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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
45/101

それを法律では不法侵入と言う

「…………」


 眉間に皺を寄せたまま透が奏楽達三人を睨み付ける。そんな透の視線を気にせず、奏楽は「それから」と手の平の先を蛍に向けた。


「こっちの人間不信拗らせちゃった守銭奴が……」

「土萌蛍……だっから!その紹介止めろっつってんだろ!ソラ!!」

「で、こっちの眼鏡の人が宮園莉一くんですね〜」

「無視すんな!!」


 今日も今日とて、しっかりと夫婦漫才を繰り広げる二人だが、勿論当人達はソレが漫才であることに気付いていない。お決まりのように蛍のツッコみを華麗にスルーしながら、奏楽は「そう言えば」とマジマジ透の顔を見つめた。


「透さんの顔何処かで見たことあるような気がするんですよね〜」

「ッ!?」


 一気に透と顔を近付ける奏楽。突然目の前に美麗な顔面がアップになれば、誰しも頬を赤らめるもの。透も生理的に頬を染めれば、無意識に一歩後ずさった。しかし空いた空間を埋めるように、更に距離を詰めてくる奏楽。互いの鼻がくっ付きそうな程、二人の距離が近くなる。

 そんな奏楽と透の様子を見て、顔を顰める者が此処に一人。


「んん〜、確かに何処かで見た気が……『七海』……もしかして透さんって……」

「ちっけぇよ!!!」


 奏楽が言い終わる前に、怒号を上げながら蛍が奏楽の肩を掴んで、二人の距離を引き離した。そのまま奏楽の両肩を掴んだ蛍は「あのなぁ」と、透放ったらかしで説教を始める。


「何度も言ってんだろ!!俺以外の人間に不必要に近付くんじゃねぇよ!!百歩譲って会話と握手は許容できるけどなぁ!今のは流石に近過ぎだ!!適切な距離感わからねぇなら、今度から首輪とリード付けるぞ!!?」

「ほたちゃんは本当に過保護な心配症ですね〜。そんなんじゃあ、将来禿げちゃいますよ〜?」

「そう思うなら、心配かけさせんな!!」

「否否〜、現役北斗七星を心配するなんて、ほたちゃんくらいなんで〜、ボクに非は全くありませんね〜」

「そういう心配をしてんじゃねぇよ!!!後、テメェにも非はあるわ!!」


 ギャーギャーと言い合う二人。

 莉一はそんな二人を横目で見ながら、透の家が住宅街から離れていて良かったと、心の底から安堵した。こんな人目も憚らず、外で恥ずかしい痴話喧嘩をしている人間が知り合いだなどと思われた日には、莉一はしばらく家に引き篭もる。

 そして二人の言い合いに不満がある人物は莉一だけではない。

 透はだんだんと顔を顰めていくと、二人の会話を断ち切るように、扉を右手でガンと思いきり叩いた。

 急な大きい音に、奏楽も蛍も一旦口を閉ざして音の発信源である透へと視線を向ける。


「おい、人のこと脅しておいて、いい加減にしろよ?用がねぇなら、さっさと帰れ!」


 ギロリと怒りの滲んだ透の瞳が奏楽達を睨み付ける。そんな透の態度が気に食わない蛍は「ぁあ?」と低い声を出すが、蛍が透に喧嘩を売る前に奏楽が「おっとそうでした〜」と呑気な声を上げた。


「勿論用件があって、透さん家に来たんですよ〜。聞きたいこととお願いしたいことがありますね〜」

「じゃあ、さっさとその用件とやら聞かせろ。んで、とっとと……」


 ……「帰れ」と透が続けるよりも先に、「でもその前に」と奏楽が目の色を変えた。


「ッ!!!」


 透が目を見開く。一瞬の内に開いた扉の僅かな隙間に片足を滑り込ませた奏楽が、ロックチェーンごと勢いよく扉を開け放ち、家の中に目にも止まらぬ速さで入ったのだ。慌てて奏楽を止めようとする透だが、それに気付いた蛍が透を背後から羽交締めにして動きを封じる。


