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星に唄う  作者: 井ノ上雪恵
天璇進行編〜群青の調毒士〜
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怪しい青年

「……ボクが寝てる間に、そんなこと話してたんですか?」


 午前の授業を全て終え、只今昼休み。それぞれの昼食を机に広げて、蛍と莉一は朝の会話の内容を、すっかり目が覚めた奏楽に話していた。

 春桜家の問題である為、一人で解決しようと思っていた奏楽は、知らない間に莉一まで巻き込んでしまったことに目をパチパチと瞬かせる。

 しかし、それはそれとして気になることもあった。


「莉一くんの言う不登校になってる人って、どんな人なんですか?」


 奏楽が星影に転校してきた初日から気になっていたことである。

 奏楽と蛍を除けば、今年の一組の人数は五人の筈だ。しかし、転校初日から今日まで、奏楽は四人しか見たことがない。残りの一人はどうしたのだろうと常々思っていたが、どうやら不登校だったらしい。不登校でも一組をキープできる程優秀で、今回の問題に適任であるという人物はどんな人なのだろうと、奏楽は莉一に視線を向けた。

 だが対する莉一は両手の平を天井へ向けて肩を竦める。


「さぁ?お話しした通り、一回もクラスに来たことがないんで、人柄どころか顔すら知りませんわぁ」

「えっ」


 莉一の返答に、思わず驚きで言葉が詰まる奏楽。

 人柄も顔も知らないと言うことは、殆どの情報を持っていないということだ。

 では何故莉一は、その殆どのことを知らない人物を推薦したのか。

 首を傾げる奏楽に、莉一は続きを話した。


「ただ小学校から有名だったらしいんで、元同級生の方から色んな情報が出回って、あることないこと噂になってるんですよぉ。その噂じゃ、『毒殺にしか興味がない悪魔みたいな男』だとか『ソイツの持ち物に触れただけで呪われる』とか、まあ色々言われてるわけですが……確かな情報ことは、毒に関する異能を持ち、その異能を彼がまだ制御し切れてないってことですわぁ。不登校の理由も、異能が暴走して周りの人間を毒殺しないようにする為らしいですよぉ」

「「……」」


 莉一の説明を受けて、奏楽と蛍は数秒固まってしまった。

 どうやら、思っていたよりも噂ではヤバい人物らしい。その上、頼みの異能は確かに今回の問題には適任かもしれないが、制御できていないなら戦力外となる可能性が高い。

 蛍がやっぱりソイツに頼るのは止めようかと頭の中で考える中、奏楽は非常に楽しそうに笑顔を浮かべていた。

 今の説明で笑顔になる意味がわからず、唖然とする莉一に対して、蛍は嫌な予感を察知したのか、ゲッと顔を顰めた。


「おい、ソラ?ソイツに頼るのは……」


「止めよう」と蛍が続ける前に、奏楽が「面白そうですね〜」と声を上げた。


「ぜひその人に会ってみたいです〜」

「おい、ソラ!話聞いてたか!?異能の制御ができねぇ奴、頼りにしても意味ねぇだろ!異能の詳細もわからねぇし、役に立つかどうかもわからねぇ危険人物に会うなんざ、絶対反対だからな!?」


 嫌な予感通り、大して深く考えもせず感情だけで動こうとする奏楽を、蛍が必死で止める。

 蛍の言ってることは正論で、紹介した本人である莉一も「まあ蛍殿の考えは正しいですなぁ」と認めていた。

 だが奏楽は納得できないのか「え〜」と頬を膨らませる。


「危険人物かどうかなんて、まだ決まってないじゃないですか〜。会ってみたら良い人かもしれませんよ?」

「仮に良い人だとしても、異能が完全に制御できてねぇなら邪魔なだけだろ。そもそもソラ、お前無関係の人、巻き込むのは気が引けるっつってたじゃねぇか。ソレ何処に行ったんだよ」

「ほたちゃんが言います?ソレ……それにボク、別に手伝ってほしくて会いたいわけじゃないですよ?ただ興味が湧いちゃっただけです、その人に」


 ニッコリ微笑む奏楽に、「これは何言っても無駄なやつ」と蛍はガクッと肩を落とした。

 奏楽の前の席では、莉一が「奏楽殿らしいですねぇ」と笑っている。


「というわけで、莉一くん。その人に会ってみたいです〜。名前教えてくださいな」

「ええ。彼の名前は“七海ななみとおる”。住所は知ってるんで、今日の放課後会いに行ってみましょうかぁ」


 莉一の提案に大きく頷く奏楽と、呆れたように大きな溜め息を吐く蛍であった。



 *       *       *



 暗い暗い部屋だった。

 昼にも関わらず、カーテンを閉め切っている所為で陽の光が全く入らず、その上電気も付けていないので、かろうじて物体の輪郭が捉えられる程の明るさしかない。否、ここまで来れば明るさはないと言った方が正しいだろう。

 暗い上に静かな部屋の中で、音と言えば何かの液体の水音と、異様な呻き声が幾つか混ざっているだけだった。


「ヴゥ……」

「ヴッ……ァ……」


 一人の青年が、呻き声の元である、肌に鱗の浮かび上がった、天井に吊るされている男の血液を採取する。次に、その男の隣で同じように吊るされた、やたら耳の長くとんがった女の血も、注射器で吸い上げた。

 男と女、二人だけではない。部屋の壁一面に沿うように何体もの亜人達が、吊し上げられていた。そんな部屋の中央には、試験管や注射器、数枚の紙とペンが転がった机が一つ置いてあり、青年が先程男と女から採った血液を同じ試験管に入れて混ぜていた。


「…………今度こそ……」


 青年は一人呟くと、混ざった血液を注射器に移し替え、自身の右腕に躊躇なく刺した。


「ウッ!!……」


 しばらく苦しそうに身体を震わせていた青年だが、落ち着いてくると溜め息と共に机に突っ伏す。


「ダメか…………」


 そう言って青年は目を閉じると、ズボンのポケットからタブレットを取り出して一粒口に入れたのであった。

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