことが理解できた蛍が「否、違ぇよ」と弁明を始めた。


「ソラは……俺が居ねぇと眠れねぇんだよ」

「はい?」


 謎に謎を重ねられて、余計に疑問符が頭から湧き出る莉一。構わず蛍は説明を続ける。


「必ず悪夢を見る所為で、一睡もまともに眠れねぇ。でも俺と一緒に居る時だけは悪夢を見ねぇってことで、泊まる時は必ず一緒に寝てんだよ。まあ、それ以外は本当に一睡もしてねぇから、偶に学校の休み時間に寝かせる時もあるけどな」


 蛍から教えられて、莉一は「ああ、だからあんな寝方を」と蛍に姫抱きにされたまま眠っていた今朝の奏楽に合点がいった。ただイチャついていただけかと思えば、深い理由があったらしい。


「大変そうですなぁ。まあ、その割には隈がありませんけど……元々ショートスリーパーなんですぅ?」


 他人事のように感想を漏らした後、莉一が興味本位で奏楽に尋ねる。すると奏楽は「いやぁ〜」と苦笑いを溢した。


「これはその……星力使って誤魔化してるんですよ〜。治癒術の応用で、身体を無理矢理元気にしてるだけですね〜。ボク、元々生まれ付き身体が弱いんで、星力で身体能力の補助をするのが癖付いちゃいまして……」

「ソレ……かなり星力量食らうんじゃないですかぁ?」

「ははは……まあ、星力量ならいっぱいありますんで、何とかなってますよ〜」


 初めて知った奏楽の事実に、莉一は唖然とする。

 星力量の桁が他と違う奏楽だからこそできるわざだ。

 蛍は当然知っていたのか、顔を顰めたまま口を閉ざしている。


「……蛍殿が過保護な訳は、ただただ心が狭いってだけじゃなかったんですねぇ」

「誰の心が狭いって?」


 うっかり溢れてしまった失言に、「おっと」と口を押さえると、莉一は「それじゃあ」と話題を変えた。


「用意する部屋は一つで大丈夫ですかぁ?」

「おう。むしろ、そっちの方が有難ぇ。別々の部屋だと、監視がめんどくせぇからな」


 頷く蛍に、莉一が「『監視』って」とドン引いた声を上げる。奏楽も奏楽で「何で監視されるんですか」とキョトンとしていた。

 そんな奏楽の疑問に対して、蛍は「気付いてねぇとでも思ったのか」と一つ声を荒げる。


「お前、明日七海透の家に行くつもりだっただろ」


 誤魔化しは通じないとでも言うように、ジロリと奏楽を睨む蛍。対する奏楽は「おや、バレちゃいました?」とあっけらかんと笑っていた。


「凄いですね〜、ほたちゃん。何でわかったんですか?」

「アホか!それぐらいすぐわかるわ!お前、アイツに『また明日』とか言ってただろ!」

「そう言えばそうですね〜。うっかりしてましたわ〜」


 あっさり言い放つ奏楽に、本当に隠す気があったのかと疑問が浮かぶ莉一だが、蛍にとってはそんなことどうでも良い。


「わかってると思うが、絶対ダメだからな?明日は一日、ここに居ろ!良いな?」

「それは無理ですね〜」


 これまた軽い口調で拒否する奏楽。

 当然素直に頷くとは思っていなかった為、大して驚きはしないものの、蛍は「はぁあ!?」と青筋を立てた。


「明日は仕事で優里亜ちゃんの容態をに、咲良病院に行かないといけないんですよ〜。なので、一日中莉一くん家に居ることはできませんね〜」


 奏楽がフワフワと説明する。

 思ったよりも数倍まともな理由に、流石の蛍も溜飲を下げた。


「まあ仕事なら……つか、そんな話聞いてねぇぞ?お前、どうやって病院に行くつもりだよ」

「勿論迎えが来てくれますよ〜。終わった後も、車で莉一くん家まで送ってくれます」


 それを聞いて蛍は安心した。

 迷子にならないということもそうだが、車で送迎されるというなら、途中で透のところへ寄り道することもないだろう。


「それなら俺は要らねぇな。……絶対に春桜家の人達から離れんじゃねぇぞ?」

「わかりました〜、ほたちゃんママ〜」

「誰が『ママ』だ!!?」


 ――そして『莉一家お泊まり会』の一日目が過ぎていったのであった。

読んで頂きありがとうございました。


ちょっとした重要設定のお披露目と、前話と次話の繋ぎの話です。

本当はこの部分は前回の話と合体させる筈だったのですが、流石に文字数が多過ぎるということで番外編にしました笑。

番外編にした為、普段の倍、文章がお粗末になってます。ご容赦ください笑。


次回もお楽しみに!!

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