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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
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正常に戻った部屋

 亜人達へ奏楽の血を与えてから約五分。枯渇寸前だった星力量が回復したお陰で、亜人達の顔色は少し元に戻ってきた。しかし、身体の痙攣や酷い発汗など、中毒症状らしきものは治っていない。


「やはり何かしらの毒が盛られてますねぇ。体力が奪われたら、比例して星力量も減っていくので、解毒しない限り命の危機状態に変わりはありませんよぉ」


 亜人達の様子を見てから、莉一が少し強張った表情で奏楽に視線を向ける。亜人達が回復して少しは落ち着いたものの、それでもまだ奏楽から発せられる雰囲気は相手に威圧感を与えていた。


「……解毒剤は透さんを起こして聞くしかないですね。下手に薬なんて処方できませんし……莉一くん、透さんの魂戻してもらっても良いですか?」

「ちょっと待て。今戻したら、絶対暴れるだろ。縄か何かで縛ってから戻した方が良い」


 莉一が「ええ」と頷く前に、蛍が待ったをかける。蛍の言うことも最もなので、莉一は「ですねぇ」とこれに賛同した。


「では縛るもの探してきますかぁ。これだけの亜人を縛る縄があるなら、予備ぐらいあるでしょぉ」

「じゃあ、俺は向こうの部屋探してくる。ソラ、お前は念の為、ここでコイツ見張っとけ」


 奏楽がコクリと首を縦に振るのを見届けて、蛍と莉一はそれぞれ部屋から出て行った。

 一人透の自室に残された奏楽は、天井に目を向けて、それから瞼を閉じる。


 ……ほたちゃんに心配かけちゃいました。莉一くんにも気を遣わせちゃって……頭がすっごく冷えてます。今、怒ってるんですよね、多分……駄目ですね〜、こんなんじゃ。誰にも心配かけないように、もっとしっかりしないと……。


 心の中で呟くと、奏楽は一度深呼吸した。そしてゆっくり目を開けて、改めてグルリと部屋の中を見回す。中央の机に目を留めると、机の側へと移動した。

 奏楽は机の上にある、色々と殴り書きした紙を数枚手に取るが、目を通してみても殴り書き過ぎて解読はできない。だが箇条書きになっているどの文も、最後には矢印が引かれ、その後にバツ印が書かれてあった。


 ……何かの研究結果みたいですね〜。状況だけで判断するなら、毒物の研究か亜人の生態研究か……ん?


 とそこで、奏楽は机の引き出しに気がついた。

 もしかしたら、亜人達に使われた毒薬がわかるかもしれないと、奏楽は迷わず引き出しの取っ手に手をかける。

 中に入っているモノを一目見て、奏楽は目をパチクリと瞬かせた。


「これ…………」



 *       *       *



「……ん………?」


 透の目が薄らと開かれる。すぐ視界に飛び込んできたのは、淡い新橋色。


「目が覚めましたか?」


 まだ頭がしっかり働いていないらしい透のぼんやりとした顔を、奏楽が覗き込んでいた。


「大丈夫ですか?直前の記憶はありますか?」


 見る者に安心を与える笑みを浮かべて尋ねる奏楽は、すっかりいつもの様子だ。

 だが透にとっては、そんなこと関係ない。

 莉一に魂を取られる直前の記憶を思い出した透は上半身を起こそうとして、自身の身体が布団に括り付けられていることに気が付いた。


「なっ!どういうつもりだ!?何で俺が縛られてるんだよ!?お前ら一体何が目的だ!?」


 縄を解こうと必死に身を捩る透だが、布団越しに縛られているお陰で上手く脱出できない。代わりにキッと鋭く奏楽達を睨み付けるが、当の奏楽はどこ吹く風。「まあまあ」と透を宥めるだけだった。


「聞きたいことも言いたいことも色々あると思いますけど、まずはボクから良いですか?」


 尋ねながらも相手の許可を求めていないのか、透が反応を見せる前に奏楽は「透さん」と話を続けた。


「この人達に使った毒薬の解毒剤、何処にありますか?」

「………………は?…………」


 丸々一分固まっていた透から間抜けな声が漏れる。

 何かおかしな事を言ったかと首を傾げる奏楽に対して、透は信じられないモノを見る目で恐る恐る口を開いた。


「……『この人達』ってまさか……この亜人達のことじゃないよな?」

「?他に毒を盛った相手が居るんですか?」


 質問に質問で返す奏楽。

 それが意味するのは、奏楽の言う『この人達』が、透の部屋で吊し上げられている亜人達であるということだ。

 それを理解すると、透は意味がわからないとでも言いたげに眉を顰める。


「何の為に亜人どもに解毒剤を渡すんだよ」


 透が固い声で尋ねた。むしろ何処に質問する程の謎があるのだろうと、逆に奏楽の方がキョトンと小首を傾げる。


「??勿論、助ける為ですよ?中毒症状が残ったままじゃ、いくら星力量を回復させても、また危篤状態に戻っちゃいますから」


 奏楽が答えれば、透はハッとしたように首だけ動かして部屋に吊るしてある亜人達の様子を確認した。


 ……星力量が回復してる……?