「クソッ!離せ!!俺に触んじゃねぇよ!!家の中に勝手に入るな!!!」

「すみませんねぇ。(奏楽殿のことですし)悪い様にはしないんで、しばらく眠って頂けますぅ?」


 必死に蛍の拘束を振り解こうと抵抗する透に、莉一が気怠げに言い放つと、透の顔面前に莉一特製の睡眠スプレー缶を取り出した。そのまま躊躇なく引き金を引く莉一。缶の中身が容赦なく透の顔に直撃した。ちなみに蛍は予め顔を背けて、ガスを吸わないように息を止めている。


「うおっ!……ゴホッ!ゲホッ!……何するッ……ゴホッ!」

「ご心配なくぅ。すぐ眠くなりますよぉ」

「ゴホッ!ゲホッ!……ゴホッ!」


 しばらく咽せる透。外の為、催眠ガスはすぐに空気中に散って消えていったが、莉一の催眠スプレーは即効性で強力だ。

 一呼吸でも煙を吸い込めば、すぐに眠れる代物である……筈なのだが。


「ゴホッ!ゴホッ!……ふざけやがって……おい、この煙綺麗なんだろうな!?」

「「…………」」


 眠るどころか、眠気すら感じているようには見えない透の様子に、蛍も莉一も唖然とする。

 透の質問を無視して、蛍は「おい」と莉一を睨んだ。


「どうなってんだ?全然眠ってねぇじゃねぇか。失敗か?」

「そんなわけないでしょぉ。ちゃんとテストはしてますしねぇ」

「じゃあ、効果が薄いんじゃねぇの?」

「それもあり得ませんねぇ。象でも一瞬で眠らせる代物ですよぉ?人間相手だと、下手すればあの世送りですわぁ。まあ、自分が下手することはありませんけどねぇ」

「じゃあ何でコイツは眠ってねぇんだよ!?」


 蛍が苛つきながら聞けば、莉一はふむと言った様子で透を見つめた。その間にも透は蛍の腕の中で「おい、聞いてんのか」「さっさと離せ」と暴れている。流石はエリート一組の一人である。若干、蛍の顔が歪んできた。このまま拘束し続けるのは不可能だろう。

 そう判断した莉一はやれやれと言う風に一つ息を吐くと、「これはやりたくないんですけどねぇ」と呟いて透の胸辺りに右手を置いた。


 ……“魂隔離たまはなしぜん


 莉一が小さく呟くと、右手が光を放ちながら透の胸の中に沈んでいく。一分程で透の胸から右手を取り出した莉一は、顔を苦しげに歪めながらも、しっかりとその手に光り輝く物体を持っていた。これこそ透の魂である。

 己の魂を全部取られてしまった透は、ガクリと意識を失った。


「ウオッ!急に意識がッ……莉一、何したんだ?つか、大丈夫かよ、お前」

「ハァ!ハァ!……“魂隔離たまはなし”……生物から魂を切り離すわざです……ハァ!ハァ!……本来はちょっとだけ分けて貰う程度ですが、気絶させる為には全部取らないといけないんでねぇ……ハァ!ハァ!……馬鹿みたいに星力量食うんですよぉ……」


 言葉通り、星力量を殆ど使い切ってしまった莉一は荒い息を繰り返している。

 意識を失った透の身体を担ぎ上げた蛍は、莉一の右手にある透の魂に目を向けた。


「気絶させたのは良いが、元に戻せんのか?ソレ」

「ハァ……ハァ……えぇ。元に戻すだけなら簡単ですし、いつでもできますよぉ」


 少し息が整ってきたらしい莉一が、言いながら右手をクルリと回するように握りしめる。すると、莉一の右手の中にあった透の魂が何処かに消えてしまった。

 莉一は手に入れた魂をいつでも出し入れ可能なのである。下手に持ち歩くよりも安心安全だし、手が塞がらないので非常に便利だった。


「よし、じゃあ家ん中入るか。ったく、ソラの奴一人で先々行きやがって……」


 ぶつぶつと文句を言いながら、家の中に入る蛍。その後に続きながら、莉一も透の家に入るのであった。


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