 奏楽が本気で亜人達を助けようとしているのだと知った透は、次第に縛られている身体をワナワナと震わせ始めた。


「……冗談だろ……『助ける』?……あんな亜人ばけものを?……」

「透さん?」


 ブツブツと突然漏らし始めた透に、奏楽が心配するような声をかける。だが、透は憎しみの込もった瞳で奏楽を睨み付けると、「ふざけんな」と叫んだ。


「ふざけんなよ!お前!!お前、“北斗七星”だろ!!?何で北斗七星が亜人なんかを助けようとしてんだよ!?人喰いの化け物なんだぞ!!」

「「「…………」」」


 凄まじい怒気に、三人はそれぞれ透の言葉を黙って受け止めた。

 貴人や凡人で亜人を憎んでいる者は少なくない。むしろ圧倒的に多い。透が亜人を憎んでいてもおかしくはないし、憎むべき亜人てきを助けようとしている奏楽に憤るのも無理はないだろう。


「……透さんは、亜人が嫌いですか?」


 少しの間が空いて、奏楽が静かに問う。それに対して透は「当たり前だろ」と吠えた。


「逆に何処の世界に『亜人が好きだ』なんてイカれた奴が居るんだよ!?アイツらがどれだけ何の罪もない人達の命を奪ってると思う!?なのに何でお前は!!そんな亜人なんかを助けようとしてんだ!?北斗七星は国を守る英雄なんじゃなかったのかよ!!」

「……英雄なんて大それたモノかどうかはわかりませんけど……少なくともボクは手の届く範囲で、誰にも傷付いて欲しくないだけです」

「だったら尚更!!人を傷付けるだけの亜人なんか、さっさと殺した方が良いに決まってるだろ!!」


 亜人に対する憎悪に満ちた目が奏楽を貫く。奏楽は哀しげに眉根を寄せると、「透さんが」と話を続けた。


「亜人をそんなに嫌うのは……優里亜ゆりあちゃんに関係してますか?」

「ッ!!」


 急に奏楽から出た名前に、透が身体を硬直させる。誰なのかわからず揃って頭に疑問符を浮かべる蛍と莉一を放ったらかしにして、奏楽は更に続けた。


「透さんを一目見た時から、ずっと誰かに似てるなって思ってました。その上『七海』っていう名字……まさかなぁとは思ってたんですけど、さっき机の引き出しの中を見た時、見つけちゃったんですよね。優里亜ちゃんの写真。透さんは優里亜ちゃんのお兄さんですね?」

「…………」


 応えない透。沈黙が意味するのは肯定だろう。

 先程と打って変わって何も喋らなくなった透に代わり、蛍が「おいソラ」と口を開く。


「何でコイツの妹のこと知ってんだよ」

「ん〜?……ああ、そう言えば言ってませんでしたね〜。咲良病院に運び込まれた例の子の名前が『七海ななみ優里亜ゆりあ』ちゃんって言うんですよ〜。お兄さんが居るとは言ってましたけど、まさか透さんとは思ってなくて、写真見つけるまで半信半疑でしたけどね〜」


 あっけらかんと言い放つ奏楽に、蛍は「ああ、だからか」とあることに納得した。


「なるほどぉ。つまり、透殿は妹殿の中毒症状を治す為に、亜人達を捕まえて実験していたという訳ですかぁ。亜人をそんなに嫌っているのも、妹殿に危害を加えたからですねぇ」

「…………」


 莉一が告げる。

 透は無視を貫くが、否定しないのは何よりの証拠だ。


「部屋に戻ったら、ソラがいつの間にか機嫌直してるもんだから、何があったのかと思えば……怒る必要がなくなったわけだ……」


 蛍が誰にも聞こえない声量でボソリと呟いた。

 私利私欲の為に他者を傷付ける奴を奏楽は許さない。だが透の目的は妹を救う為だった。奏楽の怒りが治った訳である。

 蛍は一つ息を吐いた。

 何にせよ、透の妹についての情報は朗報だ。


「なら丁度良いな。元々俺達はお前に、妹の身体を蝕んでる毒の解析と解毒剤の開発を手伝ってもらおうと思って来たんだ。妹救いてぇなら、手を貸せ」


 相も変わらず、上から目線で話す蛍。だが、透は「……は……」と目を見開いたかと思うとギリッと奥歯を食いしばった。


「……冗談じゃない……!亜人なんかを助けようとする奴らに手を貸すわけないだろ!!……俺が優里亜の兄と知って!優里亜が亜人に何されたかも知って!……それでもあんな化け物救おうなんて言う奴らと!!」

「優里亜ちゃんを襲った犯人と、ここに捕まっている人達は別人ですよ?」


 頭に血が昇っている透の発言を、奏楽が冷静に訂正する。

 奏楽が助けたいと思っているのは、優里亜に毒を盛った亜人ではなく、何の罪がないにも関わらず、ここで吊し上げられている亜人達だ。


「ただでさえ復讐は復讐しか生まないのに……怨むべき相手を見失った暴力は、更なる禍いしか招きませんよ?」


 あくまで淡々と諭す奏楽だが、今の透には効かない。

 ハッと鼻で笑うと、透は変わらぬ瞳で奏楽を睨み付けた。


「見失ってなんかない!……『別人』?……亜人は亜人だろ!!コイツらだって、今まで何人食ってきて、いつ人を襲うかわからない化け物だ!!……『更なる禍い』?……亜人と貴人の争いなんて今に始まったことじゃないだろ!!」

「……おいソラ。もう良いだろ。コイツに何言っても無駄だ。さっさと帰ろうぜ」


 全く意見を変えない透に、遂に見限ったらしい蛍が奏楽に視線を向ける。蛍の後ろでは、莉一も「蛍殿の言う通りですねぇ」と透のことを諦めていた。そんな中、奏楽は透のことを何とも言えない眼差しで見つめていた。表す言葉が思い付かないが、一番近いのは同情かもしれない。

 中々動こうとしない奏楽に、蛍が「おいソラ」と再度呼ぶ。


「……そうですね。今日は帰りましょうか。……莉一くん、莉一くんの研究所って十八人入るくらいの広さあります?」

「えぇ、ありますよぉ。ただ、寝台は足りないんで、奏楽殿の方で用意してくださいよぉ」

「わかりました。あ、透さん。この紙類貰っていきますね〜。解読できたら、解毒剤作りに役立つかもしれませんし」

「うわっ!汚ねぇ字だな。こんなもん、持って帰っても解読できねぇだろ」

「速記文字ですよ〜。読める人には読めるらしいですね〜」


 テキパキと帰る準備を整えていく奏楽達に、ポカーンと間抜けな表情で三人の会話を聞いている透。

 あまりの切替の早さについていけなかったが、我に帰ると「おい、ちょっと待て」と透はツッコみを入れた。


「まさか亜人達を連れて帰るつもりか!?」

「そうですよ〜。透さんは解毒剤用意してくれるつもり無いんですよね?放って帰るわけに行きませんから、ボクらが預かります」

「勝手なこと言ってんじゃねぇよ!!そんな横暴許されると思ってんのか!?」


 透が吠える。透の意見も最もなわけだが、相対しているのは他の誰でもない奏楽である。

 奏楽は目をパチクリと瞬きさせたと思うと、ニコリと微笑みを浮かべた。


「はい、許されますよ〜。だってボク、“北斗七星”ですから。亜人を捕らえて文句言われる筋合いはないですね〜」

「なっ!…………」


 あまりの職権濫用に言葉が出ない透。その間、帰る準備を着々と進めていた蛍と莉一も、奏楽の発言に改めて「イイ性格してるな」と苦笑いを浮かべた。


「ほたちゃん、全員分の縄切れました?」

「おう。けど、どうやって運ぶんだ?十八人を三人だけで運ぶのは無理があるぞ?」


 所狭しと透の部屋で横たわっている十八人の亜人達を横目で見ながら、蛍が思案する。

 浮かんでくるどの案も、三人だけで十八人一気に運び切ることはできそうになかった。

 しかし奏楽は自信があるのか、「それなら大丈夫ですよ〜」とフワフワ告げる。


「ボクが異能で運びます。ちょっと目立ちますけどね〜」

「ソレ、絶対ちょっとじゃねぇだろ……」


 蛍のツッコみをスルーして、奏楽は「さぁて」とその辺に放られていた縄を手に異能を発動させた。


 ……“龍縄鎖りゅうじょうさ


 すると、何の変哲もなかったただの縄が龍を形どった鎖となる。

 奏楽が龍型の鎖を軽く横に振ると、鎖はどんどんと伸びてていき、まるで生き物のようにグッタリと横たわっている亜人達の身体を持ち上げていった。

 確かにちょっと目立つだけでは済まない事態である。


「帰る準備完了ですね〜。それじゃあ帰りましょうか」

「あ、おい……!!」


 透が呼び止める。だが言い終わる前に、奏楽がいつもと変わらぬ優しい笑みで透の方へと振り向いていた。


「透さんの縄は十分後、勝手に切れますから安心してください。また明日です〜」


 言うが早いか、透が何か言い返す間もなく、奏楽達三人は正常に戻った部屋を後にしたのであった。


読んで頂きありがとうございました!

日を跨いで書いたので、所々文の流れが突飛かもしれません。また後日改稿するかも……(それを言った場合の改稿率は今のところ零だけど)


次話もお楽しみに!

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